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カテゴリー「351 クララ」の93件の記事

2016年11月10日 (木)

銀行家パウル

フェリックス・メンデルスゾーンがハンブルクの裕福な銀行家の長男だということはよく知られている。しかし彼は家業を継がなかった。しからば誰がという疑問に答えるのが本日の主眼だ。

それはフェリクスの3つ年下の弟パウルだった。チェロの達者な弾き手でもあった。1854年2月ロベルトの投身により苦境に陥ったクララに真っ先に経済的援助を申し出た。銀行家らしく小切手を送ったのだ。間もなく生まれる夫妻の末子が、兄の名前を背負ったことも含め、兄フェリクスと夫妻の交友をよく知っていたものと思われる。

その後欧州中を駆け回って演奏会に明け暮れるクララは、銀行家パウルの顧客だったという。

2016年9月 4日 (日)

競馬の話題

ドイツ競馬の最高峰「バーデン大賞」の話を続ける。

クララ・シューマンは1868年9月4日バーデンバーデンからブラームス宛に手紙を書いた。用件をいろいろ書いた後、「当地では、競馬の話題で持ちきりです」と結ぶ。これがまさに「バーデン大賞」の話題である。同レースは9月第一日曜と決まっている。手紙を書いた9月4日は金曜日だから、レースの前々日だ。前々日となれば出走馬はもちろん、枠順だって決まっているはずだから、人々は盛んに話題にするだろう。

記事「バーデン大賞」でブラームスが同レースを見たかもしれない年を列挙したが、この手紙の存在により、1868年は候補からはずれる。もしブラームスがバーデンバーデンに滞在中なら、それを知らせる手紙を書くはずがないからだ。

一方で、手紙の結びに話題として同レースを引き合いに出すということは、ブラームスがこのレースを知っていた証拠でもある。

2016年6月 2日 (木)

貴重な伝記

現在のところ、クララ・シューマンの伝記の決定版か。春秋社刊行の「クララ・シューマン」だ。

Monica Steegmann著の「Clara Schumann」の全訳。玉川裕子訳。記述が客観的なことが冷たさに直結していない点好感がもてる。巻末の付録、人名索引、クララの作品リスト、国外演奏の記録、クララへの論評集など盛りだくさんで楽しい。出典元の提示もシンプルで明快なのが気持ちいい。

女子であることを極端にクローズアップしない姿勢が、説得力の増強に貢献している印象だ。ロマン派の二大巨星、シューマンとブラームスとのかかわりばかりが、バランスを欠く形で取り上げられることも多い中、節度ある姿勢に留まっていてなお、事実の提示だけは怠らない感じだ。

第一刷の発行年月日が2014年9月13日だというところに、こだわりと愛を感じる。

2016年5月30日 (月)

伝記たるもの

シューマンの友人ヴァジレフスキーが、最初のシューマン伝を書いたと述べた。

ところがところが執筆にあたり協力を求められたクララは、感謝の意思表示はしたものの協力を拒んだ。クララはつまりワジレフスキーを信じていなかったといういことだ。

だからシューマン伝ではあるもののクララ未亡人のお墨付きではないのだ。ブラームスも出来映えには不満を表明している。曰く「公平であることは結構だが、冷淡であってはならない」「伝記を読むことが万人にとっての喜びになるべき」とある。

ヴァジレフスキーという人は、デュッセルドルフのコンサートマスターだった。ここのオケは晩年のシューマンと確執があった。最終的には決裂した。そこのコンマスの記述だから、決裂の原因の一つであった精神の変調について誇張した表現が目立ったらしい。

ブラームスの感想はこのことを踏まえていると感じる。

クララの感想もブラームスと一致していた。

後年クララは、新たなシューマン伝の執筆をブラームスやヨアヒムに相談している。ブラームスは「伝記の執筆には心と同時に文才も必要」と述べ、自分にもヨアヒムにも手に余ると答えている。

ブラームスの伝記観を垣間見ることが出来る。

2016年5月21日 (土)

最後のページ

「真実なる女性 クララ・シューマン」という書物がある。クララ・シューマンの伝記の老舗だ。我が家にあるのは1980年出版の第7版だ。

クララファンはもちろんシューマンやブラームスの愛好家の帰依を勝ち取ってきた。そりゃあ伝記だから、美化も誇張もあるだろうが、ロマン派真っ只中を駆け抜けたクララの伝記だけに登場人物が華麗で飽きが来ない。

このうちの18章が「ヨハネス・ブラームス」とタイトリングされている。1853年のブラームスによるシューマン家訪問のことが描かれる172ページのことだ。

この本によれば、クララとロベルトの初対面は1828年だ。結婚が1840年で、死別が1856年。16年の結婚生活だ。初対面からカウントしてもシューマンとのおつきあいは28年ということになる。

一方ブラームスとの初対面は1853年で、クララが没したのが1896年だからその交友期間は43年にも及ぶのだ。クララ側はともかくブラームスの人生の後ろ3分の2はクララとの交友に支えられていたことになる。

先の「真実なる女性 クララ・シューマン」という本は277ページで結ばれる。そこに置かれているのはクララ・シューマン没の記事ではない。クララの死から1年も経ずして没したヨハネス・ブラームスの記事である。クララ・シューマンの伝記はブラームス臨終の記事で結ばれているということなのだ。少なくともこの伝記の作者は、クララにとってもブラームスは無視し得ない存在であったと考えていたことは明らかだ。

クララがその死後、ロベルト・シューマンの横に葬られているのに対し、ブラームスはウイーン中央墓地に一人で眠っている。私のようなブラームス愛好家にとっては、切ない事実である。ブラームスがモーツアルトやシューベルト、ベートーヴェンと並んで葬られているにしてもだ。

