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カテゴリー「075 ドイツ語」の148件の記事

2017年6月28日 (水)

支那のリンゴ

ハンブルクからウィーンに出たブラームスが早速困ったのではと思っていることがある。オレンジだ。オーストリアを含む南ドイツでは「Orange」というのに対して、ブラームスの故郷ハンブルクを含む北部ドイツでは「Appelsine」という。オレンジの言い方を比較してみる。

  1. 南部ドイツ Orange
  2. 北部ドイツ Appelsine
  3. オーストリア Orange
  4. 英語 Orange
  5. オランダ語 Appelsina
  6. スウェーデン語 Apelsin
  7. ノルウェー語 Appelsin
  8. アイスランド語 Appelsina

北部ドイツ語は北欧語に近い。「Appelsine」の「sine」は「中国」だ。そういう意味ではオランダ語の「sina」が一番近い。支那だ。オレンジとは「中国のリンゴ」という意味だった。イタリアから直接オレンジを供給された地域では「Orange」となり、ハンブルクやアムステルダムからもたらされた地域では「支那のリンゴ」と呼ばれたということになる。

2017年6月27日 (火)

梨とリンゴ

一昨日の記事でドイツの食生活におけるジャガイモの位置付けを確認した。じゃがいもはドイツ標準語で「Kartoffel」という。ところが南部に行くと以下の通りいろいろな言い方が存在する。

  1. Bodenbirne
  2. Erdbirne
  3. Grundbirne
  4. Grundbeene
  5. Erdapfel
  6. Herdapfel

上記1から3は語尾に「birne」を従えている。4番は少々なまっているがいずれも「梨」の意味だ。5と6番の語尾が「apfel」でリンゴの意味。つまりじゃがいもは「大地の梨」か「大地のリンゴ」の意味で、6番だけが「カマドのリンゴ」である。標準語もどちらかと言えば「リンゴ系」だろう。

どちらも球とは言えないゴツゴツした感じがよく出ている。俗語では品質の良くないサッカーボルのことを「Kartoffel」というらしい。

2017年6月19日 (月)

地名語尾bachの分布

惚れ惚れとはこのことだ。ドイツFALK社製20万分の1ドイツ道路地図の索引中にある地名語尾「bach」の所在を調べた。684箇所5,53%が地名語尾「bach」を伴っている。この数と比率は「dorf」に次ぐ二番手である。そして驚くべきはその分布だ。地名語尾「bach」は先に紹介した「ベンラート線」以南に集中する。例外は無い。ベンラート線以北では地名語尾「beck」に取って代わる。さらにシュレスヴィヒホルシュタイン州に限っては「bek」に差し代えられる。鮮やかなものだ。

20170609_090311

一人称主格を「ich」という地区と「ik」という地区の境界がベンラート線だったことと鮮やかに呼応する。同時に「bach」の「b」を他の子音に差し替えてもベンラート線以北には出現しない。

バッハの故郷Eisenachはベンラート線の南である。

2017年6月16日 (金)

ライン扇状地

単に扇状地と言えば中学校の地理の時間に習う。河川が山地から平地に出る場所に現れる地形のことだ。山地から平地への出口を要にした扇状になることからその名がある。

だから「ライン扇状地」などと申せばライン川が作りだす扇状地だと思われかねないが、これが大間違いで、れっきとした方言用語だ。ライン川周辺の方言の分布図が扇形に似ていることから来るネーミングだ。ドイツ語で「Rheinischer Facher」(aはウムラウト)という。ドイツ中部の中のライン沿岸は北に行くほど低地ドイツ語の影響を受けている。ライン川により交易が古来盛んだった名残りと受け止められている。その結果東西に広がる方言域をライン川が貫通しているという様相を呈している。

  1. リプリアリ語 フランク族の支族リプリアリ族にちなむ。ケルン、アーヘン、デュッセルドルフ周辺の言葉。
  2. 中部フランケン語 ボン周辺の言葉。
  3. モーゼル・フランケン語 ルクセンブルクからトーリア、コブレンツあたりのモーゼル川流域の言葉。
  4. ラインフランケン語 ザールラントからプファルツ、マインツあたりの言葉。
  5. ヘッセン語 ウィースバーデン、ダルムシュタットあたり。

2017年6月14日 (水)

ラインフランケン

西中部ドイツ方言は、いくつかの方言帯がライン川に貫通される形で南北に堆積している。このうち古くからのワイン産地ラインガウを含む地域で話されるのがラインフランケン方言だ。この方言帯はラインヘッセンからラインガウに向けてライン川を横切る。ここは2010年秋のワイン特集記事の執筆の際、穴が開くほど地図を眺めた地域だ。カール大帝のエピソードが散在する地域でもある。

何のことはない。今でこそ「ラインフランケン方言」と位置付けられているこの地域の言葉は、カール大帝の宮廷で使われていた言葉だった。昔の都の言葉だ。日本で申せば京言葉というイメージに近いかもしれない。

2017年6月13日 (火)

決意の理由

記事「方言詩人」でクラウス・グロートの経歴を紹介した。彼はブラームスの父ヨハン・ヤーコプと同じハイデの生まれだ。彼もホルシュタイン人である。国民学校の教師をしながら独学で詩作を学んだ彼がさらに学ぶためにキールに出立したのが1853年だった。

1853年は第1次デンマーク戦争が終わった翌年だった。まだ決着はついていないもののプロイセンの領土的野心は明らかだった。そうした背景の中で彼が文学を志し、方言に立脚した作品を生み出して行った。低地ドイツ方言やホルシュタイン方言への愛着は、低地ザクセン方言を操るプロイセンへの文学的抵抗なのではあるまいか。ドイツ標準語によらない文学作品を発信し続けたアイデンティティを思い遣りたい。

