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カテゴリー「108 調性」の138件の記事

2024年11月12日 (火)

シャープ苦手

私のことだ。楽譜各段左端に付与される記号はシャープとフラット。ナチュラル左端には来ない。もちろんダブルシャープやダブルフラットもだ。だから話をシャープとフラットに限る。CDやDVDを鑑賞しているだけならこのようなことは言わない。

ヴィオラ演奏に際しての私の癖だ。

大学入学後初心者でヴィオラを始めた私は、およそ9ケ月後に初演奏会を迎えた。ブラームスの第二交響曲だ。これはニ長調でシャープが2個。同曲の第2楽章がなんとシャープ5個のロ長調だった。これが今に至るも続くシャープ苦手の原点だ。さらに次、2年生春の演奏会では、ベートーヴェンの第3交響曲とブラームスの大学祝典序曲。曲頭だけでいうならフラット3個だ。ところが加藤知子先生をソリストに迎えたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲のフィナーレがシャープ4個で凍り付いた。第1楽章のホ短調はシャープ1個なのだが、短調は厄介でDにちょくちょくシャープがつく。これが混乱に拍車をかけた。

そうだ。エロイカ交響曲の変ホ長調の主音と異名同音だというのにこの嬰ニ音がどうにもこうにも様にならなかった。

試しに異名同音を以下にいくつか列挙する。

  1. AisーB
  2. Cis-Des
  3. DisーEs
  4. Fis-Ges
  5. Gis-As

赤文字にした方が使い勝手がいい。2と4は引き分け。フラットvsシャープの争いなら3勝2引き分けでフラットの勝ちだ。

私だけだろうか。

 

2024年6月18日 (火)

ドリアン状態

私の造語なので説明が要る。

トッカータとフーガニ短調BWV538は古来「ドリアントッカータ」といわれている。これはバロック時代特有の特殊な記譜法に由来する。シャープもフラットもつかない調性はハ長調とイ短調だ。そこからフラット1個でヘ長調(ニ短調)に代わり、2個3個4個と増えてゆくとそれぞれ、変ロ長調、変ホ長調、変イ長調となってゆく。ところがだ、フラットを1個も付与しないままなのに、実質ニ短調が鳴る作品がときどきある。

これは教会旋法のドリア調だ。ピアノの白鍵だけをレから上るとも言える。先のBWV538ドリアントッカータはこの状態で記譜されているためである。

最後に付与されるべきフラットの留保と定義できる。

20240608_182015

ドーヴァー社のカンタータの楽譜を手元に置いて、大好きな「Ich habe Genug」BWV82を開けたところ、奇妙な現象に気づいた。ヴィオラ以下はC音を鳴らす。セカンドのEsが第三音となってハ短調の枠組みが成り立っているのに、フラットが2個しかない。フラットが2個だとト短調となるのが一般的だが、これいかに。

つまり、これは最後3個目にA音に付与されるべきフラットが留保されていると解するのが自然だ。つまり最後のフラット留保だ。ニ短調で起こりやすいドリアン状態がハ短調で起きているということ。ハ短調から見た平行調の変ホ長調の第3曲はフラットが省かれることなく3個記載されているから通常標記に戻っていて安心するのもつかの間、ハ短調に回帰するフィナーレ第5曲では再びフラットが1個省かれた記譜になっている。

楽譜参照がやめられない理由がこれにて一部説明できる。

2024年2月17日 (土)

声種と調性

やはりカンタータ82番「Ich habe Genug」BWV82は、人気があったということなのだろう。現在バス用カンタータとして定着しているが、その他の声種用にも編曲されて出版も演奏もされた形跡がある。初演は1727年2月2日だそうだが、再演の記録が下記の通りあるという。

  • 1731年 ソプラノ用 ホ短調
  • 1735年 メゾソプラノ用 ハ短調

もともと第1曲がアルト用で書かれたことから、アルト用での演奏もあると書いたが、メゾソプラノやソプラノもありということだ。

2023年9月 8日 (金)

