先日、ちょっと遠出してきた。
目的地は岐阜県大垣市。大垣市守屋多々志美術館。そこには守屋多々志先生の代表作、「ウィーンに六段の調べ」が所蔵されている。常設されていないため、限られた特別展だけが鑑賞のチャンスである。
明治期の日本とオーストリアの交流がテーマのこの作品のことは、日本ブラームス協会編「ブラームスの実像」の173ページに詳しい。1887年から3年間、駐ウィーン大使として条約改正に奔走した戸田氏供伯爵の夫人が、山田流筝曲の名手であった。彼女の実演を聴いたブラームスが書き込みを入れた楽譜が楽友協会に伝えられていることを、モチーフに守屋先生が描いたのが「ウィーンに六段の調べ」である。
実際に「日本の旋律」としてウィーンで出版された旋律の実演に接したブラームスが楽譜に修正を施しているというレアな情景。右端のブラームスはおなじみの白髪と髭で、眉間にしわを寄せながら、右手に鉛筆、左手に楽譜だ。芸が細かいのは楽譜が本当に細かく描写されている。4段目以下の楽譜が、先の「ブラームスの実像」の183ページ掲載の楽譜そっくりだ。
伝承を元に、精密な考証を重ね、見てきたようなシーンを絵に描きとめるという守屋先生の作風をもっともストレートに反映した一作だ。
実際に展示場に踏み入ると圧倒された。正面に据えられていたのは高さ180㎝はあろうかという屏風絵だ。お琴が作る斜めの線と、どっしりとくつろぐブラームスの身体が作る線が、V字型をなす大胆巧妙な構図と、伯爵夫人のドレスの紫とが相まって、まるで音がするよう。
さまざまな国の民謡あるいは民族音楽の収集家だったブラームスの面目躍如だ。
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