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カテゴリー「702 疑問」の171件の記事

2021年7月 8日 (木)

レントラー

Landlerと綴られる。aはウムラウトである。ドイツに起源を持つ素朴でゆったりとした4分の3拍子の舞曲だ。ワルツの起源をめぐる議論の中で、しばしば言及される。ワルツの起源をレントラーに求める学者は少なくないという。レントラーをウイーン風に洗練させたのがワルツと見る人もいる。その言い回し、文脈を見れは「ワルツ=レントラー」でないことは明らかだ。

ところがブラームスにおいては両者の区別は曖昧である。作品52の「愛の歌」、作品65の「新・愛の歌」はタイトルにはっきり「ワルツ」と明記されていながら、発想記号には「レントラーのテンポで」と記されているのだ。「tempo di waltz」とはなっていないのだ。

さらに「ブラームスのワルツ」として有名なイ長調を含む「16のワルツ」op39は、その第一番の冒頭に「Tempo giusto」(きっかりのテンポで)と記されるばかりで、これまた「tempo di waltz」という言い回しを避けている。この16曲のワルツの作曲にあたって研究したのが、生粋のウイーンっ子であるシューベルトのレントラーだった。

どうもブラームスは自作に「ワルツ」と明記しながら、実態においては「レントラー」を指向していた形跡があるというわけだ。

ここで言うワルツは、ショパンのそれとは別物で、申すまでも無くウイーンの名物だ。単なる4分の3拍子ではない独特のリズムで出来ている。生粋のウイーンっ子はDNAにあらかじめセットされているそうだが、よそ者にはなかなか習得出来ない感覚らしい。ハンブルグ生まれのブラームスはもちろんよそ者だ。変に背伸びしてウイーンっ子の感覚を追い求めることを諦めて、レントラーに走ったのではないかと感じる。

 

 

 

 

 

 

2021年6月21日 (月)

プラシーボ

「プラシーボ」を敢えて訳せば「偽薬」とでも言うのだろう。小麦粉を風邪薬の袋に入れて飲ませたら頭痛が止まったという類の効果のことを「プラシーボ効果」というらしい。薬だと思い込んで飲むことで本来あるはずのない薬効が現われてしまうことだそうだ。「鰯の頭も信心から」に近い話である。

人間の感覚というのはデリケートである。最強の鎮痛剤であるモルヒネでも止まらない痛みがある一方で、約4割の痛みがプラシーボでも和らぐという。3連休明けの月曜の朝の腹痛はモルヒネでも止まるまいと思われる一方、小麦粉で頭痛が止まることさえあるのだ。ましてやその薬が、信頼する医者の処方したものだったら尚更だし、幼い頃母親が塗ってくれた赤チンも最強だった。ラグビーの試合中にお目にかかるヤカンの水も相当なものだろう。人間の思い込みとは恐るべしなのである。

風邪薬と思い込んで飲む小麦粉にそのような効果があるなら、誰某と思い込んで聴く、ノイズだらけのCDにも一部のマニアを熱狂させる効果があるに違いない。指揮者や器楽奏者の場合には強烈で華麗なプラシーボ効果が期待できる。何かと盛り上がる演奏家ネタは、演奏だけを聴いて演奏家を聞き分けられることが望ましかろうが、私は耳がよくないのでそこが思うに任せない。幸いなことにベートーヴェンとブラームスなど作曲家はほぼ聞き分けられる。

昨日の記事「歌は希望 」で述べた通り、声楽の場合、演奏家が男か女かは100%わかる。器楽ではそうもいかない。男女の見分けさえ付かないのにどうして演奏者を正確に当てることができようか。ピアニストでわかるのはグールドくらいだが、ハミングが決め手の時もあるから自慢にもならない。歌曲はこんな私でも高い確率で演奏家を当てることが出来る。フィッシャー・ディースカウ、ヘルマンプライに白井光子はわかるのだ。アメリングだってわかる。訓練を積めばわかる人はどんどん増えそうだ。

