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カテゴリー「801 執筆の方針」の20件の記事

2022年3月31日 (木)

二の矢

2本目に射る矢のこと。「次の一手」の意味でも用いられる。次に打つ手が無いことを「二の矢が継げない」という。逆に次々と手が打たれれば「矢継ぎ早」と称される。

書籍「ブラームスの辞書」は、ブラームスが楽譜上に記した音楽用語を抜き出してアルファベット順に並べた代物だ。各々の語句には以下の要領でコメントが付与される。

  1. 一般的な意味
  2. ブラームスの作品で登場する場所
  3. 著者のコメント

このうちの1番「一般的な意味」は、通常の音楽用語辞典に掲載されているような内容だ。「Adagio」だったら「ゆっくりと」と書いてある。この部分の記述だけなら何も目新しくはない。世の中に広く流布する音楽用語辞典と何ら変わる物ではない。ブラームス作品の演奏に挑もうとする人々が、楽譜上の用語の意味を調べる。一般的な意味であればただちにたぐり寄せることが出来る。我が「ブラームスの辞書」の出番はそこからだ。一般的な意味にたどり着いてなお残ってしまう疑問を解くために書いた。

  1. スフォルツァンドとリンフォルツァンドの区別
  2. 「a tempo」と「in tempo」の区別
  3. 「Adagio」と「Lento」の区別

上記の語句個別であればいずれも一般的な意味を探すのにさしたる苦労はない。けれどもそれらの違いについて明確に言及されている例は希だ。「ブラームスの辞書」にはブラームスの使用実態からそれらの違いに迫ろうという意図がある。使用実態の分析から、よりアクティブにブラームスの真意に迫ろうという魂胆だ。

「ブラームスの辞書」は一般的な辞書でたどり着いた後に、なお残る疑問のためにある。つまりは「疑問の二の矢対策」だ。

 

 

2015年3月 6日 (金)

構想の原点

ブログ「ブラームスの辞書」がまもなく開設10周年を迎える。そして書籍「ブラームスの辞書」も刊行10周年を迎える。ブログ開設当初は、書籍「ブラームスの辞書」執筆の動機にさかんに触れたが、最近はずっとそのことには言及していない。10周年を機に再度執筆のアイデアについて言及する。

世の中に音楽辞典は多い。概ね以下に分類できそうだ。

  1. 音楽用語辞典 楽譜上に現れる用語の意味を記す。
  2. 作品辞典 古今の音楽作品を網羅する。
  3. 人名事典 作曲家と演奏家に分かれる。

私だって愛好家の端くれとしてこれらを座右においている。

「ブラームスの辞書」は強いて申せば上記1音楽用語辞典の変形だ。収載の用語がブラームスの作品上に現れるものに限っている。「ブラームス専用」であることに意義がある。ありふれた音楽用語でも作曲家によって使い方が違うということが前提になっている。ブラームス自身が多彩な使い回しを得意としたから、それらの秘密に迫りたいと欲したところが、発想の原点になっている。

およそブラームス作品である限りメジャーな作品もマイナーな作品も同等の重みで扱うという方針を掲げた。収載の対象を「作品番号のある作品」に限ったことで自己矛盾を引き起こしていることは既に明らかだが、旗揚げ時は意気揚々としていた。

作曲家別音楽用語辞典という発想は既存の出版物を見る限り、ありふれた発想ではなさそうだ。特定の作曲家に絞ることでニーズ自体は極端に狭くなるから、商売にはなじみにくそうだが、趣味としてなら成り立つ。

2007年7月30日 (月)

差別化

他との違いをアピールすること。マーケティング上有効とされている。これには2つの系統があるらしい。一つは「この商品には他にない有効性がありますよ」ということ。「機能が良い」「機能が多い」「価格が安い」「価格が高い」などなど正攻法という意味ではマーケティングの基本中の基本だ。現実には、「実際には際立った有効性など無いのにあると思わせる」という一段高度な技術も存在する。ブランドイメージ、CMに起用するタレントなど、あの手この手の組み合わせによって差別化が図られている。

