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カテゴリー「702 疑問」の142件の記事

2016年11月 3日 (木)

交響曲はお嫌い

ブラームスは3シーズン足かけ4年、ウィーン楽友協会の芸術監督の座にあった。楽友協会主催の演奏会の曲目決定権を持っていた。

1873年1月5日にメンデルスゾーンのカンタータ「もうひとつのワルプルギス」を取り上げ、1875年1月10日には歌劇「カマーチョの結婚」序曲を取り上げた。メンデルスゾーンの作品はこの2曲だけだ。

ヴァイオリン協奏曲も交響曲もさしおいて取り上げるという感覚は、現代の愛好家のそれとは隔たりがある。

この現象はメンデルスゾーンに限ったことではない。交響曲そのものが何故か忌避されている。ブラームス自身の交響曲はまだ1曲も完成する前だから仕方ないとして、ベートーヴェン、シューマン、シューベルト、モーツアルト、メンデルスゾーンの交響曲が全滅だ。彼等の作品は交響曲に限定しなければ取り上げているから、やはり交響曲を避けたのかもしれない。もちろんドヴォルザークもチャイコフスキーもない。唯一取り上げたのがハイドンの44番だけというところが渋い。

この手の渋めのチョイスが当時の聴衆の好みかというと、どうやらそうでもない。ブラームスの選択を水面下で批判する声は大きかったようだ。ブラームスらしく入念に準備された演奏ばかりだったようだが、選曲がこれでは客は呼べないという営業サイドからのブーイングがあったのは確実だ。

2016年11月 1日 (火)

残念なこと

メンデルスゾーンという作曲家が気になっている。書店を徘徊していて残念な情報を見つけた。メンデルスゾーンのピアノ作品の解説書の中だ。

作品解説に先立つ総論があって、その一部で古今の作曲家とメンデルスゾーンの関係が書かれている。その中に目を疑う記述があった。

「ブラームスはメンデルスゾーンを顧慮していなかった」というものだ。

婉曲な表現ではなくほとんど断言されている。しかも困ったことに根拠らしい根拠も示されていない。それ相応の専門家が、書籍という開かれた媒体で断言するからには、荒唐無稽な妄想ということはないだろう。根拠を是非ともお聞かせいただきたいものである。

私個人は、シューベルトに先立ってメンデルスゾーン取り上げたくらいなのだが、どうも水を差された感じだ。

2016年10月23日 (日)

秋の季語

古来日本人は季節のうつろいを愛でてきた。

花はいろいろあるのに黙って花といえば「さくら」だし、月はいつでも眺めることが出来るのに黙って「月」と言えば秋だ。そうした感性は長い年月を経て蓄積されて、歳時記となった。

日本で長くブラームス愛好家を続けていると、時として「ブラームス」が秋の季語ではなかろうかという錯覚に陥る。ブラームスやブラームスの作品が秋と結びつけて語られる機会が多いと感じている。ドイツやオーストリアでも同様な現象が起きているのだろうか。楽壇を2分する論争の渦中にいたブラームスだから、古来作品を巡る論争にさらされてきたが、伝記や解説書を読んでも「秋とブラームス」を結びつけた例にはお目にかかれない。

もしかするとこれは日本独自の現象なのかもしれない。日本人が秋とブラームスを結びつけている原因を楽譜の上に求めることが出来るのだろうか。楽譜がどうなっていると日本人は秋を感じるのだろう。

実は興味深いことに全てのブラームス作品が皆秋と結びつけて語られるかというと、どうも濃淡があるように思う。定性的な話で恐縮だが、一部の作品に限られていると感じる。たとえば「秋はブラームスに限る」と言いながら子守歌やハンガリア舞曲を聴く人には出会ったことがない。だいたい下記の通りと思うが、秋と結びつけて語られることが多い作品の統計など取りようがないから始末が悪い。また、仮にそれが出来ても実際には曲の最初から最後までベッタリと秋を結びつくわけではあるまい。

