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カテゴリー「794 書籍」の80件の記事

2021年8月27日 (金)

無理と知りつつ

ものすごい本を書いてシューベルトへの溢れる愛を隠そうとしないフィッシャーデュースカウ先生の演奏は、そりゃあもう素晴らしいのだが、我が家ではブラームスの歌曲だってCDで全て聴くことが出来る。そりゃ素晴らしい。先生のキャリアの中では要所にブラームスが出て来る。演奏の素晴らしさから逆算して、シューベルトで行ったような入念な準備があったに決まっている。シューベルトであれほどの準備をしておきながらブラームスの録音は行き当たりばったりでしたなどということはあり得まい。

となると、ブラームスについてだって相当な内容の本が書けたはずだ。フィッシャーディースカウ先生が録音したブラームス作品の解説とまで行かずとも、エッセイなら十分に書けたに違いない。既に存在していて和訳されていないだけということもあるのだろうか。私は見たことがない。

目から鱗が数十枚落ちたり、飛ぶ鳥が数十羽落ちたりするに違いない。

 

2021年8月11日 (水)

譜例無しという緊張感

今や必携のガイドブックと化した「シューベルトの歌曲をたどって」を読みふけっていて、呆然とした。全490ページの大著なのに、譜例が1か所も無い。ただの1か所もだ。著者フィッシャーディースカウ先生は、シューベルトの歌曲を作曲順にたどっては見せるのだが、論述作品の特定や、ディテイルの指摘にあたって譜例を頼っていないということだ。オリジナルがそうなっているのか、和訳本だけの特徴なのかわからぬのがもどかしい。本文中に譜例の参照をほのめかす記述はないからオリジナルにも譜例が無いと感じる。

同書が解説書でも入門書でもない証拠だ。愛好家に手取り足取りではない。自身がシューベルト全集を録音するにあたり、解釈の参考にと集めた情報の備忘的列挙が主眼なのだ。どの曲のどの場所の論述なのかは本人がわかっていれば事足りるとばかりに、譜例が姿を見せない。

音や、楽譜に頼らずにもっぱら文章と文脈だけで、シューベルトの生涯を網羅しようという決意が見え隠れする。もはや大歌手にして大文筆家だ。興味があるなら読者自ら楽譜なりCDなりを用意しなさいという静かな、しかし決然としたメッセージと見た。

かっこいいと思う。歳のせいだろうか。

2021年8月 9日 (月)

言及の範囲

フィッシャーディースカウ先生の大著「シューベルトの歌曲をたどって」を座右に旅を続けている。読み始めてまもなく、あることに気付かされた。シューベルトの生涯をリート作品で辿る旅と宣言している通り、その言及は厳しく歌曲に限られる。「ます」「死と乙女」「さすらい人」の話題になるとき、ごくごく控えめに室内楽やピアノ曲への言及がある他は、他のジャンルに対してストイックに沈黙する。

未完成交響曲だろうと、軍隊行進曲だろうと分け隔てなくスルーされる。ぼんやりと読み進めていると、シューベルトが歌曲だけを作っていたかの錯覚に陥る。

歌手であることの強烈な主張の裏返しだと拝察する。知らぬ者のいない大歌手でありながら、作曲家シューベルトや、テキストの供給者、あるいは伴奏者に対する謙虚な姿勢と相まって、その論旨に強烈な説得力を付加して止まない。

かっこいいと感じる。歳のせいだろうか。

 

 

 

2021年7月22日 (木)

ドイツ職人紀行

これまた素晴らしい本。

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さまざまなドイツの職人たちを切り口にしたエッセイ。歴史や地理に密接につながっている。地名、人名にも深く関係する。その49ページに「粉屋」が出て来る。粉屋は「ミューラー」でドイツではとてもメジャーな苗字。ほぼ集落に一軒ある水車小屋の主人である。水車小屋とはいっても石造のりっぱなつくりで必ずしも「小屋」というイメージとは一致しない。ジャガイモが台頭する以前のドイツの主食はやはり小麦で、これは粉ひきという工程抜きには語れないから、粉屋は最重要だという。運び込まれた小麦の倉庫もあり、防虫防鼠の備えもある。川の水利権まで持っていた街の名士だとされている。

一般的解説に続けてなんとシューベルトが取り上げられる。「水車小屋の娘」はその街きっての令嬢だとされている。歌曲集「美しき水車小屋の娘」では粉屋の修行でさすらう若者が修行先の娘に恋をするが、やがて自ら身を引く。どこの馬の骨かわからぬ風来坊がお嬢様に手を出すと、取り巻きから袋叩きにされるから、自ら去るのは賢明だと説く。

「フランダースの犬」の主人公ネロの憧れの相手は粉屋の一人娘アロアだった。同じ粉屋でもこちらは風車小屋の娘だ。

同じ粉屋でも、娘ではなくて女房というなら、ファリャ「三角帽子」に登場する。代官が見初めるというパターン。何かと人気者だ。

 

 

2021年7月17日 (土)

相乗効果

昨日の記事「シューベルトの歌曲を辿って 」で、大歌手ディートリヒ・フィッシャーディースカウ著の書物について述べた。グラムフォンへのシューベルト歌曲全集録音に先立つ作品解釈のために収集した楽譜や資料を分析した結果、1冊の本になったと彼自身が著作の中で述べている。そこでは録音が全歌曲作品でないことも律儀に言及する。いわく「テキストの内容から判断して男性に歌われない方がいい作品は対象から省いた」と。

