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カテゴリー「170 楽器」の16件の記事

2023年9月16日 (土)

風の送り手

オルガンのパイプに風を送る職人のことをカルカントといった。ドイツ語で「Kalkant」と綴る。さしずめ「ふいご職人」といったところか。踏みっぱが壮麗であるといってもカルカントたちがきっちりと風を送っていればこその話だ。シュニットガーなどの歴史的なオルガンも現在では電動で風を送る。

風の送り方が下手だとオルガンの鳴りに影響するらしい。弦楽器でいうならボウイングにも相当する重要な位置づけが、演奏家とは別人格だということである。バッハには専属のカルカントがいたと言われている。ストップの操作はアシスタントだということを思うと、両手と足を総動員して直足らずにカルカントとアシスタントが要るという豪勢な楽器である。

オーケストラの次に人手がかかると言っていい。

 

 

 

 

2023年6月19日 (月)

名詞の性別

名詞の性別はドイツ語の学習においてはある種の鬼門を形作っている。英語では意識することもない概念だった。フランス語にも男性名詞、女性名詞が存在するが、ドイツ語ではさらに中性名詞が加わる。「太陽」のようにフランス語とドイツ語で性別が逆転することさえある。外国人にとって厄介なだけの性別をドイツの人たちはとても大切にしているという。昨今の日本語同様に言葉の乱れも指摘される中、名詞の性別だけは頑なに使い分けられているらしい。

クラシック音楽で使われる楽器の性別を調べた。結論から申せば圧倒的に女性優位だ。

<男性名詞>

  • コントラファゴット
  • コントラバス

<中性名詞>

  • ピアノ
  • ファゴット
  • ホルン
  • チェロ

上記以外は全部女性名詞と思ってよい。ティンパニ、トランペット、トロンボーン、チューバも女性なのだ。金管楽器の中でホルンだけが中性、木管楽器の中でファゴットだけが中性なのだ。ハープやヴァイオリンが女性名詞だというのは感覚的にOKなのだが、意外な割り当てが多くて面食らう。

ちなみにシンフォニーもソナタもオーケストラも女性名詞なのにコンチェルトが中性だというからますます判らなくなる。

何故と聞いてはいけないらしい。ドイツでは名詞が3つに分類されている。シンプルに「1群2群3群」と考えるべきだという。「女性男性中性」と考えると「何故」と訊きたくなるからだそうだ。ライン川やマイン川は男性で、エルベ川やオーデル川は女性だという。おそらくドイツの人々でも説明不能ではあるまいか。

男性楽器だけを集めた室内楽があったりしたら面白いと思うのは外国人だけで、ドイツの人々は息をするように自然に当たり前に使い分けているのだろう。もちろんブラームスもだ。

2021年4月28日 (水)

四段鍵盤

北ドイツで隆盛を誇った大オルガンとは、複数のオルガンの集合体と目される。演奏者はコンソールと呼ばれる演奏台に座ったまま、手元の鍵盤を弾き分けることで複数のオルガンを操作できるという寸法だ。鍵盤の数は足鍵盤を除いて概ね2~4だ。

各々の鍵盤はそれぞれ別のパイプ群を操作し、パイプの位置や機能によって、およそ以下のように命名されている。

  1. ハウプトヴェルク 主鍵盤と訳され、奏者頭上のパイプが鳴る。
  2. オーバーヴェルク 文字通りハウプトヴェルクのさらに上にパイプが据えられる。
  3. リュックポジティヴ 演奏者の背後。これにより聴衆から演奏者が隠れる。
  4. ブルストヴェルク ハウプトヴェルクの下、奏者の胸の位置にパイプが置かれる。

三段の時は、これらのうち大抵ブルストヴェルクかオーバーヴェルクが省かれる。18世紀後半以降リュックポジティブを欠くオルガンが建造されるようになる。もちろんこのほかに足鍵盤が装備されており、奏者両翼にパイプが屹立する。

