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カテゴリー「055 令和百人一首」の72件の記事

2020年4月 7日 (火)

令和百人一首49

【097】森鴎外

 大君の任のまにまに薬箱持たぬ薬師となりて我行く

【098】与謝野晶子

 戦いは見じと目閉ずる白塔に西日しぐれぬ人死ぬ夕べ

【コメント】いよいよ明治時代に入る。大文豪にして帝国陸軍軍医総監。史上最年少で現在の東大医学部に入学。入隊後4年のドイツ留学を経て、「舞姫」でデビュー。和歌も多数残している。本作は日露戦争に軍医として出征する際の歌。第二句「任」は「まけ」と読む。「明治天皇の勅命で軍医として赴くけれど薬箱は持たないよ」と独特のユーモラスな語り口。源実朝、伊能忠敬とともに私の歴史上の大好き人物ベスト3を形成する。一方の与謝野晶子。旧姓は鳳、与謝野鉄幹と結婚。短歌、反戦詩、源氏物語翻訳など多岐にわたる。「令和百人一首」中明治以降の生まれは、彼女と私だけだ。本作は日露戦争時奉天に立っていた塔を主人公とするとされている。厭戦の色濃い代表作。16歳年長の鴎外は、与謝野晶子の作品に当初距離をおいていたが、やがて理解を示すに至る。源氏物語訳出にあたり中巻の校正を引き受けたという。

「日露戦争歌合せ」

2020年4月 6日 (月)

令和百人一首48

【095】西郷隆盛

 二つ無き道の好みを捨て小舟波立たばとて風吹かばとて

【096】勝海舟

 濡れ衣を干そうともせず子供らがなすがまにまに果てし君かな

【コメント】西郷隆盛は薩摩の下級士族の出。島津斉彬に抜擢された。江戸無血開城の片方の当事者。征韓論争に破れて下野し、西南戦争を主導したが破れて自刃。本作は辞世と伝えられる。意味上の切れ目と五七五七七の切れ目がずれるシンコペーション「2.5句切れ」かと。そして相棒は無血開城のもう片方の当事者・勝海舟だ。江戸に生まれるも海軍伝習所に入り長崎で5年過ごす。1860年日米修好通商条約締結の批准書交付のため渡米。本作は交渉相手隆盛への挽歌。鹿児島の西郷隆盛の墓の傍らに歌碑がある。

無血開城歌合せ。

2020年4月 5日 (日)

令和百人一首47

【093】和宮親子内親王

 着るとても甲斐無かりける唐衣綾も錦も君ありてこそ

【094】上田秋成

 宮の内は男をみなも白妙の衣ゆゆしみ夏立ちにけり

【コメント】和宮親子内親王は「かずのみやちかこないしんのう」とお読みする。日本史的にはもっぱら「皇女和宮」と呼び習わされている。仁孝天皇の第八皇女として生まれ、井伊直弼の公武合体政策により14歳で将軍家茂に嫁す。さまざまな困難にあったが夫婦仲だけは円満だったとされる。夫家茂は長州征伐のための大阪在陣中に急死。本作は上方土産にと約束した西陣の晴れ着が届いた折に詠んだもの。「晴れやかな衣装もあなた様あってこそです」と嘆く。以降落飾して静寛院と号した彼女の功績はまことに大きい。15代将軍慶喜の謝罪を皇室に取り次ぐという出色の役割をこなした。

上田秋成は大阪の遊郭で私生児として生まれ、豪商の養子となった。以降、医者、文筆家として経歴を重ねる才人。本作は宮中の衣替えの歌だ。男も女もホワイト系の服になったことで夏の到来を実感するというもの。原因の「み」ですなんぞ、こざかしい理屈を振り回すのもはばかられる。「衣ゆゆしみ」の語感で勝負ありな気がする。ゆったりと飄々と、あくせくせずにするりと心に入りこむ。意外なことに小倉百人一首の持統天皇御製「春過ぎて夏来にけらし白妙の衣干すてふ天の香具山」の本歌取りとされる。

だから「衣歌合わせ」だ。

 

 

2020年4月 4日 (土)

令和百人一首46

【091】井伊直弼

 近江の海磯打つ波の幾たびか御世に心を砕きぬるかも

【092】宗良親王

 諏訪の海や氷の上は霞めどもなほ打ち出でぬ春の白波

【コメント】井伊直弼は彦根藩15代藩主。幕末争乱期に大老に就任。日本を開国に導く一方、安政の大獄など攘夷派を弾圧。桜田門外の変で水戸藩士に暗殺された。だから090水戸斉昭とは桜田門外裏合わせという物騒な設定。本作はお抱えの絵師狩野永岳に描かせた自身の肖像画に添えられた歌。暗殺の二か月前の話であるから辞世とも映る。「近江の海」とはもちろん琵琶湖だ。「世のために心を砕いてきた」という自負を、琵琶湖の波から語り起こす着想を味わうべき堂々たる詠みっぷりだ。宗良親王は「むねながしんのう」と読む。後醍醐天皇の皇子だから時代が違うというお叱りも覚悟の設定。南朝専用和歌集で、勅撰和歌集に準ずる扱いを受ける「新葉和歌集」の撰者だ。二十歳で天台座主に就任。建武の親政瓦解で環俗し、南朝の貴重な人材として各地を転戦。信濃と遠江を主戦場としたが、遠江井伊城にて薨去。井伊谷に埋葬された。一帯は井伊家ゆかりの地だ。それこそが井伊直弼とペアにする根拠。本作は諏訪湖名物、御神渡りの描写で井伊直弼のお歌とは「琵琶湖vs諏訪湖」の構図となる。「湖歌合せ」である。

 

