ちょうど1ヶ月前の話だ。17時過ぎて母は台所に立つ。夕食の支度だ。甘酢和えを作るためにきゅうりを包丁で薄切りにしていた。急に「きゃー」と悲鳴。急いで駆けつけると包丁で左手の人差し指を切ってしまった。絆創膏で応急処置をしてソファで休ませた。
主婦歴65年のベテランだ。刻み物をしていて指を切るなどほぼない人なのになんとしたことだ。その日は仕方なく私が刻んだきゅうりを使ったがどうにも様にならぬ厚切りだ。止血に成功して痛みも治まったので18時くらいから夕食を食べ始めた。
と、そのとき長女の婿からライン。「どうも生まれそうなので入院させました」「私は一旦帰宅させられましたが、いよいよの時はまた呼び出される」云々。そこからおよそ6時間後7月22日になって24分後に初孫が誕生したということだ。
7月27日初対面にと長女宅に行って、当日の話をあれこれ聞いた。7月21日は朝からおかしかった。陣痛めいたものもあるので産院に電話したところ、痛みが5分間隔になったら入院と言われた。5分間隔にならないのに破水が始まってしまい、驚いて電話し指示されるままに入院したのが17時20分だという。
背筋が凍った。母が包丁で指を切った時刻だ。
孫娘の破水を神様が母に知らせたのだ。
記事「起源接頭辞Ur 」で述べた通り、「Ur」は、様々な語頭について意味を遡らせると書いた。その続きだ。
ドイツ語で「Grossmutter」が祖母(おばあちゃん)で、これが「Urgrossmutter」になると曾祖母ひいおばあちゃんになる。これだけなら、まだしも「Enkel」は「孫」なのだが「Urenkel」で「ひ孫」になる。
つまり「Ur」には「おばあちゃん」を「ひいおばあちゃん」にしたり、「孫」を「ひ孫」にしたりする機能があるということだ。孫をひ孫にするとは意外な効果だ。単なる起源の遡りではなく、奥深さやスケールの増強と捉え直さねばなるまい。
昨日、私の母が「ひいおばあちゃん」になった。長女が男の子を産んだということ。
一昨日、嫁いだ娘らが婿殿を伴って帰省した。元日の集結が決まって以来、母は心待ちにして周到に準備を重ねた。23日と30日には、歳末商戦で込み合うデパ地下に買い出しに出かけ、ごった返す中を悠々とスラロ―ムして食材を買い求めた。
31日は朝からお節料理の仕込みに没頭した。かれこれ半日はキッチンに立ち続ける母を私はただ、サポートするだけ。最早それが元気の秘訣だ。話し相手がいてこそ忙しい中でも余裕が出る。事細かな指図は30年前と変わらぬ。
元日、リビングの清掃と食卓の準備は私の仕事。母は盛り付けに忙しい。
婿殿2人は、たくましい食欲を見せて、それが母の励みにもなっていた。食事中も、お酒だお茶だお代わりだと忙しい。かくて孫たちは婿も含めて89歳のおばあちゃんの手料理を堪能した。
やがて座はみんなでゲームに流れる。「あつ森」「桃鉄」「ウイイレ」と立て続けだ。降り番の孫が交代でばあちゃんの話相手になる。腹が減ったら火鉢でお餅という王道。私は餅奉行に徹して「磯辺」「つけ焼き」「雑煮」を受注生産して期待に応え続けた。
「嫁の実家状態」を堪能して娘ら夫婦が引き上げたのは19時30分を回っていた。
なんだかんだで忙しい1年だった。
私にとっても、我が家にとっても大ニュースが続いた。
娘らの結婚系は歓迎なのだが、ケガや病気も目立つ。用心せねば。
私の入院手術が決まってすぐ、子供たちにはラインで報告した。もともと私と子供ら3人のライングループが作ってあったのだが、それがそのまま便利に活用できた。
最初私が、「入院中おばあちゃんのサポートをくれぐれも」と問題提起すると、長女の発案で「交代でばあちゃんをサポートしよう」という話になり、平日休めそうな日を各自が申告しだした。11月6日から2週間だれかが必ず家に駆け付けるようにできないかの調整だ。その2週間で誰も駆け付けができないのは20日だけと分かった。ばあちゃんは「あたしゃ一人で2週間くらい大丈夫」と言いたい性分なのだが、「嫁いだ孫娘の顔が見られるんも悪くないわい」ととっさに算盤をはじいている。