  1. 晩年のクラリネット入りの室内楽
  2. 作品番号にして116から119のピアノ小品の一部
  3. 交響曲なら3番か4番
  4. ヴァイオリンソナタ第3番

晩年の器楽曲だ。皆さんご存知のあのブラームスの晩年の作品ということが、秋のイメージ想起に関わっていると感じる。

ブラームスのイメージや伝記を既に持っている人が、先入観で秋を結びつけている可能性も捨てきれまい。とすると楽譜上にその痕跡を求めることは徒労でしかない。ブラームスはもちろん秋を作品に盛り込む意図など無かったと思うが、作品の受け手が曲を聴いて膨らませるイメージに介入しない立場だから、きっとニコニコ笑っているだけだろう。

これは日本人が解明するしかない問題には違いないが、一年中ブラームスばかり聴いている私には荷が重い。

2016年7月 5日 (火)

2つのカール

まずは黙って以下のリストをご覧いただく。

<A群>

  1. カール大帝
  2. カール・ベンツ
  3. カール・マルクス
  4. カール・マローン
  5. カール・ハインツ・ルンメニゲ

<B群>

  1. カール・タウジヒ
  2. カール・ゴルトマルク
  3. カルル・マリア・フォン・ウェーバー
  4. カール・フィリップ・エマニュエル・バッハ
  5. カール・シューリヒト
  6. カール・タイケ
  7. カール・ツェルニー
  8. カール・ベヒシュタイン
  9. カール・ヤストレムスキー
  10. カール・ルイス

見ての通りカールさんの集合だ。このうちA群は「Karl」と綴られる一方、B群は「Carl」と綴る。数の上では「Carl」優勢。一般に「Carl」の方が古いとも言われるが「カール大帝」や、歴代の神聖ローマ帝国皇帝たちは「Karl」なので一概には言えない。

これが地名になると「カールスルーエ」「カルルスバート」など「Karl」が優勢になるから不思議だ。

2016年6月 4日 (土)

音楽室の肖像画

小学校や中学校の音楽室を思い出そう。高等学校も同じかもしれない。そこには、古今の有名な作曲家たちの肖像画が飾られている。この肖像画によって子供たちに植え付けられる印象は、子供らの音楽観に少なからぬ影響を与えているように思われる。

まず思うことは「みんな凄く偉いンだ」である。私たちのために有り難い音楽作品を残してくれた偉人の群像という雰囲気である。「作品は素晴らしいのだから、感動しないのは、お前たちの耳のせい」みたいな威圧感が漂う。

次に思うことはカツラ。バッハ、ヘンデル、ハイドン、ヴィヴァルディ、モーツアルトあたりまで髪型が変だ。大抵の小学生は「この人たち変」と思っている。誰からカツラじゃなくなるのかマジで考えたものだ。

この群像に誰と誰を加えるのかという基準はあまり明確ではない。あるいは同一作曲家に複数の肖像画が伝えられている場合に、どの肖像画を採用するのかも曖昧だ。

私が小学生だった頃、女のクラスメートたちに人気があったのは、ロベルト・シューマンだった。考える人っぽい例のあの肖像画のせいだ。肝心なブラームスは、ここでいきなりオヤジのレッテルがデカデカと貼られてしまっている。若い頃の肖像画が採用されていたためしがない。ブラームスだっていきなりオヤジで生まれてきたわけではないのだが。

もしかすると本日の最大の疑問点はこの先かもしれない。学校中を思い出して欲しい。肖像画があるのは、音楽室だけではなかったか?校長室の歴代校長の写真を例外とすれば、音楽室の作曲家の群像だけが異例の存在だった。

