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カテゴリー「077 ドイツ史」の410件の記事

2017年6月23日 (金)

イングとインゲン

道路地図の巻末索引を頼りに、地図上にプロットする作業は本当に楽しい。かれこれ80種の地名語尾についてやってみた。地名の数が少ないと散漫な結果になるにはなるのだが楽しさは無限だ。

地名語尾として「~のところ」を意味する「イング」と「インゲン」にも鮮やかなすみわけがある。ブラームスとの交流で名高い「マイニンゲン」も、アガーテと出会った「ゲッティンッゲン」もドナウ川の水源として名高い「ドナウエッシンゲン」も「インゲン」の仲間だ。

まずはそのインゲンの分布から。

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これは、先に話題にした「ザーレの東」には分布しないというパターンだ。ラインの西、ドナウの南と断言できないところもいわくありげで楽しい。まずこれをご記憶いただいたうえで「イング」の分布を示す。

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ミュンヘン近郊に分布する。バイエルン方言の分布と鮮やかにシンクロする。小麦ビールで名高い「エルディング」が思い浮かぶ。

2017年6月21日 (水)

大胆過ぎる仮説

グリム兄弟が編んだ「ドイツ伝説集」下巻に登場する話の舞台が、ドイツの南部か西部に偏っている話は既にしておいた。その領域がカール大帝の勢力圏と一致する可能性については、グリム兄弟自身が序文で言及している。いやはや、この序文は面白い。本文に負けないくらい貴重な情報が埋もれている。

既に私は地名語尾「heim」の分布が、カール大帝に何らかの関係があるのではないかと述べた。本日はそこから話を一歩進める。

「ドイツ伝説集」下巻収載のエピソードの分布域と、地名語尾「heim」の分布域が似ているのだ。どちらも南あるいは西に手厚い。ドナウ・ライン両大河の流域に分布する。

2017年6月20日 (火)

ハイムとハウゼン

「Heim」「Hausen」どちらも「家」を意味する。ドイツ語のネイティブな使い手でもない限り、これらの区別は難しい。これらが地名末尾に据えられるケースがある。「インゲルハイム」「ザンクトゴアハウゼン」などだ。

例によって毎度毎度の道路地図の巻末索引を頼りに分布図を作成した。まずは地名語尾「heim」から掲示する。

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見ての通りだ。南部とりわけライン川流域、ワインの産地で言うラインヘッセンに特異的に分布する。カール大帝の御所があったインゲルハイム近郊にと申したらお叱りを頂戴するだろうか。

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次いで地名語尾「hausen」の分布。「heim」とのすみわけが美しい。地名語尾「ハイム」の密集域(赤囲み)が見事に空白になっている。

「蝸牛考」に従うなら、インゲルハイム近郊が「京都」だ。あとから起こったハイムに、旧来のハウゼンが駆逐され、僻遠の地に残るという図式が容易に思い起こされる。

こうした地名の分布が何らかの歴史的事実や方言分布の反映でないとしたら恐ろしい。

2017年6月17日 (土)

ザーレの東

ライン、ドナウ、エルベの内側こそが本来的な意味のドイツであるといわれている。「ラインの西」「ドナウの南」はローマの痕跡が色濃く残る。「エルベの東」には今度はスラブ人の痕跡が刻印されている。地名の分布にもそれらが投影されている。これらの内側こそが始原的な意味の「ドイツ」だということだ。

さて本日は「エルベの東」から説き起こす。エルベ川が文化の諸相において境界を形成していると複数の歴史書に書かれている。ハンブルクを含む北部では、それで辻褄が合うことが多いが、南に行くほど例外も増える。その例外を合理的に説明するキーワードが「ザーレの東」である。ザーレとは「Saale」と綴られる川の名前だ。エルベ川の支流である。ハンブルクからエルベ川を遡ると、テューリンゲン州の都マグデブルクに至る。この南東約30kmのあたりでザーレ川が分岐する。そのまま南東に向かうのがエルベ本流で、真南に向かうのがザーレ川だ。このザーレ川が一部の地名や方言分布の境界線を形成しているケースがある。東方殖民によって新たにドイツ化したエリアを「エルベの東」とする概念に、「ザーレの東」という変形を考慮した方がいい。

2017年6月14日 (水)

ラインフランケン

西中部ドイツ方言は、いくつかの方言帯がライン川に貫通される形で南北に堆積している。このうち古くからのワイン産地ラインガウを含む地域で話されるのがラインフランケン方言だ。この方言帯はラインヘッセンからラインガウに向けてライン川を横切る。ここは2010年秋のワイン特集記事の執筆の際、穴が開くほど地図を眺めた地域だ。カール大帝のエピソードが散在する地域でもある。

何のことはない。今でこそ「ラインフランケン方言」と位置付けられているこの地域の言葉は、カール大帝の宮廷で使われていた言葉だった。昔の都の言葉だ。日本で申せば京言葉というイメージに近いかもしれない。

2017年6月13日 (火)

決意の理由

記事「方言詩人」でクラウス・グロートの経歴を紹介した。彼はブラームスの父ヨハン・ヤーコプと同じハイデの生まれだ。彼もホルシュタイン人である。国民学校の教師をしながら独学で詩作を学んだ彼がさらに学ぶためにキールに出立したのが1853年だった。

