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カテゴリー「101 編曲」の45件の記事

2020年11月15日 (日)

チェンバロ側の事情

バッハの「チェンバロのための協奏曲」、独奏するチェンバロの台数は1から4までとさまざまながら、何らかの独奏楽器のための協奏曲をバッハ自身がチェンバロ独奏に編曲したものだ。それらをBWV番号、調性、オリジナルの調性、オリジナルの楽器の順に以下に列挙する。

  1. BWV1052 Dmoll←Dmoll ヴァイオリン
  2. BWV1053 Edur←Fdur ヴァイオリンorオーボエ
  3. BWV1054 Ddur←Edur ヴァイオリン
  4. BWV1055 Adur←Adur オーボエダモーレ
  5. BWV1056 Fmoll←Gmoll ヴァイオリン
  6. BWV1057 Fdur←Gdur チェンバロと2つのリコーダー
  7. BWV1058 Gmoll←Amoll ヴァイオリン
  8. BWV1059 Dmoll 断片 オーボエ
  9. BWV1060 Cmoll←Cmoll ヴァイオリンとオーボエ
  10. BWV1061 Cdur オリジナルなので原曲なし
  11. BWV1062 Cmoll←Dmoll 2つのヴァイオリン
  12. BWV1063 Dmoll←? オーボエ/ヴァイオリン/フルート
  13. BWV1064 Cdur←Ddur 3つのヴァイオリン
  14. BWV1065 Amoll←Hmoll 4つのヴァイオリン

不思議なことがある。上記赤文字で記した部分は、編曲にあたって2度下の調に移調されている。オリジナルと断片をのぞく12曲のうち7曲が2度下への移調ということだ。9番の「ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲」も原曲の調性については論争があり、「ニ短調」がオリジナルであったとする学者もいる。

元の独奏楽器はさまざまなのに、「2度下への移調」ばかりになっているのだから、これらはチェンバロ側の事情カモと推測する。

 

 

 

 

 

 

2020年11月14日 (土)

独奏楽器の復元

元のコンチェルトが編曲によって装いを変えることは共通しているのに、結果生まれた作品には微妙な違いがある。まずは「無伴奏チェンバロ協奏曲」を志向したのがBWV972からBWV987までの15曲だ。演奏に必要なのはチェンバロ1台である。同じ発想ながらチェンバロでなくオルガン独奏になった曲も3曲ある。

さて今一つの系統は、元のコンチェルトの独奏パートを同数のチェンバロに置き換えたパターンだ。BWV1052からBWV1065まで。ソロを取り囲むトゥッティは原曲のまま維持される。

前者はワイマール時代他の作曲家の作品からの編曲であるのに対して、後者は自作からの転用で、ケーテン時代の作品。

無伴奏チェンバロ協奏曲の方は、原曲における独奏楽器がわかっているのに対して、後者は元の独奏楽器が確定していないものが多い。元のコンチェルトの自筆譜が発見されていない中、編曲後の姿の楽譜だけが残されているから、古来研究家が元の独奏楽器の復元に心を砕いてきた。

BWV1060では、一番聴かれているのが「ヴァイオリンとオーボエ」となっているが、「2本のヴァイオリン」盤も捨てがたい。

あるいはBWV1056ヘ短調は、ヴァイオリン協奏曲あるいは、チェンバロ協奏曲で弾かれることが多いけれども、オーボエ盤もおすすめだ。

 

 

 

 

 

 

2020年11月 3日 (火)

ホルン版ガンバソナタ

記事「ガンバソナタコレクション」でお気づきの人もいるだろう。バッハの3曲のガンバソナタ全曲、ガンバパートをホルンで吹いているCDがある。ラデク・バボラークというホルン奏者の録音。

なんにしろ貴重。ゲテモノ感や怖いもの見たさ感とは別次元の端正な演奏。この人無伴奏チェロ組曲の録音もあるなど常々意欲的なのだが単なる超絶技巧アピールでもない。相当な名手なのだと後から思う程度。2番ニ長調のフィナーレなど爽快だ。チェンバロではなくピアノ伴奏になっているのも意図的だろう。録音場所がプラハのルドルフィヌムなのもありがたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2019年12月 1日 (日)