日ごろマイペースな子供らなのだが、私の入院を一大事と察して、ばあちゃんのアシストに結束してくれた。「よい子に育ってくれた」とまんざらでもないばあちゃんだった。
何のことはない。術後の経過がよくて、駆け付けができないと懸案だった20日より前に退院となった。
一昨日、甥っこの結婚式に行ってきた。結婚のため我が家を巣立った娘2人と久々の再会となった。都心ながら絶好のロケーションを楽しんだ。最大の衝撃は、挙式披露宴に先立つ親族紹介の場面でやってきた。
新郎が身内を次々に紹介してゆく。血縁の濃い順に紹介がすすみ、新郎の伯父にあたる私の後、従姉妹にあたる我が家の娘たち番になった。我が家の苗字で呼ばれなかった。
ああ。
嫁にやるとはこういうことか。当の娘らは、そう紹介されても微動だにせず笑顔で会釈している。
一昨日彼を連れて長女がやってきた。夏休みの旅行の土産を渡しにというのは名目で、次女が去ってさびしくしているおばあちゃんを見舞いにきたのだ。
猛暑日ものかはのにぎやかな一日、だらだらと近況報告が続いた。夕食のカレーライスを楽しんでから去りがたく帰っていった。
ばあちゃんには、ありがたい一日となった。
長女が結婚のため我が家を巣立ってからちょうど1年が過ぎた。2月26日に挙式披露宴も終え、車で1時間の新居で元気にやっている。おばあちゃんにもマメに電話をくれる。
そして今日はブラームスの命日。没後126年である。
さらに加えて父の誕生日。生きていれば88歳になっていたはずだ。
昨日の話の続きを少しだけ。
このたびの挙式披露宴はすべて新郎新婦が手作りしたもの。一日がかりのオペラみたいなものだ。彼らはその演出家。会場の選択にはじまって、招待者の選定、挙式披露宴のコンセプト、細かな進行、役割分担。引き出物選定、衣装などなどあらゆるものが自分たち理想の披露宴につながっていた。
我々家族とて例外ではない。彼らの理想の披露宴を形作るピースかもしれない。とはいえ嫁に出す側の新婦の家族として我々は心底一日を楽しんだ。だからそこに込められた新郎新婦の意図があらゆる場面でひしひしと伝わってきた。母代わりの祖母にとっては子育ての集大成でもあった。長男と次女は、長女の結婚を心の底から祝う一方で、祖母にも固く寄り添った。特に次女は祖母を新婦に次ぐ重要な位置にづけと理解し、忙しい祖母に寄り添って献身した。トイレには必ず同行し、テーブルではまめに気を配った。立ち上がるときには手を貸し、歩くときは腕を組んだ。
長女は披露宴最後を飾る「家族への感謝の手紙」に余すことなく思いのたけを盛り込んだ。母代わりとなって27年の祖母を3人の孫たちが、それぞれの立場から感謝を表明し続けた一日だった。祖母にそれらの思いが伝わったからこそ、祖母は一日中号泣し続けた。「よい子に育ってくれた」と。
祖母渾身の27年におよぶ子育てが少しだけ報われた一日。このことの記述に2日費やすことを咎めるベートーヴェンとは思えない。
001 用語解説 002 ドイツ旅行① 003 ドイツ旅行② 004 ドイツ旅行③ 050 空席状況 051 お知らせ 052 総集編 053 アラビアンナイト計画 054 セバスチャン 055 令和百人一首 056 拾葉百首 060 ブラームス神社 061 縁起 063 賽銭 070 ドイツ分室 071 地名辞書 072 地名探検 073 地名語尾辞典 074 地名語尾 075 ドイツ語 076 ドイツ方言 077 ドイツ史 078 ハプスブルク 079 人名辞典 080 イベント 081 謝恩クイズ 082 かるた 083 のだめ 084 お盆 085 中国出張 086 英国研修 087 ブログ出版 088 意訳委員会 089 ドヴォルザークイヤー総集編 090 ドヴォルザーク作品一覧 091 平均律与太話 092 暦 093 バロック 094 ドイツバロック 095 イタリアンバロック 100 作曲 101 