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カテゴリー「793 楽譜」の13件の記事

2015年6月21日 (日)

無残な解説

音楽之友社刊行の「作曲家別名曲解説ライブラリー」第7巻ブラームスの232ページのことだ。ピアノ四重奏曲第1番を「様式法則に対する悪行」と形容してまで第2番イ長調をオーソドックスだと断ずる。問題はその後、2番イ長調を第1番ト短調と比較する文脈で

  1. ト短調ほどのポピュラリティを持っていない。
  2. 創意というか工夫というものに乏しい。
  3. 聴く者の幻想を容易に喚起し、耳に早く印象付ける特性的な主題を持たない。
  4. 外面的な効果でも劣る。

という具合に言いたい放題の論評を展開する。入門書としては大胆な踏み込みだ。筆者が誰なのか確定しない体裁なのが残念だ。

曲を聴いてどう感じるかは個人の自由だから、突っ込みどころでは無いと承知はしているが、同書の影響力を考えると無残といわざるを得ない。予備知識無く読まされたら、当時対立中のワーグナー陣営の評論家の台詞かと思われかねない。

私としてはイ長調ピアノ四重奏曲は聴いても弾いても楽しい。とりわけ第二楽章は絶品だ。同書の解説を読んで聴かず嫌いになる人が続出しないよう祈るばかりである。

2010年6月14日 (月)

380円のスコア

行きつけの楽譜ショップで驚くべきお買い物をした。

先般話題にした「糸杉」の弦楽四重奏編曲全12曲が収載されたポケットスコアだ。何と1冊380円だ。チェコ・スプラフォン社刊行の原典版という触れ込みだ。愛らしい弦楽四重奏の小品集にはまっているから即買いだ。380ドルだったらお手上げだし、3800円でも躊躇するだろう。しかしたったの380円だ。聴くと見るとでは大違いというサプライズを期待してCDを聴く。25歳で作曲した歌曲を、47歳になって弦楽四重奏に編曲した代物。円熟期の編曲だけあって手際の良さが光る。

パンドラの箱を開けてしまった感じがする。

今までずっとドヴォルザークネタを公開してきたが、パート系の楽語については敢えて言及を封印してきた。所有している楽譜が少な過ぎて、パート系の用語については確たることが言えないと判断していた。

今回買った「糸杉」のスコアには、ブラームスの用語遣いとの比較において、興味深い出来事に満ちている。封印してきたパート系ネタに思わず言及したくなる。

一方オリジナルの歌曲「糸杉」はCDも楽譜も持っていない。これが手に入ると弦楽四重奏版との比較の中からまた記事が書けるに決まっている。弦楽四重奏への転写にあたってドヴォルザークがどうしたのか興味深い。

たった380円で、どんだけ楽しめるのだろう。底が無い感じだ。

2010年6月 9日 (水)

マリチコスチ

チェコ語で「バガテル」のことだ。ドヴォルザークにはマリチコスチがある。「2つのヴァイオリン、ヴィオラ、チェロとハルモニウムのためのマリチコスチ」op47である。6月6日の記事「さすがチェコ」で、CDを発見したとはしゃいだ。「聴いていると自然に身体が動き出すような」としか言えない健全なフォークダンス感が尊い。

ブラームスのご加護か、ドヴォルザークのお導きか、この程楽譜を入手出来た。パート譜だが、文句は言えない。ハルモニウムのパート譜には全部の楽器の動きが載っているから、事実上の総譜状態になっている。お店の人によれば総譜は出ていないそうだ。2280円を喜々として支払った。

単に聴いていた時は、楽しい舞曲としての側面が際立っていたが、楽譜を見ながら聴くと仕掛け満載で驚く。第1楽章冒頭の主題が、あちこちに埋め込まれている。特筆せねばならないのは第4楽章のカノンだ。

ドヴォルザークお得意の「舞曲羅列型」作品の中にあって、「カノン」というタイトリング自体、そもそも浮いている。第1楽章がト短調の室内楽としては、ホ長調という調性の選択も面白い。続く第5楽章がト長調でありながらイ短調で始まるスラブ風だから、そのイ短調の準備としてのホ長調かとも思う。

