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2026年6月10日 (水)

ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲

1896年2月1日。ブロニスラフ・フーベルマンの演奏に感激したブラームスは、楽屋を訪れてフーベルマンを祝福した。ブラームスの感動はよほどのものだったと見えて「ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲」の作曲を約束した。

 

ブラームスの作曲活動は夏だ。ウィーンを離れてお気に入りの避暑地で筆を進めるのが常だった。1896年の夏はイシュルだ。フーベルマンとの約束を果たすとすればそこしかない。ところが1896年5月20日クララ・シューマンが没する。失意のブラームスは、イシュルに戻ったものの「オルガンのための11のコラール前奏曲」の作曲にとりかかる。同時に体調不良が露見してしまうのだ。

 

ブラームスにとって最後のイシュル滞在となってしまった。だからフーベルマンとの約束を果たすことが出来なかった。

 

「ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲」というコンセプトは、恩師ロベルト・シューマンに前例がある。1875年1月10日の楽友協会芸術監督だったブラームスは、演奏会の曲目に取り上げており、この作品についてヨアヒムやクライスラーと突っ込んだ意見交換をしている。これがフーベルマンとの約束とどう関係するか判らぬが、裏の裏で繋がっていそうな気がする。

2026年5月12日 (火)

ベルクのヴァイオリン協奏曲

ベルク最後の作品として名高い。ヴァイオリン協奏曲は、マーラーと死別後再婚したアルマがグロピウスとの間にもうけた娘マノンの死を悼んで作曲された。「ある天使の思い出に」という副題にもそのことが反映されている。

この作品にはなんとバッハのカンタータ第60番第5曲からの引用がある。12音技法てんこ盛りの作品ながらバッハとつながっている。

カンタータの目的は三位一体後第24主日だ。この日に説かれる聖句は、マタイによる福音書第9章の18~26節である。イエスが会堂司ヤリクの娘をよみがえせたエピソードであることを思い起こせば、ベルクの引用にも説得力がある。というより信仰篤き人々には自明だと申していい。

1935年12月24日ベルク没。

 

 

 

 

2026年4月11日 (土)

ヨアヒムの学位

1876年英国ケンブリッジ大学がブラームスに名誉博士号の授与を申し出たが、結局これを固辞したことはよく知られている。第1交響曲の作曲が大詰めに差し掛かっていた頃だ。

 

実はこのとき、同じ名誉博士号の授与がヨアヒムにも提案されていた。英語不得意、航海苦手のブラームスと違って、ヨアヒムは何かと英国に縁がある。15歳のときの初めての渡英は、恩師メンデルスゾーンに連れられて実現したのだ。

 

ケンブリッジ大学ではブラームスとヨアヒムをワンセットと見ていた可能性もある。あるいはヨアヒムを突破口に、渡英を渋るブラームスを説得しようと計算していたかもしれない。

 

ヨアヒムはこの栄誉を受けた。そしてその答礼の一環として現地ケンブリッジ音楽協会を自ら指揮してブラームスの第一交響曲を演奏した。これはロンドン公演に先立つ、ブラームス第1交響曲の英国初演である。

2026年3月30日 (月)

ゴットフリート・ケラー

Gottfried Keller(1819-1890)はスイス・チューリヒ生まれの作家。一時スイスの紙幣に描かれていたくらいだから、かの地での評価はかなりのものだと思う。

 

操った言語はドイツ語だ。リアリズム文学の最高峰と目される。「リアリズムとロマンティシズムの融合」「悲劇とユーモアの結合」などが作風の特長らしい。一見矛盾する事柄が、自然に共存しているというのは、何だかブラームスっぽい。

 

案の定ブラームスは彼を高く評価した。お友達というには無理があるが、面識はあった。1882年に対面が実現している。けれどもケラーをもってしてもブラームスにオペラを書かせることは出来なかった。

 

本日7月19日はケラーのお誕生日だ。

2026年3月24日 (火)

