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カテゴリー「102 楽譜」の62件の記事

2019年7月29日 (月)

思った通り

ジギスワルド・クイケンの1981年録音のバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」のCDの解説書が充実していてうれしい。その中に、発見が遅れた同曲集の自筆譜についての言及が詳しい。

19世紀バッハ研究の第一人者でトマスカントルでもあったウィルヘルム・ルストの死後、これを所有していたルスト未亡人から、ブラームスが買い取りを計画していたと書いてある。1890年に知人との共同での買い取りを画策したが失敗したと明記されている。

後日、ブラームスの親友ヨアヒムが同自筆譜の写真版を見つけてこれを底本に出版されたのが1908年だが、その同じ楽譜にブラームスが目をつけていたということに他ならない。個人に所蔵されていたのでは、宝の持ち腐れだとわかっているブラームスは出版を前提に買い取とろうとしたと思われる。実物を見ていた可能性もある。もしかするとブラームスはルスト未亡人所有のその自筆譜の価値を見抜いていたかもしれない。知人と共同で画策したというその知人はジムロックではないかとも想像する。

もしその計画が成就していたら、その楽譜はブラームスの所蔵となり、今頃はウィーン楽友協会の蔵書となっていた可能性もある。

2019年7月23日 (火)

即興伴奏

1840年のことだ。バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番がライプチヒで公開演奏された。ヴァイオリンを弾いたのはフェルエディナンド・ダーヴィッド。メンデルスゾーンの盟友で、ヴァイオリンコンチェルト初演にあたり独奏を託されるほどの間柄。当時のバッハ演奏の第一人者で、もちろんバッハ協会の発起人の一人だ。

このシャコンヌの演奏が記録に残る限り初の公開演奏だったとされている。このときメンデルスゾーンが即興でピアノ伴奏した。それを実地でシューマンが聴いていたという濃いエピソードだ。

シューマンは演奏を聴いて「バッハの無伴奏ヴァイオリン作品に新たな声部を付与するのは不可能だというバカげた意見を述べた人がいるが、メンデルスゾーンの伴奏はそれに対するこの上ない反論である」と語った。

現在では、バッハがヴァイオリン1本という制約の中で果たそうした狙いが正しく認識されているのだが、当時はこのありさまだったということだ。一般に旋律楽器と認識されているヴァイオリン1本で、複雑なポリフォニーが過不足なく表現されていること、それがシャコンヌという制約の多い形式の中に盛られていること自体がバッハの狙いなのだが、わざわざピアノ伴奏を施すという風潮だったということだ。ピアノがその機能を飛躍的に拡大させていった時代と重なるのは偶然ではあるまい。ピアノが2本の腕、10本の指でフルオーケストラの響きさえ再現可能な万能楽器として認知されるに及んで、ピアノ以外の独奏はピアノに伴奏されることが当たり前になった。ピアノソナタだけが「無伴奏ピアノのための」と呼ばれないことがその証拠だ。

1847年にメンデルスゾーンのピアノ伴奏付「シャコンヌ」が出版されたのを筆頭に、1854年にはシューマンが無伴奏ヴァイオリン曲全6曲のピアノ伴奏付加版を出版した。シャコンヌでのみ、両者の聴き比べが可能だ。

ブラームスは師匠であったシューマンはもとより、メンデルスゾーンだって尊敬していたが「シャコンヌ」の扱いだけは正反対だ。クララの右腕脱臼の見舞いはキッカケに過ぎまい。若いころヨアヒムに弾いてもらった「シャコンヌ」をピアノ編曲するにあたり、「バッハが無伴奏ヴァイオリンでよしとしたなら俺も」とばかりに右腕の参加を拒否したのだ。オクターブ下げる以外何もせんという編曲方針を貫いたのは、シューマンやメンデルスゾーンに対する無言の挑戦と見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

2019年7月22日 (月)