アンダンテ・コン・モート、8分の3拍子で第一ヴァイオリンによって開始される主題をチェロが1小節遅れて追いかけるという注文通りのカノンだ。8分音符3個分の差で進んで行くが、第2主題になると、8分音符1個分の差になってしまう。譜例無しでは説明が難儀だ。3つの弦楽器とハルモニウムの2つの手によって形成される5つの声部が、めまぐるしく役割を変える巧妙なカノンになっている。先後2声部がいつの間にか3声部に増える。中間部では、3声部が8分音符1個の差で主題を歌う。

見事だ。聴いた感じは遅めの舞曲にしか聞こえないが、ブラームスのお株を奪うような超複雑なカノンになっている。この手の聞こえと譜面づらの落差は、えらくブラームス風だ。

2010年1月15日 (金)

ホルンソナタ

クラシック音楽業界の慣例に従えば、「ホルンとピアノのためのソナタ」ということになる。

次女がベートーヴェンのホルンソナタヘ長調op17の楽譜が欲しいと言い出した。理由を訊いて唖然とした。昨年のクリスマスにプレゼントしたCDが発端だった。ブラームスのホルン三重奏曲のCDを贈った。そこはさすがに一ひねりしてあって、ホルンのパートをトロンボーンで吹いている演奏だ。私の狙いはもちろんブラームスだったのだが、そこに収録されていたベートーヴェンのホルンソナタが気に入ったらしい。

ブラームスより面白そうなどとしょっぱいことを言っている。CDで聴く限り音も高いし、細かい動きも多くてトロンボーンではしんどそうだ。次女は「せっかくトロンボーンをやっているのだから、何か1曲くらいキチンと吹ける曲を持っていたい」という。「練習の合間や、春休みなどにコツコツと練習したい」(キッパリ)と続けた。

ホルンはト音記号だし、「inF」で書かれているから難しくないかと問う。「いんえふって何」という間延びした質問が返ってきた。

昨日楽譜ショップに出向くと吉報が待っていた。やはり現場に行ってみるものだ。ベートーヴェンのホルンソナタは元々ホルンの代わりにチェロで代用可となっていた。店頭の楽譜にはチェロのパート譜がついていた。「おおぉ」ってなもんだ。少なくともチェロならヘ音記号だ。これをB管のトロンボーンで吹いたらどうなるのかと思ったが、ピアノと合奏しない限り問題はあるまいということで、さっそく買い求めた。

帰宅して手渡すと、最近ちょっと見かけないくらいの笑顔が返ってきた。CD聴きながらずっと眺めている。ヘンレ版2190円だがスマイルがお釣りで戻ってきて何だかとてもお手ごろ価格ある。

2009年12月20日 (日)

やっぱり買っちまった

2009年10月12日にドヴォルザークの独奏ピアノ曲集を衝動買いしたと書いた。懸念された通り「詩的音画」op85が被るのも顧みずやっぱり第2巻を買ってしまった。5000円少々の出費だ。譜例付きの目次が重宝だ。

元々より深く作品に親しむには楽譜を参照したい方だ。もちろん私はピアノが弾けないが、単に曲を聴いているだけより数段面白い。いわゆる楽譜の景色を楽しむのだ。

  1. 用語の分布
  2. アーティキュレーション付与の癖
  3. ダイナミクスの分布
  4. 調号と実際に鳴る調の不整合
  5. 転調の詳細
  6. 隠された音形
  7. 思いも寄らぬヘミオラ

聴くのと見るのとでは大違いというのはブラームスではお約束だから、ドヴォルザークも怖い物見たさが頭をもたげる。これでまた当分退屈しない。

2ヶ月以上迷っていたから、衝動買いとは言えまい。

2009年10月12日 (月)

衝動買い

事前の計画無く物を買ってしまうこと。極端に小額な出費の場合には、あまり使われないと思われる。

ドヴォルザークの独奏ピアノ曲集第1巻を思わず衝動買いしてしまった。もちろん楽譜の話。いやはや世の中変わった。ドヴォルザークのピアノ曲の楽譜を買うなんて。「詩的音画」は国内の出版社から出ているのを持っていたが、とうとう全集にまで手を出してしまった。ドヴォルザーク特集のせいで脳味噌が練れて来ている感じだ。

スプラフォンから刊行されているが、製本もしっかりしていて好感が持てる。6615円の出費だ。楽譜見ながら聞くと味わいが深まる。ワルツの再現部に「Quasi Tempo I」などという、ぶっ飛びの指定を発見して、元が取れた気分になっている。

