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カテゴリー「300 作曲家」の122件の記事

2022年9月15日 (木)

傍観者

ブラームスは活字が好きだ。楽譜以外の出版物によく目を通していた。文学作品はもちろんのことだが、新聞雑誌の類も定期的に読んでいたらしい。学術的音楽雑誌が彼の遺品の中から、書き込みとともに見つかっているという。クラシック音楽界の動向にも関心があったということだ。だから、当時の楽壇を二分した論争を十分知っていた。自らが片方の当事者の首領に祭り上げられていたこともよく認識していたに違いない。

ところが、奇妙なことに論争の当事者であるはずのブラームスは、新聞雑誌などに意見を投じていない。論争の様子を眺めるだけで、自らはジャーナリスティックな手段に訴えることをしていない。もちろんブログもHPもない。ブラームスは自らの情報発信を楽譜の出版だけに限定していた。

自称「未来の音楽」が闊歩していた時代にあっては大変珍しいことだ。自らの領分が作曲であることを肝に銘じていたのだと思う。

「未来の音楽に興味はない。未来に残る音楽を書きたいだけだ」と言ったらしい。単に「ウィット」というには、あまりにも含蓄が深い。

 

 

2022年9月14日 (水)

傑作の森

同一人物の手による作品を作曲年代順に並べる。傑作と呼び得る作品が、一定の時期に密集している場合に、その時期のことを「傑作の森」と呼ぶことがある。

傑作が密集するという現象が認められる時点で、彼が大作曲家だと判る。ベートーヴェンにおいては、英雄交響曲から田園交響曲にかけての時期が、しばしばこのように言い回される。

考えてみると興味深い。傑作の出現に濃淡があることが前提だ。「淡」の部分があるからこそ、「濃」の部分を認識できる。全部「淡」の人は大作曲家と呼ばれないから安心だ。問題は「全部が濃」の人だ。

ブラームスは他の作曲家たちの研究者と親しかったから、後世自分自身がどのように研究されるかも、ある程度想定していたに違いない。だから自分の作品一覧表に濃淡が起きないように、あるいは「濃」ばかりになるように意図した。クララやヨアヒムなど信頼出来る友人と意見交換を欠かさなかったし、満足できない作品の廃棄に万全を期したことは有名だ。

私はブラームスラブだから「全部が濃」に見えている。脳味噌にブラームス補正がかかっているとも言える。

だからブラームスに傑作の森は存在しない。(きっぱり)

2022年9月 6日 (火)

自認

「自分で認めること」と解してまさか大きくはずしていることはあるまい。

ブラームスの作品に親しく接する後世の愛好家や評論家、あるいはひょっとして演奏家が、ブラームスをベートーヴェンの後継者と位置づけることがままある。作品をいろいろ分析した結果、このように評価する人がいることを妨げるつもりはない。

私自身もそう思う。けれどもブラームスの姿勢を調べて行くと、過去の作曲家に対する敬意や、それら作品の研究ぶりを見るにつけ、ベートーヴェンだけを取り立てて扱うことには違和感も感じる。

ましてや、ブラームス本人がベートーヴェンの後継者を自認していたとまで断言されると、一寸バッターボックスをはずしたくなる。

ピアノソナタ第1番とハンマークラヴィーアソナタ冒頭との関係や、第一交響曲作曲の経緯には、ベートーヴェンとの関連を伺わせる要素が存在しそうだが、それだけで後継者を自認していたとまで申しては飛躍が過ぎると感じる。交響曲の作曲にあたって、ベートーヴェンの9つの先例に負けない出来映えを目指したことは確実だが、第1番以外の3曲では、そうした力みもあまり感じられない。ベートーヴェンとの関連が必要なのは周囲の愛好家ばかりで、本人はそうでも無かったなどと無惨な想像もしたくなる。