何たる情報網

旧バッハ全集出版の段階で、一連の無伴奏ヴァイオリン作品6曲は、バッハ本人の自筆譜が参照されていなかった。2人目の妻アンナ・マグダレーナの手による精巧な筆写譜が自筆譜だと思われていた関係もあっての仕方のない現象だ。

1906年ヨアヒム主導で自筆譜が再発見されるまで、ずっと日の目を見ることがなかった。旧バッハ全集刊行後に同自筆譜の所有者となったウィルヘルム・ルストは1892年に没するまで少なくとも公には沈黙していた思われる。1892年に没した後、未亡人オルガが同楽譜の処遇を関係者に相談するようになって、その存在が本格的に取り沙汰されるようになった。シュレーダー先生の著書、「バッハ 無伴奏ヴァイオリン作品を弾く」の57ページ脚注に驚くべき記述がある。

バッハの無伴奏ヴァイオリン作品の自筆譜の存在に関して、最も早い言及は1890年のブラームスシュピッタの往復書簡の中に現れると断言している。

シュレーダー先生の原著は2007年の出版だ。20世紀のバッハ研究の成果を反映しきった最先端の書物だから、そこで最初の言及だとお墨付きをもらうということは大変なことだ。誰から聞いたのだろう。死没直前のルスト本人から相談されていた可能性さえ感じる。

2019年7月21日 (日)

妻の筆跡

ベルリン国立図書館が所蔵するバッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」全曲の自筆譜が「BB Mus.ms.Bach P967」という分類番号を持っていると書いた。実は「BB Mus.ms. Bach P268」も同曲集の手書譜だ。それどころか長らくバッハ本人の自筆譜だと思われてきた。第二次大戦後になって、それがバッハの妻アンナ・マグダレーナの筆跡であることが判明した。19世紀後半から続く、バッハ研究の伝統を受け継いできたそうそうたる研究家が、誰一人見破ることが出来なかったほど、彼女の筆跡は夫バッハに似ているということだ。

バッハの他の作品同様、作曲者生前に出版されることがなかったが、1802年に全6曲が刊行された。このときの底本が、アンナマグダレーナの自筆譜だった。もちろん当時は作曲者本人の自筆だと信じられていた。

1843年になって、運弓やフィンガリングを施した演奏譜が登場する。校訂者はフェルディナンド・ダーヴィドという。メンデスルゾーンのヴァイオリン協奏曲の初演者であるほか、バッハ協会創設の功労者でもある。彼の演奏譜も、彼女の写本を作曲者本人の自筆譜として参照している。「バッハの自筆譜に基づく」とまで宣言してしまっているのだ。

なだたる研究家、演奏家がそろいもそろってコロリと騙されるほどの筆跡だ。ブラームスが右腕を脱臼したクララのために、シャコンヌを左手用に編曲しようと思い立ったとき、彼が入手し得た楽譜はみな、妻マグダレーナの写本がもとになっていたということに他ならない。

 

 

 

 

 

 

2019年6月 4日 (火)

重複上等

ブクステフーデの頭出しCDを作ってはしゃいでいる。ブクステフーデのオルガン自由曲BuxWV番号順に収録したプライヴェートCD集全4枚組だ。むくむくと楽譜が参照したくなったので、ショップをうろついてスコアをゲットした。

20190122_200351
すでに記事「楽譜を見たい癖」で述べた通り、写真右のブクステフーデのオルガンコラール集は持っていた。この度左側の楽譜を買い求めた。こちらはオルガンコラールに加えてオルガン自由曲が載っている。つまりオルガンコラールがかぶる。4000円少々のお値段だが、どうしてもオルガン自由曲の楽譜が欲しくて「重複上等」とばかりに買い求めた。

正解だった。頭出しCD再生順に楽譜が参照できる。ストレスフリーは想像以上に快適だ。頭出しCDという着想の正しさが圧倒的説得力で証明された。

 

 

2019年5月26日 (日)

