もう一つのアレグロ・マエストーソ
「ブラームスの辞書」は、収録の対象を原則として作品番号のある作品に絞っている。しかし今となっては、これがとんでもないアキレス腱になってしまっている。作品番号の有無に関わらず、「我が家に楽譜のある作品全て」というコンセプトにすべきだった。
ピアノソナタ第3番第1楽章冒頭の「Allegro maestoso」を「ブラームス唯一の」などと勢いよく断言してしまっている。「作品番号のある作品としては」と差し込まねばならなかった。
1852年ハンブルクのクランツ社から刊行された「ロシアの思い出」というピアノ連弾作品集が、現代ではほぼブラームスの真作とされている。もちろん作品番号などついていない。それどころかGWマルクスというペンネームが用いられている。
全6曲からなるこの曲集の1番ロシア讃歌の冒頭に「Allegro Maestoso」が鎮座する。作曲年代としてこちらが1年先行するから、ピアノソナタ第3番の用語選択の際、一瞬は頭をかすめたものと思われる。ピアノソナタ第3番はヘ短調であるのに対して、ロシア讃歌はニ短調だ。作品冒頭の「Maestoso」はニ短調に特異的に集中するという後に顕在化するブラームスの癖を作取りしている点、ただただ驚くばかりである。








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