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カテゴリー「075 ドイツ語」の172件の記事

2021年8月26日 (木)

微調整語の扱い

歌曲「死と乙女」D531に現れる「Massig」をめぐるフィッシャーディースカウ先生の論考 に我を忘れているのだが、その論考の直後にもっとすごい話題に移る。

先生は「Massig」の他に以下の用語を列挙する。

  1. Etwas(いくぶん)
  2. Nicht zu(~過ぎずに)
  3. Ziemlich(かなり)

これらは基本になる言葉に添えられて、解釈を難しくしていると指摘する。感情表現と技術上の問題をあらかじめ整理しておかないと正しいテンポにたどりつけないと。

そう。これらはイタリア語「poco」「piu」「non troppo」などとともに「ブラームスの辞書」が微調整語という名称を与えている語群に含まれる。何よりも何よりも、先生程の大歌手が、いや大歌手だからか、演奏に先立ってこうも細かく楽譜を検討するものだという実例を見せられて興奮を抑えきれない。歌曲限定でいいから「シューベルトの辞書」書いてくれればよかったのに。

 

2021年7月30日 (金)

テキストの中の職人たち

ブラームスでは見かけない「漁師」(Fischer)がしばしばタイトルに登場すると述べた 。しかしこれはどうやら漁師に限った話ではないようだ。漁師以外の職業も調べてみた。タイトル中に職業が現れる作品をドイチュ番号の若い順に列挙する。

  1. D44 墓堀人の歌(Totengraber)
  2. D77 潜水者(Taucher)
  3. D121 羊飼いの嘆きの歌(Schafer)
  4. D149 歌びと(Sanger)
  5. D163 歌びとの朝の歌(Sanger)
  6. D208 尼僧(Nonne)
  7. D209 吟遊詩人(Liedler)
  8. D212 尼僧(Nonne)
  9. D215 狩人の夕べの歌(Jager)
  10. D225 漁師(Fischer)
  11. D247 糸を紡ぐ女(Spinnerin)
  12. D256 宝を掘る人(Schatzgraber)
  13. D274 指物師の歌(Tischer)
  14. D351 漁夫の歌(Fischer)
  15. D358 狩人の夕べの歌(Jager)
  16. D369 馭者クロノスに(Schwager)
  17. D392 農夫に(Pfluger)
  18. D397 騎士トッケンブルグ(Ritter)
  19. D449 よき羊飼い(Schafer)
  20. D454 兵士への挽歌(Soldaten)
  21. D490 羊飼い(Schafer)
  22. D517 羊飼いと騎士(Schafer、Ritter)
  23. D524 アルプスの狩人(Jager)
  24. D536 船乗り(Schiffer)
  25. D560 金細工師の歌(Goldschmied)
  26. D562 漁夫の歌(Fischer)
  27. D588 アルプスの狩人(Jager)
  28. D694   船乗り(Schiffer)
  29. D712 囚われの歌びと(Sanger)
  30. D761 羊飼いの願い(Schafer)
  31. D785 怒れる吟遊詩人(Liedler)
  32. D795 狩人(Jager)
  33. D808 ゴンドラの船人(Schiffer)
  34. D828 若き尼僧(Nonne)
  35. D842 墓堀人の郷愁(Totengraber)
  36. D843 囚われし狩人の歌(Jager)
  37. D881 漁師の歌(Fischer)
  38. D909 狩人の愛の歌(Jager)
  39. D911 辻音楽師(Leiermann)
  40. D933 漁夫の愛の幸せ(Fischer)
  41. D957 戦士(Krieger)
  42. D957 漁夫の娘(Fischer)
  43. D965 岩の上の羊飼い(Schafer)

以上43曲。出現頻度をまとめると以下の通り。

  1. Fischer(漁師)6回
  2. Goldschied(金細工師)1回
  3. Jager(狩人)7回
  4. Krieger(戦士)1回
  5. Leiermann(辻音楽師)1回
  6. Liedler(吟遊詩人)2回
  7. Nonne(尼僧)3回
  8. Pfluger(農夫)1回
  9. Ritter(騎士)2回
  10. Sanger(歌びと)3回
  11. Schaffer(羊飼い)6回
  12. Schatzgraber(宝堀人)1回
  13. Schiffer(船乗り)3回
  14. Schwager(馭者)1回
  15. Solderten(兵士)1回
  16. Spinnerin(糸紡ぎ)1回
  17. Taucher(潜水夫)1回
  18. Tischer(指物師)1回
  19. Totengraber(墓堀人)2回

狩人7回、羊飼い6回、漁師6回がトップ3だ。同じ「Fischer」でも日本語に転写する際に「漁師」と「漁夫」に分かれるなど、注意も要る。D517で重複があるので頻度の合計は44になる。翻ってブラームスで同じことを試みる。