そもそも過去の作曲家、ましてやベートーヴェンクラスの大物を挙げて自らを後継者に据えるなど、慎重派のブラームスでは考えにくい。

後世の人々の評価と本人の自認とは厳密に分けるべきだと思うが、その点曖昧な議論が多いとも感じている。注意が必要だ。そこがあいまいな方が好都合だなどという後世の事情もあるかもしれぬ。

2022年8月26日 (金)

大作曲家の信仰

聖書系の書店を何気なくうろついていて手に取った本。R・カヴァノーという人の著作が和訳されたもので、教文館から刊行されている。2500円をためらわずに支払った。音楽系の書店では見かけなかった。下記の作曲家たちを信仰という切り口から語っている。

  1. バッハ
  2. ヘンデル
  3. ハイドン
  4. モーツアルト
  5. ベートーヴェン
  6. シューベルト
  7. メンデルスゾーン
  8. ショパン
  9. リスト
  10. ワーグナー
  11. グノー
  12. フランク
  13. ブルックナー
  14. ブラームス
  15. ドヴォルザーク
  16. エルガー
  17. ヴォーンウイリアムス
  18. アイヴス
  19. ストラヴィンスキー
  20. メシアン

著述の前半は生涯の簡単な紹介になっている。後段で信仰のことが語られる。欲を言うと、ヴィヴァルディ、テレマン、ブクステフーデ、パッヘルベルあたりのバロック期の人たちを加えてほしかった。ドイツ系のめぼしいところでは、シューマン、マーラー、ウェーバーあたりが抜けている。オペラ系やフランス系に薄い感じがする。言及のある作曲家についての記述が充実しているのでないものねだりがしたくなる。

そんなことよりイタリア全滅はあんまりだ。それならそうで「大作曲家」などと振りかぶらねばいいのに。

 

 

2022年8月 8日 (月)

コレルリヴァリエーション

ラフマニノフが1931年に作曲した「コレルリの主題による変奏曲」op42だ。主題はコレルリの「ヴァイオリンソナタ」op5-12というより「ラフォリア」ニ短調だ。古来有名な旋律で、コレルリの作ではないが、最も有名な「ラフォリア」に敬意を表したということなのだろう。

ピアノの名人芸を堪能する作品になっている。

 

 

 

 

2022年8月 5日 (金)

芋づる式

一つのことをキッカケに、関連する事項が次々と明らかになることくらいの意味だ。

ヴィヴァルディと言えば我が国ではバロック音楽を代表する不動の位置づけにある。ところが、バッハ同様長らく忘れられていた作曲家でもある。19世紀後半に訪れたバッハ再興の動きは、バッハ作品の研究面で飛躍的な発展を見せた。バッハは研究熱心で、他の作曲家の作品を編曲することが多かった。そのターゲットの中にヴィヴァルディがいたのだ。バッハルネサンスの展開の中から芋づる式に復活したのがヴィヴァルディという訳だ。「あのバッハがこれほど熱心に編曲しているのだから、さぞ立派な作曲家だったのだろう」というノリかもしれない。

遠い将来。

ブラームス研究を志す人が、ブラームスについて知見を深める活動の中から私の本やブログが芋づる式につり上げられることがあるかもしれない。

いつ釣り上げられても恥ずかしくないように、ピチピチと元気なブラームスネタを発信し続けたい。

2022年6月 5日 (日)

Hortus musicus

ヨハン・アダム・ラインケン(1743-1722)の室内楽作品で「音楽の園」という訳が定着している。編成はヴァイオリン2本とガンバ、そして通奏低音だ。ラインケンの作品はオルガン中心なのだが、これはうれしい例外だ。30の小曲の集合体なのだが、5曲ずつにグルーピングされており、事実上6曲の室内楽だ。

その構成は下記の通り。

  1. ソナタ
  2. アルマンド
  3. クーラント
  4. サラバンド
  5. ジーク

このうちの1楽章「ソナタ」は、前奏曲、フーガ、アダージョ、アレグロに細分される。驚くべきは2楽章以降の舞曲構成だ。「アルマンド」「クーラント」「サラバンド」「ジーク」という配列はドイツにのみ有効と思われる「伝フローベルガーの配置」と一致する。

