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カテゴリー「500 逸話」の114件の記事

2026年4月17日 (金)

少ないに限る

ブラームス唯一の作曲の弟子といわれるグスタフ・イエンナーはブラームスと交わした会話を折に触れて記録していたという。

 

「作曲の初歩においいては有節歌曲と変奏曲を手がけるといい」と言われたらしい。さらにブラームスは「短ければ短いほどいい」とも付け加えたという。有節歌曲が短いほどいいというのは、わかりやすい。一方の変奏曲については「少ない程いい」としたようだ。音楽の友社から刊行されている「ブラームス回想録集」第3巻の240ページ付近だ。

 

主題を元に変奏が積み重ねられる。この積み重ねの数が少ない方がいいと解するのが自然だ。第1変奏、第2変奏、第3変奏という具合の堆積が少ないほどいいという意味、つまり全体の長さが短いほうがいいということだろう。ブラームス自身30に近い変奏を重ねた作品も残しているから、解釈が難しい。24や25は少ない部類に入るのか、あるいは自分はともかく初心者は少ない方がいいという意図かもしれぬ。

 

私の解釈を少しだけ述べておく。

 

変奏を決意したら、主題を選ぶ。主題を選ぶ時点ですでに、その素材を元にどう料理するかが決まっている。それが決まらぬようなら主題の選択が悪い。あとは決めた通りに素材を調理して、さっさと言いたいことを言いきる。その素材を用いてやりたいことが5通りあれば、変奏は第五変奏までだ。

 

「少ない」とは「言いたいことを効率よく手短に」という意味だと感じている。逆に「言い切らぬうちは24でも25でも続けてよい」というこのなのだろう。

2026年4月 2日 (木)

WALDMEISTER

ヨハンシュトラウス2世の13作目のオペレッタのタイトルだ。「くるまば草」はその邦題である。序曲は名高くてしばしばニューイヤーコンサートでも演奏される。

2026年3月29日 (日)

メッシーナの花嫁

シラー作の戯曲のタイトルだ。呪われた王家をめぐる悲劇の物語だそうだ。

内容に感銘を受けたロベルト・シューマンはこれを元にしたオペラの構想を練った。最終的にはオペラ化は断念され序曲だけが作曲された。1851年のことだ。

時は巡って1855年5月7日。ブラームス22歳の誕生日を祝って、ロベルト・シューマンは序曲「メッシーナの花嫁」の自筆譜を献辞付きで贈った。ブラームスがこれに驚喜した手紙が伝えられているらしい。

よくよくその日付を見て欲しい。1855年5月といえば1854年2月27日つまりライン川への投身の後だ。一命を取り留めたシューマンは家族と離れてエンデニヒの病院に収容されていたはずだ。つまりこのプレゼントは収容先の病院からブラームスに贈られたものなのだ。

これがシューマンからブラームスに贈られた最後の誕生祝いである。

 

 

2026年3月24日 (火)

持つべきもの

ピアノ協奏曲第1番ニ短調op15のライプチヒでの初演が手厳しく叩かれたことは有名だ。1859年1月27日の話である。ブラームスの落胆は激しく、人によってはアガーテとの婚約破棄の原因の一つとさえ指摘している。クララの励ましもあって、その3週間後にはデトモルトでの合唱指導のために鋭い質問をバッハ研究の大家に投げかけたことは既に述べた。1859年2月15日のことだ。

そこからさらに約40日後の1859年3月24日。つまり151年前の今日、ブラームスはライピチヒで落胆を味わった同じ曲を故郷ハンブルグで再演した。ブラームス自身がピアノ独奏を務め、指揮はヨアヒムが担当した。

故郷の反応は暖かく、ブラームスの落胆は一段落したという。

いわば故郷に錦を飾るという演奏会を提案したのは、当日指揮を務めたヨーゼフ・ヨアヒムその人である。批判の大合唱にも「大丈夫です」と静観していたクララといい、復活の演奏会を企てたヨアヒムといい、ブラームスには一騎当千の支持者が居たのだ。

 

 

2026年2月27日 (金)

長靴を投げる

むかし某国の大統領が訪問先での会見中に、記者から長靴を投げつけられるという事件があった。大きく報道されたからご存知の方は多いはずだ。

 

どうも当地では、「長靴を投げつける」という行為は侮辱的なニュアンスがあるとも聞いている。投げた記者はその後どうなったのだろう。

 

さてさて、大いびきの犯人ブラームスは、寝不足気味のルームメートに「それなら、長靴でもぶつけて起こしてくれればよかったのに」とのたまったらしい。被害者ヘンシェルの証言が音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第1巻に載っている。

 

いびきの被害は甚大だったが、「長靴をぶつけるなんぞとんでもない」と恐縮するヘンシェルが微笑ましい。この場合の「長靴をぶつける」には、先の「長靴を投げる」にあったようなニュアンスが含まれていたのか興味は尽きない。

 

 

2026年2月16日 (月)

ローゼッガー

ペーター・ローゼッガー(Peter Rosegger1843-1918)はオーストリアの国民的小説家だ。ブラームスとほぼ同時代を生きた。ブラームスお気に入りのシュタイヤーマルク地方出身だ。代表作「森の故郷」はブラームスお気に入りで、クララへの誕生祝の品に選ばれたこともある。

1885年8月30日ブラームスはクリークラーハのローゼッガー邸を訪問する。ミュルツシュラーク滞在中のブラームスが、10kmの道のりを徒歩で駆けつけたのだ。応対に出たローゼッガーは、まさかブラームス本人とは知らず、そっけない対応でお茶を濁した。後で気付いて狼狽したというエピソードが音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第2巻の239ページに載っている。ローゼッガーはこの一連の失態をブラームスの死後、「見知らぬ客」というタイトルのエッセイにして発表したと書いてある。