プロイセンによるシュレスヴィヒホルシュタイン地方の領有が確定した1866年に、キール大学の教授に就任したのはなにやら象徴的だ。

2017年6月11日 (日)

ホルステン

ブラームスの故郷ハンブルク特産のビールだ。「HOLSTEN」と綴る。創業は1879年だから、ブラームスのウィーン進出のあとだが、演奏旅行などで帰郷した際には賞味することもできた。騎士が馬に乗っているイラストでおなじみ。

デンマークとの国境に近い北部一帯をホルシュタインという。「Holstein」だ。紹介したビールのブランド名に近い。それもそのはずで、「Holstein」とづつって「ホルステン」と読むのがハンブルク訛りなのだ。「ei」を「アイ」と発音するのがドイツ語の一般的なお約束なのだが、ハンブルクを含む北部では「ei」を「エ」と発音するということだ。つまり発音につられてスペリングに変化をきたしたという実例でもある。

このネーミングには地元「ホルシュタイン」の誇りが込められていると見るべきだ。

2017年6月 9日 (金)

早生まれ

1月から3月までに生まれた子供は、前年に生まれた子供たちと一緒に、一足早く小学校に入る。その子供たちのことを「早生まれ」と呼んでいる。私も早生まれだ。

ハンブルクの北北西約20kmの位置に「Quickborn」という地名がある。英語に慣れきった脳味噌には「早生まれ」あるいは「速生まれ」に読める。ハンブルクのような北ドイツには、英語からの影響も少なくないから余計怪しい。

案の定とんだ早合点で、ドイツ語で「こんこんと湧く泉」の意味だ。「born」は泉なのだ。「quick」は豊かな水量の暗示である。

先日から方言詩人クラウス・グロートについて調べていたら思わぬお宝情報にめぐり合った。グロートは多数の著作を遺した。語学文学関係だが、得意は方言だった。低地ドイツの抒情詩の研究書がその代表作なのだが、そのタイトルを見て驚いた。何と「Quickborn」だった。先の地名の所在地は低地ドイツの真っ只中な上に、彼の故郷にも近い。私がまだ知らない必然がもう1つや2つ横たわっていそうである。

2017年6月 7日 (水)

方言詩人

記事「文豪たちの話した言葉」でブラームスにテキストを供給した詩人たちの出生地から話し言葉を推定した。同時に話すのは方言でも作品は標準語で書いたのだろうと考えた。

方言関連の書物を調べていると「方言詩人」という言葉に出会う。文学作品を方言で書く人々の意味だと思われる。こういう言い回しがあるということは、すなわち通常は標準語で書くということだ。方言で作品を書くということが珍しいということの裏返しでもある。方言詩人の代表として挙げられていたのがクラウス・グロートだ。

彼の経歴は面白い。国民学校の教師として教壇に立つ傍ら独学で詩作を進めた。その後キールに出て勉強し、37歳でボン大学から学位を得る。学位論文のテーマは「低地ドイツ語の研究」だったというから恐れ入る。つまり筋金入りの方言研究家だ。47歳でキール大学の語学と文学の教授になった。

ブラームスに彼を紹介したのがクララ・シューマンだった。何よりグロートはブラームスの父と同郷でもあった。代表作は「雨の歌」だが、このテキストが低地ドイツ方言なのかどうかさっぱり見当がつかない。

2017年6月 6日 (火)

文豪たちの話した言葉

記事「作曲家たちの話した言葉」でドイツ系の有名作曲家たちがどのような方言で話していたかを推測した。同じ事を作家でやったみた。ただやるだけではつまらないのでブラームスにテキストを供給した詩人たちに限ることにした。

  1. Bodenstedt,Friedrich von ハノーファー生 西低地ドイツ方言
  2. Candidus,Karl August シュトラスブルク生 上部アレマン方言
  3. Daumer,Georg Friedrich  ニュルンベルク生
  4. Eichendorf,Joseff Freiherr  シレジア地方ルヴォビッツ生 シュレジーエン方言
  5. Freminng,Paul ツヴィッカウ生 ザクセン方言
  6. Goethe,Johan Wolfgang von フランクフルト・アム・マイン生 ヘッセン方言
  7. Grohe,Melchior  マンハイム生
  8. Klaus Groth ハイデ生まれ 低地ザクセン方言(平地ドイツ方言)
  9. Herder Johan Gottfried  東プロイセン生 プロイセン方言(東部低地ドイツ方言)
  10. Hayse,Paul von  ベルリン生
  11. Fallersleben,Hoffman von  ファーラースレーベン生
  12. Hollty,Ludwig Christoph Heinrich  ハノーフアー生 西低地ドイツ方言
  13. Kopisch,August ブレスラウ生 シュレジーエン方言
  14. Morike,Eduard  シュヴァーベン生 シュヴァーベン語
  15. Platen,August Graf von アンスバッハ生
  16. Reinick,Robert  ダンツィヒ生
  17. Schack,Adolf Friedrich Graf von  シュヴェリン生
  18. Simrock,Karl  ボン生
  19. Tieck,Johan Ludwig  ハレ生
  20. Uhland,Ludwig  テュービンゲン生

これらの詩人たちは故郷の方言を話しているとすると上記のとおりになる。ブラームスに届けられたテキストが方言で書かれているとは限らない。話し言葉であることが方言の定義であるなら、むしろ文学作品は標準語で書かれている可能性が高い。ブラームス作品のテキストを読んでそれが、方言かどうか判定できるようになったら凄いと思う。

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