バッハは全30曲のうち、1~6番および11~15番の全11曲をチェンバロ独奏用に編曲している。ラインケンへの敬意を感じさせる。

2022年4月28日 (木)

持ってる人

絶対音感について調べている過程で、お宝情報に遭遇。出版館ブック・クラブ刊行「大作曲家が語る音楽の創造と霊感」という本の232ページ。ブラームスと同時代の作曲家ブルッフが絶対音感について語っている。

ブルッフは「ブラームスには驚くほどの絶対音感があった」と証言する。一方でワーグナーには無かったと断言する。ユリウス・シュトックハウゼンはこれを得ようと努力したが叶わなかったとも語っている。

多くを語ったという文脈から「たとえばこんなこと」という流れの中での話なので、前後の脈絡が不明だ。同証言に現れるのが現代いうところの「絶対音感」と思っていいのかも判然としない。

2022年4月24日 (日)

過剰な傾倒

かなり以前から感じている疑問について述べる。

「プロフェッショナルな演奏家は、特定の作曲家への傾倒とどう向き合っているのだろう」

音楽を学ぶ課程で、あるいは演奏を通じて特定の作曲家や作品への感情が心の中に表れることは自然だ。「~が好き」「○○が嫌い」の類だ。プロの演奏家たちは、そうした感情をどう処理しているのだろう。好きな作曲家の作品ばかりを演奏している訳にも行くまいと考えるが故の疑問だ。それらの感情の痕跡は演奏に現れるものだと思うがいかがだろう。

嫌いの側はさぞ困るだろう。演奏に良い影響があるとは思えない。「私は音楽を愛しているからどんな作曲家の作品からも喜びを感じることが出来る」という演奏家ばかりであれば私の疑問は無意味になる。そもそもそういうことはあるのだろうか。

度が過ぎると「好き」の側でも混乱は起きるだろう。特定の一人を好きであることが昂じて、他の作曲家の位置付けが相対的に大きく下がるケースだ。特定の一人の演奏だけで飯が食えればよいのだが、よほどのことが無い限りそれは自ら演奏の機会を奪っているようなものだ。

そうした感情と演奏を完全に別系統で制御出来ているのだろうか。

お気づきのことと思うが、私のブラームス好きは既に「過剰な傾倒」の域にあると自覚しているが運良くプロフェッショナルな演奏家ではない。

2022年4月20日 (水)

同業他社

同じ業界に属する別の会社の意味だ。ビジネスの世界では普通に用いられる言い回しである。ほぼ「競争相手」と同義だったりもする。成熟した市場では需要の拡大はアテにできないから、売り上げを伸ばそうと思えばマーケットシェアの獲得しか道がない。ヒット商品の創造同様に言うは易しの世界である。さらに困ったことに同業他社どうしの癒着や馴れ合いは法律によって禁止されているのが普通である。

作曲家にとって、自分以外の作曲家が同業他社にあたる。

自らの独創性を世に問う職業だから、業界の動向に無関心過ぎるのも考え物だが、同業他社の研究にはあまり熱心ではない。他の作曲家の作風を真似たところでタカが知れている。古今の大作曲家と呼ばれる人たちは、他の作曲家から受けた影響など、伝記の片隅にひっそりと書かれることが多い。

例によってブラームスは例外だ。先輩作曲家の研究に余念が無かった。先輩ばかりではない、同時代の作曲家の業績にも無関心ではいられなかった。つまり同業他社の動向をいつも研究していたのだ。研究するばかりではなく、自らの作品にそれを生かしていた。これこそまさにマーケティングである。

現代のクラシック音楽業界における知名度に関係無く、数多くの作曲家を研究した成果を自分なりに消化吸収して作品に盛り込んだ。それでいてけして埋没することのない個性が作品に宿っていることをブラームスの特徴の一つとしたいくらいである。

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