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カテゴリー「001 用語解説」の1000件の記事

2026年5月10日 (日)

アカペラ

楽器による伴奏のない合唱または重唱。注意が必要なのは独唱だ。「楽器による伴奏のない独唱」はアカペラとは言わない。現在では意味が薄れているが、教会で演奏される宗教作品を指すケースが本来の用法だった。

 

ブラームスには以下の通りアカペラの作品がある。

 

    1. 7つのマリアの歌op22

 

    1. 2つのモテットop29

 

    1. 3つの宗教的合唱曲op37

 

    1. 5つの歌op41(アカペラの指定は無いが事実上無伴奏)

 

    1. 3つの歌op42

 

    1. 12の歌とロマンスop44(本来アカペラ、ピアノ伴奏随意)

 

    1. 7つの歌op62(アカペラの指定は無いが事実上無伴奏)

 

    1. 2つのモテットop74

 

    1. 6つの歌op93a

 

    1. 5つの歌op104

 

    1. 祝辞と格言op109

 

  1. 3つのモテットop110

 

12の作品番号に分かれた合計56曲である。作品番号の無い作品で9曲存在する。このうち3曲でアカペラと明示がある。古式にならったためか大半が宗教的な内容の作品である。伴奏が要るか要らないかの判断をブラームスがした結果だが、基準は必ずしも明確ではない。

2026年5月 4日 (月)

逆さ読み

学生の頃仲間内の会話で単語を逆さにして言い合っていた。音節が2個の単語の場合、音を入れ替えて、真ん中に長音棒を挿入する。「飯」は「しーめ」だし「金」は「ねーか」となる。

 

「ルービ飲みに行こうぜ。」(ビール飲みに行こうぜ)

 

「いいや、しーめが先だぜ」(いいや、飯が先だぜ)

 

という具合である。音節が3個以上になると完全な逆さではなくなる。「バイク」は「クイバ」で「電車」は「しゃでん」だ。

 

聴くところによるとこの風習は広く音楽関係者の間に根付いているらしい。海外、特にドイツ語圏ではどうなっているのだろう。モーツアルトと従姉妹の間で交わされた手紙はその種の言葉遊びに溢れていると聞いた。ブラームスはどうだろう。

 

思い当たる節もある。ブログ「ブラームスの辞書」や著書でお手上げ同然になっている課題に「倒置」がある。「molto cresscendo」と「crescendo molto」の類だ。日本語の真面目な文法であれば「倒置」は強調なのだが、はたして音楽用語でもこの考えが通用するのだろうかという疑問提示でお茶を濁している。まさかとは思うが倒置のパターンのいくつかが逆さ読み遊びに近い感覚だったなどという身も蓋もないオチもありはせぬかと、少し心配になってきた。

2026年4月29日 (水)

ritardandoの守備範囲

少し詳しい音楽の解説書には、「ritardando」の項に「ダイナミクスダウンを伴うことがある」ということが書かれている。「ritardando」はテンポに影響を与える他にダイナミクスにも影響があるということなのだ。

ブラームスはそのことをどう考えていたのか楽譜に配置された音楽用語から類推するのが本稿の目的である。

結論を先に書いてしまおうと思う。ブラームスは大筋において「ritardando」にダイナミクスダウン機能を認めていない。純粋なテンポ操作に特化した用語だと考えていた節がある。そう考える根拠を以下に述べる。

「diminuendo」と「ritardando」を同一語句内でしばしば共存させる。「ritardando」自体にダイナミクスダウン効果があるのなら「diminuendo」の併記は不要だ。これが最大の根拠だ。「ritardando」にダイナミクスダウン機能を認めていながら念を押したとは思えない頻度だというのが私の見解である。

逆に「diminuendo」にテンポダウンの機能があるのではと疑われる事例はわずかに存在する。明らかに「diminuendo」だけを受けた「a tempo」「in tempo」は存在しないが、疑わしい例が数件ある。

このあたり、ブラームスがどう考えていたかというよりも、彼の時代の演奏家の間で流布していた習慣の反映だと思われる。演奏上の慣習にブラームスが従っただけかもしれない。

 

 

 

2026年4月25日 (土)

ガルテンハウス

「Gartenhaus」と綴るドイツ語。庭付き家屋と訳される。その昔中世のドイツでは、農家も手工業者も自宅が職場だった。日の出とともに起き、日没によって一日の仕事を終える。事情は都市でも同じだ。市門の開閉は日の出日没が基準とされ、日没後つまり市門閉鎖後、市内は事実上外出禁止だった。夜警の出番というわけだ。職場イコール自宅なら通勤を考えなくてよいからそれで問題はなかった。

事情が変わって来るのは港町。とりわけハンザ都市では裕福な商人が郊外に家族を住まわせるようになる。たびたび蔓延する疫病が都市を中心に猛威を振るうことが経験的に学習されると、この傾向に拍車がかかることになる。ハンブルクで最初のガルテンハウスは1600年頃発生したといわれているが、爆発的流行を見せるのは17世紀中期からだ。貴族以外の上流市民のステイタスになってゆく。産業革命によってひと財産築いた事業家もこれに追随する。

