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カテゴリー「724 漢詩」の6件の記事

2014年6月29日 (日)

渭城の朝雨

唐の詩人・王維の「元二の安西に使いするを送る」という七言絶句がある。李白作「黄鶴楼に孟浩然の広陵に之くを送る」と並び称される絶唱。こちらも古来送別の席で歌い継がれてきた。

  元二の安西に使いするを送る

渭城の朝雨 軽塵を裛し 

客舎 青青 柳色新たなり 

君に勧む 更に尽くせ一杯の酒 

西のかた 陽関を出づれば故人無からん 

「あっち(新任地)に行ったら友達もいないんだから、まあ飲め」という意味。

次女のオーケストラ36代を、ともに追いかけたブラボー班創設のメンバーが、本日新任地に旅立つ。既に送別会は終えている。大切な仲間が転勤になるたびに送別の歌を記事にするが、これで2回目。栄転とはいえさびしい。

彼は宴会場の探索確保交渉を一手に引き受けてきた重鎮。会場の雰囲気と経済性を両立させる嗅覚は天性のものか。要所要所での重要な宴会の度に発起人となり続けた熱意が皆を引っ張ってきた。奥様はこれまた欠かすことのできない名会計係でもある。

そしてそして何よりも特筆すべきは、お嬢様のソロ。肝っ玉の座った吹きっぷりが今までもこれからも語り草だ。我々の飲み会のたびに永遠に語り継がれるべき極上のソロだった。

ブラームスのご加護を。

2013年1月14日 (月)

落羽城

1887年4月15日の「独逸日記」に友人との別れの漢詩が現れる。その中に「落羽城」という表現がある。何とこれはベルリンのことだ。そのすぐ後に自注が振られ、「ベルリンの語源はperlin(抜け落ちた羽)」だと言っている。だから落羽城がベルリンを意味すると自ら説明している。

ベルリンの語源については諸説あって、スラブ語で「沼地」の意味とか、「熊のいるところ」の意味とかさまざまな説明がなされているが、「落ちた羽」は初耳だった。

同時にミュンヘンの起原にも触れ、こちらはラテン語の「僧」(Monacus)だと言っている。「僧」起原説は現代の定説に一致するから、「落ちた羽」説にもそれなりの論拠があると思われる。

今月19日は森鴎外の誕生日だから、それに先立ってドイツの地名に関係する森鴎外ネタをいくつか発信することにした。

2012年7月 4日 (水)

断鵠山城

「断鵠山城」で「ノイシュヴァンシュタイン城」のこと。ルートヴィヒ2世の死を悼んで、シュタルンベルク湖を訪れた森鴎外が詠じた漢詩がある。その中に出てくる表現。

断鵠山城外の雲を望めば

詩人何事か涙粉々

窓多少綺麗の客

波間に故君を葬るを憶えず

全体の意味はおおよそ以下の通り。

ノイシュヴァンシュタイン城外の雲を眺めると

ロマンを知るものなら皆涙を流す

今シュタウンベルク湖の遊覧船の窓から着飾った客が見えるが

つい最近ここで国王が亡くなったことなど忘れたかのようだ

「鵠」は「白鳥」の意味だから「シュヴァン」に通ずる。シュタインを断崖絶壁と意訳して捉えた鴎外の造語だ。

2012年7月 3日 (火)

路易二世

ルートヴィヒ2世の漢字表記だ。森鴎外の「独逸日記」に出現する。鴎外が留学生としてドイツに滞在していた頃、バイエルン王ルートヴィヒ2世が謎の死を遂げる。鴎外はこのニュースをミュンヘンで聞き衝撃を受ける。その後シュタルンベルク湖を何度か訪問し、1887年9月2日にはルートヴィヒ2世を偲んで漢詩を詠じている。