消費者に対して「あなただけよ」と思わせる手法も別の意味で「差別化」と称される。大量生産大量販売の商品では実現しにくいとも思われるが、購買心理への効果という意味では侮れない。

ブログ「ブラームスの辞書」や書籍「ブラームスの辞書」にも小さな差別化が試みられている。以下の3つの項目が極端に少ないことだ。

  1. 作品解説
  2. コンサートレビュウ
  3. おすすめCD

逆に言うと世の中のサイトや書物にはこれらの項目が数多く含まれている。私のような後発者としては、そうした激戦区は避けるのが賢明だという訳である。問題はこれらの項目を避けて、なおかつボリュームある本になるかという点だ。著書「ブラームスの辞書」はA5判400ページ、約36万字の本だ。予算の関係で書きたい記事を削りに削った上に譜例も泣く泣く最小限に止めた。いわゆる「市場の隙間」あるいは「市場の空白」を狙ったつもりである。

もう片方の「あなただけよ」型の差別化も試みている。少部数の自費出版本だけに、こちらのほうが大切だ。本一冊毎に通し番号を付与した。作品番号の持つイメージを利用するという差別化だ。どの番号かにこだわる向きには効果的だ。

ブログ「ブラームスの辞書」も著書と同様のことが言える。「作品解説」「コンサートレビュウ」「お薦めCD」の情報を求めてたどりついた人たちをがっかりさせていることは間違いない。

世の中差別化を狙うあまり、単なる珍商品に堕してしまうケースも少なくないという。ヒット商品との紙一重の差は大きくて重い。

2007年7月 7日 (土)

用例

「ブラームスの辞書」においては、それぞれの単語または語句が使われている場所を示す際に「用例を列挙する」と表現している。1箇所しか存在しない場合は「用例を列挙する」という表現は省略されているが「用例を列挙すること」自体は「ブラームスの辞書」の肝である。

用例の厚み自体が重要な情報である。見出し語に用例が100箇所以内の場合は、その全てを列挙している。100箇所を越える場合は、全てのケースを列挙することを諦め、曲の冒頭に存在するケースだけを記している。その他、特段に興味深い例についてコメントを加えている。

ブラームスは、自らの音楽を弾き手に伝えるために楽譜を書いた。音符(休符を含む)、楽語、記号は全てその目的に照らして適切な場所に設置されているハズである。音符や記号と違って、楽語は文字である。天才のひらめきの中では比較的取っつきやすい。見出し語がどこで使われているかは、楽語分析のための基本中の基本だ。複数の用例が存在すれば使用された時期、頻度、曲種、調性、拍子に何らかの傾向があるかどうかを見極めることはとても大切だと考えた。生涯一度きりの使用だとしてもそれ自体がヒントになる。

何度でも言う。用例の列挙は「ブラームスの辞書」の肝である。

2007年5月 7日 (月)

補遺ドイツ語編

「補遺」

辞書には「漏らし残した事柄を後から補うこと」とある。後から補うようなことが無いように、最初から準備を怠ってはならぬのだが、やむを得ぬ事情でそうする場合がある。恥ずかしながら「ブラームスの辞書」にも大挙して発生してしまった。

連休前に宣言した通り、ドイツ民謡やハンガリー舞曲をブラダスに取り込んだ。結果「ブラームスの辞書」に収録されていない楽語が約40種あることがわかった。「ブラームスの辞書」は作品番号付きの作品を対象としていたことが大きな原因だ。「ブラームスの辞書」総見出し数の約3%に相当する。

ハンガリア舞曲は18番冒頭の「Molto Vivace」だけだが、ドイツ民謡は目を覆うばかりである。総量を400ページに収めるためとはいえ、作品番号付きの作品だけに対象を絞ったところが既に誤りである。「民謡なめてンじゃないですよ」とブラームスに言われそうである。罪滅ぼしにその全てを以下に列挙する。赤文字はおおよその意味を示し、所在する作品を緑文字で書き添えた。