先般の記事「探索の音源 」で紹介したシューベルト歌曲全集こそがまさにその果実だった。買い求めたのはドイツ版で日本語解説は無いのだが、こちらの書物を読めば演奏家本人の著述による解説が読めるということに他ならない。

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いやもう本当にすごい。大歌手でありながら、知識の裾野が広大で目がくらむ。何よりも何よりもシューベルトへの愛がこぼれるほどだ。作品の一般的は知名度は度外視して、純粋に彼の興味の厚みがそのまま著述の量につながっている感じがする。シューベルトへの傾倒を別として目立つのは、テキストの供給者に対する温かで深い視線だ。それが大文豪であろうと無名の青年であろうと変わらない。

巻末の人名索引にはブラームスも出て来る。これによれば全部で15回ブラームスへの言及がある。有名作曲家の中ではベートーヴェンに次ぐ頻度だ。

2021年7月16日 (金)

シューベルトの歌曲をたどって

素晴らしい書物のタイトル。オリジナルは「Auf den spuren der Schubert-Lieder」という。著者は不世出の大歌手ディートリヒ・フィッシャーディースカウ先生だ。1971年の出版で、全訳の出版は1976年。この度の歌曲特集を展開するために不可欠ということでネットで購入。

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2012年のフィッシャーディースカウ追悼の復刻版である。定価より高いというよくあるパターンだが背に腹は何とかで購入。

すごい本だ。買ってよかった。シューベルトの生涯を折々の歌曲作品で辿るという趣旨なのだが、学者然とした目線と大芸術家というスタンスが絶妙なバランスを見せる。ほぼ作曲順に作品をトレースするという縦糸に、テキストの作者という横糸を混ぜ、楽譜、手紙、批評、日記などの様々な資料に裏付けられた堂々たる学問書だ。

シューベルトの歌曲作品をブログ上で辿る際の優秀なガイドブックとしてこの先頻繁に引用することとする。

フィッシャーディースカウおそるべし。

2020年9月18日 (金)

基本はバッハ

1992年に音楽之友社から出された本。ハーバード・クプファーベルクというアメリカ人が著者で、その和訳だ。短いコラムの堆積でサクサク読める上に、最初から順番に読むとそれがバハの生い立ちのトレースにもなっている。切り口も語り口も斬新で、驚きのネタにあふれている。

著者の苗字の綴りは、Kupferbergだ。おそらくドイツ移民の子孫だ。ドイツ語だと解するなら「銅山」の意味である。古書店で購入したが1600円。もともと1400円なのに古書で値上がりしている。つまり引く手あまたということだ。読んでみてそれも納得だ。

 

 

2020年7月20日 (月)

新ドイツワイン

神保町の書店で見つけた本のタイトル。1983年の刊行ながら状態のいい美品が700円だった。世の中の辛口志向につられる前、甘口の白全盛のころのドイツワイン。時代遅れといえばその通りなのだが、補ってあまりある記述、読みやすさだ。

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ブドウ栽培への深い考察、貴腐菌やフィロキセラついての説明も群を抜いてわかりやすい。剪定、亜硫酸添加、エクスレ度、補糖など興味深い事柄が目白押し。ワイン法の解説などは、現行法との違いを覚悟すれば読み物として楽しめる。

世の中に流布するワイン関連本が、ドイツワインに割くスペースを思うと一冊丸ごとドイツワインという状態は本当に貴重だ。

 

 

2020年7月19日 (日)

100のトピック

原書房刊行の「100のトピックで知るドイツ歴史図鑑」という本を買った。グイドクノップという歴史学者が書いた本の翻訳版。原題は「Die Sternstunden der Deustchen」という。「ドイツの世紀の一瞬」くらいの意味。西暦800年から2007年までの出来事100件が収載されている。読み物として面白いのだが、その中に音楽系のトピックが4つある。

  1. 1734年12月25日 ライプチヒ。バッハ「クリスマスオラトリオ」初演。
  2. 1791年09月30日 ウィーン。モーツアルト「魔笛」初演。
  3. 1824年05月07日 ウィーン。ベートーヴェン「第九」初演。
  4. 1876年08月13日 バイロイト。ワーグナー「指環」初演。

興味深い。以下は突っ込みどころだ。

  • 「ドイツの歴史」という場合の「ドイツ」とはったい何だ。「ドイツ語圏」と言い換えないと上記の2番は矛盾をきたす。モーツアルトはザルツブルクの生まれでウィーンで没した。いわゆる小ドイツ主義的には具合が悪かろう。
  • そもそも「魔笛」と「第九」初演の地ウィーンはドイツではない。
  • ブラームスは入っていない。「ドイツレクイエム」や「第一交響曲」の初演はあえなく落選だ。

当然と言えば当然だが、「宗教改革」は筆頭格である。

 

 

2020年7月18日 (土)

ドイツ300諸侯

最近入手した本のタイトル。「江戸300藩」という趣向の書物は割と見かけるが、それのドイツ版となると珍しい。これが翻訳物ではなく、日本の研究家の書き下ろしであるから読みやすい。

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目から鱗の着眼と、難解な事象を一言で要約するシャープな頭脳と語彙に心から敬意を表する次第。

宗教改革のターニングポイント、ルターを庇護したフリードリヒ賢公について調べたくて探していて見つけた。

江戸幕府との比較が具体的で面白い。

 

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