2020年4月 3日 (金)

父に捧ぐ

本日は亡き父の誕生日だ。ブラームスの命日と重なるという話はすでに何度もしている。今年は私の定年還暦の年。記念に「令和百人一首」を墓前に供えた。私の文学好き。歴史好きのDNAは父から受け継いだものだ。だからこのお供えは必然だ。100首全部興味深く読むだろう。100人の選定ぶりも味わってくれるだろう。見開き二首の取り合わせや全体の配列もあれこれ批判してくれるはずだ。存命なら最高の読者になってくれていたに決まっている。

あわせてコロナ禍からの加護を祈った。

2020年4月 2日 (木)

母の反応

定年還暦を記念した「令和百人一首」オンディマンド版を母に見せた。たいそう興味深そうに手に取ってくれた。そそくさと仏壇に供えて線香をたいた。父が好きな分野だとわかっているからだ。10歳の私に小倉百人一首をトレーニングした話に花が咲いた。今年85になるのに、初句を言うと下の句まで思い出せる。ほぼ百首全部そらんじている。10代で覚えたからと自慢げだ。昔のことほど鮮明らしい。

 

2020年4月 1日 (水)

後嵯峨天皇生誕800年

本日は後嵯峨天皇のお誕生日。1220年のお生まれなのでちょうど生誕800年のメモリアルイアーである。父は土御門院なので後鳥羽院の孫にあたる。祖父に劣らぬ歌人と見えて10番目と11番目の勅撰和歌集の撰進を命じた。名手がひしめいた新古今時代と、京極派の躍進をつなぐ位置にいる。

令和百人一首では、心からの尊敬をこめて和歌のドヴォルザークと認定した。

 

 

2020年3月31日 (火)

西行没後830年

文治6年如月16日に、辞世での予告通りにこの世を去った大歌人が西行だ。西暦なら1190年なので今年は没後830年となる。

大好きな新古今和歌集に象徴される和歌の絶頂期を、藤原俊成とともに準備したという位置づけだ。「歌」「仏」「旅」の3つを高い次元で程よくブレンドし、続く世代に決定的な影響をもたらしたと評価される。息をするように歌を吐く印象。しきたり、流派には無縁に見えながら、身勝手な自己流あるいは前衛に堕していないと感心するばかり。

「令和百人一首」では恐れ多くも和歌のシューベルトと認定した。

2020年3月29日 (日)

令和百人一首45

【089】徳川光圀

 夕立の風に気負いて鳴る神の踏み轟かす雲の架け橋

【090】徳川斉昭

 名にし負ふ春に向ケ岡ならば世に類無き花の影かな

【コメント】中納言の唐名「黄門」から「水戸黄門」として知られる。水戸藩主として大日本史編纂を命じた。万葉代匠記の契沖を保護するなど詩歌に造詣が深い。本作は雷の描写。「この紋所が目に入らぬか」と言わんばかりの威容である。対して9代目水戸藩主烈公・斉昭は、15代将軍徳川慶喜の父である。本作は「文政11年弥生10日に、水戸藩江戸中屋敷で桜を詠んだ」と詞書に明記される。上野の忍ケ岡から見て向こうの岡というのが由来らしく、「春に向かう」が地名の「向ヶ岡」と掛けられている。「春に向かうという名の岡だからさすがの咲きっぷりだ」との手の込んだ賞賛だ。その後、詞書中の「弥生」に加え、歌中の「向ヶ岡」にちなんで、あたりは弥生向ヶ岡町と改名された。やがて町内から出た土器が弥生式土器と命名されることになる。大日本史編纂の水戸家にふさわしい因縁だ。というわけで本日は「水戸家歌合せ」だ。

2020年3月28日 (土)

令和百人一首44

【087】伊能忠敬

 七十に近き春にぞ相の浦九十九の島に生きの松原

【088】佐久間象山

 陸奥の外なる蝦夷の外を漕ぐ舟より遠くものをこそ思へ

【コメント】伊能忠敬は世界に冠たる大日本沿海輿地全図の作者、平たく申すなら日本地図。家業引退後に日本全土の測量を成し遂げた。千葉県九十九里町の出身。郷土の偉人というだけではなく、源実朝と並ぶ最も好きな日本史上の人物と断言したい。百人一首に伊能忠敬を入れるそのこと自体が、私のキャラの強烈な反映である。本作は測量の途上で長崎県佐世保近郊の海辺・相の浦に差し掛かった際の歌。彼自身の年齢から説き起こす初句から「相の浦」まですらすら。「相の浦」は春に会うと実際の地名が掛けられている。これから沖合の「九十九島」(つくもしま)に出かけることにすると意気込む。「生の松原」は「いきのまつばら」で「行く」と掛けられる。複雑巧妙な掛詞の連鎖で「70歳だけど99までがんばるぞ」と決意表明する。現代語訳なんぞほぼ無意味で、雰囲気だけを味わうべき。九十九には故郷の九十九里が念頭にありはせぬかと妄想は膨らむばかりだ。どのようなお叱りがあろうと断固として撰者枠1つを捧げたい。

佐久間象山は信濃松代出身の思想家。海外事情の研究家として「海防提案書」を上程。幕府には海軍の設置を説いた。深川に砲術学校を開く。門下に吉田松陰、勝海舟などがいる。1854年、吉田松陰の密航を教唆したとして投獄された。1862年に赦免され、開国と公武合体を唱えるも翌々年京都で尊王攘夷派に暗殺された。本作は獄中での詠。「陸奥」「蝦夷」が重ねられ、その外を行く舟よりさらに遠くと念を押して最後に係結びでとどめ。もしかしてロシアが脳裏にあったか。

世界の中の日本歌合せ。

 

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