運を使う
9月20日の記事「風の景」で紹介した石川勝一先生の版画展に行って来た。
こじんまりとした画廊一杯に石川ワールドが広がっていた。
自費出版で満足が得られるかどうかの鍵は出版社選びが握っていると断言してよいと思っている。著書が満足なら、売れる売れないは二の次なのが自費出版だ。そういう意味で私が今「ブラームスの辞書」の出版に満足していることの最大の要因は、よい出版社にめぐり合ったことだと思っている。
インターネットで「自費出版」をキーワードに検索すると数万件がヒットする。出版社の情報ばかりではないから、地道に情報を取捨して数件の出版社とコンタクトしたが、ほとんどみな「原稿出来たらね」という反応だった。石川書房さんはそんな中で出会った。何より我が家から自転車で行ける距離だ。さっそくファミレスで落ち合って「ブラームスの辞書」の構想を聞いていただいた。まだブラダス入力が半分にも届かない頃だ。そしてその約1ヶ月後に「ブラームスの辞書」のカバーデザイン案を送っていただいたことで、事実上出版社が決定したと申して良い。ブラダス入力に悪戦苦闘していた頃、どれほど力づけられたか計り知れない。
自費出版を手がける出版社といっても系統は様々だ。自費出版は様々なアクションの集合体だから、出版社毎に得意な領域が変わるのだ。私が選んだ石川書房さんの得意分野は「装丁」だったのだ。「装丁」とは本の見てくれを整えて思わず手に取りたくなるようなデザインを考えることだという。本の内容はもちろん著者のキャラまでをも吸収し、最適な形態を与えるのが「装丁」の仕事だとも聞く。ましてや社長ご自身が最先端のハイテクを縦横に駆使する版画家なのだ。恐ろしいと言うか、のんきと言うか、先生や石川書房さんに関するこれらの情報を、私は後から知ったのだ。「運を使う」とはこのことだ。運を使ったのでなければ、きっとブラームスのお導きだ。
「ブラームスの辞書」の装丁をはじめてご提案いただいたとき、基調となるカラーがブラウンだった。カバーはもちろんカバーの内側もブラウン、本扉の自筆譜もブラウンだ。これには心底驚いた。私の好みの色がブラウンだと判ったのだろうか。私が心の中で抱くブラームスのイメージカラーがブラウンだと感じられたのだろうか。直接お会いした機会はうんと限られているのに何故私の「ブラウンラブ」を感じて下さったのか、不思議だった。
会場に飾られた37の作品たちを見て少しだけその謎が解けた気がする。どの作品も中間色が豊かに盛られている。時折置かれる原色でさえ微妙な色調の変化が施されている。石川先生が色彩や光に関する繊細な感性の持ち主だと素人の私でもわかる。私の「ブラウンラブ」を見抜くなどきっと朝飯前なのだ。
版画展「風の景」はまだあと4日続く。運を使いにおいでください。
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