編曲 102 楽譜 103 音符 104 楽語 105 テンポ 106 音強 107 拍子 108 調性 109 奏法 110 演奏 111 旋律 112 音型 113 リズム 114 和声 115 対位法 116 形式 117 編成 118 ヘミオラ 119 テキスト 120 ベースライン 121 再現部 122 微調整語 123 語彙 124 表情 125 伴奏 126 ジプシー音楽 140 ソナタ 141 変奏曲 142 フーガ 143 ロンド 144 コラール 145 間奏曲 146 スケルツォ 147 ワルツ 148 レントラー 149 緩徐楽章 150 セレナーデ 153 カプリチオ 154 トリオ 155 序奏 156 シャコンヌ 157 メヌエット 158 舞曲 159 カンタータ 160 ブラームス節 161 分布 162 引用 170 楽器 171 ピアノ 172 ヴァイオリン 173 ヴィオラ 174 チェロ 175 コントラバス 177 オーボエ 178 クラリネット 179 ファゴット 180 ホルン 181 トランペット 182 トロンボーン 183 チューバ 184 ティンパニ 185 トライアングル 186 チェンバロ 187 オルガン 190 鍵盤楽器 191 弦楽器 192 木管楽器 193 金管楽器 194 打楽器 195 メゾソプラノ 196 アルト 200 作品 201 ピアノ曲 202 歌曲 203 器楽 204 室内楽 205 交響曲 206 協奏曲 207 管弦楽曲 208 合唱 209 重唱 210 民謡 211 オルガン 212 オペラ 213 カノン 214 連弾 215 練習曲 216 学生歌 230 ドイツレクイエム 231 交響曲第1番 232 交響曲第2番 233 交響曲第3番 234 交響曲第4番 235 大学祝典序曲 236 ヴァイオリン協奏曲 237 ピアノ協奏曲第1番 238 ピアノ協奏曲第2番 239 二重協奏曲 248 弦楽六重奏曲第1番 249 弦楽六重奏曲第2番 250 ピアノ五重奏曲 251 クラリネット五重奏曲 252 弦楽五重奏曲第1番 253 弦楽五重奏曲第2番 254 弦楽四重奏曲第1番 255 弦楽四重奏曲第2番 256 弦楽四重奏曲第3番 257 ピアノ四重奏曲第1番 258 ピアノ四重奏曲第2番 259 ピアノ四重奏曲第3番 260 ピアノ三重奏曲第1番 261 ピアノ三重奏曲第2番 262 ピアノ三重奏曲第3番 263 ホルン三重奏曲 264 クラリネット三重奏曲 265 ヴァイオリンソナタ第1番雨の歌 266 ヴァイオリンソナタ第2番 267 ヴァイオリンソナタ第3番 268 チェロソナタ第1番 269 チェロソナタ第2番 270 クラリネットソナタ第1番 271 クラリネットソナタ第2場 272 FAEソナタ 300 作曲家 301 バッハ 302 シェーンベルク 303 ドヴォルザーク 304 ベートーヴェン 305 シューマン 306 メンデルスゾーン 307 モーツアルト 308 ショパン 309 シューベルト 310 ワーグナー 311 マーラー 312 チャイコフスキー 313 Rシュトラウス 314 リスト 315 ヘンデル 316 ヴィヴァルディ 317 ヴェルディ 318 ヨハン・シュトラウスⅡ 319 ビゼー 320 ブルックナー 321 ハイドン 322 レーガー 323 ショスタコーヴィチ 324 テレマン 325 ブクステフーデ 326 パッヘルベル 327 シュメルツァー 328 フローベルガー 330 プレトリウス 331 シュッツ 350 演奏家 351 クララ 352 ヨアヒム 353 ミュールフェルト 354 アマーリエ 356 ビューロー 357 クライスラー 358 ヘンシェル 362 シュットクハウゼン 400 人物 401 ファミリー 402 マルクゼン 403 ジムロック 