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カテゴリー「720 日本史」の122件の記事

2024年1月15日 (月)

今年の大河

大河ドラマのことだ。今年の主人公は紫式部。やれ源平だ、戦国だという題材が多いのだがこれは異色だ。さっそく初回放送の視聴率が取り沙汰されていたが、我が家にとっては、こちらの方がなじむ。

紫式部をはじめ登場人物の何人かが百人一首に出てくる。百人一首をほぼそらんじている母は、作者までは記憶しておらず、紫式部は「めぐりあいて」だとよ伝えると即「雲隠れ」かと切り返してきた。小学生の私に百人一首を教えてくれたときのままだ。藤原道長が百人一首にいないことを残念がっていた。いくさが前面に出ないから平和なのかと短絡してはいけない。かえって陰湿と思わねばなるまい。この先、お歌やお香がどうからんでゆくのか楽しみである。

鎌倉の右大臣の弟子としては、しっくりとくる。

2023年11月 7日 (火)

小道具としてのお香

昨日の記事「ウィーンに六段の調べ」で言及した守屋先生の作品の右下隅に香炉が描かれている。黒いテーブルが右下からせり出すように置かれて、その上に香炉がある。右下が空白でないところに構図としての巧妙さがあると感じるが、そこに香炉が配されることに深い深い意義を感じる。

時は明治。条約改正に打って出た日本は、欧州に進出し、華麗な外交を展開する。大使たる伯爵の夫人が筝曲の名手というのは格好の国際交流だ。音楽の都ウィーンではなおのことだ。そして当時欧州楽壇の最長老のブラームスの前で琴を実演する場に、お香が焚かれているという状況は、ものすごい説得力だ。 

香炉から立ち上る煙が、眉間にしわを寄せて聞き入るブラームスにかかっているのは、演奏を聴いたブラームスの内面への浸透を象徴して余りある。

音も聞こえてきそうなら、薫香までも漂ってきそうだ。

小道具の配置一発で、この効果とは恐れ入る。

2023年11月 6日 (月)

ウィーンに六段の調べ

先日、ちょっと遠出してきた。

目的地は岐阜県大垣市。大垣市守屋多々志美術館。そこには守屋多々志先生の代表作、「ウィーンに六段の調べ」が所蔵されている。常設されていないため、限られた特別展だけが鑑賞のチャンスである。

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明治期の日本とオーストリアの交流がテーマのこの作品のことは、日本ブラームス協会編「ブラームスの実像」の173ページに詳しい。1887年から3年間、駐ウィーン大使として条約改正に奔走した戸田氏供伯爵の夫人が、山田流筝曲の名手であった。彼女の実演を聴いたブラームスが書き込みを入れた楽譜が楽友協会に伝えられていることを、モチーフに守屋先生が描いたのが「ウィーンに六段の調べ」である。

実際に「日本の旋律」としてウィーンで出版された旋律の実演に接したブラームスが楽譜に修正を施しているというレアな情景。右端のブラームスはおなじみの白髪と髭で、眉間にしわを寄せながら、右手に鉛筆、左手に楽譜だ。芸が細かいのは楽譜が本当に細かく描写されている。4段目以下の楽譜が、先の「ブラームスの実像」の183ページ掲載の楽譜そっくりだ。

伝承を元に、精密な考証を重ね、見てきたようなシーンを絵に描きとめるという守屋先生の作風をもっともストレートに反映した一作だ。

実際に展示場に踏み入ると圧倒された。正面に据えられていたのは高さ180㎝はあろうかという屏風絵だ。お琴が作る斜めの線と、どっしりとくつろぐブラームスの身体が作る線が、V字型をなす大胆巧妙な構図と、伯爵夫人のドレスの紫とが相まって、まるで音がするよう。

さまざまな国の民謡あるいは民族音楽の収集家だったブラームスの面目躍如だ。

 

 

2022年10月26日 (水)

参照歌人ランキング

実朝自身の作品の他に、参考歌もエクセルに取り込んだ。データベースにも使えて便利だという話をする。

参考歌1694首の作者340名について引用回数順にランキング化してみた。

  1. 紀貫之 69
  2. 九条良経  60
  3. 式子内親王  42
  4. 藤原家隆  38 
  5. 後鳥羽院  37
  6. 藤原俊成  33
  7. 藤原定家  30
  8. 柿本人麻呂  29
  9. 慈円  29
  10. 大伴家持  28
  11. 凡河内躬恒  26
  12. 西行  24
  13. 紀友則  20
  14. 寂蓮  19
  15. 山部赤人  17
  16. 藤原俊成女  16
  17. 飛鳥井雅経  15
  18. 素性  14
  19. 在原業平  13
  20. 大江匡房  11
  21. 能因  11
  22. 源経信  11

