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2017年5月19日 (金)

ヴェンカー

Georg Wenker(1825-1911)という言語学者がいる。近代ドイツ方言学の始祖と位置付けられている。民謡におけるエルク、民話におけグリム兄弟に比肩する業績を残した。ドイツ全土およそ40000の学校施設に向けて。40の文例を送付した。地域による語彙、文法の違いをより明らかにするために練り上げられた40の短文で、現在では「ヴェンカーの文例」と呼ばれている。これらの短文を各々地域の言葉に翻訳して送り返させるという手法で、方言の分布を白地図上にプロットしたのだ。

この空前の実験により言語地理学という領域が切り開かれた。ドイツ方言の諸相がヴィジュアル化されていっそう議論が深まることとなった。

独和辞典の末尾には大抵方言の分布図が掲載されている。それには何らかの形でヴェンカーの言語地図が反映している。

2017年1月 7日 (土)

兄弟の分担

グリム童話の編集刊行について兄弟の間の業務分担はどうなっていたのだろう。さまざまな資料からうかがい知ることの出来る彼らの業務分担はおおよそ下記のとおりだ。

  • 長男ヤーコプ 民俗学的見地に立った厳密で広範な収集。
  • 次男ウィルヘルム 過剰な脚色の排除と文学的味わいの両立。
  • 五男ルートヴィッヒ 挿絵。

長男ヤーコプの収集した原稿が今世紀に入ってアルザス地方の修道院で発見された。それと1812年刊行の初版との比較から様々なことが判明した。印刷されたものは、ヤーコプが聞き取った結果そのものとは違っている。ヤーコプの原稿では方言がそのままであったりしたものが、刊行されたものはシンプルな標準ドイツ語になっている。教訓めいた話にならぬよう細心の注意を払いながら、文学的味わいが付与されてもいる。

長男は後日、童話集の刊行について弟の文才によるところが多いと誉める一方。弟は兄さんでなかったらこれほどの質量をもった話を集められなかったと言っている。

文献学的民俗学的な見地から、周到で厳密な手法を用いて数多くの民話を集めたのが兄で、それらに文学的な味わいを付与したのが弟だと捉えてよさそうだ。

こうした兄弟の役割分担をよく見ると、民謡に対するブラームスとエルクの立場の違いを思い出す。文献学的厳密さで民謡を収集したのがエルクだったのに対して、ブラームスはこれに異を唱え、民謡に芸術的価値を付与強調した。グリム兄弟で申せば、兄がエルクでブラームスは弟にあたる。

グリム童話が今尚世界的に愛されている原因をこのあたりのバランスに求めたい。2人が争えば論争になりかねない状況でありながら、学問としての厳密さと文学としての味わいが絶妙なバランスで均衡していると見た。

2016年12月26日 (月)

シシィ特集総集編

エリザベート皇后シシィ特集の総集編だ。

  1. 20161214 皇妃エリザベート
  2. 20161215 巡洋艦カイゼリンエリザベート
  3. 20161216 いとこ 
  4. 20161217 シシィの隣
  5. 20161219 イシュルの恋
  6. 20161220 姉の嫁ぎ先
  7. 20161221  ヘルメスヴィラ
  8. 20161222 ロイヤルウェディング
  9. 20161223 カイザーヴィラ
  10. 20161224 同じ誕生日
  11. 20161225 フォーティフ教会
  12. 20161226 本日のこの記事

2016年12月25日 (日)

フォーティフ教会

1853年2月18日だからブラームスがデュッセルドルフにシューマン邸を訪ね、長い滞在を切り上げた後の大事件のあった日。この日ウイーンで皇帝フランツ・ヨーゼフ1世暗殺未遂事件がおきた。

皇帝は武官一人をお供に従えて散歩に出た。現在の国立歌劇場のあたりで暴漢に襲われた。幸い怪我は軽くて程なく回復した。これを祝して建てられたのがフォーティフ教会だ。

実は事件当日の夜宮廷主催の舞踏会が予定されていた。招かれた賓客の中に、皇帝の母ゾフィーの妹バイエルン公后ルドヴィカとその長女ヘレーネがいた。23歳の皇帝フランツ・ヨーゼフの見合いが設定されていた。当然事件のために見合いは中止となり、翌年夏にイシュルに延期された。イシュルの見合いでは、皇帝がヘレーネの妹エリザベートに一目ぼれしてしまうこととなる。このエリザベートこそがシシィ皇后である。

もし、暗殺未遂事件が無かったら、フォーティフ教会が建てられることはなかったことは確実なのだが、欧州一の美貌を誇ったエリザベート皇后も誕生していなかった可能性が高い。

2016年12月22日 (木)

ロイヤルウェディング

王室や皇室の結婚のこと。

1854年4月20日。オーストリア皇太子に嫁ぐシシィは故郷のミュンヘンを立つ。ミュンヘンからウィーンへの沿道は人々でごったがえした。熱狂していたのは人々だけではない。花婿本人が、リンツまで迎えに出たのだ。リンツは、ウィーンとミュンヘンのほぼ中間、オーストリアとバイエルンの国境に近い。皇太子が国境まで花嫁を迎えに出たということだ。ドナウ川を特別製の汽船で遡っての異例の出迎えである。