どんぶり勘定

ブラームスは大抵の管弦楽曲について、自らの手でこれをピアノ用に編曲している。独奏であったり連弾であったりはまちまちながら、その対象は一部室内楽にまで及んでいる。ハイドンの主題による変奏曲や、ピアノ五重奏のようにどちらを主とするか容易に決定出来ないケースもある。しかしながら、大抵はフルメンバーよりは気軽に作品の輪郭を捉えることが出来る縮小版という側面が大きい。ブラームス自身もそう考えていた節がある。最新の管弦楽曲や室内楽曲をクララ・シューマンに自ら聞かせるために、オリジナルと平行してピアノ版が作成された可能性大なのだ。

オリジナルをピアノ版に転写する際の心得を、親しい友人の一人に語っている。「ブラームス回想録集」第1巻104ページのジョージ・ヘンシェルの証言だ。「大管弦楽曲の全ての声部を全部ピアノ版に盛り込んだところで、そんなものは大名人にしか弾けやせん」「全ての声部が対位法的に正しく動いているかどうかなんぞどうでもいいんだよ」作品の輪郭が大づかみに出来ることこそが大切だと言わんばかりである。巨匠ブラームスのどんぶり勘定が微笑ましい。

対位法の大家ならではのお話である。

 

 

2019年8月25日 (日)

ブラームスのシャコンヌ観

「左手のためのシャコンヌ」をクララに贈ったとき、ブラームスが添えた手紙に現れる「シャコンヌへの思い」をもう一度以下に示す。

「シャコンヌは私にとって、最も美しく、かけがえのない作品の一つです。もし、この曲を聴くために、最高の技術と音楽性を持つヴァイオリン奏者をつかまえられないのなら、最も大きな楽しみは、きっとそれを心の中で聴くことでしょうね。オーケストラを使っても、ピアノにしても、私(ブラームス)がどんな方法で試みようとも、自分の喜びは台無しになります。ところが、もちろん格は落ちるものの、満足を得られる-とても純粋な喜びをこの作品から手に入れることを可能にするたった一つの方法があることに気付いたのです。それは、私がこの曲を左手だけで弾くことです。このことはコロンブスの卵の逸話を思い出させます。テクニックの種類、アルペジオなどのすべてが同様の問題となる、つまり私自身がヴァイオリン奏者になったように感じさせてくれるのです」

  1. テクと音楽性を併せ持ったヴァイオリニストが弾かないと台無しだ。
  2. もしそうしたヴァイオリニストがいないなら頭の中で鳴らすのがいい。
  3. ブラームス自身がオケに編曲しようともピアノで再現を試みようとも原曲がもたらしてくれるほどの喜びは得られない。
  4. 原曲には劣るものの、よい方法を思いついた。
  5. それは左手だけで弾いてみることだ。
  6. 思いついてみれはおさまりの良い方法だ。
  7. まるでヴァイオリン奏者になったような気分になれる。

シュレーダー先生のことだ。これくらいのことはブラームスの手紙から簡単に読み取ったことだろう。この点に同意が出来ないという立場なら、これをそのまま引用するはずがない。だからブラームス本人に語らせることで自らは沈黙したのだ。

バッハの精神を反映するという意味で、単に音をオクターブ下げただけのブラームスが高く評価されているということに他ならない。

2019年8月18日 (日)

クララへの献辞

ヤープ・シュレーダー先生のご著書「バッハ無伴奏ヴァイオリン作品の弾き方」が165ページも終盤に差し掛かったところで、「より新鮮なアプローチは」という言葉とともにシャコンヌのブラームス編曲版への言及がある。ブラームス版に触れた17行の間、シュレーダー先生自身の評価はまったく示されない代わりに楽譜をクララに贈った際に添えられていた手紙のうち、ブラームスのシャコンヌへの思いを吐露する部分を抜粋して紹介している。

「シャコンヌは私にとって、最も美しく、かけがえのない作品の一つです。もし、この曲を聴くために、最高の技術と音楽性を持つヴァイオリン奏者をつかまえられないのなら、最も大きな楽しみは、きっとそれを心の中で聴くことでしょうね。オーケストラを使っても、ピアノにしても、私(ブラームス)がどんな方法で試みようとも、自分の喜びは台無しになります。ところが、もちろん格は落ちるものの、満足を得られるとても純粋な喜びをこの作品から手に入れることを可能にするたった一つの方法があることに気付いたのです。それは、私がこの曲を左手だけで弾くことです。このことはコロンブスの卵の逸話を思い出させます。テクニックの種類、アルペジオなどのすべてが同様の問題となる、つまり私自身がヴァイオリン奏者になったように感じさせてくれるのです」