自筆譜縛り

バッハのオルガン作品全集には、さまざまな形態があると書いた。BWV番号があればひとまず収載する方針のものから、自作に限るとしているものまでさまざまな方針がある。一方、最近はやりの原典主義を前面に押し出すととんでもないことになる。バッハ自筆譜で伝承されていない作品は認めないとなると特にオルガン自由曲は悲惨だ。

  1. トリオソナタBWV525
  2. トリオソナタBWV526
  3. トリオソナタBWV527
  4. トリオソナタBWV528
  5. トリオソナタBWV529
  6. トリオソナタBWV530
  7. 前奏曲ト短調BWV535a
  8. 前奏曲とフーガト長調BWV541
  9. 前奏曲とフーガロ短調BWV544
  10. 協奏曲BWV596(ヴィヴァルディ)

これだけだ。ざっとCD2枚分だ。

バッハが没した時、ハレのオルガニストだった長男ウィルヘルム・フリーデマンがオルガン作品の楽譜を相続したが、後に生活苦から楽譜を売り払ったためにオルガン作品の自筆譜があまり残っていないと言われている。

 

 

 

 

2019年5月25日 (土)

校訂者ルスト

楽譜屋さんにお取り寄せを頼んでおいた楽譜が届いた。バッハのオルガン作品のうち「前奏曲とフーガ」の全集という謳い文句につられて買い求めた。4か月待ちも苦にならずワクワクと待った。

全集というからにはBWV531から始まる「前奏曲とフーガ」がもれなくBWV番号順に収載されている。写真左。表紙を飾るのはハンブルク聖ヤコビ教会のシュニットガーオルガンだ。右側のものと合わせてオルガン自由曲がコンプリートする。

20190520_221641 

校訂者はウィルヘルム・ルスト。ブラームスがトマスカントルへの就任要請を固辞した際に、代わりにと白羽の矢が立った人物。つまりトマスカントルだ。

 

2019年5月 5日 (日)

楽譜を見たい癖

そもそも、興味ある作品ほど、楽譜を見ながら聴きたい方だ。ブログ「ブラームスの辞書」は楽譜と向き合うことが前提になっているから当然とも言える。ブクステフーデのオルガン作品全集を聴いていたらやはり楽譜が要るということで、ショップをうろついていて発見したのが、以下の楽譜。

20180314_070055
ブクステフーデのコラール前奏曲コンプリートだ。こりゃたまらんとばかりに購入。バッハのコラール前奏曲との比較が超楽しい。

 

20180302_123237

 

 

2019年4月24日 (水)

ヨハン・クリストフ

ブクステフーデの作品が、現代まで伝えられていることは奇跡的である。本人の自筆譜は残っておらず、他者による筆写譜が頼りである。当代随一の巨匠と目されていただけのことはある。

その筆写者の一人にヨハン・クリストフ・バッハがいる。BuxWV137やBuxWV163など、現代ブクステフーデの傑作と評価されている2作品は、唯一ヨハン・クリストフの筆者譜がよりどころとなっている。ヨハンクリストフの筆写譜がなかったら埋もれていたということだ。ヨハン・クリストフは、両親の没後、幼い末弟ヨハン・ゼバスチャンを引き取って養育した。そこでバッハは兄の蔵書になっている楽譜を参照したり、隠れて写譜したとされている。

一族には同姓同名もいるので、用心も必要だがバッハ最初のブクステフーデ体験になっていたかもしれない。

 

 

 

 

2018年6月22日 (金)

furとder

アンナマグダレーナの音楽帖の愛聴盤を紹介した。

20180327_091258

「Notenbuechlein der Anna Magdarena Bach」となっている。変だ。

愛用の楽譜と比較する。

20180328_121140_2

「Notenbuechlein fuer Anna Magdarena Bach」となっている。ウィキは「fuer」だ。これだと「のための」と訳したくなる。バッハが愛妻のためにという雰囲気を邪魔しない。「der」だと「軽い所有」のイメージ。筆写者ないし作者がマグダレーナである感じがしてくる。単なる誤植とは思いたくないのだが。

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