残した音楽が世界中から愛されていることと引き換えだとしても、合点がゆかない。しかし、その手の理不尽を一手に引き受ける度量もブラームスの魅力のうちである。少なくとも残された作品のたたずまいからそう推定出来る。

2016年5月20日 (金)

クララ没後120年

本日2016年5月20日はクララ・シューマンが没してから120年にあたる。今年は地味にメモリアルイヤーだ。1996年5月20日フランクフルトにて没した。

ブラームスは葬儀に参列後、体調を崩して、一周忌を待たずに没することになる。

2015年12月27日 (日)

卵の上を歩け

ヴァイオリンソナタ第3番のエピソードだ。音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第3巻47ページ。クララ・シューマンの四女オイゲーニエが母クララの言葉を書き留めている。同曲第3楽章の155小節目ピアノに現れる「Tranquillo」のことに言及して、「あそこは卵の上を歩くようなものよ」と述べている。

巧妙な言い回しだ。すぐに比喩だとわかる。「卵の上を歩く」訳が無いからだ。クララにだって経験があるわけではなかろう。そしてこの言い回しには「卵の上を割らずに歩く」という意味が内蔵されていると思っている。歩きながら卵を割りまくる訳ではないと心得たい。だからこそ「並外れて微妙で」「用心が要る」という意味になる。

「Tranquillo」単独では「静まって」という意味なのだが、この部分は「とりわけ微妙でっせ」というクララの認識を表していると見て間違いがない。

それにしてもクララ一家はうらやましい。楽譜上の単語1個について、これほど具体的な会話が親子で交わされているということだ。オイゲーニエはこのことをずっと心に留めていたある日、クララの家でブラームス本人がピアノを受け持ってこの曲に挑むのを聴く機会を得た。

ブラームスは問題の「Tranquillo」に差し掛かると、大幅にテンポを落として切り抜けたと証言している。「ブラームスさんはつま先立ちで歩いたんだわ」と姉のマリエと喜び合ったという。

2015年12月26日 (土)

ニ短調ソナタ

無伴奏ピアノのためのソナタや、ピアノを含む二重奏ソナタはしばしば単に「ソナタ」と通称されている。第1楽章の調性を添えて呼ばれるのもお約束だ。ブラームスのピアノソナタ3曲、二重奏ソナタ7曲計10曲のうちニ短調の作品はただ1つしかない。ヴァイオリンソナタ第3番op108である。友人で大指揮者、優秀なピアニストでもあったハンス・フォン・ビューローに献呈されているのだが、クララ・シューマンのお気に入りでもあった。

1894年のある日、クララはヨアヒムとともにこのソナタを演奏した。「めったに経験できない純粋な喜び」と日記にしたためた。1891年3月を最後に公開の席での演奏から身を引いていたから、このときのヨアヒムとの二重奏はプライヴェートなものだ。いやはや何とももったいない。

2015年9月13日 (日)

クララの評価

「ピアノとヴァイオリンのための二重奏ソナタ」つまり「ヴァイオリンソナタ」は、古来名曲を育んできた。ブラームスが後世に残したのは以下の3曲だ。

  • 1番ト長調op78
  • 2番イ長調op100
  • 3番ニ短調op108

このうちしばしば「雨の歌」と呼ばれる1番がクララとフェリクス母子に関係が深いことはすでに何度も述べてきた。クララは「心の最も奥深い感じ易い琴線が共鳴する」と日記に書いた。

3番ニ短調もまたヨアヒムとのプライヴェートな二重奏の後で「口に言えないくらい好き」と書き記している。

となると残る2番についてクララが何か言っていないか気になる。

あった。2番を通して弾いたクララは「みじめな気持ちを全部取り去ってくれる」と書いた。次男フェルディナンドの病気から来る気苦労を指していると思われる。

クララはブラームスのヴァイオリンソナタがお気に入りだ。気が合う。今日はクララの誕生日。

2015年7月23日 (木)

聴衆の無関心

後にブラームスザールと改称されることになる楽友協会小ホールの「こけら落とし」公演にクララ・シューマンが出演した話を昨日しておいた。そこで、当日のプログラムの冒頭がブラームスのホルン三重奏曲変ホ長調op40だと書いてはしゃいだ。

ところが、クララは後日友人に「聴衆には全く受けなかった」と書き送っている。クララ自身はこの三重奏曲を「真に精神性に溢れ、どこから見ても全く持って興味深い作品」と評価している。それなのに聴衆の反応が冷たいと嘆いているのだ。

ある程度は仕方が無い。当時クララは欧州最高のピアニストの位置にあった。シューマンとベートーヴェン作品の当代一の解釈者という位置づけだ。その彼女が満を持して杮落とし公演にのぞむのだから、ましてそのプログラムに冒頭には、絢爛豪華で華麗な作品を期待するのが人情というものだ。

ホルン三重奏曲は、1870年1月の同公演の段階で、ピアノ入りの室内楽としては最新の作品だ。クララの意気込みも判らぬでもないが、聴衆の期待するカリスマピアニスト、クララという価値観を存分に反映する演目とは言えない。クララの思いと聴衆の期待が完全にずれている。しかしクララの手紙には半ば想定内という諦めも見え隠れする。

後世の愛好家である私は、聴衆の好みとのズレも省みず、こけら落とし公演の冒頭にホルントリオを持ってきたクララの英断に心から拍手を送るものである。

申し遅れた。昨日8番目の室内楽ホルン三重奏曲にたどり着いた。

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