だから歌は希望。

 

 

 

2021年6月 5日 (土)

ヨアヒムはヴィオラを弾いたか

ヴィオラは私の愛奏する楽器だ。ヴァイオリンと同様に首に挟んだ状態で弓を弦にあてて演奏する。ヴァイオリンより5度低い音域となる。厳密なことを言い始めるといろいろあるのだが、演奏の方法はヴァイオリンと同じである。独特なハ音記号に慣れてしまえば、奏法自体には共通する部分が多い。古来ヴァイオリンの名手たちの何人かはヴィオラでも名人芸を披露している。スーク、ズーカマン、ミンツなどなどCDで聴くことも出来る。

ブラームスの恩人にして親友、そして当時最高のヴァイオリニストにヨーゼフ・ヨアヒムがいる。ブラームス唯一のヴァイオリン協奏曲を献呈される栄誉に浴している。奏者としてはもちろん教師としても優秀なヨアヒムは、はたしてヴィオラを弾いたのだろうかというのが本日のお題である。

結論から申せば「YES」である。私がそう考える根拠を以下に述べる。

作品91に「独唱アルトとヴィオラのための2つの歌曲」という作品がある。実際にはピアノも加わるトリオになっている。このうちの2番は「聖なる子守歌」と呼ばれているが、実はヨアヒム夫妻の長男誕生のお祝いに贈られた作品である。ヴィオラが冒頭で奏するのは「愛するヨーゼフ」という古い子守歌の旋律だ。すでにこのタイトルがヨアヒムのファーストネームと一致している奇遇を味わうべきである。この上に独唱アルトがオリジナルの旋律を重ね合わせて行く。ヨアヒムの妻アマーリエは才能あるコントラルト歌手だ。ブラームス歌曲のいくつかを初演するほどの腕前の持ち主だ。

こんな曲を長男誕生のお祝いに贈った場合、その意図は明確である。「一緒にアンサンブルをしよう」というお誘いに等しいと見るべきだ。ブラームスのピアノに、ヨアヒム夫人の独唱、そしてヨアヒムのヴィオラというアンサンブルが演じられたことは確実だ。手が大きいらしいヨアヒムのことだから、初見だとしてもキッチリ弾きこなしたことは想像に難くない。赤ン坊の傍らで弾かれる曲だからヴィオラにバリバリの超絶技巧が要求されている訳ではない。公式記録こそ無いがブラームス、アマーリエ、ヨアヒムのメンバーが初演者であることは確実である。それどころか演奏が終わって3人が笑顔で微笑みを交わしあったに違いないとまで断言したいくらいだ。

おそらくヨアヒムはヴィオラを弾いた。無論それをブラームスは当然知っていた。

2021年3月26日 (金)

そもそもどうなっているのだろう

バッハのブランデンブルク協奏曲6曲。世の中何番が人気なのだろうか?

CDは大抵2枚組で全6曲がおさめられているから、どの曲もCDの種類は同数になっているはずで、それを人気のバロメーターにはできない。直感では5番あたりか。

私は断然、第6番変ロ長調だ。ヴィオラダブラッチェ2本の渋い独奏楽器、伴奏へのガンバの起用など、やけに特徴的だ。

とりわけ第二楽章が気に入っている。大学4年の頃、ヴィオラのレッスンで真剣に取り組んだころからはまっている。バッハ緩徐楽章の最高峰を形成すると確信している。

 

 

2021年2月26日 (金)

四季のお好み

ヴィヴァルディの「四季」がクラシック界の大ベストセラーであることに疑いはない。それは4つの協奏曲の集合体であり、春夏秋冬のタイトルが奉られているけれど、みんなはこのうちどれが好きなのだろうか?