20190312_110916
概ねこんな感じか。

いやはや今となっては懐かしい、ハンブルク・ヤコビ教会シュニットガー制作の大オルガンは四段鍵盤らしいのだが、同地を訪れたときに演奏台の写真が撮れていない。

 

 

 

 

 

2017年10月29日 (日)

第2ヴァイオリン

ヴァイオリンの初心者が楽器屋さんに行って「第2ヴァイオリンはありますか?」と言ったという小咄もいささか語り尽くされた感がある。

一般にオーケストラや弦楽合奏ではヴァイオリンが2つのパートに分かれる。より目立つ方を「第1ヴァイオリン」と呼び、そうでない方と「第2ヴァイオリン」と呼び習わしている。定義に決定版があるとは思えない。「旋律・伴奏」「音高」「主役・脇役」どれをとっても例外が発生ししまう。第1ヴァイオリンのオクターブ下で旋律をトレースしたかと思うとヴィオラとともにひたすら刻むということも少なくない。俗にこのパートが上手いオケは上手いという伝説があるが有効な確認手段が無い。

私が大学オケに入団した頃、第2ヴァイオリンに伝説があった。「昔は上達しない奴をヴィオラに出していた」という無惨なものだった。実際にはメンツの足りないヴィオラをヴァイオリン弾きが交代でフォローしていたという事実の反映だと思われる。最初からヴィオラの私はいったいどうなるのだろう。

ブラームス作品の中で第2ヴァイオリンの見せ場を探したが、ヴィオラに比べるとあまり多くないと感じる。私がヴィオラ弾きのせいかもしれない。

2017年8月17日 (木)

6度のティンパニ

ティンパニの調律について興味深い話がある。

「ネーニエ」op82だ。この作品はニ長調だというのに、1対のティンパニは「嬰ハ」と「嬰ヘ」に調律される。これにもまたカラクリがある。中間部で嬰ヘ長調に転ずるのだ。これなら主音と属音だ。つまりネーニエの作品冒頭でブラームスは、ティンパニに対して、中間部の調を見据えた調律を要求しているということになる。調性配置のプランを先に告白しているようなものだ。それでいて中間部に至る前にもティンパニに出番があるところが、絶妙なところだ。しかも2箇所だ。

74小節目コードネームで言うと「A→F♯m」という進行の中でティンパニが「嬰ハ→嬰ヘ」と差し込んで来る。次が82小節から「Hm→C♯」という進行の中で「嬰ヘ→嬰ハ」とたたみこむ。

そして中間部では晴れて主音、属音として「嬰ヘ」「嬰ハ」を活躍させた後、ニ長調の再現部を前に、ブラームスは「嬰ハ」を「ニ」に変更させたと思われる。断言できないのには理由がある。楽譜いくら見ても「嬰ハをニにせよ」と書いていない。書いていないのに157小節目でいきなり「ニ音」がティンパニに現れてしまう。冒頭でデフォルトされた「嬰ハ」の半音上の音だ。だから仕方なく「嬰ハ」を「ニ」に変更したと推定した。

これで「ニ」と「嬰ヘ」になる。ニ長調であれば「ニ」と「イ」というのが自然だが、それだと2個のティンパニを両方変えねばならない。手間を考えたわけでもなかろうが「嬰ハ」だけを半音上げることで「ニ」を調達し、結果として「嬰ヘ」「ニ」という6度関係に持っていったということになる。残念なのは、その再現部の中で「嬰ヘ音」の出番がないことだ。

1対のティンパニが6度に調律されるというのは、なかなかロマンティックな感じがする。

2015年6月15日 (月)

電子ピアノの限界

転勤族をしている間、電子ピアノは重宝だった。サイズは手ごろだし、調律もいらない。

けれどもピアノ四重奏曲第1番第4楽章を練習しているとき、妻が困ったと言い出した。また鍵盤の数が足りない話かと思ったがそうでもない。いくら練習しても一定のテンポ以上早くは弾けないらしい。