  1. Anmutig 優雅な WoO33-3
  2. Anmutig bewegt 優雅に動いて WoO33-16
  3. Bewegt und mit herzlechem Ausdruck 生き生きと心からの表情とともに WoO33-18 
  4. Bewegt und mit starker Empfindung 生き生きと力強い気分で WoO32-16、WoO33-17
  5. Bewegt und zehr warm 生き生きと、非常に暖かく WoO33-19
  6. Drangend,doch nicht zu schnell 切迫して、しかし速過ぎずに WoO33-4、WoO33-26
  7. Frisch und frohlich いきいきと楽しげに WoO33-32
  8. Gehalten und empfundungsvoll 音を保って感情豊かに WoO33-05
  9. Gehalten und dem Gedicht angemessen erzahlend 詩を語るように WoO33-21、WoO32-23
  10. Gehend und mit herzlichem Ausdruck 程よくゆっくりと心をこめて WoO33-35
  11. Gehend und mit lebhaftem Ausdruck 程よくゆっくりといきいきとした表情で WoO33-39
  12. Heimlich und in ruhigem Zeitmass 密やかに、落ち着いたテンポで WoO32-06
  13. Heimlich und in ruhiger Zeitmass 密やかに、落ち着いたテンポで  WoO33-23
  14. Heimlich und zierlich bewegt 密やかに愛らしく動いて WoO33-12、WoO33-19
  15. Hell und feurig 明るく、情熱的に WoO32-12
  16. Hell und lebhaft 明るくいきいきと WoO33-20
  17. Herzlich und warm erzahlend 心を込めて、暖かく語りかけるように WoO33-09
  18. Im ruhigen Zeitmass und teilnehmend erzahlt 穏やかなテンポで、思いやりをもって WoO33-7、WoO32-10
  19. Im ruhiger Bewegung 穏やかなテンポで WoO33-10、WoO32-24 
  20. In sanfter Bewegung,nicht zu langsam くつろいだテンポで遅すぎずに WoO32-2
  21. Kraftig und ziemlich lebhaft 力強く、非常にいきいきと WoO33-37
  22. Lebhaft und hell いきいきと明るく WoO33-22
  23. Lebhaft und herzlich いきいきと心をこめて WoO33-30
  24. Lebhaft und mit laune いきいきと陽気に WoO32-20、WoO33-33
  25. Lebhaft und mit warmen Ausdruck いきいきと暖かな表情で WoO33-26
  26. Lebhaft und schauerlich きびきびと恐ろしげに WoO33-28、WoO32-28
  27. Lebhaft,doch nicht zu rasch いきいきとしかし速過ぎずに WoO33-36
  28. Lebhaft,doch zart いきいきとしかし優しく WoO33-11
  29. Massig bewegt und ausdrucksvoll 適度なテンポで表情豊かに WoO33-24
  30. Mit guter laune 上機嫌で WoO33-8
  31. Mit krafter Leidenschaft 力強く情熱的に WoO33-13
  32. Nicht zu langsam und mit inniger Teilnahme 遅すぎずに、心からの思いやりをもって WoO33-15
  33. Nicht zu langsam,erregt 遅すぎずに、興奮して WoO33-38
  34. Ruhig und erzahlendem Ton  穏やかに語るような調子で WoO33-29、WoO32-5  
  35. Ruhig und erzalichend  穏やかに語るように WoO33-14、WoO33-22
  36. Sehr lebhaft,herzlich und ungeduldig 非常にいきいきと、切迫して WoO33-25
  37. Unruhig bewegt und heimlich 落ち着き無く動いて密やかに WoO33-40
  38. Zart und ausdrucksvoll 優しく表情豊かに WoO33-41
  39. Zartlich und lebhaft 優しくいきいきと WoO33-1
  40. Zierlich und lebhaft 愛らしくいきいきと WoO32-13、WoO33-31

ブラームス先生へのお詫び満載の誕生日プレゼントだ。

174回目の誕生日おめでとう。

2007年5月 4日 (金)