  1. Jager(狩人)op95-4
  2. Schmied(鍛冶屋)op19-4
  3. Tambour(鼓手)op69-5

以上だ。歌曲総数573で44回、7.7%のシューベルトに対し、ブラームスは総数204曲で3回1.5%だ。テキストの取捨選択が作曲家の個性とするならこれはもう両者のキャラの反映だと思われる。ほかの作曲家でトライしてみないとどちらが主流かわからぬが、暑くてやる気が出ない。

タイトルにとどめず、テキストに踏み込んだらかなり増えると思われるが、ブラームスはともかくシューベルトの全テキストをあたるのは腰が引けている。タイトルだけでは「粉屋」(Muhller)が引っかからないなど、必ずしも公平ではない。

春夏秋冬を彩る花鳥風月や雨風雪あるいは、恋、旅など古典和歌でも頻発する概念であれば、日本人でもイメージしやすく感情移入も容易だけれど、これら職業名には注意が要る。ドイツ人なら一連の職業名を見聞きしただけで特定のイメージを想起できるはずだが、一般的日本人には難しい。「海士の小舟の綱手かなしも」の「海士」(あま)が「Fischer」と同じ概念であるはずはない。作品の味わいに少なからぬ影響があるに決まっている。

 

 

 

2021年6月14日 (月)

烏賊匂わすか

「Feldeinsamkeit」op86-2の邦題に決定版がないことは既に言及しておいた。ブラームスの歌曲に採用されたテキストには元々タイトルが存在するものと、歌いだしの一節がタイトルとして流用されているものとがある。本日話題の「Wie bist du,meine Konigin」op32-9は後者の例。ブラームスを代表する歌曲なのだが、邦題には決定版が無い。

「Wie bist du」は英語なら「How are you」だ。これを日本語へ転写するのが難しい。「Konigin」は「王」「Konig」の女性形で「女王」だ。ここでは憧れの女性のことを指す言い回し。あわせて「いかにおわすか我が女王」となる。「烏賊匂わすか我が女王」と聞こえる。「おわす」は「居る」の尊敬語なのだろうが、現代日本で通りのいい言葉ではあるまい。

2021年1月14日 (木)

さざれ石

「君が代」の歌詞の中に出てくる。「小石」だ。これがやがて「大岩」になると歌われる。石が時と共に成長するという考えが下敷きになっていると教わった記憶がある。さらに付け加えるとするなら、そこには「石は大きいほうが有り難味も大きい」という思考の方向性をも感じさせてくれる。「巨石信仰」の痕跡をかすかに感じる。

ザクセンの語源を調べていて興味深い話に出会った。現代ドイツ語では「Sachsen」と綴るが、それは古高ドイツ語の「Sahs」(剣)に連なっている。使用する武器が「短剣」だったことからローマ人がつけたあだ名だが、妙に辻褄が合っている一方で、書物によっては「ザクセン」の語源は「石」だという記述もあって混乱していた。

さらに調べる。

古高ドイツ語「Sahs」(剣)は、ラテン語の「Saxum」(石)からの派生語だということがわかった。何故「石」から「剣」が派生するのか不思議だったが、ラテン語「Saxum」は、「大岩」ではなくて「手で持てる程度の石」「小石」の意味だ。実は古くは「剣」が石でできていたことの投影だという。つまり石器だ。当時は「剣」といえば「石」だったのだ。

ザクセンさざれ石。

2019年11月10日 (日)

英語の立場

クララ・シューマン唯一の孫娘はユーリエという名前だった。ユーリエは13歳の頃からクララの手回しでベルリンの寄宿学校に通った。クララは手紙でユーリエにあれこれと書き送る。

その中に面白い記述があった。語学の習得に関してフランス語と英語を比べている。クララは「教養として求められるのはフランス語だが、現実の社交には英語が必要となるケースが多い」と述べている。大英帝国の威光あるいは産業革命の効果かなどと大げさになる必要はない。クララの演奏旅行の回数はフランスより英国の方が多い。英国出身の弟子も多い。そうした経験に照らして言っているのだろう。当代屈指のピアニストで国際経験豊かなクララの言葉だから、説得力もある。

現実にドイツの北部、ハンブルクやブレーメンなどでは英語でのコミュニケーションもあったのだと思う。

そのクララの弟子フローレンス・メイは回想録の中で、ブラームスが少しなら英語を理解できたと証言している。会話は無理ながら、何を言っているかは理解出来たと解されている。英国訪問を断固拒否したブラームスの英語力が想像できる。

2019年3月13日 (水)

ペイヒェルベ

昨年夏の旅行最初のエポックはパッヘルベルの墓参だった。

20180810_084947

ホテルで道を訊くのだが、どうにも伝わらん。「パッヘルベル」と言っても伝わらん。名高いカノンの一節を口ずさんでもなお伝わらない。メモに「Pachelbelと書いても「?」な感じ。ブラームスはもちろんバッハやテレマンやブクステフーデはすぐに通じたことと対照的だ。