当年の向背群臣をおどろかす 

末路の凄愴鬼神を泣かしむ

功業の千秋は且く問うを休めよ

多情は偏に是詩人を愛すればなり

意味はおおよそ以下の通り。

病を得て国王の最近の言動は側近を驚かせている。

その末路の凄惨さには鬼神も涙を流すほどだ。

国王の積年の功罪について問うのはしばらくやめよう。

築城やワーグナーに入れ込んだのはロマンチストの証である。

最後の一行は超意訳だ。

見ての通り、「路易」は「ルートヴィヒ」を正直にトレースしていない。むしろ「ルイ」である。ルートヴィヒはフランス名ルイのドイツ語形だということを鴎外は知っていたに違いない。もしかするとルートヴィヒ2世が、フランス太陽王ルイ14世を尊敬していたことも念頭にあったのではと思わせる。

2009年5月31日 (日)

五言絶句

漢詩の一形態。5文字4行で構成される。もしかすると中国最短の詩形だと思われる。高等学校で漢詩を習って以来、少し興味を持った時期があった。最初に覚えたのが杜甫。

「絶句」

   江は碧にして、鳥いよいよ白く 

   山青くして、花燃えんと欲す

   今春みすみす又過ぐ

   いつの日か之帰年ならん

春の情景。「花の色は赤だ」と先生から教わったことがやけに心に残っている。5月29日の記事「四色問題」を書いていて思い出した。杜甫のこの絶句も4色だ。「碧の川(江)」「白い鳥」「青い山」「赤い花」である。前半の叙景と後半の叙情が鮮やかである。短い詩形に4色を配した作品は、珍しいと思う。

杜甫の四色問題。

2007年7月26日 (木)

対句

漢詩における代表的な表現技法。というよりこれを組み込むことが創作上の「Must」になっている。対句の定義をしようなど私の手には余る。あまたの国語学者が叡智を結集しても決定的な定義が出来ない格助詞「は」と「が」と同じだ。学問的に定義が出来ないのにおよそネイティブの日本人であれば、使い所を誤ることはない。これと同様に対句表現の代表例はいくつかすぐに思い浮かぶ。

  • 杜甫「國破れて山河あり」「城春にして草木深し」
  • 李白「頭を上げて山月を望み」「頭を垂れて故郷を思う」
  • 白居易「遺愛寺の鐘は枕を欹てて聞き」「香炉峰の雪は簾をかかげて見る」

どれもそれぞれの漢詩の中でのおいしい場所になっている。こうした対句表現が漢詩の醍醐味であり、鑑賞の楽しみの一つになっていることは疑い得ない。その効果たるや実に多彩である。たとえば初句から二句が派生しているのに、二句があることで初句がいっそう引き立つ。叙景上の鮮やかな対比で作品全体を引き締めている。あるいは叙景から叙情へ一瞬で場面転換して見せる。

ブラームスもこれに似ているところがあると感じている。たとえば器楽曲においてしばしば性格を異にする同一ジャンルの作品が時期を隔てずに生み出されている。

  1. 交響曲第1番と2番
  2. 弦楽四重奏曲第1番と2番
  3. ピアノ四重奏曲第1番と2番
  4. 弦楽六重奏曲第1番と2番
  5. 大学祝典序曲と悲劇的序曲
  6. クラリネットソナタ第1番と2番
  7. 管弦楽のためのセレナーデ第1番と2番

ジャンルが変わってしまうという点に目をつぶれば下記も候補になるだろう。

  • 交響曲第2番とヴァイオリン協奏曲
  • ヴァイオリン協奏曲とヴァイオリンソナタ第1番

先行する作品から時を隔てずに発表された2作目が、先行作品の理解を深めさらには2作目自体の普及にも貢献しているように見える。こうした関係が冒頭で述べた対句の性質に近似していると思われる。さらにブラームスにおいては同一楽曲中の第一主題と第二主題の関係や、同一主題の提示も、単なる気紛れとは対極にある。漢詩の対句表現のような計算と芸術性の融合が肝になっていると考える。

もちろんブラームスに漢詩の素養があったなど申し上げるつもりはない。形式という制約の中でより豊かな表現を盛り込もうとした結果、偶然似たベクトルになってしまったと考えている。このことはブラームスに漢詩の素養があることよりもずっと凄いことだと思う。簡潔な表現を目指した結果、図らずも似た境地に達したということに他ならない。

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