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カテゴリー「001 用語解説」の1000件の記事

2022年8月 5日 (金)

芋づる式

一つのことをキッカケに、関連する事項が次々と明らかになることくらいの意味だ。

ヴィヴァルディと言えば我が国ではバロック音楽を代表する不動の位置づけにある。ところが、バッハ同様長らく忘れられていた作曲家でもある。19世紀後半に訪れたバッハ再興の動きは、バッハ作品の研究面で飛躍的な発展を見せた。バッハは研究熱心で、他の作曲家の作品を編曲することが多かった。そのターゲットの中にヴィヴァルディがいたのだ。バッハルネサンスの展開の中から芋づる式に復活したのがヴィヴァルディという訳だ。「あのバッハがこれほど熱心に編曲しているのだから、さぞ立派な作曲家だったのだろう」というノリかもしれない。

遠い将来。

ブラームス研究を志す人が、ブラームスについて知見を深める活動の中から私の本やブログが芋づる式につり上げられることがあるかもしれない。

いつ釣り上げられても恥ずかしくないように、ピチピチと元気なブラームスネタを発信し続けたい。

2022年4月27日 (水)

絶対音感

厳格な定義は私の手には余る。

鳴らされる音の音名が即座に言い当てられると絶対音感があるっぽく見える。鳴らされるのが和音であっても、それを構成する音全てを言い当てられる人も多い。

疑問が無い訳ではない。音名を言い当てられるというのは既に相対的だ。Aの振動数をどれほどと設定するのかで同じ音でも音名が代わってしまうこともあるだろう。あるいは、ハ長調で書かれた作品をニ長調に移調した楽譜を用意する。半音低く調弦された楽器で演奏して録音する。それを再生するときにさらに半音低く再生すると、絶対音感のある人々は何調と認識するのだろうか?

絶対音感どころか相対音感も怪しい私には別世界のお話である。

ブラームスは、はたして現代使われている意味での絶対音感を持っていたのだろうか?鳴っている曲を即座に楽譜に書き留めるくらいの芸当は朝飯前だろうが、それが現代絶対音感と呼びならわされている能力に相当するかどうかは断言が難しい。

散歩の最中に聴いたもの悲しいカエルの鳴き声を「減七和音」と指摘した逸話もある。音に対する鋭敏な感覚を持っていたことは想像に難くない。

2022年4月26日 (火)

ゲーム脳

ゲームのやり過ぎが脳に悪影響を与えるとする見地からのネーミングだそうだ。テレビ脳やメール脳も同類だと思われる。何故勉強のやり過ぎはやり玉に挙がらぬのかは、今後の研究課題である。

医学的なことはさっぱり解らぬが、こうした用語が本や雑誌の売り上げあるいはテレビの視聴率を稼ぐための手軽なツールになっているケースも少なからず混入していると思われる。身近な不安や恐怖を煽るのは常套手段である。

目の酷使、同じ姿勢の継続だけならば、受験勉強も同等のはずだが、「受験勉強脳」とは言われない。定義が難しそうなのでそそくさと退散する。

年がら年中ブラームスを聴き、屁理屈をこね回し、自費出版までしてしまったばかりか、こんなブログまで運営している私は、「ブラームス脳」だと思われる。

ブラームス脳の症状はと言われても自分のことなのでよく定義出来ない。周りで見ている人の方がよく解ると思う。自分では普通と思っていることが、ひと様からはそう見えていないこともある。

ブラームスを聴くのをやめても、その分感覚が研ぎ澄まされてブラームスを考えてばかりになるので始末が悪い。

2022年4月25日 (月)

Next one

クリエイティブな仕事をしている人たちが、「自作でもっとも気に入っているのは」と問われた時しばしば発する答えだ。

本当は「我が子同然の作品について序列化なんぞ出来ねぇよ」と言いたいところをグッとこらえてウイットを混ぜ込んだと解されよう。この受け答えを真に受けるのは野暮というものだ。次に発表された作品を「これが彼のベスト作品だ」と触れ回っては失笑の的になりかねない。次の作品が出た後、同じ事を彼に訊けばやはり「Next one」と言うに決まっている。

これには「私は進化し続ける」という意味や「次をお楽しみに」という意味を濃厚に含むのだ。愛好家としては気になるところだが、それを芸術家に言わせるのは無理と思った方が良い。

