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カテゴリー「351 クララ」の148件の記事

2019年12月11日 (水)

ハンブルクのシューマン夫妻

1850年3月16日ハンブルクフィルハーモニー交響楽団の演奏会があった。ロベルト・シューマンの指揮、ピアノ独奏はクララだった。

曲目を調べているが見つけられない。ピアノ協奏曲イ短調を想像するが、確証は持てない。これを16歳のブラームスが聴いていたらしい。クララは他に3回ほど演奏会を開いているそうだ。

ブラームスはこのうちいくつかを聴いて感動したのだろう。それで自作をいくつか小包でシューマンに送る決心をしたのだ。

2019年12月 8日 (日)

Molto passionato の続き

それは全くもっていつも通りの習慣だった。出来上がった作品を出版前にクララに見せるのだ。今回は特にピアノ独奏曲だからクララの意見が楽しみでさえあった。

やがて、望み通りの展開になった。クララがその曲を演奏してくれるというのだ。何となく嬉しい気持ちは、クララの演奏を聴いて吹き飛んだ。冒頭の発想記号として「Molto passionato」と書いたその楽譜を見ながら、クララは、ブラームスのイメージよりずっと遅いテンポで弾き始めたのだ。

「こりゃ、いかん」と思ったが、その気持ちをぐっと飲み込んで聴いているうちに、「こういうのもありかな」と思えるようになってきた。

出版にあたって「Molto passionato」の指示だけでは、速過ぎるテンポを採用されかねない。かといって「Allegro ma non troppo e molto passionato」にする訳にも行かない事情があった。だから「Molto passionato」の後ろにカンマを挟んで「ma non troppo allegro」と追加した。

種明かしをする。この曲とはラプソディート短調op79-2だ。クララの解釈するテンポに一定の説得力を感じたブラームスは結局「Molto passionato,ma non troppo allegro」を最終稿とした。「2つのラプソディ」は1番ロ短調が「Agitato」だ。2番も「Molto passionato」として、直接的な速度用語を掲げないことにこだわったのではないかと想像する。それが「Allegro ma non troppo e molto passionato」と出来ない事情だ。「molto passionato」の後に連ねる場合「allegro ma non troppo」では語呂が悪い。やむなく語順を入れ替えて倒置形の「ma non troppo allegro」を採用して後に続けたのだ。

ノントロッパーのブラームスは「allegro」を「non troppo」で修飾することが多い。生涯に33箇所ある。しかし語順の転倒が起きているのはこのラプソディーただ一つだ。「presto」と「non troppo」の共存は11回あって、うち過半数の6回が「non troppo」を先行させていることと鮮やかな対照をなす。それほど「Allgero」に対して「non troppo」が先行することは異例なのだ。

ヨハネス・ブラームスの苦肉の策である。

2019年12月 6日 (金)

もう一人のフェリクス

クララ唯一の孫娘の名がユーリエであることは既に述べておいた。三男フェルディナンドの長女だ。このフェルディナンドは全部で7名の子に恵まれた。1歳にならずに亡くなった三男ヴィクトール以外は皆成人に達した。そのヴィクトールのすぐ下の弟の名前がフェリクスだった。シューマン夫妻の最後の子供四男と同じ名前である。彼の詩にブラームスが曲を付けている。とりわけ「我が恋は緑」が名高い。ブラームスは彼の名付け親でもあったが、1879年に他界した。

フェルディナンドの四男が生まれるはその3年後だ。祖母クララの意向が反映した名づけだったことは確実である。

2019年12月 4日 (水)

お下がりのピアノ

1840年ロベルトとクララの結婚を機に1台のピアノが2人に贈られた。ウィーンのコンラート・グラーフ社が1839年に製造したピアノだ。1853年10月1日デュッセルドルフのシューマン邸を訪れたブラームスが、2人の前で弾いたのは、このピアノだと思われる。