5度犠牲

16世紀初頭に考案されたオルガンの調律法にミーントーンがある。この調律法の特色を一言で申すなら「5度犠牲」とでもしておきたい。Gis音とEs音で生じる耐えがたい不協和音が「ヴォルフ」と呼ばれて恐れられていること周知の通りである。「ヴォルフ」を筆頭に、さまざまな制約もありながらも、シャープ、フラットとも2個以内なら長短どちらも美しいというメリットもあり重宝されてきたという。
ミーントーン調律法が5度の響きを犠牲にしてまで守ろうとしたものは何か。
それは「3度」である。

2023年8月 3日 (木)

改めて短調の比率

またまた話をハイドンの交響曲104曲、弦楽四重奏曲83曲、ピアノ三重奏曲41曲、ピアノソナタ52曲に限定する。つまり器楽用多楽章ソナタということだ。全部で280曲になる。

このうち短調作品がいくつあるかという話だ。ここでいう短調作品の定義は第一楽章冒頭の調性とする。記譜と実際に鳴る冒頭和音のずれは無視する。交響曲は11曲。弦楽四重奏曲は12曲、ピアノ三重奏曲は7曲、ピアノソナタは5曲。全部で35曲だ。率にして12.5%。

感覚として少ないのだが、モーツアルトやバッハでも短調は少ないのでその範囲内。おおむね調号3個以内。フラット4個のヘ短調と、シャープ4個の嬰ハ短調が各1曲ずつだ。

その短調にお気に入りが多い。

交響曲第44番ホ短調「告別」、同45番「悲しみ」

弦楽四重奏曲第74番「騎士」、同76番「五度」

ピアノソナタ第34番、36番。

ピアノ三重奏曲第26番、31番。

たまにあるから印象に残るだけかもしれないが記憶しておきたい。

 

 

2023年6月17日 (土)

混戦の調

記事「パズルセイバー」で、調性取り揃え系のパズルにおける鬼門の調を3つ挙げた。空白になってパズルが破綻するリスクだ。一方、特定の調に著名な曲が集中する傾向もある。1つに絞る苦しみを味わることになる。以下その一例だ。

  1. ハ長調 ジュピターとグレート
  2. ハ短調 たしか幻想。運命とブラ1もだ。サンサーンス3番。
  3. ニ長調 シベリウス2番、時計、巨人、ハフナー。そうそうブラ2も。
  4. ニ短調 第九と革命。宗教改革。
  5. 変ホ長調 エロイカ。ロマンティック、ライン、モーツアルト39。
  6. ホ短調 新世界、チャイコ5番、ブラ4、ハイドンの44
  7. ヘ長調 田園、ブラ3
  8. ト長調 ドボ8と軍隊。
  9. イ長調 イタリアとベト7。
  10. ロ短調 悲愴と未完成。

バッハがインヴェンションで採用した調とほぼ一致。つまり調の常用域。

2023年6月16日 (金)

パズルセイバー

昨日の記事「平均律交響曲集」の余韻。この手の「調性取り揃え系パズル」において鬼門なのが以下の3種の音。

  1. 嬰ハ=変二
  2. 嬰へ=変ト
  3. 嬰ト=変イ

これらを主音にすると長調でも短調でも作品数が少ない。今回マーラーの5番で嬰ハ、ハイドンの45番で嬰へ、エルガーの1番で変イがそれぞれ存在したおかげで、パズルが完成した。これらはパズルセイバーというわけだ。これらの調は難易度が高いということだ。調号としてのシャープやフラットがてんこ盛りされる。長調を前提にすると嬰ハはシャープ7個、嬰へだって6個必要だが、短調に挿げ替えるとそれぞれ4個と3個で済む。