このほどついにその全訳を発見した。音楽之友社刊行「ふたたびウィーンはウィーン」という本の137ページだ。

いやはやローゼッガーの落胆は半端ではない。その中で彼は凄いことを言っている。妻がブラームスのソナタを弾いたと言っている。ピアノソナタと考えるのが自然だが、ピアノの腕前が相当なモンだ。さらに息子もブラームスを弾いたし、娘はブラームスを歌ったと書いている。凄い家族だ。

 

 

2026年1月29日 (木)

独身主義

結婚をしないという生き方、または考えのことか。

ブラームスは希にこう評されることがある。菜食主義といえば、自らの意思で肉食を忌避しているというイメージで問題がなかろう。これに対して独身主義というのはやや違和感がある。

先に「結婚しない」という意思決定があり、それに律儀に従った結果生涯独身だった場合には、それでも良い。出来れば結婚したいと望みながら、そのときそのときの事情のために結婚に至らず、結果として生涯独身であった場合、これを「独身主義」と形容してよいのか疑問だ。

ブラームスはクララから「気立ての良い娘さんを見つけてお嫁さんをもらったら」と言われていた。何だか切ない。ブラームスが「あんたに言われたくねぇよ」と反論した記録は見当たらないが、喉元まで出かかっていたとしても不思議ではない。クララへの無言の反論が、生涯独身であったかもしれない。

ブラームスを独身主義者と呼びたくはない。

2026年1月26日 (月)

師匠の蔵書

ブラームスが10代に達する前から読書にふけっていたことは、少々詳しい伝記には大抵載っている。小遣いを巡回図書館の会費にあてていたとも指摘されている。

後年ウィーン楽友協会の重鎮になった後、そこの蔵書は見放題だったと思われるが、演奏旅行等で訪れた土地でも情報収集に余念がなかった。

さて10歳でマルクゼンに師事するようになって、週一回師匠の家に通うようになると、そこにある膨大な楽譜や書籍に夢中になったようだ。ベートーヴェンの交響曲を筆写したとも伝えられている。

そして20歳でシューマンに出会うと、シューマン邸にあった楽譜や書籍が興味の対象になった。楽譜や書籍の整理を買って出たらしい。

師匠とは言えないが、詩人ヴィトマンや高名な外科医ビルロートの蔵書もブラームスの発掘作業の現場だった。ヴィトマンは、ブラームスが毎度大きな旅行鞄を持ってやってきては、蔵書を借り出していったと証言する。

個人の蔵書は、その人の個性を色濃く反映する。マルクゼン、シューマン、ヴィトマン、ビルロート等あらゆる地位立場の人々の蔵書に接することで、結果としてバランスの良い知識を効率的に吸収出来たと推測される。

そして今、そのブラームス自身の蔵書は、「ブラームスの遺産」としてウィーンの楽友協会に手つかずで保存されている。無数の書き込みとともにである。

2026年1月18日 (日)

ヨアヒム独奏

音楽之友社刊行の作曲家◎人と芸術シリーズのブラームスに興味深い記述がある。136ページだ。1878年1月18日だから今日からちょうど132年前になる。

ハンブルクフィルハーモニーの演奏会で完成間もない第1交響曲が取り上げられたのだ。この演奏会にはブラームスの故郷への凱旋というイメージがついて回る。恩師のマルクセンやハンブルク女声合唱団のメンバーを始めとするゆかりの人々が客席につめかけた他、オーケストラのメンバーにも旧知の仲間がいた。デトモルトのコンサートマスターのバルゲーアもいたが、彼はコンサートマスターを務めることは出来なかった。なぜなら、ヨーゼフ・ヨアヒムにその席を譲ったのだ。

ということはつまり、第1交響曲の第2楽章に存在するコンサートマスターのソロを、ヨアヒムが弾いたということに他ならない。ヨアヒムに捧げられたヴァイオリン協奏曲はこのときまだ世に出ていない。だから第1交響曲はオーケストラの中でヴァイオリンの独奏を聴くことが出来る唯一の機会だった。

そしてブラームス本人は指揮台からヨアヒムのソロを聴いたのだ。

この時から1年もたたぬ1879年1月1日。ヴァイオリン協奏曲はそのヨアヒムを独奏に迎えて初演された。実質わずか1年で完成されたのだ。第1交響曲のソロパートをヨアヒムが弾くのを聴いて、ヴァイオリン協奏曲の構想が具体化したと考えるのは無謀だろうか。

ブラームス指揮、コンサートマスターヨアヒムの第1交響曲、しかも演奏はハンブルク・フィルハーモニーだ。滅多にないインスピレーションが湧いても不思議ではない。

2026年1月14日 (水)

暗譜隠し

暗譜の話題はブログ「ブラームスの辞書」の中でしばしば現れる。今までは演奏家の立場からの話だった。今回は指揮者の立場から見た暗譜の話だ。

音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第2巻148ページと153ページ付近。ホイベルガーの回想に現れる。

ブラームスはベートーヴェン作品の暗譜を容易だと述べている。同時にハイドンは難しいと仄めかしている。作曲家によって暗譜の難易度が違うという認識だ。ブラームス自身はドヴォルジャークの新世界交響曲を暗譜していたことが判る。ホイベルガーはブラームスの指揮が大抵暗譜だったことを明言しているが、指揮台にはありあわせの楽譜が置かれていたと証言している。「カッコをつけていると思われないため」というブラームスの見解も添えられている。

暗譜で指揮をしていると、「カッコをつけていると思われる」ことがあると判る。

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