音楽作品は作曲家の創意の結晶である。これは疑えない。それが注文による作曲であったにしてもだ。もちろんその楽譜上に記載される楽語の選択も含めて、作曲家その人の意思の発露である。作品を世に問う手段としての楽譜出版の位置づけが重みを増せば増すほど、楽譜上に記される楽語の重要性もまた高まっていくことは確実だ。
さて、そうした作品がある程度たまってきたとして、作曲家はそれを手元において常に参照しただろうか。もっというならそこで用いられた楽語をカウント集計していただろうか。
おそらく答えは「No」だ。つまり作品自体はそこに書かれる楽語含めて意思の反映であるのに対し、作品群中の楽語の使用頻度までは意識されてはいるまい。250年後の極東日本の愛好家がまさか数えるとは思ってもいないはずだ。
だから楽語使用の頻度は、作曲家の無意識の反映だ。だからこそヴィヴァルディの「ALA」への固執は、個性の反映であると解し得る。
「Allegro」が「Largo」を挟む楽章構成を持ったコンチェルトがヴィヴァルディには頻発するのにバッハではちっとも見かけない現象を追いかけている。協奏曲の数がさほど多くないバッハだから仕方ない面もあるとして、多作家として名高いテレマンで試すことにした。
テレマンの協奏曲は全部で112曲あるから、楽しみにしていたのだが、テレマンの場合、協奏曲が4楽章になっているケースが多く、肩透かしをかまされた感じ。全112曲の協奏曲のうち3楽章構成を採用するのはわずか31曲に過ぎない。
本日話題のALA型はたった1曲にとどまる。オーボエ協奏曲変ホ長調TWV51:Es1だけだ。緩徐楽章に「Largo」が用いられないわけではなく、「Allegro」に挟まれないということだ。
タルティーニのヴァイオリン協奏曲125曲について急緩急3楽章の発想記号がどうなっているか調べている。「ALA」はわずか14%程度。しからば何が多いのか。
「急緩急」のうち、両端の「急」については「Allegro」がほとんどで、変わるとしても「Presto」だ。この点はヴィヴァルディと大差ない。問題は中間の「Largo」が、どう差し替わるかだ。そこで両端を「Allegro」で固定し、中間楽章のバリエーションを調べた。
バランスが取れていると申し上げていいだろう。「Sostenuto」を除けば顔ぶれはヴィヴァルディと大差ない。ヴィヴァルディの「Largo」への固執だけは確実だろう。
イムジチのヴィヴァルディボックスのブックレットを頼りに、ヴィヴァルディのコンチェルトにおける、楽章冒頭の発想記号を分析してみた。となるとヴァイオリン協奏曲全集のブックレットを頼りに同じことをタルティーニでやりたくなった。
まずは総数を125曲と押さえる。ここから3楽章ではないケース12曲が脱落するから113曲だ。ここでまずは軽い驚きがある。ヴィヴァルディやテレマンは様々な独奏楽器の協奏曲があったが、タルティーニの113曲はすべてヴァイオリン1本の独奏だ。
さてこのうちプレーンの「Largo」が、これまたプレーンの「Allegro」に挟まれた「真正ALA」は6曲しかない。
「Allegro」「Largo」が何かに修飾されている形「疑似ALA」まで含めると下記10曲が加わる。「Larghetto」2曲をこれに含めている。
合計16曲14%少々の構成比でしかない。ヴィヴァルディとは大違いだ。
ヴィヴァルディのコンチェルトに「Allegro」「Largo」「Allegro」という3楽章構成がやけに多いと書いた。じゃあバッハはどうなのかというのは自然な展開だ。そもそもバッハのコンチェルトはヴィヴァルディほど多くない。
BWV1055のチェンバロ協奏曲が、疑似ALAに相当するくらいしか見当たらない。楽章冒頭の発想記号なしというケースも大変多い。緩徐楽章に「Largo」系の用語が出るには出るが、「Allegro」にサンドされない。
ヴィヴァルディの協奏曲において第1楽章や第3楽章において優勢な「Allegro」の代替にどんな用語が使われているかを調べたばかりだ。ほぼ「Presto」だと推定できる。しからば第2楽章で「Largo」の代わりになっているのはどんな用語か調べた。それぞれの用語のプレーンばかりではなく含むケースも全部カウントした。
全部で51曲だ。ラルゴとその仲間たちで88曲あったから、ラルゴ主体は動じないが第1楽章や第3楽章における「Allegro」への固執っぷりに比べれば数段自由。ここで注目は「Andante」だ。ヴィヴァルディが「Andante」を遅い概念だと思っていた証拠だ。「急緩急」の中間楽章に据える以上遅い概念でなければならぬ。
ブラームスの器楽曲では数の上で「Adagio」と「Andante」が拮抗する。「Grave」や「Largo」は少数派である。
イムジチのヴィヴァルディボックスのブックレットはつくづく役立つ。本日もそこから。収録されている協奏曲は150曲。3楽章制でないもの6曲を除去して144曲がベースだということを念頭に以下のリストをご覧いただく。
結論から書く。144曲のうちこれら11曲だけが第一楽章に「Allegro」が来ない。逆に申せば残り133曲92.4%は第一楽章を「Allegro」または「Allegro+α」で立ち上げている。第三楽章が「Allegro」でないケースは全部で19曲ある。第一楽章よりは落ちるもののこれもかなりの構成比だ。「Allegro」代替はほぼ「Presto」と断言できる。
記事「疑似ALA」の中で、「Allegro」や「Largo」のヴァリエーションを話題にした。本日はこのうち「Allegro」について少し深める。
疑似ALAに抽出した「Allegro」の変化形は上記の5種類だ。つまりヴィヴァルディはこれらを使い分けている。上記1と4はアレグロを煽ると思われる。2.3.5はアレグロを抑制していると受け取れる。面白いことに煽り型の1と4はブラームスに実例がある一方、抑制形の2.3.5はブラームスに実例がなく、書籍「ブラームスの辞書」に収載されていない。
「Allegro molto」と「Allegro non molto」の違い「non」の有無をヴィヴァルディは意識しているということだ。「Allgro ma non molto」と「Allegro non molto」では「ma」一個の出し入れだ。
「ヴィヴァルディの辞書」が書けそうな気配が立ち込める。
記事「ヴィヴァルディのALA」の中で、協奏曲の楽章構成が下記になっている作品をイムジチのヴィヴァルディボックスのブックレットを頼りに抽出した。
プレーンの「Allegro」がこれまたプレーンの「Largo」をサンドしているケースに限ったため「Allegro+α」や「Largo+α」が脱落した。本日はその脱落組をリストアップする。
これらをひとまず「疑似ALA」と名付けるとともに、プレーンの「Allegro」「Largo」だけからなるパターンは「真正ALA」とする。昨日「真正ALA」が144曲中51曲をヴィヴァルディ協奏曲の根幹と位置付けた。惜しくも漏れた変化形「疑似ALA」は、派生形と受け取れる。このほかに1楽章または3楽章がテンポ表示をもっておらず、それ以外は「ALA」いう怪しいケースもあるにはあるが、きりがないので「真正ALA」と「疑似ALA」合計84曲、なんと58.3%が同パターンが占める。
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