同じ事がブラームスでも起きている可能性がある。

同様の問いかけを受けたブラームスが「最後に聞いた作品さ」と答えたというエピソードを真に受ける中で起きた。「おおっ」とばかり色めきだったマニアは、その瞬間を起点に、ブラームスが最後に聴いた自作の記録を漁ることになる。仮にそれが「第4交響曲らしい」と解る。これで「ブラームスが自作で気に入っていたのが第4交響曲だ」という説が一人歩きを始めるという寸法だ。

待って欲しい。

  1. 仮にブラームスが心底「自作の最高は第4交響曲だ」と思っていたら「最後に聴いた作品さ」などと答えるだろうか。素直に「第4交響曲」と言えばいいのだ。インタビュウアーが自分の聴いた直近の演奏会の情報にたどりつく保証はないから誤解が発生する可能性がある。
  2. インタビューの直前に聴いた演奏会で第4交響曲が演奏されたことだけは仮に事実としよう。でも本当は次の演奏会の後に同じ答えをしないことを確認しなければいけない。ブラームスはいつもこの手の質問に「最後に聴いた作品さ」と答えていたかもしれない。
  3. 問題の演奏会で第4交響曲の後のアンコールでブラームス作品が演奏されてないことを確認せねばならない。
  4. さらにその演奏会の後、自室において一人でプライヴェートにピアノ小品を弾かなかったことを証明せねばならない。その他あらゆる機会にブラームス作品を聴いていない証拠とセットでなければならない。インタビューの時点で最後に聴いた曲は、一人で弾いたインテルメッツォかもしれないではないか。

上記諸点の裏付けとセットでなければ断言は難しいと感じる。

ブラームスは「Next one」と答える代わりに「最後に聴いた作品さ」と言ったと考える方がより自然だと思う。

 

 

 

 

2022年4月22日 (金)

二元論

たとえば「白黒」「善悪」というように、世の中で起きている諸事象を2分類することで捉えようとする試み、または考え方のことだ。

天下分け目の戦いとされている関ヶ原の合戦は、当時の大名たちを2分する戦いだった。一般に東軍西軍と言われているが、単純に地理的な東西対抗ではなかったという。風雲急を告げてから、実際の合戦までの間水面下の諜報活動が盛んだったらしい。大名たちはその勢力の大小にかかわらず東西どちらの陣営に与するか、事前に意思表示を求められた。自分が味方した陣営が負ければお家の一大事だ。しかし中立というのも戦後の論功行賞で後手を引くのだ。

皆相当困った。とりわけ東西どちらにも恩も義理もない大名は、相当困ったはずだ。だから意思表示を引き延ばして、周囲の流れを読んだ。あるいは戦いの大勢が決すると、次々と寝返りが起きた。どだい東西の二元論では無理があるのだ。

19世紀後半、欧州とりわけドイツ・オーストリアの楽壇を2分した論争があった。両陣営の首領の名前をとってブラームス派とワーグナー派の論争とも言われている。当時普及著しかった音楽ジャーナリズムに乗って論争はおおいに盛り上がった。論争の中心人物たちはともかく、どっちでもいい人あるいは両方嫌いな人や、両方好きな人は困ったと思う。

実際にワーグナーの周囲に集う門人でありながらブラームスの音楽を評価する人々もいて、過激な中傷合戦には沈黙をもって距離をおいていたという。ゴルトマルクやタウジヒなど音楽史上の評価ではワーグナー派と目される人とブラームスの交流も伝えられている。何よりもブラームス派の首脳と目される2人、ハンスリックとビューローは元々はワーグナーの賛美者だったくらいだ。

関ヶ原の合戦に際して、機を見るに敏な商人たちは、ちゃっかり両陣営と商売していた。似た立場にいたのが、この論争が盛り上げれば盛り上がるほど、売り上げが伸びる音楽ジャーナリズム業界の人々だ。両陣営の関係者からコメントを取っては誌上を飾る。コメントが過激なほど好都合だった。この手の二元論が根強いほど商売には有利だ。

大河ドラマを作るには好都合だが、世の中どうもそう単純ではないらしい。

 

 

2022年4月20日 (水)