現実の世界では春が一番好きな私ではあるものの、ここでは熟考の果てに「冬」と答える。第二楽章の雨を、切れ味鋭い冬の描写がはさむ。第三楽章の末尾では、春の気配もほのめかされる。楽章単体となると、ヴィオラが犬になる春の二楽章も捨てがたいが3つの楽章トータルとなると冬と結論する。

バッハはしばしばヴィヴァルディ作品の編曲を試みたが、「四季」にはかすりもしていないのが残念だ。「四季」のバッハによるクラヴィーア編曲があったらさぞかし盛り上がるだろう。日本人は四季の移ろいをことのほか愛するが、バッハはそこまでではないということだろうか。

 

 

2021年1月11日 (月)

馬小屋生まれ

イエスキリストも聖徳太子も馬小屋で生まれたとされている。聖徳太子が馬小屋で生まれたという話、キリスト教と無関係に成立したなら相当な偶然だ。

受験生鉄板の「以後よく広まるキリスト教」だから1549年。仏教は538年とも552年とも言われるから、およそ1000年遅れだ。その間日本人はキリスト教を知らなかったと断言していいのだろうか?

五賢帝時代のローマと後漢には国家としての交流があったとされている。中国人はすでに後漢時代にキリスト教を知っていたはずだ。様々な文物が海を越えて流れ込む中、キリスト教の存在を秘匿していたのだろうか?

2020年11月10日 (火)

オクターブの上下動

ガンバソナタの演奏で最も気に入っているのは、ヴィオラによる演奏だ。CDの発売状況で申せばチェロ盤が優勢で、お店によっては売り場に「チェロソナタ」と表示されていることがある。我が家のコレクションでもチェロ盤が多いのだが、ヴィオラ盤のコレクションは下記の通りである。

  1. 1971 今井信子
  2. 1991  Kim Kashkashian
  3. 1996  Josef Suk
  4. 1996  今井信子
  5. 1999 川本嘉子
  6. 2010 清水直子
  7. 2015 Helen Callus

2010年の清水直子盤は貴重なピアノ伴奏なのだが惜しいことに3番のみにとどまる。

例によって本日は、2番の第2楽章について残る6種を聴き比べる。もはや衰退してしまったガンバに代わってヴィオラを選択する需要は古来あったと見えてハ音記号で記譜された楽譜が出回っている。我が家にあるのはベーレンラーター版だ。疑問形で終わる第1楽章を受ける形で走り出す軽快な第2楽章は、ヴィオラ解放弦の「D」から立ち上がる。

ところが、上記6種のうち、スーク盤とカルス盤の2種はオクターブ上のA線上の「D」から弾きはじめている。元々ガンバ用だった作品をヴィオラ用に転写するだけの話だからオクターブの上下には深いこだわりはないのかもと想像するが、このような上下動が起きているのはこの楽章だけだ。

私の好みで申せばベーレンライターの記譜通り「D線の解放弦」から立ち上げたほうがいい。オクターブ上で始めるとなんだか窮屈な印象だ。

カッチェンと組んだブラームスのヴァイオリンソナタを筆頭にシャコンヌでも大満足のスークさんなのだが、この楽章をオクターブ高いところから弾いているのはご乱心とも映る。

2020年9月13日 (日)

6の内訳

昨日の記事「6がお好き」の続き。

  1. オルガンのためのトリオソナタ 525~530
  2. イギリス組曲 806~811
  3. フランス組曲 812~817
  4. パルティータ 825~830
  5. 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ 1001~1006
  6. 無伴奏チェロ組曲 1007~1012
  7. ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ 1014~1019
  8. ブランデンブルク協奏曲 1046~1051

昨日列挙した収録曲6曲からなる曲集8つを子細に調べる。これら8つの曲集のうちブランデンブルク協奏曲のみがその成り立ちついて細かくわかっている。ブランデンブルク辺境伯への就職活動の一環で、既存の曲から急きょ選ばれたとされている。

