涙を呑んだもの
自費出版においてネックになるのは、多くの場合ご予算である。マイカーよりは安い出費とはいえ、なかなか思うようにならない。大抵は「やりたいこと」と「限られた予算」の綱引きがある。「やりたいこと」に優先順位をつけて、予算との折り合いをつけるのだ。
「ブラームスの辞書」とてその例外ではなかった。予算のかねあいでいくつか諦めたこともある。ハードカバーにこだわったためにページ数を400ページまで切り詰めることにしたというのが一番大きい。原稿の段階では、そういうことは気にせずに、全部を盛り込んでから完成後にカットをした。カットの憂き目にあったのは「譜例」「拍子ネタ」「調性ネタ」だった。
見出し項目数約1170の辞書だから、各項目に1箇所ずつ譜例を入れても千箇所を軽く超える譜例が必要になる。ましてや見出し一箇所について譜例は一箇所で収まるわけがないのだ。入れたいだけ譜例を入れていたら1000ページにだって届きかねないのだ。だからキッパリ譜例は諦めた。
それでもまだ多い。「拍子ネタ」とはブラームスの作品における拍子に関連するお話だ。思い切ってこれもカットした。20ページ分くらいになったと思う。これはあまり苦痛を伴うことは無かった。大変だったのは「調性ネタ」だ。ブラームスの調の扱いは微妙で書きたいことはいくらでもあった。しかし、調はなかなか微妙でブラダスを駆使した統計には、なじみにくい面もあった。1箇所2箇所という具合に数えにくいのだ。断言が難しいケースが多い。これは涙を呑んでというよりも次回の楽しみ的にカットした。
カットの結果、372ページくらいになった。400ページまでまだ余裕が出来た。この28ページ分に譜例を復活させることにした。どの部分の譜例を載せるのかが悩ましくも楽しい作業になったが、結果として173箇所の譜例を復活させることが出来た。通常の音楽書の常識からすれば、はるかに少ないが、バッサリ切られた部分の無念を晴らす意味でも気合を入れて切り貼りした。この173は偶然だ。今年のブラームス生誕173周年に引っ掛けたわけではない。
だから「ブラームスの辞書」はきっちり400ページになっている。
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