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カテゴリー「108 調性」の87件の記事

2019年3月 6日 (水)

井戸振り見えろ

おバカなタイトルだが、少々のご辛抱を。

ブラームスに限らず作品の解説書を読んでいると、しばしば教会旋法が引用される。何やらわかりにくいと腰が引けているが、面倒臭がってもいられないので本日はそれらを整理する。まずはピアノの鍵盤を思い浮かべて頂く。本日に限っては黒鍵に用はない。話は白鍵で完結する。

  • CからCまで オニア調 教会旋法としての名前があるにはあるが、これは普通のハ長調だから、いちいち「教会旋法のイオニア調です」などと解説されたりはしない。
  • DからDまで リア調 バッハのBWV538「ドリアントッカータ」で名高い。ブラームスにもドリアンリートがある。ニ短調の和声的短音階の中の「B」にナチュラルを与えればいい。
  • EからEまで フリギア調 ホ短調の和声的短音階の中の「Fis」にナチュラルを与えればいい。第4交響曲の第2楽章冒頭のホルン。シャープ4個を付与された「ホ長調」だというのに、冒頭いきなり「Fis」にナチュラルが投じられる。いやはやな展開。ここに限らず短調音階の第2音が半音下がると「フリギア2度」と呼ばれる。
  • FからFまで リディア調 ヘ長調音階の中の「B」にナチュラルを与えればいい。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第15番の第3楽章が名高い。ブラームスではロマンツェop118-5の24小節目の嬰ト音のトリルが怪しいと古来指摘されている。
  • GからGまで ミクソリディア調 ト長調音階の中の「Fis」にナチュラルを与えればいい。てゆーか単なる「G7」。
  • AからAまで エオリア調 これも単なるイ短調なので解説書で言及されることはない。
  • HからHまで ロクリア調ギリシア旋法としては存在したが教会旋法としては捨てられた。主音の5度上の音・嬰ヘが黒鍵なるからかもしれない。

上記と同じ音程間隔を持つ音階は、理論的にはどの音を起点にしても想定出来るが、教会旋法は白鍵に限られている。ドリア調はD起点に限ると言うことだ。だからD起点以外の場合、「ドリア風」としか呼べないらしい。

「井戸振り見えろ」は、これらを順に覚える呪文だ。「イオニア」の「い」、「ドリア」の「ど」、「フリギア」の「ふ」、「リディア」の「り」、「ミクソリディア」の「み」、「エオリア」の「え」という具合にきて「HからHまで」は「ロクリア」の「ロ」にする。これで「いどふりみえろ」となる。

2019年2月23日 (土)

ドリアンシャコンヌ

バッハのBWV538は「ドリアントッカータ」の異名で名高い。ニ短調なのに「♭」が付与されていない。教会旋法「ドリア調」然として聞こえるから「ドリアン」とされる。ピアノの白鍵をDから上にオクターブたどった音階と記憶している。

昨日、パッヘルベルのシャコンヌニ短調が、ブラームスの第四交響曲のフィナーレの素材になったバッハのカンタータ150番の下敷きになっているとはしゃいだ。

その楽譜を見て驚いた。

20180313_184706
はっきりと「in d」とタイトリングされながら、左端の調号に「♭」が見当たらない。拍子の「3」という標記もおどろきだ。

つまりこれはドリア調だ。だからドリアンシャコンヌである。

2018年4月24日 (火)

個体識別のツール

作品のタイトルに調性が付与されるのは、個体識別のツールだと実感している。「協奏曲ニ長調」「ハ短調交響曲」など。同一ジャンルに複数の作品がある場合に「序数」のほかに調性が付与されることで、個体識別が容易になる。

バッハのオルガン作品を調べていると、「オルガン自由曲」には大抵調性が付与される。「小フーガト短調」「トッカータとフーガニ短調」などなど。

ところが、オルガンコラールになるとちっとも調性が出てこない。コラールは古来、テキストの一行目をもってタイトルに代えるというしきたりがあるから、調性を付与する必要がない。カンタータも同様に調性は脱落する。「主よ人の望みの喜びよト長調」「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ変ホ長調」とは言われない。

そういえば、ブラームスだって「ドイツレクイエムヘ長調」とは言わない。

2017年11月 3日 (金)

もしかしてC

昨日の記事「Dという根幹」で、ブラームスの4つの協奏曲には「D」を主音とする楽章が必ず一つは含まれると書いた。同じ事を交響曲で考えるとどうなるかというのが本日の話題だ。

全ての交響曲で顔を出す調は無い。惜しいのが「C」だ。第2交響曲以外の3曲で全て顔を出す。1番は両端楽章でキッチリ現れる。3番は第2楽章がハ長調で、第3楽章がハ短調である。第4番は第3楽章がハ長調になっている。「C」系と「D」系があるような気がする。もちろん協奏曲は「D」系だ。

