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カテゴリー「055 令和百人一首」の14件の記事

2020年1月26日 (日)

令和百人一首11

【021】紀貫之

 袖ひじて結びし水の氷れるを春立つ今日の風や解くらむ

【022】源俊頼

 さまざまに心ぞ留まる宮城野の花のいろいろ虫のこえごえ

【コメント】紀貫之は古今和歌集の撰者にして勅撰入集475首の最多記録保持者だ。「古今」「後撰」「拾遺」のいわゆる三代集すべてで「最多入集歌人」となっている。詠んでいるのは立春だが遠く夏の日に「袖を濡らしてすくった水」を思い起こす。冬にはその水が凍っていたのだが、春になった今日の風が解かしてくれているのだろうと、現在推量をかます。「水」をキーに一首の中に3つも季節を凝縮して見せる神業だ。袖を濡らすのが涙でないのもすがすがしい。和歌界のモーツアルトか。俊頼とて勅撰入集207首を数える大歌人だ。おまけに第5勅撰和歌集「金葉和歌集」の撰者である。本作は明示はないものの季節は秋。宮城野といえば萩の名所である。「さまざま」「いろいろ」「こえごえ」という言葉のさざなみを意図的に繰り返すという技巧ながら、嫌みがない。和歌界のハイドンとくれば「平安大歌人歌合せ」だ。

2020年1月23日 (木)

令和百人一首10

【019】藤原敏行

 藤の花風収まれる紫の雲立ち去らぬところぞと見る

【020】藤原顕季

 薄く濃く静かに匂へ下枝まで常盤の橋にかかる藤波

【コメント】「藤歌合せ」だ。敏行は平安初期の代表歌人。宮中飛香舎で詠んだ本作は「令和百人一首」初の古今集からの採用。飛香舎は庭に藤が植えられてるので「藤壺」ともいわれる。「風収まれる」は単なる気象ではなく、天皇の御世が平和であることの比喩である。藤の花が吉兆であるところの「紫の雲」のようだと着眼し、それが風で台無しにされないと寿ぐ表現のかなめに「ぞ」が置かれる。同様に顕季もまた藤を詠む。俊成、定家など御子左家の台頭を見るまで、顕季の六条藤家が、歌道の宗家だった。本作「常盤の橋」は陸奥または近江の歌枕だが、「永遠」の象徴でもあり、天皇賛美につなげている。「下枝」は「しずえ」と読んで「枝の先の方」を意味する。奥ゆかしくて大好きな言葉の「令和百人一首」初出だ。

 

2020年1月22日 (水)

令和百人一首09

【017】在原行平

 旅人は袂涼しくなりにけり関吹き越ゆる須磨の浦風

【018】在原業平

 世の中に絶えて桜の無かりせば春の心はのどけからまし

【コメント】「兄弟歌合わせ」である。まずは兄の行平から。「袂」の読みから入る。「たもと」と読む。本来は肘から手首にかけての身体の部位を指すが、転じて「衣の袖」の意味になったという。説明不能ながら大好きな言葉で「令和百人一首」初出。さて摂津と播磨の国境をなす須磨には関所があった。関所は旅人の行き来を制限する。自由な行き来は出来ないのに風だけは越えて行くと嘆く。貴人が都から離れて蟄居する土地だったことも考慮されているらしい。源氏物語において「行平の中納言、関吹き越ゆると言ひけむ浦波」と言及されて名高い。弟は業平。伊勢物語の作者ではないかと古来取り沙汰されてきた。「伊勢物語」は和歌への題材供給の観点から源氏物語と双璧をなす。容姿端麗な上に歌才もある。「世の中に絶えて桜の」と大上段に振りかぶる気品とユーモアが微笑ましい。

2020年1月21日 (火)

令和百人一首08

【015】志貴皇子

 石走る垂水の上の早蕨の萌え出ずる春になりにけるかも

【016】亀山院

 焼き捨てし煙の末の立ち返り春萌え出ずる野辺の早蕨

【コメント】高校時代の万葉集の授業で習って以来、不動の位置づけにある志貴皇子の絶詠だ。「石走る」は「いわばしる」と読む。「~の~の~の」と畳みかけ、4句目の字余りで一瞬堰き止められるが、結句で一気だ。平安京の貴族たちにとって桓武天皇は至尊の位置づけにある。志貴皇子はその祖父だ。壬申の乱以来天武天皇の系統にあった皇位が、天智側にもどったのが志貴皇子の子、光仁天皇だから皇統が天智系に復するポイントにいる。勅撰和歌集への収載が無いせいか、小倉百人一首では漏れているのが残念なのでせめて私が。