この調子だと、「詩的音画」がかぶるのを承知で第2巻を買っちまいそうだ。今からこうして悩んでいるということは、少なくとも衝動買いではないということだ。

2009年7月15日 (水)

オックスフォード大学出版部

OXford University Pressのことだ。OUPと略記される。

さる楽譜ショップをうろついていてお宝を発見した。タイトルは英語で「German Folksongs-Johannes Brahms」とある。出版社はOXford University Pressになっている。

26曲という収載曲数を見て、脳味噌が酸っぱくなった。「混声四部合唱のための14のドイツ民謡」WoO34と「混声四部合唱のための12のドイツ民謡」WoO35かもしれぬと直感した。「14足す12イコール26」の暗算が出来たということだ。

中身を確認してもWoO番号は一切書かれていない。困ったことにテキストは英語だ。巻末にまとめてドイツ語のオリジナルテキストが載っていた。持ち歩いているiPodを取り出して、確認したら、やっぱりWoO34とWoO35と一致した。店頭でこれをしたから相当怪しかったに違いない。

我が家には独唱用のWoO33とWoO32、「子供のための14のドイツ民謡集」WoO31の楽譜しか無い。ドイツ民謡の合唱版をずっと捜していた。WoO34は1864年つまりブラームス生前の出版だ。本人のお墨付きのようなものだから大変貴重だ。

問題は価格だ。祈るように裏表紙を見ると、4130円だ。格安である。あーもすーもなく即買い。ペーター版だとWoO34の14曲が上下2巻に分かれて各1800円だ。これだけで3600円となる。WoO35まで1冊に収まって4130円ならお買い得だ。

いやはや見ているだけで楽しい。今まで単に聴くだけだった作品が、楽譜を見ながら聴くことで味わいが深まる。「49のドイツ民謡集」WoO33と重複する作品については、合唱用と独唱用を比較することも可能になる。

さっそく発見がある。本日買った楽譜にもピアノパートが印刷されている。WoO34もWoO35もブラームスのオリジナルはアカペラだったはずだが、これいかにと思っていたら、さすがに芸が細かい。ピアノのパートには小さく「リハーサルオンリー」と書かれていた。合唱の4声部がピアノ風2段楽譜に映されて添えられているのだ。

発想記号が一部英語というのが少しがっかりだ。オリジナルの発想記号ではないからブラダスへの取り込みは出来ない。この調子では途中のダイナミクスも怪しいと思わねばなるまい。

それでも楽しみの大きさに比べれば大した問題ではない。こうなるとハンブルク時代の名残りである女声合唱版、つまりWoO36、37、38が欲しくなる。こちらはCDもまともに出ていない超レアアイテムだ。

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2009年2月28日 (土)

いやはや何ともお宝

本年2月5日の記事「ホルンのエチュード」でブラームスが作ったトランペットまたはホルンのための教則本があると書いた。

何とその楽譜を見つけてしまった。3570円を即買いである。

先日出かけたNTCのトロンボーンアンサンブルに刺激されて次女のためにトロンボーンの手頃なピースが無いものかと楽譜ショップをうろついていた。チラリと「ブラームス」の文字が目に飛び込んできた。「さては」とばかりにすぐ脳内が酸っぱい液で満たされた。トロンボーンの棚の1つ上のそのあたりはトランペットの棚だったからだ。咳き込むようにほじくり出すとやっぱり例のあれだった。

マッコークルは何とも律儀で、「怪しげ」としているこの曲についてもちゃんと譜例を載せている。12のエチュード全てについて冒頭の譜面が引用されている。親切と言えば親切だが、この小出しは身体に悪いとかねがね思っていた。

が、とうとうその全貌を入手することが出来た。

英語で書かれた序文を読む限り、ブラームスの父の所属する楽団仲間のあまり上手とは言えないトランペット吹きのためにブラームスが書いたことになっている。この状況は1840年代後半の成立とするマッコークルの推定と矛盾しない。万が一真作ならU-17のブラームスによる作品で、op4のスケルツォを現存最古の真作とする立場にも影響があろう。

