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2021年9月14日 (火)

シュトックハウゼンの弟分

ジョージ・ヘンシェル(1850-1934)はブレスラウ生まれの歌手、作曲家、指揮者。ボストン交響楽団の初代指揮者としても名高いけれど、ブラームスは歌手としての才能を高く評価した。文筆家としてブラームスの回想録も残している。ブラームスとの愉快なやりとり満載で、優秀な演奏家としての側面を忘れられがちだが、しばしばシューベルトが話題になっている。

一方フィッシャーディースカウ先生の「シューベルトの歌曲をたどって」の中でもヘンシェルが取り上げられている。

シューベルト没後の作品の受容を論ずる章に現れる彼をフィッシャーディースカウ先生は「シュトックハウゼンンの弟分」と呼んでいる。演奏や解釈、あるいはキャラからそう呼んでいるという文脈だ。シュトックハウゼンとは申すまでもなくブラームスの友人にして当時最高のバリトンだ。その弟分というのは賞賛含みに決まっている。歌手の系統上の後継というニュアンスまで感じてしまう。ということはつまり、ヘンシェルのシューベルト演奏も高い評価を受けていたということを示唆する。

リューゲン島でブラームスとともに夏を過ごすヘンシェルが、ホテルのロビーでブラームスを伴奏者に従えて即興のリサイタルを開いた。曲目にシューベルトがあったと回想している。

2021年9月13日 (月)

ヴィトマンの証言

Josef Viktor Widmann(1842-1911)は、スイスの作家、評論家。父は牧師だったが本人の記憶によればかなりな音楽一家に生まれたとある。ホームコンサートの演目にシューベルトがあったという。母はベートーヴェンと交友があり、父はシューベルトと交友があったという羨ましい境遇。で、このヴィトマン本人はブラームスと交流した。結婚を機にスイス・ヴィンタートゥールに住みそこでブラームスとの交友が始まり、その様子が出版されている。ブラームスがいくつかの夏をスイス・トゥーンで過ごしたのはヴィトマンの存在が大きい。避暑の間以外の交友は主に文通だった。

同時代の文学者に対するブラームスの評価が話題になった。ヴィトマンはブラームスが評価する作家の顔ぶれがどうにも保守的だという。しかしこれは食わず嫌いではなく、作品に触れた上でのブラームスなりの評価であったと補足する。同時に世の中の一般的な傾向として、作曲家は同時代の作家には得てして冷淡だとする。文脈からそれが歌曲へのテキストの供給状況を含むと解してよさそうだ。続いてさらに興味深い指摘が続く。作家の方も、同時代の音楽には冷淡だったからお互い様だというのだ。その例として「魔王」に触れたときのゲーテの冷淡な態度を挙げている。

 

 

2021年9月 5日 (日)

オットー・エーリヒ・ドイチュ

シューベルトの主題付作品目録の制作者として名高いオーストリアの音楽学者Otto Erich Deutschさんは1883年9月5日のお生まれだから今日は誕生日である。1939年に英国に移住し、1951年にシューベルト作品目録を英語版で刊行した。シューベルト作品に付与される「D番号」はこれに由来する。1884年にシューベルト全集の刊行を目的としたシューベルト協会がウィーンで発足していたが、全作品を網羅した作品目録は無かったということだ。作品の個体識別が進んだことで、何をするにも話が早くなることは劇的である。

2021年7月 4日 (日)

ニコラウス・ドゥンバ

ウィーンの実業家。他にもさまざまな肩書き。国会議員、市会議員、貯蓄銀行総裁でもある。何よりも芸術家の支援者だ。さらには自身が有能なテノール歌手である。ウィーン男声合唱団の団長も務めた。パルクシュトラーセ4番地の屋敷は4階建てで、ほぼ宮殿と申してよい規模。ここの音楽サロンの装飾はグスタフ・クリムトによるものだ。

現在ウィーン観光の目玉になっているような有名な建物の多くが彼の寄付によって建てられたという。楽友協会、コンツェルトハウス、クンストラーハウス、市庁舎、国会議事堂、フォーティフ教会、ウィーン大学など枚挙に暇が無い。

屋敷の音楽サロンにはブラームスの出入りも確認されているし、資料室にはブラームスの手紙も保管されている他、何と言ってもシューベルトの自筆譜のコレクションが超目玉だ。ブラームスはこれが目的で出入りした可能性もある。ウィーン郊外への散歩にブラームスと同行したことがホイベルガーによって証言されている。

さらにもっと凄い話を小耳に挟んだ。ウィーン中央墓地にあるドゥンバのお墓は、ブラームスの墓の隣にある。ブラームスは26番で27番がシュトラウスなのだが、25番がドゥンバだった。ウィーン中央墓地32区Aは「楽聖特別区」だ。音楽家ばかりの一角に埋葬されているところを見ると現地では相当な位置付けだと思われる。

2021年6月 8日 (火)

ヨアヒムの長男

1月23日の記事「ヨアヒムはヴィオラを弾いたか 」でブラームスの「アルトとヴィオラのための2つの歌曲」op91は、親友ヨアヒムの長男誕生を祝う作品だと書いた。ブラームスから夢のような祝福をされたヨアヒムの長男の名前を調べて驚いた。

Johannes Joachim、ヨハネス・ヨアヒムだ。もしこれが偶然だったら、神も仏もない。父親ヨアヒムの意思に違いない。ヨアヒムは大親友のブラームスのファーストネームを長男に与えたのだ。ヨハン・セバスチャン・ヨアヒムでもなく、ルードヴィッヒ・ヨアヒムでもなく、フェリックス・ヨアヒムでもなく、ロベルト・ヨアヒムでもないことに計り知れない意味がある。