古今東西の文豪たち-鴎外、漱石、ゲーテ、シェークスピアの肖像画が図書室に飾ってあるのを見たことが無い。アンデルセンやグリム兄弟でもいいのに。理科室にニュートン、アインシュタイン、キュリー夫人、湯川秀樹の肖像画があっただろうか。ピカソ、ゴッホ、ダヴィンチあるいは歌麿の肖像画が美術室にあっただろうか。社会科室だって、伊能忠敬、間宮林蔵、マゼラン、リンドバーグの肖像画があってもいいだろう。技術室にエジソン、ライト兄弟、スティーブンソンの肖像画は置かれていない。保健室では、コッホ、パスツール、ナイチンゲール、野口英世を見てみたい。

最近はどうなっているのだろう。何だか音楽室だけ浮いてはいないか。

2016年5月23日 (月)

エピソードの効能

クラシック音楽のとりわけ名曲と位置づけられる作品には、様々なエピソードがセットになっているケースが少なくない。ブラームスにだってヤマほどある。

たとえばヴァイオリンソナタ第1番を「雨の歌」たらしめている事情は、シューマン夫妻の末っ子フェリクス抜きには説明出来ない。ブログ「ブラームスの辞書」でもしばしば言及してきた通りだ。

そこで疑問。ヴァイオリニストがそうしたエピソードを知っているのといないのとでは演奏に差が出るものなのだろうか?エピソードを知っていてもただちに素晴らしい演奏が出来る訳ではないことは私を見れば明らかだ。たとえばテクニック面で差の無いヴァイオリニストが2人いたとする。一人は音楽の本質とは関係ない伝記的事項に精通しているが、もう一人はさっぱりだった。はたして2人が演奏する「雨の歌」には差が出るのだろうか?

私の考えは既に固まっている。「差が出ない」と思う。「知っていた方が良い」とさえ言えないと思う。2種類のCDを用意されて「さてこれらの演奏のうち、フェリクスのエピソードを知らずに弾いているのはどちらでしょう」と問われたらお手上げだ。暗譜もこれに似ている。「さてこれらの演奏のうち暗譜で弾いているのはどちらでしょう」は、究極の難問だ。つまり区別出来はしないのだ。

弾き手側の知識の有無は演奏の出来に影響しないとは思うが、聴き手になると無視出来ないと思う。そうしたエピソードは、聴き手側の脳裏に深く進入して、鑑賞の味わいに影響する。エピソードを知る前と後では、同じCDを聴かされても感じ方が変わることは多いにあり得る。少なくとも私の聴き方はそうだ。

2016年2月 5日 (金)

アルバムの曲順

ブラームスの室内楽はどのジャンルも最高で3曲にとどまっている。CDに収録するのにはたいそう都合が良い。1枚のCDに1ジャンルが大抵全部収まるからだ。特に二重奏ソナタは、大抵の演奏家がセットで録音している。

収録は番号の若い順というのが基本だ。つまり1番2番の順である。

ところがクラリネットソナタだけはどうも勝手が違う。2番を先に収録しているCDがやけに目立つのだ。我が家にあるCDだけをとってみると2番が先というのは下記の通りだ。

  1. Stephanie Jutt フルート
  2. Sabine Meyer クラリネット
  3. Kim Kashkashian ヴィオラ
  4. 今井信子 ヴィオラ
  5. Henri Xereb ヴィオラ

バシュメット、ウラッハ、ライスター、ズーカマン、ミンツ、ガンデルスマンの6名は1番が先である。偶然か2番を先に収録しているのは女性が多い。

想像するに1番はピアノのイントロに続いてクラリネットが合流するが、2番は冒頭いきなりクラリネットが第一主題を奏する。この入りの違いがポイントだろうか。女性の奏者たちが、立ち上がりいきなり独奏楽器のアマービレを聞かせたいと考えたのかもしれない。あるいは2番のフィナーレより1番のフィナーレの方がラストに相応しいから、1番を2曲目にしたいという可能性も考えられる。

ヴァイオリンソナタのアルバムで3番からという例は記憶にない。チェロソナタも2番が先のアルバムは無いだろう。どちらの曲にも女性演奏家のCDが無視しえぬ数存在するといのに収録順の逆転はない。