そもそも一般人がパッヘルベルを知らないという現象だ。日本での知名度の方がずっと上だと感じたが、よく考えるとそりゃ「カノン」の知名度だろう。

それでも何とか伝わると、相手は「ペイヒェルベ」と言っている。まさかそれが「パッヘルベル」だとは思わなかった。

2019年1月27日 (日)

Entschuldigen

今回の旅行中、私自身が2番目に多く発したドイツ語だ。英語の「エクスキューズミー」に相当すると考えていい。「すみませんが」というニュアンス。わからぬことを尋ねるときの枕替わり。

一体何度道を尋ねただろう。

収穫の多かった今回の旅だが、終えてみての感想は「無茶をしたな」という感じだ。言葉の不安を顧みずやりたいことをてんこ盛りにした副作用だ。DBの職員やホテルのフロントの人々はさておき、道端の一般人が親切だった。こちらが話しかけぬ限りは一見無関心だが、こちらがひとたび「SOS」を発すると、決まって助けてくれた。老若男女や地域の格差はない。予定通りのコースを踏破できたことと予想以上の収穫は、全てドイツのみなさんのおかげだ。

ドイツを好きになれて幸せだ。

そう。旅行中私がもっとも数多く発した単語は、もちろん。

「ダンケシェーン」だ。

2018年11月10日 (土)

生誕535年

今日11月10日はマルティン・ルターの誕生日。1483年だから生誕535年である。

ブログ「ブラームスの辞書」が展開する「バロック特集」準備の過程で、ルターと宗教改革は避けて通れぬ情報群となっていたが、浅学無信仰の私ごときが不用意に言及するのは、はばかられる存在だ。

しかし、今日は敢えて誕生日を祝福する。

ゆかりの街アイゼナハのブログ上報告を終えたばかりのタイミングでこの日がきたことを喜んでいる。ライプチヒを出た列車がベルリンに向かう途中でもうひとつルターゆかりの街を通る。

20180814_104458_2

1517年10月31日、同地の教会の扉にルターが95箇条の論題を貼りだしたことから宗教改革が始まった。つまり宗教改革発祥の地だ。だから「Lutherstadt」となっている。

2018年8月 3日 (金)

バッハの旅路

バッハ65年の生涯のうちで、最大最長の旅はと問われれば、1705年11月の徒歩旅行と唱えても誤りとはなるまい。当時の任地アルンシュタットから、尊敬するブクステフーデのいるリューベックへの徒歩旅行だ。リューベック聖マリア教会のブクステフーデは当時最高のオルガニストだ。

一方のバッハは、二十歳。1703年8月9日にアルンシュタット新教会のオルガニストになったばかり。つまりブクステフーデは当代最高の同業者ということになる。リューベックは、アルンシュタットの真北、直線距離でおよそ350kmの位置にある。勤務先に4週間の休暇を申し出て徒歩でリューベックを目指した。

先に紹介した「バッハの街」の313ページに驚くべき記述がある。このときバッハのたどったコースが通過した都市名を添えて詳細に紹介されている。

せっかくなので、手持ちのドイツ道路地図をたよりにバッハの旅路を再現してみる。

20180414_162835
見開きに掲載の地図で、アルンシュタットとリューベックの位置関係を確認しておく。

20180414_113605

現代の地図ではアウトバーンが地形に関係なく張り巡らされているからわかりにくいが、アルンシュタットの北方は、ハルツ山地が横たわっている。これを直線的に突き抜けるコースは取れないから、図の直線はあくまでも目安となる。

2018年4月14日 (土)

冠詞

ヨーロッパ系言語特有の品詞。英語で申せば「a」「an」「the」だ。これが不定冠詞と定冠詞に分かれることも周知の通りである。英語はシンプルだと気づくのはドイツ語の学習が始まって間もなくだ。名詞の性や格によって変化する上に、形容詞の格変化にも影響する。幸い英語同様に複数形には用いられないが、中には複数形にも付着してしまう言語もあるらしい。

冠詞が無い日本人には厄介な概念だ。「a bed」「the bed」あるは冠詞無しの「bed」では、意味が変わってしまうことも少なくない。

黙って以下の3つを眺めて欲しい。

  1. ドイツ語 Ein Deutsches Requiem
  2. 英語 A German requiem
  3. 日本語 ドイツレクイエム

どれもブラームスの作品番号45を指している。そもそもどうして不定冠詞「Ein」「A」が用いられるのかが実感として理解出来ない。「Das Deutsche Requiem」ではいけない理由がイメージ出来ない。見ての通り日本語ではその手の論点は発生しない。けれども原文が「Ein Deutsche Requiem」だろうと「Das Deutsche Requiem」だろうと、その違いを日本語へ反映させようと思うと大変なことになるので結局は「ドイツレクイエム」落ち着かざるを得まい。

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