同業他社

同じ業界に属する別の会社の意味だ。ビジネスの世界では普通に用いられる言い回しである。ほぼ「競争相手」と同義だったりもする。成熟した市場では需要の拡大はアテにできないから、売り上げを伸ばそうと思えばマーケットシェアの獲得しか道がない。ヒット商品の創造同様に言うは易しの世界である。さらに困ったことに同業他社どうしの癒着や馴れ合いは法律によって禁止されているのが普通である。

作曲家にとって、自分以外の作曲家が同業他社にあたる。

自らの独創性を世に問う職業だから、業界の動向に無関心過ぎるのも考え物だが、同業他社の研究にはあまり熱心ではない。他の作曲家の作風を真似たところでタカが知れている。古今の大作曲家と呼ばれる人たちは、他の作曲家から受けた影響など、伝記の片隅にひっそりと書かれることが多い。

例によってブラームスは例外だ。先輩作曲家の研究に余念が無かった。先輩ばかりではない、同時代の作曲家の業績にも無関心ではいられなかった。つまり同業他社の動向をいつも研究していたのだ。研究するばかりではなく、自らの作品にそれを生かしていた。これこそまさにマーケティングである。

現代のクラシック音楽業界における知名度に関係無く、数多くの作曲家を研究した成果を自分なりに消化吸収して作品に盛り込んだ。それでいてけして埋没することのない個性が作品に宿っていることをブラームスの特徴の一つとしたいくらいである。

2022年4月19日 (火)

時代遅れ

ブラームスの作品を批判する際にしばしば用いられた表現。生前にもそういって作品を批評されていた。それらに対してブラームスは沈黙を貫いていた。

手許の辞書で「時代遅れ」を引いた。「時流に乗っていないこと」「時代の趨勢に乗り遅れていること」とある。つまり「作品が時代の趨勢に乗っていない」と批判された訳だ。そもそも「時代の趨勢」とは何ぞやという点も私のような素人には難題だがひとまず棚上げだ。

恐らく「時代遅れだ」と批判する側は痛烈に批判したつもりだろう。世の中ロマン派末期だ。ロマン主義爛熟と言えば聞こえはいいが、早い話「何でも有り」の状態だったから言われたブラームスはそれを批判と感じたかどうか怪しい。むしろ「我が意を得たり」だったのではあるまいか?「何でも有り」の風潮に安易に乗ってしまうほうがよっぽどやばいと思っていたのではないだろうか?

「時代遅れ」であるかないかについては議論にならなかったと思われる。敢えて言えばブラームス自身「時代遅れ」だと思っていただろう。時代の潮流に安易に乗らないことを美徳としていたブラームスにとっては「誉め言葉」に聞こえた可能性さえある。あの時代の中にあって「時代遅れ」を貫いたことに価値がある。

そのブラームスの作品は時代と場所を突き抜けて現代の日本人である私の心を捉えて離さない。

2022年4月16日 (土)

医薬分業

私が子供の頃、医者から薬をもらうことが多かった。最近は医者からもらうのは処方箋だけで、薬は薬局でもらうことが増えた。これが「医薬分業」だ。メリット、デメリットとも様々な形で議論されているらしい。

ハンス・フォン・ビューローという人がいた。クララの父の弟子。ピアニストで指揮者だ。音楽史に残る名言をいくつか吐いていることでも知られる。彼の功績に「作曲家と演奏家の分離を決定づけた」ことを挙げる人も多い。彼以前はそれらの区別は混沌としていた。特に指揮の分野において彼の業績は高く評価されている。

我々が今日クラシック音楽と呼んでいる世界においては、過去の作曲家の手による作品を演奏することが定着している。この傾向が現れたのが、実は19世紀だった。ということはつまり、演奏する時点で作曲家が没していることが増えてくる。時間が経つほどそうなる。つまり作曲家イコール演奏家ではあり得ないのだ。「作曲家と演奏家の分離を決定づけたこと」をビューローの功績とするより、時の流れに近いと感じる。彼の功績は、その流れを先取りしたことにあると思う。

さて作曲と演奏の分離はただいま申し上げたとおりだ。実は密かに疑問に思うことがある。

「解釈と演奏の分離」だ。19世紀に作曲と演奏が分離したように、解釈が演奏から新たに分離することはあり得ぬ妄想だろうか。まるで医薬分業のようにである。現在、解釈は演奏の一部だ。CDのラベルには作曲家と作品名と演奏家だけが書かれる。オペラの演出家は例外だ。オペラ以外のCDに解釈だれそれと書かれるようになりはしないかという疑問だ。