大学祝典序曲はハ短調だから「C」系だなどと笑っている場合ではなかった。それと好一対をなす悲劇的序曲はニ短調つまり「D」系だった。

2017年11月 2日 (木)

Dという根幹

ブラームスが残した協奏曲は全部で4つだ。

  1. ピアノ協奏曲第1番ニ短調op15 ニ短調ニ長調ニ短調
  2. ヴァイオリン協奏曲ニ長調op77 ニ長調→ヘ長調→ニ長調
  3. ピアノ協奏曲第2番変ロ長調op83 変ロ長調→ニ短調→変ロ長調→変ロ長調
  4. ヴァイオリンとチェロのための協奏曲イ短調op102 イ短調→ニ長調→イ短調

見ての通り、4つの協奏曲全てに「D」を主音とする楽章がある。「D」を主音とする最初の2つは、当たり前の話だが、後の2つにニ短調とニ長調が現れるのは、一段と有り難みが増す。

おそらく偶然なのだと思う。けれどもこういう偶然を、ひるまずに記事にして行かないと2033年までは持たない。

2016年10月22日 (土)

紅葉踏み分け

百人一首にある歌。

奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聴く時ぞ秋は悲しき

猿丸大夫の作とされる。

山の紅葉が踏まれていることは確かだ。誰が踏み分けているかについては古来論争がある。「鹿」か「作者」かだ。歌を普通に読んでいるだけではどちらともとれる。

「奥山に紅葉踏み分け」でブレスをすれば「作者」で、「鳴く鹿の」まで一息なら「鹿」だ。音楽で申せばフレージングだ。冒頭から始まるスラーが、どこまで伸びるのかみたいなモンだろう。鹿が山の中にいることは、どちらの解釈でも同じだが、作者がどこにいるのかは、解釈が割れる。だからフレージングやブレスは、大事なんだと娘に説明するよい材料だ。

作者はブレスの場所やアーティキュレーションなんぞ明示したりはしない。まるでバッハのようだ。判断を読者に任せる。このことでかえって鑑賞の幅が広がると感じる。読者はただそれを楽しめばいいが、演奏者には一定のスタンスが求められる。

ブラームス作品に頻発する曖昧な感じは、この歌に通じるような気がしてならない。どちらともとれる感じを意図的に晒して聴き手の判断を問うのだ。調性、旋律、フレージングなどがこの手の意図的曖昧さで味付けされていると思う。

本日、次女の後輩40代と41代のオーケストラ部の「甲子園」ともいうべき、日本学校合奏コンクール全国大会が福島県郡山市で開かれる。中間テストとの両立も求められながら「受験一瞬音楽一生」とばかりに、演奏に磨きをかけてきた成果を披露する。

一部保護者たちはまさに今、北上中の紅葉前線を踏み分けて応援に駆けつける。たった9分の演奏を聴きに陸奥路を駆け上る。そりゃあ、コンクールだから不運も理不尽もあるだろうが、今日の演奏がいかなるものになろうと、私は断固乙女たちの演奏を支持する。

そこでささやかな歌を一首献じて心からのエールとする。

福島に紅葉踏み分け行く親の声聞く時ぞ我ら千葉女子

お粗末。

2016年1月21日 (木)

不思議な音

クラリネット五重奏曲の話をする。この作品はロ短調とされている。

第1楽章の冒頭は2本のヴァイオリンで始まる。D音とFis音だ。調号はシャープ2個なので、この瞬間はロ短調という感じがしない。聴きようによってはニ長調とも感じるハズだ。音楽が進むにつれてだんだん短調の影が忍び寄って来る感じだ。ブラームスは全て承知でこうした効果を狙ったと思う。

この旋律のどこで短調と判るかが本日の話題だ。私の感覚だと3小節目8分音符で数えて4拍目の嬰イ音(Ais)が決め手と思う。この音が鳴ることで冒頭の曖昧さが完全に払拭されて「ああ短調なのだな」と判る。ロ短調の主音であるH音ではないところが面白い。

試しに娘にこの旋律4小節をピアノで聴かせる。第1ヴァイオリンのパートだ。長調か短調かと問えば、少し考えて短調と答えてきた。「おおお」ってなもんだ。彼女はこの作品のことを全く知らないから「ロ短調」という先入観が無い。にもかかわらず短調だと言うのは、旋律自体に何かを感じる証拠だ。さらに「旋律がどの音にさしかかった時、短調だと感じたか」と問う。短調と感じた瞬間に手を上げさせる。念のためピアノを弾く私に背を向けさせて聴かせる。私の弾き方や表情を読ませない為だ。