持つべきもの

ピアノ協奏曲第1番ニ短調op15のライプチヒでの初演が手厳しく叩かれたことは有名だ。1859年1月27日の話である。ブラームスの落胆は激しく、人によってはアガーテとの婚約破棄の原因の一つとさえ指摘している。クララの励ましもあって、その3週間後にはデトモルトでの合唱指導のために鋭い質問をバッハ研究の大家に投げかけたことは既に述べた。1859年2月15日のことだ。

そこからさらに約40日後の1859年3月24日。つまり151年前の今日、ブラームスはライピチヒで落胆を味わった同じ曲を故郷ハンブルグで再演した。ブラームス自身がピアノ独奏を務め、指揮はヨアヒムが担当した。

故郷の反応は暖かく、ブラームスの落胆は一段落したという。

いわば故郷に錦を飾るという演奏会を提案したのは、当日指揮を務めたヨーゼフ・ヨアヒムその人である。批判の大合唱にも「大丈夫です」と静観していたクララといい、復活の演奏会を企てたヨアヒムといい、ブラームスには一騎当千の支持者が居たのだ。

 

 

2026年2月16日 (月)

ローゼッガー

ペーター・ローゼッガー(Peter Rosegger1843-1918)はオーストリアの国民的小説家だ。ブラームスとほぼ同時代を生きた。ブラームスお気に入りのシュタイヤーマルク地方出身だ。代表作「森の故郷」はブラームスお気に入りで、クララへの誕生祝の品に選ばれたこともある。

1885年8月30日ブラームスはクリークラーハのローゼッガー邸を訪問する。ミュルツシュラーク滞在中のブラームスが、10kmの道のりを徒歩で駆けつけたのだ。応対に出たローゼッガーは、まさかブラームス本人とは知らず、そっけない対応でお茶を濁した。後で気付いて狼狽したというエピソードが音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第2巻の239ページに載っている。ローゼッガーはこの一連の失態をブラームスの死後、「見知らぬ客」というタイトルのエッセイにして発表したと書いてある。

このほどついにその全訳を発見した。音楽之友社刊行「ふたたびウィーンはウィーン」という本の137ページだ。

いやはやローゼッガーの落胆は半端ではない。その中で彼は凄いことを言っている。妻がブラームスのソナタを弾いたと言っている。ピアノソナタと考えるのが自然だが、ピアノの腕前が相当なモンだ。さらに息子もブラームスを弾いたし、娘はブラームスを歌ったと書いている。凄い家族だ。

 

 

2026年1月18日 (日)

ヨアヒム独奏

音楽之友社刊行の作曲家◎人と芸術シリーズのブラームスに興味深い記述がある。136ページだ。1878年1月18日だから今日からちょうど132年前になる。

ハンブルクフィルハーモニーの演奏会で完成間もない第1交響曲が取り上げられたのだ。この演奏会にはブラームスの故郷への凱旋というイメージがついて回る。恩師のマルクセンやハンブルク女声合唱団のメンバーを始めとするゆかりの人々が客席につめかけた他、オーケストラのメンバーにも旧知の仲間がいた。デトモルトのコンサートマスターのバルゲーアもいたが、彼はコンサートマスターを務めることは出来なかった。なぜなら、ヨーゼフ・ヨアヒムにその席を譲ったのだ。

ということはつまり、第1交響曲の第2楽章に存在するコンサートマスターのソロを、ヨアヒムが弾いたということに他ならない。ヨアヒムに捧げられたヴァイオリン協奏曲はこのときまだ世に出ていない。だから第1交響曲はオーケストラの中でヴァイオリンの独奏を聴くことが出来る唯一の機会だった。

そしてブラームス本人は指揮台からヨアヒムのソロを聴いたのだ。

この時から1年もたたぬ1879年1月1日。ヴァイオリン協奏曲はそのヨアヒムを独奏に迎えて初演された。実質わずか1年で完成されたのだ。第1交響曲のソロパートをヨアヒムが弾くのを聴いて、ヴァイオリン協奏曲の構想が具体化したと考えるのは無謀だろうか。