1853年は第1次デンマーク戦争が終わった翌年だった。まだ決着はついていないもののプロイセンの領土的野心は明らかだった。そうした背景の中で彼が文学を志し、方言に立脚した作品を生み出して行った。低地ドイツ方言やホルシュタイン方言への愛着は、低地ザクセン方言を操るプロイセンへの文学的抵抗なのではあるまいか。ドイツ標準語によらない文学作品を発信し続けたアイデンティティを思い遣りたい。

プロイセンによるシュレスヴィヒホルシュタイン地方の領有が確定した1866年に、キール大学の教授に就任したのはなにやら象徴的だ。

2017年6月10日 (土)

ホルシュタイン人

さて1806年神聖ローマ帝国解体時の勢力地図。ハンブルクとリューベックを結ぶ線以北が事実上デンマーク領だった。ブログ「ブラームスの辞書」的には1806年は重要な年だ。ブラームスの父ヨハン・ヤーコプの生まれた年だからだ。つまり神聖ローマ帝国解体の年とはブラームスの父の生年でもあるのだ。

彼はハイデの生まれだ。ハンブルクの北西約75kmにあるハイデは当然ホルシュタイン公国領内だから事実上のデンマーク領ということになる。19歳でハンブルクに出た1825年の段階でさえまだデンマーク領だ。プロイセンが両公国の領有をデンマークと争ったデンマーク戦争をどんな思いで見つめていたのだろう。その年1848年はブラームスが15歳でコンサートデビュウをした年でもある。

ブラームスの父はどんな言葉を操ったのだろう。低地ドイツ方言だとされているが、これはハンブルクの言葉である。彼の故郷ではホルシュタイン方言が話されていたハズだが、想像以上にデンマーク語がも通じたのではあるまいか。この地方のドイツ方言は、デンマーク語との共通部分も多い。デンマーク訛りのホルシュタイン方言を操り、公式な場では低地ドイツ方言も話せたと思われる。

ハンブルクに出てすぐ、公的な職業に就いたことから見て、言語コミュケーションに不安があったとは思えない。

2017年6月 4日 (日)

最後の授業

たしか中学1年の国語の教科書の一番最後の掲載されていた。フランス・アルザス地方のお話だ。大人の事情で、フランス語の授業が出来なくなるという背景の中、「今日でフランス語の授業は終わりですよ」という日を描いた作品だった。普仏戦争の結果、アルザス地方がドイツに割譲されたという史実を背景にしていると知ったのはずっと後のことだ。

いつもは怖い先生が妙に優しかったとか、先生が最後に黒板に「VIVA FRANCE」と書くシーンが印象に残っている。

このアルザス地方はライン川を挟んでドイツと向かい合う国境地帯だ。古来独仏の領有争いの舞台だった。この地で話されるアルザス語は、上部ドイツ方言の一派に分類されている。当地では現在でもアルザス語が日常語として通用する。

小節「最後の授業」に描かれる情景は、「母国語フランス語にお別れ」というニュアンスだが、受け手の生徒たちの日常語はアルザス語であったという可能性が高い。生徒たちから見れば、「語学の授業が一つ減る」という感覚かもしれない。

なるほど現代のアルザス地方の地図を広げると、ドイツ語の知識で解釈可能な地名が多い。「burg→bourg」「weiler→wil」に見られる微妙な変化も読み取れて面白い。

2017年6月 3日 (土)

ストラスブールの盟約

均分相続を遺言したカール大帝だが、崩御まで生き残った王子はルートヴィヒ敬虔王だけだった。だから問題は起きなかった。そのルートヴィヒ敬虔王が亡くなったときは王子が3人いた。フランク人の伝統とやらで均分相続が約束されたが、いざという時になって長男ロータルがこれを反古にしそうになった。次男シャルルと三男ルートヴィヒが長男に対抗して手を組んだというのが、本日のお題「ストラスブールの盟約」だ。現在はフランス領ストラスブールで取り交わされたからこの名前がある。

この時の宣誓方法が変わっている。次男シャルルと三男ルートヴィッヒが互いに相手の国の言葉で誓約したというのだ。う~んと簡単に申せば、フランス王シャルルがドイツ語で、ドイツ王ルートヴィヒがフランス語で誓約したということだ。相手の国の兵士たちにわからせるためとも言われているが、それはさておき西暦842年のその段階で、すでにフランスとドイツが別言語になっていたということが重要だ。

2017年5月30日 (火)

フランスの右肩

フランスという国は正六角形にたとえられる。上下に頂点を持つ正六角形だ。パリは中央やや北寄りにある。不思議なことがある。六角形を構成する6つの頂点付近に方言が色濃く分布する。

  1. 一番上の頂点にはフラマン語がある。ベルギーの公用語でもある。
  2. 反時計回りに左上の角にはフルトン語だ。ノルマン系の言語。
  3. 左下にはバスク語。スペインとの国境を形成するピレネー山脈の北端付近。
  4. 一番下にはカタルーニャ語。バルセロナ付近の言葉だ。
  5. 右下には海を隔てたコルシカ島のコルス語がある。
  6. 右上、右肩にあたるところにはアルザス語がある。

アルザス語はドイツ系の言葉で、ドイツ方言の一つに数えられている。アルザス地方は古来、独仏の領有権争いのタネになってきたから、このあたりの住民はフランス語とアルザス語のバイリンガルという人が多い。中央から遠く離れた僻遠の国境地帯に方言が豊かに蓄積するのは何もドイツだけではないということだ。

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