そこではたと考える。

家計を助けるために夜のバイトでピアノを弾き続けたおかげで、健康を害したブラームスをみかねて、父の友人ギーゼマンが、ブラームスを自宅に招待した逸話がある。リースヒェンという娘と仲良くなった話だ。後に美談に発展する話の舞台はハンブルク近郊のヴィンゼンだ。そしてギーゼマンは製紙業を営んでいたとされている。つまりブラームスは、ギーゼマン家のガルテンハウスに迎えられたということだ。

後日、両親の不和に悩むブラームスに仕事場としての下宿を提供したレージンク夫人のケースもあった。彼女が提供した家もハンブルク郊外のハムだった。彼女もまたガルテンハウスを提供したということになる。

2026年4月23日 (木)

スパム

迷惑メールのこと。最早メジャーな用語だ。世の中に飛び交う電子メールのうち9割以上がスパムであるという試算もある。大部分が機械的に無作為に送信されるという。我が家にも当然やってくる。せっせと削除にも慣れてしまった。

 

ブラームスの時代はネットはもちろん電話もない。だからスパムもイタ電も無縁だが、迷惑ハガキは相当舞い込んでいたという。いわゆる「有名人の直筆コレクター」がかなりいたらしい。たとえば「ピアノを一台注文します」というハガキがブラームス宛に届く。つまりこれは「私はピアノ屋ではありません」というブラームス直筆の返信狙いである。

 

楽壇の大御所ブラームスは、そうした手口には慣れっこになっていて、訪ねてきた友人に見せて楽しんでいたという。

 

スパムハガキだ。

 

 

2026年4月21日 (火)

とかげのシッポ切り

トカゲは外敵に襲われるとシッポが切れる。切られたシッポに敵が気をとられているうちにトカゲ自体は逃げてしまう。切れたシッポは再生するらしい。一部を犠牲にして主要な部分を守ることの喩えに用いられる言い方だ。

第一次世界大戦は1818年にドイツの敗北で終わった。ベルサイユ条約で戦後処理が決まった。莫大な賠償金の他にドイツが失った主な領土は以下の通りだ。

 

    1. ポーゼン ポーランドへ

 

    1. 西プロイセン ポーランドへ

 

    1. シュレスヴィヒ デンマークへ

 

    1. ダンチヒ 自由都市化

 

  1. アルザス・ロレーヌ フランスへ

 

5番目のアルザス・ロレーヌを除いて4つ全てプロイセンの旧領だ。領土的にはプロイセンの旧領が差し出されたということだ。意図的なものではないのかもしれないが、ドイツにおけるプロイセンの影響はますます小さくなってゆく。

 

第二次世界大戦後、「元凶はプロイセン」とされたのはそういう意味ではナンセンスだ。ドイツが始めた戦争ではあるがプロイセンの責任はそう大きくないのではないかと感じる。

 

第一次世界大戦でドイツは負けたのだけれど、連合軍がドイツ国内に攻め込むことはなかった。経済封鎖にによって国内経済は疲弊していたが外国の軍隊にドイツ領を蹂躙されないままの敗戦だった。上記の領土でさえ外国軍に占領されたわけではないのに、戦後処理としては割譲となった。ひそかに第二次大戦のタネがまかれたとうことになる。

2026年4月16日 (木)

難易度

ブログへのアクセス解析機能で遊んでいる。どのような言葉をキーにたどり着かれたのかが解るのだ。

 

「難易度」という言葉とブラームスの作品が「and検索」されることが多い。ほとんど毎日見かけるくらいだ。明らかに演奏者の立場からの検索だと思う。作品理解の難易度というニュアンスも皆無ではなかろうが、やはり演奏の難易度と解するのが自然だ。つまりブラームスの個々の作品の演奏の難しさについての情報をネットで調べるというニーズが少なからず存在するということに他ならない。一般の解説書は演奏の難易度が切り口になっていないから無理も無いところだ。

 

演奏の難易度など、実際に楽譜を見て演奏して実感するものだとばかり思っていたが、そうでも無さそうだ。限られた時間で今度取り上げる曲を決定するためには、ショートカットも必要なのだろう。

 

演奏の難しさなどネット上の文章で説明されて理解出来るのかどうかは別として、私のブログがその点では役に立たないことは確かである。

2026年4月 7日 (火)

Deklamation

「音楽と言葉の関係」という意味らしいが難解。

 

ブラームスの友人にしてすぐれた歌手ジョージ・ヘンシェルは、あるときブラームスの「勝利の歌」の独唱を受け持ったが、喉の調子を壊していた。そこで彼は作曲者ブラームスに一部音の変更を願い入れた。

 