芳しいメンバーにため息が出る。気づいたことをいくつか。

  • 新古今世代を赤文字にしておいた。20人中11人という高密度。実朝自身より少し上の世代。
  • 小倉百人一首に歌が載っていないのは俊成女だけだ。実朝は百人一首なんぞ知らないのにこのありさま。
  • ランクインしなくても340人いれば百人一首歌人は網羅だ。
  • 人麻呂、家持、赤人がしれっとランクイン。万葉集の勘所もおさえていた証拠だ。
  • 首位の貫之に加え、躬恒、友則、素性、業平など古今和歌集にも相応の興味があった。
  • 数の上では男性が多いけれど、もともとそんなもん。百人一首と同程度だ。
  • 私の大好きな九条良経が60首で2位とは嬉しい限り。
  • 後鳥羽院が5位なのも納得。
  • 師匠の割に定家が低いか。

2022年10月25日 (火)

承久の変考

日本史選択の受験生には必須。結果として明治維新まで約650年続く武家支配が確定した事件。朝廷と幕府のこの決定的な衝突は後鳥羽院が北条義時追討の院宣を出したことに始まる。準備万端やる気満々の幕府に無謀にも喧嘩を売ったとも評する向きもある。思えば普仏戦争だ。準備万端のビスマルク・プロイセンの挑発に乗ってまんまと宣戦布告をしたフランスに似ている。ビスマルクならぬ尼将軍の演説一発で、御家人が反幕府で結束してとも伝わるが、御家人たちからしたら単に勝ち馬に乗るための計算ずくかもしれぬ。院宣一本で誰も幕府に味方はするまいという後鳥羽院の目論見がはずれたと強調される。

歴史にたらればはないと承知で妄想する。実朝の暗殺がなかったら朝廷と幕府が果たしてここまでこじれたかどうか。金槐和歌集を見る限り、実朝は後鳥羽院への忠誠心を隠していない。実朝が定家から授与された新古今和歌集は事実上後鳥羽院の親撰だ。その出来栄え体裁、あるいは後鳥羽院御製を見て実朝は後鳥羽院のキャラを正確に読みとったに違いない。その上でなお後鳥羽院への忠誠心特盛の歌を数多く詠んだとなると、これを本心と解さざるを得まい。

金槐和歌集を定家経由で奏覧していに違いない後鳥羽院の心証はどんなものだったのだろう。心からの忠誠を隠そうとしない武家の棟梁の心証が悪いはずはなかろう。

もし暗殺がなければ、承久の変は起こり得ず、やがて実朝は京に上り、後鳥羽院に謁見。しばし京に滞在し和歌談義をしたに違いない。後鳥羽院のアンチ北条特盛な不意のご下問に、「御意」とばかりの気の利いた即詠で意気投合などということはあるまいか。やがては幕府を京都に遷すなどという密約まではいくまいか。

 

 

2022年10月23日 (日)

右大臣在位55日

慶安5年だから江戸時代のことだ。今出川経季という人物が右大臣に任じられた。西暦に直すなら1652年3月18日のことだ。この人はなんと右大臣に任じられたその日に亡くなっている。右大臣在位1日でこれは史上最短だ。

1218年12月21日に右大臣に任じられて、翌年1月27日に暗殺された源実朝の在位は55日。在位1日の今出川経季ほど極端ではないにしても55日より在任期間が短い人は数人いる。がしかし大抵は左大臣に昇進するためだ。死没か昇進でしか空きが出ないのが右大臣だ。実朝の昇進は左大臣死去に伴い、右大臣が昇進して空位となったためである。そのわずか55日後に落命するとは思ってもいなかっただろう。

しかもそれは実の甥による暗殺だから京都ではそれなりの騒ぎになる。後鳥羽院や定家の受けた衝撃は小さいはずはない。貴族たちの日記にもそれが見て取れるというのに、吾妻鏡は淡々としている。

2022年10月22日 (土)

吾妻鏡

鎌倉時代の歴史書。北条氏の手による正史の様相を呈する。頼朝から6代将軍までを編年体で追いかける。北条氏視点に立った記述のため、同時代の別書物を参照しながらの確認も要るとされる。しかし鎌倉時代を知りたいと思ったら避けてばかりもいられない。