鎌倉時代後半、後鳥羽院の曾孫にあたる亀山院は、およそ600年隔てて本歌取りを試みる。「焼き捨てし」という典雅ならざる初句。読み手をぎょっとさせておいて、二句目から一句ごとに沸きたつ春の期待感。元歌では肝になる字余りを一顧だにせぬ爽快感。魔法のゆりかご「野辺」の「令和百人一首」初出。そして結句末尾「早蕨」に至って、志貴皇子の本歌取りであることが露呈するという小出し感に泣きたいくらいだ。お気づきの通り「早蕨歌合せ」である。

2020年1月20日 (月)

令和百人一首07

【013】大伴家持

 我が宿のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも

【014】藤原実定

 秋来ぬと驚かれける窓近くいささ群竹風そよぐ夜は

【コメント】見ての通り「いささ群竹歌合せ」である。「いささむらたけ」と読む。大伴家持は旅人の子で【012】大伴旅人と裏合わせ。万葉集の編者と目される大歌人。一首選ぶのは難儀のようで、実は私にとってはこの歌しかない。「いささ群竹」「かそけき」の繊細な感覚は新古今の先取りとも感じる。花でも紅葉でもない竹への着眼なのだが、その肝心の竹は音によって認知されている。とりわけ「かそけき」は万葉集中家持だけに用例が限られる「家持語」だ。思うに和歌界の最弱音だろう。心からの尊敬をこめて「和歌のバッハ」と認定したい。

そして藤原実定は、小倉百人一首では後徳大寺左大臣と呼ばれている撰者定家のいとこだ。大伴家持に華麗な本歌取りをかましていると採用したが、藤原家隆の小倉収載歌「風そよぐ奈良の小川の夕暮は禊ぞ夏の験なりける」をも視野に入れているかと。その気で眺めると藤原敏行の「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれける」も、うかがっているかもしれない。壮麗な三重本歌取りの様相を呈する。

 

2020年1月19日 (日)

令和百人一首06

【011】山部赤人

 春の野に菫摘みにと来し我ぞ野を懐かしみ一夜寝にける

【012】大伴旅人

 沫雪のほどろほどろに降りしけば奈良の都し思ほゆるかも

【コメント】万葉の代表歌人のペア。「人人」歌合せとでも命名する。赤人の作には見せ場が多い。原因の「み」、係助詞「ぞ」の「令和百人一首」初出となる。また【010】人麻呂とは「山柿の門」裏合わせとなる。旅人は家持の父。大宰府から遠い奈良を思う歌。「沫雪」は「あわゆき」と読む。強調の「し」で奈良の都にスフォルツァンドを付与してはいるものの、「ほどろほどろに」の語感か、どこか悠然としていて望郷の切迫感が薄まる印象。

採用歌とは関係がないけれど、彼が大宰府在任中730年1月13日に自邸で、梅の花を見る宴会を開いた。32名が招かれて詠んだ歌の序文にある「令月風和」が「令和」の語源とされている。ここははずせぬ歌人である。

 

 

2020年1月17日 (金)

真の狙い

本年正月にカルタでクララ・シューマン特集が終わったあと、「マーラーかるた会」でおずおずと始まったかに見えた和歌への傾斜だったが、実は令和百人一首の序奏だった。脳内を和歌ネタで満たすために少々の準備が要ったということだ。2033年5月7日ブラームス生誕200年まで、途切れずに記事を繋ぐ目標が中間点を過ぎ、私自身が還暦を迎えるという節目を自ら刻印するための企画である。

お断りするまでもなく、音楽ネタとは言えない。ブログ「ブラームスの辞書」たるもの、音楽ネタ濃度、ブラームスネタ濃度が下がってもよいのかと、自問した中から「やっぱり」と決意した。同時に「やるからには徹底すべし」とも思った。管理人特権だ。