・・・・・・・・・

シュレーダー先生はブラームスを評価しておられる。この献辞は多くの興味深い示唆を含んでいるからこそ、シュレーダー先生はこれだけを紹介するにとどめたのだ。他のアプローチに対する雄弁な筆は、ここでは沈黙を保つ。

泣きたいくらいだ。

2019年8月12日 (月)

ニ短調ソナタBWV964

チェンバロ用のソナタだがこれは編曲物だ。オリジナルは無伴奏ヴァイオリンのためのソナタイ短調BWV1003である。編曲にあたり5度低いニ短調に移調されている。BWVナンバーが付与されてはいるもののバッハ本人の編曲ではないとする説もあるらしい。

まあでも楽しい。興味深いことに第二楽章のフーガにはオリジナルにないオブリガートが付加されているように聞こえる。ロマン派時代の編曲に比べて違和感なくしっとりと入り込んでくる。

2019年8月11日 (日)

アルヴァニス

ルイス・ドメトリウス・アルヴァニス(Louis Dometrius Alvais)は英国生まれのピアニストだ。英国生まれなのに、ラテン系のお名前だ。

 

我が家に驚異的なCDがある。バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第二番のシャコンヌのブラームス編をCDにしてくれている。この人が貴重なのは、シャコンヌだけではなく、シャコンヌを含む「5つの練習曲」すべてを収録してくれていることだ。超レアだ。

 

ブラームス編の「左手のためのシャコンヌ」の録音自体が数多いという訳ではない上に、「5つの練習曲」全曲ということになると学術的にも貴重な音源だ。

 

 

 

 

2019年8月 7日 (水)

ブゾーニの辞書

記事「ほとんどトロンボーン」「出来る限りのクレッシェンド」で、シャコンヌの楽譜上に配置した音楽用語を手掛かりにブゾーニのシャコンヌ観を想像してみた。そのつもりで同編曲の楽譜上に存在する気になる用語を初出順に列挙してみる。

  • 001 Andante maestoso,ma non troppo lento 作品冒頭の指定。
  • 008 molto energico 付点のリズムが始まるところ。
  • 012 sempre assai marcato  「常に十分はっきりと」
  • 032 poco espr.
  • 032 quasi f 前後を「p」にはさまれて。
  • 040 leggiero ma marcato  相矛盾する表情を「ma」で結びつけ。
  • 042 poco cresc
  • 043   piu cresc
  • 075   crescendo possibile
  • 105   crescendo non troppo 
  • 117   mit Bedeutung  「意味深さをもって」
  • 137   quasi Tronboni
  • 149   un poco pesante
  • 153   meno f
  • 217   piu espressivo

ざっと気づいただけでこんな感じ。よく言えば「手取り足取り」、悪く言えば「箸の上げ下ろしから」だ。そもそもシャコンヌを含む無伴奏ヴァイオリン作品オリジナルの楽譜には、音楽用語は極端に少ない。テンポだって「知っとるやろ」とばかりに無表示だ。演奏に転写する際には演奏者のスタンスが求められる。それこそが解釈なのだ。楽譜に向き合い、その意図を聴衆にどう伝えるかは、演奏者に任されるはずなのだが、ブゾーニはその部分で演奏者を信用していない。だから「ああせい」「こうせい」と雄弁になる。

「poco」「meno」「piu」を駆使した繊細な指定が目立つが、元来それは演奏者の感性依存の領域だ。バッハの意思尊重でない証拠だと思う。

 

 

2019年8月 5日 (月)

出来る限りのクレッシェンド

シャコンヌのブゾーニ編のお話。75小節目に「cresc.possibile」とある。和訳するなら「可能な限りクレッシェンド」としかなるまい。「Molt cresc」では用が足りないというブゾーニの意識の表れと解して間違いない。

気持ちはわかる。

が、しかしだ。こんなことをしていてはバッハの原曲のイメージからどんどん遠ざかる。もともとヴァイオリン1本という編成だ。オケはもちろんピアノに比べてもダイナミクスのコントラストはつきにくい。それでいてそうした制約を物ともせぬ深みこそが目指す境地だ。

シャコンヌ観、バッハ観の違いだとしか申し上げようがない。ブゾーニが目指したのは「シャコンヌによる超絶技巧練習曲」だったとか思えない。弾きこなせる人のピアノテクが聴き手に伝わるという点では、OKだ。バッハの原曲の良さを伝えるという切り口になってはいるまい。

 

 

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