4月23日一行はウィーンに入る。今度は花嫁の美貌に市民が息を呑む番だ。結婚式はホフブルクに隣接するアウグスティーナ教会で4月24日に挙行された。

4月28日祝賀舞踏会が王宮で催された。このときヨハン・シュトラウス2世が「エリザベートの調べ」を初演し皇妃に捧げたという。

この頃ブラームスはと言えばデュッセルドルフにいた。2月に投身しエンデニヒの病院に収容されたロベルト・シューマンの留守宅を守っていた。

2016年12月21日 (水)

ヘルメスヴィラ

ウィーンに滞在することを嫌うシシィを、少しでもウィーンに引き止めるため、皇帝が用意した離宮。シューンブルン宮殿の西南西およそ5kmの至近にある。現在はウィーン市立歴史博物館の分館になっている。ラインツ動物園の中にある離宮で、命名はシシィ自身といわれている。この動物園も只者ではなくて、王室の狩猟場が市民に開放されたもの。原則放し飼いで入園無料らしい。

シシィとブラームスは生きた時代がかぶる。ブラームスがしばしば散歩に訪れた可能性もある。

2016年12月20日 (火)

姉の嫁ぎ先

フランツ・ヨーゼフ1世の見合いがとんだサプライズだった話は既にしておいた。見合いの相手は姉ヘレーネだったはずだが、フランツィは妹のエリザベートに一目惚れだった。姉のヘレーネだって器量自慢だったと伝えられている。実際結婚となったエリザベートの美貌は、周知の通りだから、ヘレーネだって相当なモンだと考えられる。

エリザベートのシンデレラストーリーの割を食った姉の心中察すると切ないものがある。皇太子本人の気紛れとはいえ、当時は家対家のつきあいだから、ハプスブルク家は相当気まずかったと思われる。

その姉ヘレーネが嫁いだのが、タクシス家だ。もちろん貴族なのだがやや風変わりでもある。もともとはタッシス家というイタリアの家柄だ。15世紀にマクシミリアン1世が、帝国の書簡の集配を委託して、郵便事業に手を染めた。やがて民間郵便にも参入し、事業の独占と世襲を認められ、大財閥の様相を呈するに至る。

近代に入ると郵便の重要性は増し、オーストリア、プロイセン、スイス、イタリア、チェコ、ハンガリーにまたがる事業網を、次々と諸国家に売却し巨万の富を得た。

皇后エリザベートの苦難を考えると、姉の人生も悪くないのではと思えてくる。

2016年10月 5日 (水)

ガリバルディ

イタリア独立の立役者。1807年生まれで1882年に没したから、ほぼブラームスと同時代の人。イタリア人ならおよそ知らぬ者はいないという英雄。「1にキリスト、2にガリバルディ」という位置づけだ。

イタリア旅行中の一コマ。同行者ヴィトマンの証言によれば、大作曲家ブラームスとは知らぬパレルモのサンジョヴァンニ修道院のガイドがブラームスを「まるでガリバルディのようだ」と評したらしい。ガリバルディ没後10年も経たぬ時期だから、人々のの記憶に新しかったはず。おそらく「只者ではない」という意味で用いられたと思われる。

言われたブラームスは、歴史に詳しかったから喜んだものと思われる。

2016年10月 3日 (月)

モムゼンとの邂逅

テオドール・モムゼン(Theodor Mommsen1817-1903)は、ドイツの歴史学者。シュレスヴィヒ生まれ。とりわけローマ研究で名高い。著書「ローマ史」により1902年にはノーベル文学賞を受賞している。

ブラームスはモムゼンのことを知っていた。とりわけ高く評価していたと思われる。1887年のイタリア旅行中、列車の乗り継ぎの際、偶然モムゼンと鉢合わせしたというエピソードを、友人のヴィトマンが証言している。地元の土産物の販売人が、モムゼンにコインを売りつけようとした話を紹介している。

コインの研究はローマの歴史研究において無視し得ぬ領域を形成している。若い販売人に、コインに刻印された文字の意味を教えてやったという。周囲の人々がそれがモムゼンだと判って歓声を上げたことに、ブラームスがいたく感動したらしい。

ブラームスの歴史の知識がローマ旅行の肥やしになっていたことは確実だ。

2016年9月29日 (木)

コハク

古代の植物の樹脂が地中で石化したもの。実質的に鉱物扱いされる。遠くローマの時代から人類に愛好された。ゲルマン人とローマ人の交易品の代表格だ。ゲルマン側からの輸出品の超目玉である。吸血性昆虫が封じ込められたコハクから、恐竜のDNAを再生をするのには欠かせない素材でもある。

産地はバルト海沿岸。ゲルマン人の故郷とも目される地域。現在世界最大のコハク生産国はポーランドで80%を占める。とりわけグダニスクだ。ブラームスの生きた時代はダンツィヒと呼ばれ、プロイセン領だった。コハクといえばプロイセンだった。

英語で「Ambar」というから、ドイツ語で何と言うか調べたら驚いた。「Bernstein」だった。同名の名高い指揮者がいた。

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