ブラームスは「デクラマチオン」の範囲内でこれを許可したという。むしろ物のわかった歌い手はそうするものだと。ヘンシェルを誉めている。

 

ヘンシェル自身がこのときの変更を証言する。

 

和音の範囲内で、少し低い音に変えたが、変えた音が依然としてその周辺での最高音となり、テキスト「Himmel」(天国)の意味を強調する作曲者の意図を保存したとしている。つまり作曲者がテキストの流れを忠実に音に転写しているのだから、音の変更はその意図をぶち壊しにしない範囲で許されるということだ。

 

ということから逆算するとこの「Deklamation」という言葉の大切さがよくわかる。どんなに短い歌曲でもデクラマチオンへの配慮が行き届いているということだ。テキストが本来持っている、抑揚、音韻、間、意味が作品にもれなく無理なく転写されていると解したい。

 

 

2026年3月28日 (土)

五楽章制

ソナタの楽章数を5つにすること。基本は3または4であるが2もときたま。

五楽章制を採用するソナタとしてはベートーヴェンの田園交響曲が有名である。第3楽章スケルツォと嵐の去った後の感謝からなるフィナーレの間に「雷雨」の様子が挿入されてそれが第4楽章と位置付けられている。ソナタ形式の頂点を極めたベートーヴェンは、その晩年において、ソナタの楽章の数を増大させる挙に出た。弦楽四重奏曲の13番14番15番においてその楽章はそれぞれ6,7,5となっている。

さらに名高いのは幻想交響曲だ。これは五楽章ある。そして極めつけマーラーの一連の五楽章制へと続く。

ブラームスのソナタは室内楽24曲、交響曲4曲、協奏曲4曲、ピアノソナタ3曲の35曲を数える。楽章の数は原則として3か4で、唯一の例外がピアノソナタ第3番で、これは五楽章である。この周辺の事情は2005年11月13日の記事「楽章の数」に詳しい。

http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2005/11/post_e350.html

ピアノソナタ第3番ヘ短調op5だけが5つの楽章を持つ。1854年発表で四楽章制のピアノソナタを2曲発表した後に完成した。ブラームスの人生はあと43年続くのだが、五楽章のソナタはこれが最後になった。

ブラームスのピアノソナタ第3番の五楽章制は緩徐楽章が、2つに割れてスケルツォを包み込む形になっている。「回想」と名付けられた第4楽章は、明らかに第2楽章をトレースした旋律から始まっている。古今の五楽章制ソナタを見回してもこのパターンは大変珍しい。この作品を生み出した手ごたえから「ソナタの楽章は3個か4個」と確信したのだろうか。断っておくが、ピアノソナタ第3番はけして失敗作ではない。ピアノソナタ3つの中では、おそらく最もCDの種類が多い。なのにブラームスはこの作品によって、五楽章制を永遠に放棄したばかりか、ピアノソナタというジャンルとも決別している。

ブラームスピアノソナタ第3番の作曲後に、何かを決心したことは間違いない。

 

 

2026年3月18日 (水)

坊主憎けりゃ

あるものを嫌いになると、それに関連する事柄までつられて嫌いになることを意味することわざが「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」である。誰にでもある現象で、人間の心の有り様を良く現していると感じる。

 

作曲家個人が嫌いだと、その作品まで嫌いという現象は古来枚挙に暇がない。特に作曲家存命中だと、作曲家個人のキャラに触れることが出来るからそういうことが起きやすい。

 

ブラームスの伝記を読んでいてすぐに思いつくのがハンス・フォン・ビューローだ。クララの父の弟子として台頭した彼は、リストに賞賛されその娘と結婚する。ワーグナーに心酔した彼はその作品の支持者になるが、妻がそのワーグナーの許に走ると一転してブラームス支持者となる。愛妻を取られたのだからワーグナー憎しは自然である。それでワーグナーの作品への共感も冷めてしまったという訳だ。

 

それからハンスリック。19世紀ドイツ楽壇を2分した論争における反ワーグナーの急先鋒だ。ワーグナー憎しが高じてその周辺の賛同者まで批評の対象にした。ウィーンを本拠にしていたブルックナーが、あまりの攻撃振りに困り果てて皇帝に直訴の一幕もあった。

 

一方、ロベルト・シューマンの妻クララや、大ヴァイオリニスト・ヨアヒムは、最初から一貫してブラームスの支持者だ。後年不和に陥ることもあったが、ブラームス作品そのものへの評価は一貫している。坊主は坊主で袈裟は袈裟ということだ。

 

私はというと、ブラームスの没後に生まれたから、ブラームスに直接接した訳ではない。伝え聞く範囲で彼のキャラや作品を知り心酔した。作品の味わいからブラームスのキャラを推定し、そうして完成したブラームス象が作品の聴き方に影響するということを繰り返してきた。坊主と袈裟が限りなく一体に近い。作品に親しむと同時に作曲家のキャラも深く知りたいと願う。

 

気が付けば、そういう聴き方しか出来なくなっている。

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