私の解釈で誰か演奏をしてくれる人はいないものか。せっかく解釈出来ても演奏で台無しにしてしまうことが多いから、つい妄想が膨らむ。

 

 

2022年4月11日 (月)

神童

「特定の分野に関して非凡な才能を持った子供」くらいの意味。音楽史でも作曲・演奏の両分野で神童に関するエピソードには事欠かない。残念ながら聴衆側に神童の概念はないようだ。

子細に見るとさらに、おおよそ以下の如く細分化出来ると思われる。

  1. 大人顔負けであること。これが本来の意味。20歳過ぎてただの人になってもよい。
  2. その年齢の子にしては優れていることの誇張表現。
  3. 上記1も2も満たしていないにもかかわらず主にマーケティング上の意図から神童と呼ばれている状態。ブラームス自身ピアノの才能を認めたプロデューサーからアメリカ行きを持ちかけられたことがある。

1896年2月1日、13歳のブロニスラフ・フーベルマンがブラームス本人の前でヴァイオリン協奏曲を演奏した。終演後ブラームスが楽屋に駆けつけるとフーベルマンは、カデンツァの途中で拍手が起きて集中できなかったことを嘆いていた。ブラームスは「それならカデンツァをあんなに美しく弾かなければいいのだよ」と言って慰めたという。大抵の伝記には「神童の類を好まなかったブラームスにしては珍しく」というニュアンスで書かれている。とてもセンスのある誉め方だ。ブラームス本人とのこうしたエピソードがヴァイオリニスト・フーベルマンを内外から支えたことは想像に難くない。フーベルマンは20歳を過ぎてもただの人にはならなかった。

このエピソードから、ブラームスが嫌っていたのは、上記分類の2または3の意味の「神童」だと思われる。あるいは「神童」という言葉そのものへの嫌悪だった可能性もある。優れた演奏が子供の弾き手によって実現した場合、賞賛の意思を温かく表現するデリカシーは持ち合わせていたと考えられる。

もちろんブラームス自身は神童扱いされていない。大器晩成 と神童の間くらい。それなら私と一緒かというとやはりそれも違う。

しかし昨日、日本プロ野球28年ぶりの完全試合を達成した20歳と18歳のバッテリーは、神童にカウントしたい気分である。

2022年4月10日 (日)

大器晩成

ブラームスを指してこの言葉が用いられる時、しばしば頭が混乱する。

ブラームスの創作人生の何を称して「大器晩成」というのか首をかしげたくなることも少なくない。10歳になる前からブラームスは音楽的な才能を示したことが大抵の伝記には書いてある。最初の教師は多分父親で、次の教師はコッセルだ。この二人ともがブラームスの才能を確信したからこそ10歳でエドワルド・マルクセンに師事することになった。そのマルクセンもブラームスの才能を見抜き徹底して古典を叩き込んだ。やがてブラームスはピアノ協奏曲第2番を献呈してマルクセンに謝意を示している。

「この程度の実績では、ブラームスが壮年期以降に成し遂げた成果に比して貧弱だ」という意味で「大器晩成」という語が使われているのだとしたら、一応納得できる。

交響曲、弦楽四重奏曲、ヴァイオリンソナタが壮年期になって世に出たことが「大器晩成」と呼ばれる理由だろうか?しかし「第1番」が必ずしも「最初の作品」ではないことは常に念頭におくべきだ。3曲のピアノソナタを20歳そこそこで作曲したという事実をもってしても「大器晩成」という形容がまかり通るのだろうか?何かと強調される「第一交響曲に20年云々」というエピソードの影響が無いとは言えまい。容赦のない自己批判の結果、残された作品の品質は若い頃から一定の水準を保ち続けているブラームスを「大器晩成」と称するのは少し違和感がある。

「神童としてもてはやされなかった」あるいは「若死にしなかった」程度の意味で「大器晩成」という言葉が使われてやしないか心配になる。

ひょっとすると、学校の音楽室のお決まりの肖像が「大器晩成」という言い回しの無意識な根拠になっているかもしれない。

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