おそらくブラームスは事前に打診を受けていたのだろう。「もし男の子なら」と。

だからブラームスは、いっそう張り切ってお祝いの作品を書いたと解したい。

2021年6月 1日 (火)

アリーチェ・バルビ

1862年に生まれて1948年に没したオーストリアのメゾソプラノ歌手。1888年にデビュウすると、その容姿と芸風で瞬く間にウィーン楽壇を席巻した。既に60歳に近づいていたブラームスも彼女の虜になったと複数の証言がある。

イタリアの貴族と結婚して人気絶頂のまま引退した。1893年12月21日、ウィーンで送別コンサートが開かれた。シューベルトやシューマン、スカルラッティの歌曲に混じって以下の通りブラームスの歌曲を披露した。

  1. 小夜鳥に op46-4
  2. 死、それは冷たい夜 op96-1
  3. 愛と春Ⅱ op3-3
  4. 我が恋は緑 op63-5

いやはや渋い選曲だ。そしてサプライズが一つ。このリサイタルで伴奏を努めたのが何とブラームス本人だった。自作だけでなく全ての曲を伴奏したらしい。事前に告知されていなかったから、聴衆の驚きは並大抵ではなかったという。

そして彼女は引退したのだが、この演奏会から5年半後、1898年3月にもう一度ステージに立った。今度のプログラムはオール・ブラームスである。残念なことに今度はブラームスの伴奏ではない。無理もない、このとき既にブラームスはこの世に居なかった。ブラームス追悼の演奏会のために、引退を撤回したという訳だ。

この時の詳しいプログラムがなかなか判明しない。

2021年2月28日 (日)

ノッテボーム

某CDショップをうろついていて売り場の隅のワゴンに詰め込まれていたセール品を何気なく手に取ったCDのジャケットに「Die vier Jares Zeiten」と書かれていた。ドイツ語で「四季」のことだ。

手に取ってみたらなんとヴィヴァルディの「四季」のピアノ連弾版のCDだった。価格価格が690円と手ごろなこともあってひとまず買い求めた。

帰宅して再生した。昼下がりのカフェででも鳴っていたらすんなり入ってきそう。「四季」はヴァイオリンに限ると思っていた潜入感はやはりお邪魔だった。

ところがだ。連弾版「四季」の余白にサプライズが埋まっていた。「バッハの主題による変奏曲」の作曲者「Gustav Nottebohm」とある。「1817-1882」という生没年と作品の出版年「1865Vien」を見て腰が抜けそうに驚いた。音楽学者ノッテボームだ。19世紀最高のベートーヴェン研究家だ。

何を隠そうそのノッテボームはブラームスの親友だ。当時勃興した音楽学の泰斗たちと親しく交友したブラームスの大親友にして当代最高のベートーヴェン研究家である。1882年10月26日にノッテボーム重体の報に接しグラーツに駆け付けたブラームスは同31日の臨終に立ち合い、葬儀費用を負担した。CDにある「没年1882」で矛盾がない。ノッテボームが所蔵していた膨大な数の古い楽譜はブラームスに相続されて現代にいたっている。

現代ではノッテボームは音楽学者として記憶されているから作品を収録したCDはレアだ。バッハの主題と言いながらCDの作品解説は原曲について沈黙している。「Sarabande Andantino」とだけ書かれている。もしかすると実は実はノッテボーム自作の主題ではあるまいななどと妄想も膨らむ。

濃い偶然だ。ノッテボームに反応する自分の脳みそをうれしく思う。ヴィヴァルディとブラームスのお導きに違いない。

 

 

 

 

2021年2月22日 (月)

共同校訂者

ブラームスはフランソワ・クープランの出版にも関与していた。校訂者という位置づけなのだが、クリュザンダーとの共同作業ということになっている。クリュザンダーは、ブラームスのお友達だ。ヘンデル研究の泰斗として知られている。

ブラームスはバッハ伝の著者で友人のフィリップ・シュピッタへの書簡において、クリュザンダーのことを話題にしている。1870年2月のことだ。どちらかといえばネガティブな話題で、グチに近い。一か月後シュピッタからの返信はこれに同調する内容だ。

タイミングから見て、おそらく共同校訂の相棒に対するグチだと推測される。

 

 

 

 

 

 

2021年1月13日 (水)

ケンペル

ウエストファーレン・レムゴ生まれの医師。鎖国真っ只中の元禄時代に日本を訪れて、オランダ商館医師として2度に亘って江戸に赴き、将軍綱吉と謁見した。彼の死後出版された「日本誌」は英語版、フランス語版、ドイツ語版ともに広く人々に読まれた。

帰国後1698年にデトモルト侯の侍医として召されて1716年に没した。彼の遺品は英国の収集家の手に渡ったが、一部の日常品はそのままデトモルトの宮殿に残されて現在に至っている。

ブラームスは1857年から1859年までの3年間毎年9月から3ヶ月間デトモルトの宮廷に勤務した。合唱団の指導や貴婦人たちへのピアノ教授がその職務だったが、比較的時間に余裕があったとされている。

だから、ブラームスがデトモルト宮所蔵のケンペルの遺品、日本の調度品や食器を見た可能性は排除できない。

2019年12月23日 (月)

シューマンのクリスマス

学生歌を調べているうちに買い求めた「シューマン合唱曲全集」全4枚組に「Weihnachtslied」という作品が入っていた。作品番号は無い。アカペラの混声四部合唱。短いけれどとてもチャーミングで印象的だ。

テキストの作者を見て驚いた。Hans Christian Andersenと書いてある。童話で名高いあのアンデルセンと全く一致する。生没年や活躍の時代を考えると、このテキストがあの名高いアンデルセンだとしても矛盾は無い。

アンデルセン作詞、シューマン作曲のクリスマスソングだ。有り難味1割増しである。

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