ブラームス指揮、コンサートマスターヨアヒムの第1交響曲、しかも演奏はハンブルク・フィルハーモニーだ。滅多にないインスピレーションが湧いても不思議ではない。

2026年1月10日 (土)

お抱えピアニスト

スコットランド生まれのピアニスト、オイゲン・ダルベール(1864-1932)をブラームスは「お抱えピアニスト」といってかわいがっていた。リストの弟子だ。

1896年1月10日。今から130年前の今日、ベルリンで素晴らしい演奏会が開かれた。オイゲン・ダルベールがブラームスのピアノ協奏曲を一晩で2曲演奏したのだ。オケはベルリンフィル、指揮はブラームス本人だ。これがブラームス生前最後の指揮となった。このときブラームス62歳、ダルベール31歳だ。

何と言う組み合わせたろう。チケットはいくらだったのか心配になる。

2026年1月 9日 (金)

ブラームスピアノコンクール

大それたタイトルだ。実際に存在するかは判らない。

ブラームスの伝記に現れるピアニストで一番の腕前は誰かというお話だ。ブラームスが直接会ったことがあるピアニストが対象だ。ショパン、チェルニー、モーツアルト、ドビュッシー、ラフマニノフあたりは応募資格を持っていない。予選通過は下記の面々である。

  • フランツ・リスト 初見でスケルツォop4を、完璧に弾いてブラームスを驚かせた。
  • クララ・シューマン ブラームスの人生への影響度なら別格の第1位だ。
  • カール・タウジヒ リストが絶賛した才能だが、30歳で没した。「パガニーニの主題による変奏曲」はこの人用だ。
  • カミーユ・サンサーンス モーツアルト以来の神童と称された。
  • フルッチョ・ブゾーニ 19世紀のヴィルトゥオーゾの最高峰という位置付けだ。
  • オイゲン・ダルベール リストがタウジヒの生まれ変わりと称した。ブラームスは彼を称して「お抱えピアニスト」と言っている。
  • ハンス・フォン・ビューロー クララの父の弟子。

誰が一番上手いのだろう。サンサーンスとブゾーニはブラームス作品を弾いたかどうか怪しいので、やや不利か。ブラームスの作品を主たるレパートリーにしていたかとなるとリストも疑問符が付く。

ブラームス本人も相当な腕前らしいが、このメンツの中に入ると旗色が悪そうだ。、けれどもブラームスはそういうことを嘆くキャラではない。

 

 

 

 

 

 

2025年7月 6日 (日)

ハンガリーの歌

ブラームスがはばたくきっかけとなったのはヴァイオリニスト、レーメニとの演奏旅行だ。ハンガリー出身で、ヨアヒムとも面識があった。ブラームスは伴奏者として同行している途中で、ヨアヒムと知り合うことになる。

相当な腕前の持ち主で来日の経験もある。

ブラームスはハンガリーの旋律を彼から教わった。後にハンガリア舞曲として実を結んだが、当のレーメニーから著作権侵害のクレームをつけられ、裁判沙汰にもなった話は昨日しておいた。ハンガリア舞曲ばかりが有名だが、レーメニーから教わった旋律は他にもある。

1853年に書き留めておいた「ハンガリーの歌」がある。これを元にピアノ独奏用の変奏曲を書いた。これが「ハンガリーの歌による変奏曲」op21-2である。ハンガリー特有の4分の7拍子の旋律が特長だ。1862年の出版なのでハンガリー舞曲のブレークよりは早い。著作権云々の話を持ち出すならこちらのが先かとも思うが、変奏曲特有の「だれそれの主題による」というタイトリングのせいか表立った騒ぎにはなっていない。

楽譜が売れたからというシンプルな落ちということがあるかもしれない。

後日発売されたハンガリー舞曲集の第2集には、ブラームス自作の旋律も密かに混ぜてあると言われていて、ヨアヒムあたりはちゃんと区別していたらしい。

 

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