譜読み

作品演奏の準備の諸段階のうちの一つと位置付け得る。楽譜を楽音に転写する際の自分なりの方針を楽譜を追いながら確認し定着して行く作業。多くは個人練習の中で行われる。「譜読みが速い」「譜読みが甘い」「譜読みが得意」などという使われ方をする。暗譜に到達する長い道のりの第一歩である。演奏家本人の音楽体験を総動員して行われるべきだと考えている。

弦楽器奏者で言うなら、音の高さの確認、ポジション、フィンガリング、弓の返し、弓の使い場所、弓の使う量、音色、アーティキュレーション、テンポ感などを確定させておくことを意味する。ピアニストならばペダリング、声楽家ならばブレスや歌詞の理解は、はずせぬところだろう。当然のことながら楽譜上の音楽用語全ての意味を知っておくことまでもが譜読みの中に含まれる。演奏上の難所や、聴かせどころをあらかじめ把握しておくという側面も小さくない。作曲家が楽譜上に置いた音楽用語の多くは、この譜読みの作業の際にもっとも意味を持つと感じている。

ブラームスの作品において、この譜読みは際限がない。演奏することと同等の喜びを譜読みが与えてくれる。

実を言うと私の著書「ブラームスの辞書」は、演奏者にとっての「譜読みの友」になることを夢見て執筆したと申し上げても過言ではない。

最悪音を出さずとも出来てしまうところが「譜読み」の長所だ。夜中でも家族や近所に迷惑がかからない。音さえ出さねばこっちのものだ。音程不安や、指回し不安もどこ吹く風である。せめて譜読みくらいは世界一を目指したいものだ。

2007年4月24日 (火)

著者冥利

学生オケ同期でプロのオーボエ奏者をしている男に「ブラームスの辞書」を進呈したと書いた。

http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2007/03/post_1fbe.html

彼の運営するブログに「ブラームスの辞書」のことが書かれている。それを読んだ昔の仲間2人が「ブラームスの辞書」を注文してくれた。そのうちの一人は三味線弾きのクラリネット奏者だった。

もう一人はファゴット奏者。アマチュアオケで活躍中だ。彼はブログを運営しているのだが、その中で「ブラームスの辞書」を紹介してくれた。

http://fgh41inaka.at.webry.info/200704/article_14.html

見ての通りだ。第三交響曲に挑むファゴット奏者が、「sotto voce」と「mezza voce」の違いを知りたくて我が「ブラームスの辞書」を引いてくれているのだ。このマニアックでオタッキーなシチュエーションは著者冥利に尽きる。「ブラームスの辞書」では残念なことに「sotto voce」と「mezza voce」の両者の違いについて決定的な見解を述べるに至っていない。しかしこれは氷山の一角だ。どの道決定的なことはブラームスに訊くほかはないことばかりなのだ。それでも、微妙な言い回しの違いに着目し、それを知りたいと願う演奏家がいることが嬉しい。考えたところで吹き分けられるかどうか怪しいと正直な告白もセットだ。吹き分けられなかったり、聞き分けられないことなのに考えることを止めないということなのだ。「ブラームスの辞書」を書いた甲斐がある。 

じわじわと広がるとはこういうことなのだろう。感謝をこめてリンクを貼らせていただいた。

2007年4月11日 (水)

いつか来た道

3月29日の記事「事故調査委員会」で、昔の仲間と一献傾けたと書いた。

http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2007/03/post_8fe2.html

プロのオーボエ奏者と親しく音楽論を語らった。かれこれ4時間ほど時のたつのを忘れて盛り上がった。私の本やブログについても貴重な意見が出た。メンバーのうちの紅一点はこれまた私と同期のヴィオラ弾きで、れっきとした物書きだ。二人とも私の本やブログを誉めてくれるというスタンスは共通しているが、そこそこアルコールが回った頃になって、彼女が面白いことを言い出した。

