延々と源実朝の作品について記事を重ねてきた。この辺で実朝作品私的ベストを選定しておく。このところ何かとはやりの13首とする。
<第1位>大海の磯もとどろに寄する波破れて砕けて裂けて散るかも SWV641
迷いに迷ってこれ。3位までとの差はわずか。史上最高の海の描写。
<第2位>時により過ぐれば民の嘆きなり八大竜王雨止め給へ SWV619
2020年に選んだ「令和百人一首」ではこの歌を採ったのだが、今回は2位。明日はどうなるやら。
<第3位>もののふの矢並みつくろふ籠手の上に霰手走る那須の篠原 SWV677
明日首位に出ても驚かないくらいの第3位。「矢」と「霰」に弱い。
<第4位>東の関守る神の手向けとて杉に矢立つる足柄の山 SWV720
坂東の王者たる風格。
<第5位>結ひ初めて慣れしたぶさの濃むらさき思はず今も浅かりきとは SWV632
古典のしきたりからすこーしだけ外れた恋。茫然自失の征夷大将軍。
<第6位>おほかたに物思ふとしも無かりけりただわがための秋の夕暮 SWV185
「自分のための秋」とは近代短歌のモノローグの先取りか。
<第7位>咲きしよりかねてぞ惜しき梅の花散りの別れは我が身と思へば SWV664
稀代の梅詠みの真骨頂。梅に翳りを添えさせたら右に出るものはない。
<第8位>食み上る鮎棲む川の瀬を早み早くや君に恋ひわたりなむ SWV682
ピチピチの彼女か。
<第9位>くれなゐの千入の真振り山の端に日の入ると時の色にぞありける SWV633
写メなしのインスタ映え。
<第10位>野辺分けぬ袖だに露は置くものをただこの頃の秋の夕暮 SWV516
言わぬ美学。わかる者だけついておいで。
<第11首>箱根路をわれ越え来れば伊豆の海や沖の小島に波の寄る見ゆ SWV639
詠む遠近法。
<第12位>千々の春万の秋を永らへて花と月とを君ぞ見るべき SWV353
知性と情。
<第13位>世の中は常にもがもな渚漕ぐ海人の小舟の綱手かなしも SWV604
詠むレガート。
現時点における好きな順を、泣く泣くひねり出した。トップ3は紙一重。13位シード権争いも熾烈だった。次点を挙げたらきりがない。
ブラームスやシューベルトの歌曲を特集する度に、その末尾でマイベスト歌曲を選定してきた。選定の過程を悩ましくも楽しいと喜んだ。実朝の13首選定も、同じ種類の楽しさだった。
実朝は「和歌のブラームス」つくづく。
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