コーヒースケールとは、コーヒーを淹れる際に豆の重量を量る道具だ。以前コーヒーにはまり出した頃、豆の重量を正確に計りたくて購入したスケールが出てきた。最近では、もっぱら目分量でサクサク淹れてしまうのでスケールなんぞ忘れていたということだ。100g未満は小数点以下第一位まで表示される。
ひょっとして、弓の重さも正確に測れるということだ。
弓の先端が畳に付かぬよう気をつけて計る。これのせる場所によって重さが微妙に変わるが、まあ71.6gだ。一般的な議論として、「弓の重さ」という場合、毛の重さは入っているのかいないのか知識がないけれど、毛も入れてこの重さということになる。
体重計や食品用の秤では役に立たなかった。コーヒースケールは使える。
15年ぶりに取り出した楽器を昨年9月8日に、メンテナンスに出した。かれこれ早いもので1年たったので、またメンテに出した。9月30日に預けて1日に完成。
6月に更新した弓の点検と弦交換がメイン。A線のみ昨年11月で他は9月だったからちょうどいい。
少なからぬ問題は弦。結論から申すとこのたびWarchalに代えてみた。A線のラーセンが少々高いのでなどなど言い訳はあるが、悩んだ末にの結論。まだ3日しか弾けていないので結論は持ち越し。
新たに買い求めた弓のおかげで、前の弓はスペアに回った。たまに取り出して弾いている。
C線をガンガン鳴らすという意味ならこちらの弓が適任なのかもしれない。同じ力加減で弾いた場合、新しい弓だと音量が落ちる。無理に力を入れて鳴らそうとすると弓がそれを拒否するような感じがする。
「楽器の鳴り」とは何なのか?
「mf」「f」「ff」という具合にダイナミクスを上げてゆくことが鳴りなのか?
ことバッハに限ってみると、「f」などのダイナミクス記号はあまり出てこない。バッハ限定でこの先弾いてゆくなら、「f」のカ所で気合いを入れるという切り口では、空回りする。
鳴りはフォルテではない。
気がし始めている。
5月に弓の損傷が発覚。あれこれ悩んで40日後6月16日に新しい弓を購入した。
年金生活1年目の家計をやけに圧迫する価格。あれから3ヶ月だ。購入から3日間、かなり弾きまくったせいか、左手に異常を感じて自ら練習時間をセーブして今日まできた。
まずは、すっかり慣れた。元の弓の感触を忘れるくらい。
巨大ヴィオラでC線を鳴らす夢から覚めて、全体のバランスに気をつけるようになった。C線は優しく鳴ってくれる。バロメーターはむしろA線にある。A線の高いポジションの音の収り。高いと申しても3ポジ止まりで充分。
バッハのアリオーソを優しく鳴らすのが日課。フォルテなんて要らん感じ。
ご機嫌で入手したインターナショナル社の楽譜。ヴァイオリンソナタのヴィオラ版だ。これをヴィオラで弾けないものかと思い詰めてネット上で発見した。
そもそもバッハのヴァイオリンソナタではこの4番が大好きだ。解説の文書には大抵妻との死別ネタとからんで説明されている。解説書の手前、言及は避けて通れないのかもしれないが、私は参考程度だ。
この曲ハ短調が抱える情感には心から賛同する。敬意も払う。つまり大好きだが、バッハほどの作曲家が家族の不幸と作品を簡単に結びつけるだろうか。「愛する妻の急死だからハ短調」などとするのだろうか。やるならむしろゴールドベルク変奏曲のアリアのような静かな長調の方がぐっとくる。
思えば昨年の今頃だ。会社生活最後の夏休みを12連休として優雅に休暇を楽しんだ。
自分に課したのが「一人夏合宿」だ。12日間毎日最低2時間の練習を義務づけた。触れる日には4時間ということもあった。年末に迫った職場オケ初コンサートへの準備の一環であった。ヴィオラ奏者が思うように集まらぬというありがちな状況に備えて、自分に気合いを入れた。
もちろん初コンサートの演目をきっちり練習したのだが、そこから派生したのがバッハであった。
ワーグナーやシベリウス、あるいはチャイコフスキーを練習しても面白くなかったので、合宿の途中からバッハの無伴奏チェロ組曲のヴィオラ版とガンバソナタをさらい始めた。
バッハは面白かった。弾けもせんくせに面白い。延々さらっていられた。大嫌いだったメトロノームも大好きになった。
夏合宿が終わるころ、むくむくと脳内に妄想が浮かんだ。退職後の趣味を「ヴィオラでバッハ」にしようと。
楽器演奏はメンタルも加わった身体機能の総動員と半ば結論つけている。
だからと言うわけでは無いが、左手の不安に対処するため、練習の前には塗香を使う。
この容器から、課題の多い左手に少々落として、すり込む。指の張りや関節の不調はもちろんだが、音程が言うことを聞かぬのもここに入る。
両手ですりすりする。塗香とは香原料を調合したもの。線香と違って火を用いない。厳密な意味で楽器への影響をわかりきってもいないが、合成香料無しの天然原料だけなので、そうそう悪さをするものでもあるまい。楽器を取り出して練習する際には必ずこれを行う。1日1回でもない。休憩明けにも塗るから1日3回ということもある。深くてほのかな香り。
気分転換が最大の目的。指とメンタルのケア。
加えてだ。練習室にお香を焚く。実はこれも天然原料だけのものを選ぶ。お値段が張るので半分に折って使っている。
少々暑くても必ず焚いて邪気を払う。
クラシック音楽とお香なんぞ、一見なんのつながりもない。が、この先ヴィオラを生涯の友として弾き続けるためなら、どんなこじつけもいとわない。
つまりメンタル。
私にとっての弦楽器演奏のことだ。
ヴィオラを練習していてつくづく思う。さらに意図的に1週間練習を停止していっそう感じる。
右手と左手の高度なアンサンブルだ。利き腕の右手はもっとも繊細なボウイングを任される。左手は利き腕ではないのに細かなフィンガリングを司る。一見大違いな両手の動作が協力することで演奏が成り立つ。こうした協働は、脳の老化防止に役立つと信じる立場だ。
加えて、目である。両手の協働は楽譜に接する目からの情報によって維持される。仮にオケなら指揮者やコンマスを見るのも目である。目からの情報は同じなのにそれを受けた右手と左手ではまるで違うアクションになる。それでいてその両手が目指すのは統一のアンサンブルだ。これだけで両手と目のトリオが成立するのだが、実は耳もあるとにらんでいる。アンサンブルだと周囲の音を聴く重要性は飛躍的に高まる。いやいや、実は自分が出している音こそよく聞かねばならぬ。もし練習にメトロノームを鳴らすなら、耳はそのビートを聴いている。
両手目耳の四重奏だ。両手に加えて目や耳も健全であることが前提。そしてそしてこれらを統御するものこそ、メンタル。
楽器の演奏はこれらの総動員。だから五重奏。
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