「現代のブラームスマニア(私のことか?)が、文明の利器パソコンを駆使して、楽譜上の用語を集計分析してやっと把握出来るような傾向を、はたしてブラームスは弾き手に伝えようとしていたのだろうか」という問いである。「もっと噛み砕いて判り易く記して貰わないと伝わらないンじゃあないの」「ブラームスの辞書を誰もが参照する訳じゃないンだから」と続く。断っておくが、私の本やブログへの揚げ足取りではない。愛ある問いかけである。この発言をきっかけに宴会は終盤にもつれこんだ。いい歳をした大人が居酒屋で激論を交わした。

私にとってこの問いはいつか来た道だった。執筆の途中から自問していた。この問いに対して自分なりの答えに到達したから本が書けたと言っていい。

一握りの天才打者たちは自分の打席を全て覚えているという。インタビューではしばしば、「何月何日の第4打席の3球目のファウルの時の打ち方」がみたいな受け答えをしている。天才作曲家が過去の自作について隅々まで記憶していたとしてもさほど驚くには当るまい。元々先に頭の中で完成させておいた作品を後から楽譜にダウンロードしただけであるようなエピソードは珍しいものではない。実質脳内エクセル状態だろう。自作への音楽用語の配置には、それらを総動員していたに違いない。それが全ての弾き手に完全に伝わるかどうかとは別の次元の話である。

万が一ブラームスがそれらのことに完全に無頓着だったとする。それでも楽譜への音楽用語の配置は、楽想を弾き手に伝えたいという意思の表れであることは動くまい。無意識のうちに適切な楽語を選んでいたはずである。それらを集計分析することで、ブラームスの無意識下の性格を類推することだけは出来るはずだ。最悪それでも構わない。ブラームスの無意識になら振り回されてみるのも悪くないと開き直ったことが、執筆の動機になっている。

ありがたい話だ。あの宴席一回にブログ記事のヒントがどれほど詰まっているか計り知れない。もっともっと話がしたい。

2006年8月 7日 (月)

楽器名ランキング

まずは黙って以下のランキングをご覧頂きたい。

  1. ピアノ 2510
  2. ヴァイオリン 1056
  3. チェロ 610 
  4. ヴィオラ 596
  5. ホルン 303
  6. クラリネット 208
  7. ファゴット 144
  8. フルート 104
  9. オーボエ 97
  10. コントラバス 76
  11. ティンパニ 45
  12. トロンボーン 33
  13. トランペット 28
  14. ハープ 19
  15. コントラファゴット 16
  16. ピッコロ 10
  17. オルガン 
  18. チューバ 

何の順位だかお判りいただけるだろうか?正解は私の著書「ブラームスの辞書」全400ページの中で言及される回数のランキングである。「ブラームスの辞書」の中で楽器名がいっぱい出てくるが、それをWordの検索機能を使って頻度を調査した結果である。

そのつもりでもう一度見ていただくと、これがなかなか面白いデータだと判る。

「ブラームスの辞書」の構成は、ブラームスが楽譜上に記した音楽用語を抽出し、それらがどのような作品のどこの場所のどのパートに現われているかのリストが売りの一つになっている。木管楽器全部に付与される場合には「木管楽器」と記載される。弦楽器も同様だ。そして列挙されたケースのうち私の目から見て興味深い場所を取り上げてコメントを施している。

ブラームスが手厚く用いた楽器ほど「ブラームスの辞書」上に頻度高く現れることになる。さらに著者の私自身が面白いと思えば引用される回数が増える。私は弾いていて聴いていておいしいところを積極的に引用したから、おいしい出番が多くあてがわれている楽器名ほど出現頻度が増す。総合的に申せば、ブラームスの楽器の好みに、私自身の好みがブレンドされた頻度になっているハズである。 

断トツで第1位のピアノ、第2位のヴァイオリンは順当なところだ。声楽に室内楽に独奏に、はたまた2曲の協奏曲まで存在するピアノは、ブラームス自身の愛奏の楽器だけあって他の追随を許さぬ地位になる。何のかんの言ってもヴァイオリンだって相当なものだ。協奏曲には2度ありつけるし、出番に恵まれないのはチェロソナタとクラリネットソナタ、それから管弦楽のためのセレナーデの2番だけだ。第3位のチェロだってそうだろう。おそらく3位までのこの並びは予想通りだ。