1856年4月クララは入院中のロベルトを残して単身で渡英し3ヶ月に及ぶコンサートツアーに出た。7月に帰宅したクララにパリのエラート社が最先端のピアノを贈った。エラート社は1820年代にダブルエスケイプ機構という現代ピアノにも通ずる最先端技術を持ってピアノ界を席捲していた。ショパンもリストもメンデルスゾーンもエラート社製ピアノを評価していたという。ブラームスのピアノ協奏曲第1番がハンブルクで初演されなかったのは、エラート社製のピアノが調達出来なかったからという指摘もあるほどだ。

ロベルト・シューマンの妻にして当代屈指のピアニストにメーカーが自社製品を提供するのは、自然なことにも思える。ロベルト・シューマンの没する直前にもかかわらずクララはこれを受けたと思われる。

最先端のエラートを手に入れたクララは、新婚時代から愛用していたコンラート・グラーフ社製造のピアノを、ブラームスに譲った。ハンブルク近郊のハムの下宿に運ばれたようだ。1862年のウィーン進出にあたって、ブラームスはこれをハンブルクに残した。1871年のウィーン万博では「シューマンのピアノ」として展示され、会期終了後ブラームスはウィーン楽友協会に寄贈し、現代に伝えられた。

このときロベルトは既に入院中だったから、新婚時代の愛用のピアノをブラームスに譲るという判断は、クララが単独で下したと思われる。

2019年11月28日 (木)

宮廷演奏家

1837年18歳のクララは父に伴われてウィーンを訪れた。この滞在はかれこれ半年に及んだという。もちろん目的は演奏だった。

その間クララは皇帝の前でピアノ演奏を披露した。いわゆる御前演奏だ。当時の皇帝はフェルディナンド1世だ。「国の親」として名高いフランツ・ヨーゼフ1世の前帝。クララは宮廷演奏家に列せられた。これが1838年3月15日だとされている。

早い話が大成功だった。やがて楽友協会の名誉会員にも推挙される。こうして市民の間にも瞬く間に評判が知れ渡り、クララは時代の寵児となる。如才ないことにクララはウィーンへの返礼を作品に託す。「ウィーンの想い出のために」op9だ。ハイドンの皇帝四重奏曲で有名な皇帝賛歌をモチーフにしてウィーンへの謝意を表した。

後年ブラームスにウィーン進出を薦めたのがクララだった。クララからすれば勝手知ったるウィーンだ。クララの薦めはブラームスにとっては心強いものであったはずだ。何せクララは既に楽友協会の名誉会員だったのだ。ブラームスはやがて楽友協会の芸術監督にはなるし、皇帝から勲章ももらうが、宮廷演奏家に列せられることはなかった。

 

 

 

 

2019年11月27日 (水)

名誉会員

ずっと不思議に思っていたことがある。ドイツ民謡の手稿譜について調べていると、マッコークルのあちこちにクララの名前が出てくる。クララの遺品からドイツ民謡の女声合唱版のスコアやパート譜が発見されているのだ。クララ自身の筆跡のものまである。

 

1850年代後半において既にクララは当代きってのピアニストと評価されており、リストと並ぶピアノ演奏の泰斗だった。そのクララに民謡編曲のパート譜やスコアを写譜させていたのだろうかと感じていた。クララとハンブルク女声合唱団の関係が今いち実感出来なかった。

 

ところがこのほどそれが判った。

 

クララは、ハンブルク女声合唱団の名誉会員だったのだ。

 

これは面白い。ブラームスが同合唱団のためにおびただしい数の作品を残したことは良く知られている。それらの作品は、メンバーが写譜したパート譜やスコアにより現代に伝えられたのだ。おびただしい手書き譜の中に無視し得ぬクララの筆跡が存在する理由がこれで説明出来る。クララは演奏旅行の合間、都合が付く場合には出来る限り合唱団の集まりに顔を出したという。

 

同合唱団の成り立ちを考えるとどう見てもアマチュアだ。そこに当代きっての大ピアニストが名誉会員に名前を連ねていることのインパクトは大きい。シューマン未亡人のお済み付きを貰ったようなものだ。もちろん指揮を引き受けていたブラームスの仲介に決まっている。たまにはクララが伴奏を引き受けることもあったかもしれない。