ダイナミクスやアーティキュレーションの用語もところどころにあるので、色めきだったがそれらは校訂者が後からつけたようだ。Max Zimolongというホルン奏者で、ベルリンフィルやドレスデン国立歌劇場管弦楽団での経歴があるらしい。マッコークルはあくまでも「怪しげ」という立場だが、楽譜の出版元はハンブルクのSikorski社だけにもしやという期待も膨らむ。

金管楽器の知識が無いので、どのような効果があるのか楽譜を見ただけでは判らないがお宝だ。

CDでもありはせぬかと思いは膨らむ。

2009年2月 5日 (木)

ホルンのエチュード

ブラームスはホルンのための練習曲を書いている。「トランペットまたはホルンのための12の練習曲」だ。もちろん作品番号は付与されていない。マッコークルでは「疑わしい作品」の中に収められている。推定作曲年代は1840年代末期だから、だいたい15歳から17歳までの作だ。一応ブラームスの自己申告によればホルンもそこそこ吹けたことになっているので辻褄的にはかろうじてつながっている。

広く知られている通り、ブラームスはピアノのための練習曲を書いている。こちらにも作品番号は無いけれど、れっきとしたブラームスの真作と認められている。ピアノは言うまでも無く、ブラームスの楽器である。創作の初期から晩年に至るまでピアノ作品は主要な位置を占めているばかりか、管弦楽や室内楽の彼自身によるピアノ曲への編曲は頻繁に見られる。何よりも彼自身が相当なピアノの腕前の持ち主だった。だから、ピアノの練習曲を書くことはとても自然でさえある。

ホルンやトランペットでは、とてもピアノまでの位置付けは望むべくもない。けれども特にホルンにおいては、この教則本をブラームス作曲に非ずとして一笑に付すには忍びない位置付けにある。

ホルン三重奏曲を取り出すまでも無い。管弦楽作品の中でホルンに与えられた役割は、しばしば全オーケストラに冠たる位置付けと断言し得る。だからブラームスならホルンのエチュードくらい書いているかもしれないと愛好家の好奇心をくすぐるのだ。この作品をブラームス作と主張する偽作者が存在するとしたら、そうした一点をおさえていると言う意味で巧妙といわねばなるまい。

ヴィオラのエチュードでも発見されないものか。

2008年4月 7日 (月)

Gesangbuch

ドイツ語で「賛美歌集」のこと。キリスト教のミサとは切ってもきれない間柄だ。おびただしい数の賛美歌が存在しそれが今もなお実用なのだ。バッハのカンタータやコラールの多くはこうした賛美歌が反映している。

このほど本場ならではのコラール集を発見した。バッハがカンタータで採用したコラールをアルファベット順にBWV番号とともに列挙し、それら一つ一つについて、賛美歌集中における番号と紐付けされている。「同テキスト異旋律」の所在についても厳密に網羅されているばかりか、カトリックとプロテスタントそれぞれについて、ドイツ版とスイス版についての所在が明示されている。もちろん表記は全てドイツ語だ。英語さえ現れない。4声体のコラールだけに対象を限定しているのもカッコいい。

さすが本場は違うと驚いていたが、その中にお宝があった。「O Welt, ich muss dich lassen」がひっそりと記載されている。BWV44のフィナーレの第7曲にあると書かれている。実際にBWV44のテキストを確認したところ全く別のテキストだった。おかしいと思って楽譜をあたって謎が解けた。BWV44のフィナーレは旋律だけが「O Welt, ich muss dich lassen」と同一だったのだ

「O Welt, ich muss dich lassen」は一般に「おおこの世よ。われ汝を去らねばならず」と訳される。お気づきの方も多いだろうが、これはブラームス最後の作品「オルガンのためのコラール前奏曲」op122の3番と11番と同じテキストということになる。私がお宝と申したのはこのことだ。

さらに作品122-2「最愛のイエスよ」も載っている。こちらは歌詞も旋律も一致する。

誰もが知っている賛美歌集から旋律を借用することには、積極的な意味があると思う。旋律を提示しただけで聴衆が勝手にテキストを想像してくれるのだ。楽譜にテキストが添付されていなくても旋律を聴くだけでみんな判るのだ。テキストのイメージから大きく逸脱した音楽を付与したら批判の対象になりかねないリスクもあるし、複数ある「同テキスト異旋律」から、どの旋律を採用するかについてはセンスも問われるかもしれないが、ブラームスに限れば無用の心配だろう。

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