だからかもしれないが、上記の中では例外的なことが多い。ブランデンブルク協奏曲以外の曲集は6曲の中に同じ調が現れない。これに対してブランデンブルク協奏曲は1,2番がともにヘ長調、3.4番がともにト長調になっている。

6曲の中の長調の短調の構成は「3:3」「2:4」「4:2」のいずれかであるのに対し、ブランデンブルク協奏曲は全部長調という極端な構成になっている。

ブランデンブルク辺境伯への献呈を思いついたときに、手持ちの作品を急ぎ選んで6曲取りまとめたことの証拠になるのかもしれない。

 

 

 

 

2020年9月12日 (土)

6がお好き

バッハの作品全体を統御するBWVナンバーは、作曲や出版の順ではなく、ジャンル毎に配列されている。カンタータから順序列挙されていて、人の声が入っている作品が優先されている。本日の話題は器楽曲つまり人の声の含まれぬ作品に限定する。BWV番号としては525番のオルガン作品以降を話題にする。

まずは以下のリストを眺めてほしい。

  1. オルガンのためのトリオソナタ 525~530
  2. イギリス組曲 806~811
  3. フランス組曲 812~817
  4. パルティータ 825~830
  5. 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ 1001~1006
  6. 無伴奏チェロ組曲 1007~1012
  7. ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ 1014~1019
  8. ブランデンブルク協奏曲 1046~1051

末尾に添えたBWVナンバーをよくよく見ると、これら全て6曲一組になっている。6の倍数にまで広げれば平均律クラヴィーア曲集が加わることになる。フルートとチェンバロのためのソナタとフルートと通奏低音のためのソナタの合計は6になる。

現在伝えられているバッハ作品は作曲全体のすべててはないから、断言は難しいが、バッハが意図して曲集としてまとめる場合「6」にこだわっていた可能性があるとおもいきや、これはバロック時代の作品出版の慣例に従っただけらしい。

2020年9月 9日 (水)

偽作呼ばわり

「偽作」とはあまり好きな言葉ではない。勢いで私自身が使ってしまうこともあるが気持ちのいいモノではない。

現在となっては無名となってしまった作曲家Aさんがいたとする。そのAさんの作品Bが長い年月の中でヨハン・セバスチャン・バッハの作品だと思われてきたとしよう。大作曲家バッハには膨大な研究の厚みがある。その成果の一つとして、ある日バッハの作品と思われていた「作品B」が、実はバッハの手によるものではなく作曲家Aさんの作品であったとこが証明されたとする。

このとき以降「作品B」は偽作であるとされる。

長らくバッハ作品だと思われてきたことについて、作曲家であるAさんに責任はない。後世の手違いが原因だ。そして実直な研究の結果、真の作曲者が突き止められたことは喜ばしい。けれどもその結果作品Bに奉られる「偽作」という言葉は残念でならない。文字数の節約など考えずに「バッハの作品では無かった」とだけ表現すればよい。作品が厳然として存在するのだから偽作呼ばわりは変だ。

「偽作」という言葉にはある種の方向性を感じてしまう。上から目線さえ疑われる。しかもそれはバッハから作曲家Aへの上から目線ではなく、「偽作」という言葉を使う者から作曲家Aさんへの上から目線だ。その作品Bの出来映えがバッハの作品群に比べどれほど劣っていようとも、ハッキリ言って失礼な話だし大きなお世話だ。事実は「作品Bは作曲家Aさんの真作」だということに尽きる。わざわざ「バッハの偽作だ」というのは、筋違いだと感じる。後世の混乱のツケがバッハや作曲家Aさんの2人にまわされている感じだ。

イ長調ピアノ三重奏曲は20世紀に発見されて以来、ブラームスの作品だという説がある。一方でマッコークルは「怪しげ」という判断だ。私も偽作という言葉は慎みたい。たとえブラームスの作品でなかったとしても無名の誰かの真作だ。

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