一方嬰トは長調だとシャープ8個だ。6個と1個のダブルシャープにでもするんかいな。これは異名同音で変イとすることでフラット4個で収まる。

ピアノソナタや弦楽四重奏でやるにしても相当むずかしい。ヴァイオリン協奏曲だと絶望だ。

2023年6月15日 (木)

平均率交響曲集

パズル交響曲の13人 」が意外と楽しめたので、またパズル系のノリで。

本日はオクターブを構成する12の音全ての音について、それを主音にする交響曲を1つずつ選ぶことにする。第一楽章の調性をキーにすることに他ならない。ただし同じ作曲家を複数回採用しない。長調と短調を6種ずつ揃える。説明するより結果を見ていただく方が速かろうということで選定の結果を以下に列挙する。

  1. ハ長調  シューベルト第8番「グレート」
  2. 嬰ハ短調 マーラー第5番
  3. ニ短調  ショスタコービッチ第5番「革命」
  4. 変ホ長調 ブルックナー第4番「ロマンティック」
  5. ホ短調  ドヴォルザーク第9番「新世界より」
  6. ヘ長調  ベートーヴェン第6番「田園」
  7. 嬰ヘ短調 ハイドン第45番「告別」
  8. ト短調  モーツアルト第40番
  9. 変イ長調 エルガー第1番
  10. イ長調  メンデルスゾーン第4番「イタリア」
  11. 変ロ長調 シューマン第1番
  12. ロ短調  チャイコフスキー第6番「悲愴」

以上。

長短どちらも6種。作曲家に重複がない。バッハさんは平均律クラヴィーア曲集で12音全てで長短取り揃えたけれど、交響曲では難易度が半端なく高いので断念。最年長はハイドン先生。最年少はショスタコーヴィッチ。結果として交響曲の歴史をトレースしているような錯覚に陥った。サンサーンス、ベルリオーズ、ボロディン、シベリウス、プロコフィエフ、リヒャルト・シュトラウスなどの名前は見えぬものの無難な着地だ。

そうそう、ブラームスがいない。この12名にブラームスを足して13に仕立てようという巧妙な意図である。

2023年3月19日 (日)

やっぱりハ短調

現在ベートーヴェンの弦楽四重奏のベスト3を選ぶとなると絶対に落とせないのが4番ハ短調だ。ベートーヴェン唯一のハ短調の弦楽四重奏でもある。学生時代にヴィオラで弾いたことがあるけれど、あの頃から大好きだった。第一楽章の出だしからしびれる。緩徐楽章を欠く。第二楽章に置かれる遅めのメヌエットで緩徐楽章テイストを仄めかすことで補っているかもしれない。これぞベートーヴェンのハ短調という風情。運命交響曲、悲愴ソナタとともに「脳内三大ハ短調」を形成する。何か標題がついていたらもっと知名度が上がっているに違いない。

一連の後期作品を抑えて第一位かもしれぬ。

2023年3月15日 (水)

春の転調

ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第5番は「春」という題名がついていることもあってか、割と早い段階で聴いていた。最初はミュージックエコーの付録だったかもしれない。第一楽章冒頭の旋律を聞いて驚いた。「運命」を書いた同じ人の作品かという驚きだ。出だしの旋律が「春」そのものだと感じたものだ。旋律がピアノに弾きつがれた後、ヴァイオリンに現れるアルペジオを聴いてなんとも幸せな気持ちになった。ベートーヴェンってなんでもすごいんだなと。

鑑賞経験が浅く、ソナタ形式もへったくれもなかった時代ではあったが、主旋律が戻るところが聴きどころだと感じてもいた。冒頭旋律がピアノに回帰してルンルンしていたら、ヴァイオリンに引き継がれて2小節目の途中から短調にすり替わった。

いやもう衝撃でしたわ。もっと心地よい旋律を聴いていたいのに、キュンとなった。人生で初めて転調に感動した瞬間だ。

ツボをおさえまくった転調はブラームスのお家芸でもあるけれど、最初はこの「春の転調」で始まった。

 

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