404 シュピッタ 405 ビルロート 407 ビスマルク 408 ハンスリック 409 フェリクス 411 マンディ 412 ヴィトマン 416 カルベック 417 ガイリンガー 418 エルク 419 グリム兄弟 420 森鴎外 421 ルター 422 源実朝 431 アガーテ 432 リーズル 433 マリエ 434 ユーリエ 435 オイゲーニエ 436 ベルタ 437 リースヒェン 438 オティーリエ 439 シュピース 440 トゥルクサ 441 バルビ 442 シシィ 443 メルケル 500 逸話 501 生い立ち 502 性格 503 学習 504 死 505 葬儀 506 職務 507 マネー 508 報酬 509 寄付 510 顕彰 511 信仰 512 友情 513 恋 514 噂 515 別れ 516 こだわり 517 癖 518 読書 519 リゾート 520 旅行 521 鉄道 522 散歩 523 食事 524 ワイン 525 タバコ 526 コーヒー 527 趣味 528 手紙 529 ジョーク 530 習慣 531 住居 532 恩人 533 指揮者 534 教師 535 暗譜 536 美術 537 ビール 550 楽友協会 551 ジンクアカデミー 552 ハンブルク女声合唱団 553 赤いハリネズミ 554 論争 555 出版社 556 初版 557 献呈 558 伝記 559 初演 560 校訂 571 ウィーン 572 ハンブルク 573 イシュル 574 トゥーン 575 デトモルト 576 ペルチャッハ 577 ライプチヒ 578 デュッセルドルフ 579 フランクフルト 580 ベルリン 581 アイゼナハ 582 リューベック 583 ニュルンベルク 590 イタリア 591 イギリス 592 チェコ 600 ブログMng 601 運営方針 602 自主規制 603 アクセス 604 検索 605 カテゴリー 606 記事備蓄 607 創立記念日 608 ブログパーツ 609 舞台裏 610 取材メモ 611 マッコークル 612 シュミーダー 613 一覧表 614 課題 615 カレンダリング 616 ゴール 617 キリ番アクセス 618 キリ番記事 630 記念 631 誕生日 632 命日 633 演奏会 634 正月 635 ヴァレンタイン 636 クリスマス 637 ブラームス忌 638 ブラスマス 639 クララ忌 641 愛鳥週間 642 ランキング 699 仮置き 700 思い 701 仮説 702 疑問 703 お叱り覚悟 704 発見 705 奇遇 706 区切り 707 モチベーション 708 演奏会 709 感謝 710 よろこび 711 譜読み 712 音楽史 720 日本史 721 日本人 722 日本語 723 短歌俳句 724 漢詩 725 三国志 727 映画 728 写譜 730 写真 731 数学 732 レッスン 733 ビートルズ 740 昔話 741 仲間 742 大学オケ 743 高校オケ 760 家族 761 父 762 母 763 妻 764 長男 765 長女 766 次女 767 恩師 768 孫 780 スポーツ 781 野球 782 駅伝 783 バスケットボール 784 サッカー 785 アントラーズ 786 バドミントン 790 コレクション 791 CD 792 ipod 793 楽譜 794 書籍 795 グッズ 796 愛器 797 職場のオケ 800 執筆の周辺 801 執筆の方針 802 ブラダス 803 校正 804 譜例 807 パソコン 808 ネット 809 ドボダス 810 ミンダス 820 出版の周辺 821 パートナー 822 契約 823 装丁 825 刊行記念日 840 販売の周辺 841 お買上げ 842 名刺 860 献本 861 ドイツ国立図書館
最近のコメント