実朝の実情を知ろうとする場合、「金槐和歌集」と並ぶ2本柱とならざるを得ない。頼朝、頼家、実朝の死により一番得をしたのは誰かという視点からは、生煮えの記述もある。都合の悪い場合は沈黙しているようにも見える。少なくとも実朝補正のかかった私にはそう見える。

実朝の将軍在位は1203年から1219年まで16年にも及ぶ。江戸時代大御所と呼ばれた家斉の在位50年には及ばないし、吉宗や綱吉などの有名所よりも短い。室町幕府なら義満や義政には及ばないが、徳川秀忠と同じくらいでけして短くはない。北条氏の操り人形だったとか、官位に固執し、和歌や蹴鞠に没頭する公家かぶれだとか武士らしからぬ軟弱さだとか、こうした一般のイメージには吾妻鏡の印象操作もありはしないかと危惧する。

日本書紀を紐解けば「悪逆非道の前帝に代わって即位」という場合、前帝が本当に悪逆非道だったかどうかは一応怪しむべきだ。前帝からの皇位継承が不正だったことを隠す印象操作の可能性がある。歴史書を書いているのは前帝ではなくその後継天皇だ。前帝が悪い奴だったほうが何かと好都合だということだ。おごる平家はそれほど悪くなかったかもしれない。源氏にとっては「平家がわがままで、民心が離れていた」方が都合がよかっただけではないか。私には実朝が暗愚で、軟弱だった方が好都合な人が書いたのが吾妻鏡だと思えている。

過剰な実朝補正というお叱りは元より覚悟の上である。

2022年10月13日 (木)

実朝の名付け

建仁3年9月15日、朝廷から鎌倉に千幡を従五位に叙すという位記と、征夷大将軍の宣旨が届いた。どちらも9月7日付けだが、東海道を8日かけて下ってきたということだ。同時に「実朝」の名を後鳥羽院から授かった。後鳥羽院が実朝の名付け親ということになる。

このあたり8月27日頼家重病、9月2日比企の乱、9月6日頼家出家と吾妻鏡の記述はとにかくあわただしい。

その後も9月21日に頼家の鎌倉退去が決定。9月29日修善寺に下向。10月8日実朝元服だ。

そうそう、征夷大将軍の宣旨の日付建仁3年9月7日を今の暦に直すと1203年10月13日となる。今から819年前の今日だ。

 

2022年9月30日 (金)

師匠定家

実朝が自ら詠歌30作を定家に送って添削を乞うのが承元3年7月5日のことだ。定家はこれにこたえ合点を付して送り返す。定家の歌論書「詠歌口伝」とともに鎌倉に届くのが8月13日である。その間40日だ。鎌倉京都間片道8日間とするなら、定家は24日で実朝の作品25首に合点を付したことになる。さらに「詠歌口伝」がこのときの書下ろしだとするなら相当な早業だ。

定家からすれば、自らが参画して出来立てほやほやの「新古今和歌集」にも採用した、あの源頼朝の息子がという興味もあったに違いない。おまけに現職の征夷大将軍でもある。「お手並み拝見モード」に違いはあるまいが、素質を感じ取っていたとしても不思議ではない。

だから歌論書をわざわざ送ったということだ。

これにて実朝は定家の弟子と相成った次第。私はその実朝の弟子。

2022年9月26日 (月)

実朝の初学

お歌の世界で「初学」といえば、初めて詠んだ歌ということになる。有名歌人の場合、そうした歌が「初学百首」という具合にまとめられて今に伝えられていることもある。

源実朝の初学については「吾妻鏡」に記載がある。元久2年4月12日の条「12首の和歌を詠じさせたまふ」とある。これは1205年なので実朝13歳だ。また1209年実朝18歳には、20首の和歌を住吉社に奉ったとある。このついでに1206年の作品30首を京都の藤原定家に合点のために送ったとある。合点とは平たく言うと添削してもらうことだ。この30首は「御初学後の歌」と明記されている。だから1205年の12首が初学扱いされている。少なくとも吾妻鏡はそう認識していたということだ。

1203年といえばその前年に京都から嫁をもらった直後であったし、何よりも4月12日のわずか数日前の3月26日には後鳥羽院の肝いりの新古今和歌集が完成したばかりだ。京から迎えたばかりの新婦がそのあたりを話題にせぬはずはあるまい。

その12首が「金槐和歌集」に収載されているかどうかは詳らかではない。

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