この種のどうでもいい話を放置しないのがブログ「ブラームスの辞書」である。

お気づきの通り、最後の室内楽、クラリネットソナタ第2番の話題に入った。

2016年1月25日 (月)

リピートの戻り先

ソナタ形式を採用する楽章において、提示部の末尾にリピート記号が置かれ、提示部の繰り返しが意図されている場合がある。提示部の末尾にリピート記号を置く置かないの基準が曖昧なことは既に述べた。リピート記号に従って指定の位置まで戻ると、提示部が繰り返されるのだ。

提示部の繰り返しという言葉を鵜呑みに出来ない例が一つある。クラリネット五重奏曲だ。リピート記号に従って戻る先が第一主題の冒頭になっていない。リピート記号は4小節目と5小節目の間にある。冒頭の両ヴァイオリンによる3度のハモリは繰り返しの対象ではないのだ。いきなりクラリネットの上行する分散和音に直結するのだ。136小節目の再現部ではこのハモリがキチンと再現されるから、提示部の繰り返しにおける別扱いが際だって聞こえる。

理由なんぞわからない。繰り返しを置く置かぬが既に難問である上に、さらに完全には繰り返さぬ例もあるということだ。クラリネット五重奏曲だけは、リピート記号を守らないと、醍醐味が一つ減る。

ブラームスの本能だとしか言えない。

2016年1月 4日 (月)

創作力の衰え

1890年11月11日ウィーンにおいて弦楽五重奏曲第2番ト長調op111が初演された。op111の初演が11月11日とは芸が細かい。

出来映えはいつも通りの素晴らしさだったが、本人は創作力の衰えを感じて、今後大作の創作をやめ、過去の作品の整理に没頭しようと思いつめる。この決定はやがて翻意されるが当時は真剣だったと見える。

ドヴォルザークにおいては、弦楽四重奏曲第13番変イ長調をもって、いわゆるブラームス型の絶対音楽の創作を打ち切る。これ以降創作の軸足はオペラに移るが、傑作を生み出せぬまま8年を過ごしてこの世を去る。ドヴォルザークの伝記の中でさえ、この時期を評して「創作力の衰えが伺える」とする論調も多い。

私のような素人には伺い得ぬ感覚があるのだと思う。作曲家は創作力の衰えを自覚するものなのだろうか。

その疑問に迫るための実験を思いついた。

今私はブログ「ブラームスの辞書」のための記事を溢れるように思いつく。無論ブラームスやドヴォルザークほどの普遍性は持ち合わせていないが、私自身はそう感じている。小さな波はあるが、記事の着想が途絶えることがない。この先この状態がいつまで続くのか自分で自分を見守りたい。

衰えの兆候は、記事の質に現われるのか、単位時間当たりの着想量に現われるのか、そしてそれがいつなのか自分で見極めたい。難しいのは質だ。量の衰えと時期は明確に自覚できるが、質は難しい。あるいは質の劣化に気付かなくなる感性の衰えは客観的な測定が難しかろう。

読者に指摘されて気付くか、ブログのアクセス減として思い知らされることもあろう。その最初の兆候に気付くのが自分であって欲しいと心から思う。

2015年12月18日 (金)

「a tempo」と「in tempo」の錯綜

ブラームスの脳味噌の中の「a tempo」と「in tempo」の使用基準は、ブログでも本でも「ブラームスの辞書」の大切なテーマになっている。

ピアノ三重奏曲第1番第4楽章の36小節目の「rit」は2小節後に「in tempo」によってリセットされるが、そのわずか6小節後に現れる「rit」は、同じく2小節後に今度は「a tempo」によってリセットされる。

このようにブラームス本人によってデザインされた錯綜ならば仕方がない。

「シューマンの主題による変奏曲」op9の102小節目と167小節目は、国内某大手出版社から刊行された楽譜には「in tempo」と明記されているのに、ヘンレ版には跡形もない。さらにその先229小節と306小節は、先の某国内版では「a tempo」なのに、ヘンレでは「in tempo」と書いてある。

難解という他はない。きっと一生楽しめる。

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