第3位のチェロと僅かの差で第4位がヴィオラになったことには驚いている。著者の私が「ブラームスの辞書」の中であと15回余計にヴィオラという単語を使っていれば、チェロを逆転していたことになる。クラリネットソナタを全てヴィオラソナタと表現していることも貢献しているだろう。私のヴィオラ贔屓の賜物だが、そこにはブラームス本人のヴィオラ贔屓も関係していると思いたい。

管楽器に目を移そう。何と管楽器のトップ、総合でもヴィオラに続く第5位はホルンだ。ヴィオラが第4位になったことと同様に、ブラームスの気質・志向が「ブラームスの辞書」に反映しているような感じがしてとても嬉しい。そして第6位はクラリネットだ。おそらくクラリネットソナタという単語を全部ヴィオラソナタに置き換えるという特別措置が無かったら、ホルンを抜いていたことだろう。

ある意味でもっともブラームスっぽい現象は第7位のファゴットだ。フルートやオーボエを押さえてのこの位置は何やら象徴的である。

「ブラームスの辞書」の出版後に調査をしたこの結果には意味がある。執筆中はブラームスの魅力をただ表現したいだけで必死だった。楽器名の引用頻度など全く気にしないで書いた結果がこの通りであることは、かえって客観性を増していると思う。

多くの歌曲は声種を限定していないため、ソプラノ、アルト等の声種では同様な結果は得られない。また「op1」「op2」「op3-1」のように検索すれば作品別のランキングも出来そうだが、これには重大な欠陥がある。たとえば「op1」と検索すると「op11」も「op12」も「op100」もヒットしてしまうのだ。だから作品ランキングは今のところスッパリ諦めている。

この暑い中、おバカな企画が止まらない。

2006年7月31日 (月)

辞書の形態を借りたエッセイ

「ブラームスの辞書」執筆の上での基本的なコンセプトの一つに「辞書の形態を借りたエッセイ」がある。ブラームスが楽譜上に記した音楽用語全てをアルファベット順に列挙する以上、結果としてそれは一般の音楽辞典と同じ体裁にならざるを得ない。「a tempo」から「ziemlich langsam,gehend」まで約1170項目が整然と並ぶ。

一般の辞書との最大の違いは、単なる事実の羅列になっていない点である。辞書的な切り口の後には、自分の意見を容赦なく書き加えている。さらに当該用語の出現する場所の特定に力を注いでいるのも、売りの一つである。各項目の記述は①語句の意味②出現の場所③考察と提案という枠組みになっている。一番いいたいことは③なのだが、実は②の出現場所だって相当にレアな情報になっている。

辞書と同じ使い方をしても何等支障は生じないのだが、「辞書の形態を借りたエッセイ」というコンセプトを逆読みすると、エッセイとして冒頭から順に読み進めて欲しいというのが、著者としてのささやかな希望でもあるのだ。執筆は冒頭からアルファベット順に進められたので、その順番で読むことによって浮かび上がる論旨も少なからず隠されている。

しからば問う。何故わざわざ辞書の形態を借りねばならないのか。これは至高の問いである。辞書の形態を借りないということは、世の中に数多流布する通常のエッセイを書くことに他ならない。ド素人のエッセイがそんな中に打って出たところで埋もれるのが関の山である。形式に制約の無いただのエッセイということになると、著者の筆力こそが問われてしまうのだ。それは決定的に不都合だ。辞書の形態を採用すれば、筆力不足をごまかす箇条書きも不自然ではなくなる。

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ブラームスの辞書写真集

  • Img_0012
    はじめての自費出版作品「ブラームスの辞書」の姿を公開します。 カバーも表紙もブラウン基調にしました。 A5判、上製本、400ページの厚みをご覧ください。
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