ピアノでも電子ピアノでも一旦押した鍵盤から手を離すと、鍵盤は元に戻る。何度繰り返しても同じだ。電子ピアノは本物のピアノに比べてこの時の元に戻るスピードが遅いのだという。どんなに練習して早く弾けるようになっても、鍵盤が元に戻るスピードより早くは弾けないというのだ。ピアノ四重奏曲第1番第4楽章には46小節目でピアノにはじめて16分音符が現れるが、このことを言っている。80小節目以降115小節目までの16分音符も相当なモンである。

CDで聴く限りアルゲリッチなどは相当なテンポで弾いている。この曲に限らねば速いテンポの16分音符はもっとある。キーシンのハンガリア舞曲も大変なものだ。つまり猛烈なテンポで弾かれるそばから、次々と鍵盤が元の位置に復帰しているということなのだ。ピアノはピアノで、そのグレードによって性能に違いもあるのだろうが本物のピアノは大したものである。

ピアノのメカニックの精度と耐久性には今更ながら驚くばかりである。

そうそう、今日は亡き妻の誕生日だ。

2015年5月13日 (水)

緩める

弦楽器のチューニングにおいては、弦の張りを緩めると低い音を得ることが出来る。当たり前の話だ。実際に音を出しながらペグやアジャスターを回すが、「これにて決定」の瞬間は張ることで迎えるのが原則。緩めてチューニングを終えてはいけないという。

さて、世の中にはそのチューニングを演奏中にしなければならない曲がある。シューマンのピアノ四重奏曲の第3楽章だ。曲の末尾でチェロに実質16小節の休みがあり、その途中でC線を緩めてB音が出せるようにしろというのだ。プロの演奏家は実際の演奏会でどうしているのだろう。休みといっても他のパートは音を出しているから、邪魔にならぬように弦を緩めて、さらに開放弦でB音が鳴るようにキッチリと合わせねばならない。現実的ではないような気がする。

さらに不安なのは、続くフィナーレ第4楽章の冒頭に、このC線についての言及がないことだ。そのままB線状態を放置するのか、やっぱりC線に戻すのか判らない。書かんでも判るから書いていないのだとは思うが、一言挨拶が欲しいところである。

さて、コミックの世界ではもっと凄い例がある。

泣く子も黙るロングセラーの話だ。神業を誇る超A級スナイパーが主人公のあの作品だ。

古い話だが、1989年に刊行された単行本75巻に「G線上の狙撃」という話が載っている。バッハの「G線上のアリア」演奏中、主人公にG線を狙撃された、これまた世界的なヴァイオリニストがとっさにD線を緩めてG線の代わりとし、何事も無かったように演奏を続けたとある。

シューマンの四重奏の場合はCをBにする1音の下げだったが、こちらは5度の下げだ。実際にG音を出すことが出来ぬとは言えまいが、弦の張りが弱すぎて話にならないと思うがいかがだろう。もし弾けたとしても名人に相応しい音にはならないと思う。

このコミック自体は無論フィクションだが、時代背景や場面設定の緻密さが売りだ。それでもこの「D線緩めのG線化」には承伏しがたい矛盾を感じる。もしG線の代わりにE線が撃たれて、それでもA線ハイポジションを駆使して最後まで弾ききったという話だったら、ワンランク上の説得力を獲得していたに違いない。

ブラームスの室内楽へのこじつけに失敗したのでせめて、5月13日に公開してお茶を濁す次第である。

2014年12月 9日 (火)

ピッコロ

「小さなフルート」のこと。フルートよりオクターブ高い音が出る。ブラームス作品での登場は以下の通り。

  1. 管弦楽のためのセレナーデ第2番op16
  2. ドイツレクイエムop45
  3. カンタータ「リナルド」op50
  4. ハイドンの主題による変奏曲op56
  5. 大学祝典序曲op80
  6. 悲劇的序曲op81
  7. ピアノ協奏曲第2番op83
  8. 運命の女神の歌op89
  9. 交響曲第4番op98