 

もっと楽しい想像がある。クララが皆に交じって歌うことはなかったのだろうか。

2019年11月26日 (火)

リーターのお嬢さん

ウイーンに移住後のブラームスに対して、クララはしばしば結婚を薦めている。1868年9月4日の手紙がその代表だ。その手紙は珍しく、具体的にお薦め相手をあげている。それが「リーターのお嬢さん」だ。スイス、ヴィンタートゥールに本社を置く、リーターヴィーダーマン社の経営者の娘である。

クララが薦める理由を列挙している。

  1. 容姿が美しい。
  2. 彼女がブラームスに満更でもない。
  3. 実家が金持ち。

リーターヴィーダーマン社といえば初期のブラームス作品を盛んに出版している。ドイツレクイエム以前には主力だった。ジムロックの次にブラームスの作品を多く手がけている。

2019年11月25日 (月)

クララを信じる

ブラームスが作品が出来るたびに、草稿をクララに送って意見を求めたことは有名だ。生涯一貫して破綻のないブラームス作品高打率は、この習慣によるところが大きい。最後の2つの作品だけが、クララの死というシンプルな理由で、この手続きを踏まれなかったという事実は重い。一方、これらの習慣のことをブラームス自身が言葉にして語ったことがある。毎度毎度の音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第3巻102ページだ。友人のヴィトマンが証言しているから、その部分をそのまま引用する。

「何か書きたかったら、シューマン夫人のような女性が、喜んで読んでくれるかどうか考えるんだね。怪しいと思ったら抹消だよ」

おおお。

「シューマン夫人のような」という言い回しに何とも言えぬリスペクトを感じる。絶大な信頼関係だ。ブラームスはこう考えながら作曲していたのだ。彼の行動を考えると単なる喩え話として一笑に付せない重みがある。そしてその付託に一生、誠心誠意答えていたのがクララなのだ。

何だか切ない。

 

 

 

 

2019年11月21日 (木)

ラストステージ

1891年3月21日クララ・シューマンの最後のコンサートがあった。これ以降人前で弾いていないということだ。クララはこのとき71歳である。

演奏された曲の中に、ブラームスがあった。「ハイドンの主題による変奏曲」op56bだ。2台のピアノ用なのだから、誰か相棒がいたはずだ。フランクフルト音楽院におけるクララの同僚が弾いたらしいが、名前は突き止めきれていない。

バッハの誕生日に合わせたなどとということは妄想だろうか。

2019年11月20日 (水)

ショパン風

たとえば「ショパン風」のように、既存既知の作曲家の実名を用いて「誰それ風」という言い回しがしばしば見られる。「ショパンの作風に似ていますね」という意味である。単に「ショパンに似ている」言わないところが、ミソだったりするようだ。先にショパンの作風が確定していれば何の問題も生じないが、作風確定がおろそかなケースも散見する。「ブラームスの辞書」ではブログでも書籍でも、そうした言い回しを出来るだけ避け、「似ている」と断言することにしている。

ブラームスは自作に出版の価値がありや無しやという質問を、しばしばクララに投げかけている。op76-8ハ長調のインテルメッツォがその対象になった。クララからの返信は「と~んでもない」というものだった。具体的な譜例を上げて、こうすればもっと良くなるという提案を2つ3つしている。もしどうしても1曲省かねばならないなら6番イ長調だとクララは主張する。

クララは理由を付け加えることを忘れない。「なぜなら6番はショパン風過ぎる」というのがその理由だった。私ごときがブログで使うことは出来ないがクララの言葉となるとカッコいい。「あんたはヨハネス・ブラームスでしょ。しゃんとしなさい」に近い。あらゆるピアノ書法に通じたクララの言葉だけに重みが違う。

何より幸いなことはブラームスが6番を破棄しなかったことだ。

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