「令和百人一首」の公開は、全百首を毎回2首ずつ紹介する記事を積み上げるが、記事5本つまり10首ごとにインターバルを置くこととする。概ね時代順で、一本の記事で紹介する2首には共通テーマを持たせて「歌合せ」テイストを付与することすでにご案内の通りである。

2020年1月16日 (木)

令和百人一首05

【009】有間皇子

 磐代の浜松が枝を引き結びま幸きくあらばまた環へり見む

【010】柿本人麻呂

 東の野にかぎろひの立つ見えて返り見すれば月傾きぬ

【コメント】有間皇子で飛鳥時代が終わり、人麻呂から奈良時代に入る。有間皇子は孝徳天皇の皇子。斉明天皇が紀伊の国牟呂の湯に行幸中に、謀反の意ありとして捉えられ、藤白の坂で絞首された。中大兄皇子の邪魔になったから排除された疑いが濃厚。本作は護送中の詠で事実上の辞世。「運よくかえってこれたら」という趣旨が痛切。大津皇子の辞世とともに万葉の絶唱。これを入れぬと飛鳥時代を終われない。

奈良時代の冒頭には歌聖・柿本人麻呂に登場願った。「東」は「ひむかし」と読む。一首選ぶのは大変かと思いきや、高校の古典の授業で初めて習い、私の人麻呂像に決定的な影響を与えた一首であっさりと収まった。

2020年1月15日 (水)

令和百人一首04

【007】石川郎女

 吾を待つと君が濡れけむ足引きの山の雫にならましものを

【008】紫式部

 ほととぎす声待つほどは片岡の杜の雫に立ちや濡れまし

【コメント】石川郎女は「いしかわのいらつめ」と読む。【006】大津皇子の恋人だ。「令和百人一首」では、「奇数&偶数」をペアに歌合せを試みるが、「偶数&奇数」のいくつかにも関連を持たせている。これを独自に「裏合わせ」と命名した。ページの裏表になるからだ。大津皇子と石川郎女は「裏合わせ」初出である。なぜなら石川郎女の本作は、恋人大津からの「足引きの山の雫に妹待つと我立ち濡れぬ山の雫に」という問いかけに対する返歌である。大津は苦渋の選択の末、辞世を選んだために無念の落選になった。大津の贈歌もかなりな好サーブなのだが、「私を待つと言ってあなたが濡れたとおっしゃる山の雫になりとうございます」と待たせた相手に甘える手厳しくも愛らしいリターンエースだ。「足引き」は「令和百人一首」の枕詞初出。加えて仮想現実の「まし」初出でもある。ほぼこの歌一首で現代にまで名を遺すとは。

源氏物語の作者として世界的に君臨する紫式部。「源氏読まぬ歌詠みは遺恨のことなり」と言われる古典中の古典。彼女はおよそ330年の時を隔てて石川郎女を本歌取りする。待つのは恋人ではなくてほととぎすだし、「山の雫」が「杜の雫」に転じられてはいるものの仮想現実の「まし」が表現の肝であることを紫式部も見抜いている。だから「まし」歌合せである。本作が新古今和歌集に入集していること心から嬉しく思う。

2020年1月14日 (火)

令和百人一首03

【005】大伯皇女

 二人行けど行き過ぎ難き秋山をいかにか君が一人ゆらむ

【006】大津皇子

 百伝ふ磐余の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ

【コメント】2人は天武天皇を父とする同母姉弟だ。お姉さんは「おおくのひめみこ」と読む。万葉集に6首採られているが、全て弟を案ずる歌ばかり。弟の大津は日本書紀において「詩賦の起こるところ大津に始まる」と絶賛される人物。ところが我が子草壁皇子を皇位にと欲する持統にとっては邪魔者。謀反の罪を着せられ死罪。本作は辞世という位置づけだ。今後「令和百人一首」には辞世の句がいくつか現れるが本作はその最初である。身の危険を察知した大津は伊勢の斎宮だった姉を尋ねる。面会の後、大和に引き返す弟の帰路を案ずるのが姉の作品。姉6作全てが人々に読み継がれているのは、つまり大津の死が理不尽だった証拠だろう。全部採用したいくらいだ。個人の趣味として現在推量の「らむ」が大好きで「令和百人一首」選定のさいの大きなファクターになった。本作は現在推量の「らむ」初出である。命をキーにした「姉弟歌合わせ」という趣向である。

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