意外と多い。その他ト短調ピアノ四重奏曲のシェーンベルク編にもピッコロがある。

ウイーンのカフェに一歩足を踏み入れると、「ピッコロ」は「小さなフルート」の意味ではなくなる。小さなカップをピッコロと言う場合もあるが、何と言っても見習い給仕のことを指すのが一般的だ。普通の給仕はケルナー「Kellner」といい、給仕長は「Ober Kellner」となる。気をつけねばいけないのが呼びかけで、その給仕がどれほど若造であっても「ピッコロ」と呼びかけてはいけないそうだ。客が呼びかける時はどんな若造にでも「Herr Ober」(給仕長の短縮形)と呼びかけるのがしきたりらしい。

2011年10月18日 (火)

Instrumentenquodlibet

ドイツ語はとかく単語の綴りが長くなる。英語ならばスペースを挿入して別単語にしそうな場面でも、かたくなに連結を好む。本日のタイトルもそうだ。「Instrumeten Quodlibet」とするだけで数段スッキリするのだが。

昨日話題にした「Quodlibet」(混成曲)だ。ドイツ民謡を調べていたら思わぬお宝があった。本日のお題はその民謡のタイトルだ。大学オーケストラで小中学校を訪問して演奏を披露することがあった。そのとき楽器紹介をする。これがなかなか受けがよろしくコンサートの呼び物になっていた。本日の民謡は楽器は全く登場しないが、合唱でまさに「楽器紹介」を再現している。4分の3拍子のやや遅めのワルツといった感じだ。

描写される楽器は出現順に以下の通り。

  1. コントラバス 全員合唱で「それではコントラバスくんが始めると」と歌った後、合唱のバスパートが「plum plum plum」と歌い出す。小節の頭にピチカートを差し込むというイメージだ。
  2. ヴィオラ やがて全員合唱で「次はヴィオラ君の出番だ」と切り出されるから楽しみにしていたら、コントラバスのブンに続けて「チャッチャッ」とかぶせる役割だった。コントラバスの「plum plum plum」が続く中、2拍目と3拍目に「Schrum Schrum」と差し込む。現実のオケでもワルツやポルカでのヴィオラは後打ちが多いから、やけにリアルで吹いた。
  3. ファゴット 鷹揚な付点2分音符を「バーバーバー」とやってバスを補強。
  4. クラリネット 地味な対旋律という位置づけで、ここまでの4つがベースという感じ。
  5. ヴァイオリン やっと旋律が出る。
  6. ホルン 全体を覆い尽くす和音の仕上げという感じ。
  7. フルート 8分音符のきらびやかな装飾だ。文字で書くと大したことはないが、これが事実上のコロラトゥーラだ。ソロならともかく合唱だと難儀だろう。

上記1から順に全員合唱を挟みながらパートが増えて行く。混声7部合唱になる。これを本当に楽器でやったら精巧な「楽器紹介」になると思う。

さらにこの楽器リストを眺める。チェロの脱落に目をつむればブラームスが好きそうなメンバーだと感じる。

2010年6月 2日 (水)

ハルモニウム

ほぼ、リードオルガンと思っていい。厳密には異論もあろうが「ほぼ」足踏み式リードオルガンのイメージである。19世紀後半の欧州では、かなり普及していた。ピアノに比べて、軽い、安い、調律不要などのメリットが受けていたと思われる。パイプオルガンの代用としての用途もあったらしい。

舐めてはいけない。ドヴォルザークはハルモニウムを含む室内楽作品を残している。マリチコスチop47がそれだ。ヴァイオリン2、チェロとハルモニウムである。

さらに調べていたらお宝情報にめぐり合えた。

ブラームスのヴァイオリンソナタ第1番と2番の両方の第1楽章が、ハルモニウムとピアノの二重奏に編曲されていた。もちろんブラームス本人ではなくて、アウグスト・ラインハルトという人の編曲だ。

どこかでCDを出していないものか。

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