結果はやはり「嬰イ音」だ。これを正解と言っていいのか自信が無いが嬉しい。

2015年11月28日 (土)

予行練習

チェロソナタ第2番は特異な調性配置で異彩を放っている。

  • 第1楽章 ヘ長調
  • 第2楽章 嬰ヘ長調
  • 第3楽章 ヘ短調
  • 第4楽章 ヘ長調

浮きっぷりという意味ではとりわけ第2楽章の嬰ヘ長調だ。調号で申せばシャープ6個になる。前後はフラット系の楽章に囲まれているから目立ちまくりだ。ちゃきちゃきの遠隔調で、古典派の伝統からみれば、逸脱もいいところだ。

さらにその浮きまくる第2楽章は、20小節ほど進んだところにある複縦線を境にフラット4個のヘ短調に転ずる。複縦線のアウフタクトのチェロは、FナチュラルからDesに飛躍する。同時にピアノはと見ると「Cis-Eis」を放ち嬰ハ長調で第一部を終えている。何のことはない。ピアノの放つ「Eis」は、実音「F」だ。

ピアノの放つ「Cis-Eis」をチェロの側では「Des-F」という具合に異名同音的に読み替えている。20小節目の冒頭、チェロが「Des」にたどり着いた瞬間、ピアノには休符が与えられ調の決定が保留されているように見える。主役のチェロはすぐさま2拍目に半音下の「C」にたどり着くのだが、今度はピアノの左手が「Des」に移ってしまう。気まぐれな追いかけっこのせいで、すっきりと調が確定しない。

この時点で意図も効果も曖昧ながら「フラット4個のFmoll」を見せておくことには、重要な意味がある。次の第3楽章ヘ短調への予行練習の意味がある。

2015年11月17日 (火)

減七の味付け

ピアノ三重奏曲第2番ハ長調の話。

第3楽章冒頭には「Scherzo」と明記された8分の6拍子。調号としてフラット3つが奉られている。8分の6拍子のスケルツォがいつもハ短調になるというブラームスの癖通りの展開だ。「pp」が「sempre」でと念押しされながら、ヴァイオリンとチェロがユニゾンで、「C→Es→G」という具合に、ハ短調主和音を刻みながら登って行く。テンポがPrestoということもあって何やら神秘的な感じがする。

ピアノパートに目を転ずる。そこには「pp sempre」に「leggiero」が追加される。小節の前半6個の16分音符を見るといい「C→D→Es→Fis→A→C」になっている。最初の3つはともかく、ラストの3つ「Fis→A→C」から小節後半の「Es」にかけての並びは「Cm」から減七和音に逸脱している。1小節目と2小節目は、小節の途中で減七和音に揺らぐということだ。ダイナミクスが「pp」な上に、テンポが速いので聴き手がはっきり確信出来ないまま通り過ぎてしまう。「8分の6拍子のスケルツォは、いつもハ短調」というブラームス自身の癖を逆手に取るスパイスだ。

こうした揺らぎの構造は、フィナーレの冒頭1~2小節でも保存される。小節後半に減七和音への揺らぎが見られる。

2015年10月27日 (火)

ナチュラルの代わり

ヴァイオリンソナタ第1番第1楽章。「3つのD」で立ち上がった第1主題はオクターブ下の「D」に向かって梯子を降りる。「ドシソレー」という具合だ。この部分「レドシソレ」は、その後第1楽章全体にちりばめられた梯子。全部で16回観察できる。上下両端がオクターブというのが譲れぬ特色だ。

両端がオクターブであることにこだわらず、最後の音が省略された4音圧縮型にまで、注意を広げるといろいろと興味深いと申し上げて、再現部直前の4小節を例に挙げたところだ。

本日はもう一つの見せ場。

33小節目、ピアノの右手に「シッシシー」がある。「シラソミ」がそれに続く。その後、オクターブ下の「H」にたどり着けば分類B型になるはずだ。「H」に到達するはずの34小節目冒頭には「Eis」が置かれている。最後の「E」から4度降りて「H」に行くはずが、期待を裏切って半音上昇するということだ。

「H」の代わりにおかれている「Eis」は「ミにシャープ」だ。ピアノの鍵盤で申すなら実音「F」である。同時に鳴るのは「A」と「D」なので、「Eis」と合わせて事実上「Dm」の和音になる。なのにこれを「Fナチュラル」とせずに「Eシャープ」と記譜するセンスがブラームスらしいところだ。

36小節から始まる第二主題「con anima」を準備する繊細な手順の一角をなす。ヴァイオリンの重音と、シンコペートされたピアノ右手が織りなす微妙なハーモニーの移ろいが、第二主題の晴れ晴れ感を一層引き立てるしくみである。

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