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カテゴリー「112 音型」の45件の記事

2020年11月29日 (日)

地味にバッハ

カンタータ140番。「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」の第二曲レチタティーヴォハ短調の冒頭の話だ。テノールの独唱が「彼が来る」「彼が来る」と語りかける場面。同カンタータの肝、花婿の到来を告げるシーン。

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ブラームスの第4交響曲の第一楽章冒頭にそっくりだ。ブラ4はホ短調で「H-G-E-C」と立ち上がるのに対し、長3度低いものの、音程の関係は丸ごと維持される。第4交響曲はフィナーレにおいてカンタータ150番の終末合唱が引用されることは有名だが、こちらの類似はあまりに瞬間芸的なので見過ごされている気がする。

この程度で興奮していては身が持たないと知りつつつい。

2020年9月 7日 (月)

鏡像

バッハのフーガに親しんでいると「鏡像フーガ」という言葉にぶつかる。「フーガの技法」BWV1080の第12曲が有名だ。チェロソナタ第1番の終楽章の元になった第13番も実は「鏡像フーガ」を形成する。

元になるフーガに対して音型ばかりか4声の声部までも上下逆さにしても音楽として破綻しないフーガのことだ。鏡に映したかのようだから鏡像というのだ。

対位法の極致だ。

さすがにブラームスには鏡像フーガは無い。でも鏡像を実感出来る場所が無いわけではない。

第2交響曲第4楽章だ。第一主題の第2句とでも申すべき場所。9小節目のヴァイオリンとヴィオラの音型をご記憶いただきたい。3つの連鎖する4度下降が特徴だ。この部分は当然再現部の中にも現われる。252小節目だ。チェロとヴィオラが3つの連鎖する4度上行の旋律を奏する。第一主題第2句を提示部と再現部で比較すると、まさに鏡像の関係になっている。ヴィオラはオーケストラ全パートの中で原型と鏡像両方とも演奏することが出来る唯一のパートになっている。この第2交響曲で学生オケデビュウのヴィオラ初心者だった私は、これに気がついて愕然とした。

「ブラームスって凄い」と。

それからほぼ1年半後にありついた第一交響曲の中にも鏡像があった。42小節目からヴァイオリンで提示される第一楽章第一主題の鏡像が、161小節目の小結尾主題においてチェロとヴィオラに現われるのだ。ひよっこの私には荷が重い曲だったが、これに気付く前と後では音が違っていたハズだ。

 

 

 

 

2020年8月16日 (日)

BACHの名によるフーガ

バッハという姓を構成する4文字は全て音名に転換が可能だ。その順に並べるとたった4文字なのに半音関係が2度もある。作曲家たちの想像力を刺激したと見えてこの旋律を用いた作品が古来数多く生まれてきた。バッハ本人の「フーガの技法」は名高い。このほど興味深いCDを入手した。

 

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BACHの主題を用いたオルガン作品集だ。例によってブックレットは情報の宝庫で、BACHの主題を用いて作品を書いた作曲家の数を「300人以上」と断言している。どこでどう数えたか知らぬが、驚いた。

バッハ本人に加えて、作曲家として名を遺した4人の息子の内、長男のウィルヘルム・フリーデマン以外の3名の作品が収録されている。

やけに楽しい。

 

 

 

 

2015年12月25日 (金)

molto p e sotto voce sempre

繊細で微妙な指定だ。ヴァイオリンソナタ第3番第1楽章84小節目に鎮座する。いわゆる展開部がここから始まる。

130小節目で再現部が始まるまでの46小節間が展開部と称されている。その間最強のダイナミクスは「p」に留まる。注目すべきはピアノの左手だ。46小節間途切れることなく「A」音の四分音符184個が敷き詰められる。同音184回の連打は非常に珍しいが、効果の程も絶大だ。

ヴァイオリンは、開放弦の使用を強制された移弦奏法による第一主題の暗示が主体だが、合いの手に差し挟まれるアルペジオが悩ましい。声を荒げる瞬間は全く訪れず、ニュアンス1個の出し入れで全てが表現される。

こうした展開部のキャラを一瞬で伝えるための指定が「molto p e sotto voce sempre」だと解したい。

ブラームス生涯でたった一度の指定だと思いたいところだが、実は実はもう一箇所、全く同じ指定がある。インテルメッツォ嬰ハ短調op117-3冒頭だ。これほど繊細で微妙な指定が2箇所もあるとは、ただ事ではない。

2015年10月27日 (火)

ナチュラルの代わり

ヴァイオリンソナタ第1番第1楽章。「3つのD」で立ち上がった第1主題はオクターブ下の「D」に向かって梯子を降りる。「ドシソレー」という具合だ。この部分「レドシソレ」は、その後第1楽章全体にちりばめられた梯子。全部で16回観察できる。上下両端がオクターブというのが譲れぬ特色だ。

両端がオクターブであることにこだわらず、最後の音が省略された4音圧縮型にまで、注意を広げるといろいろと興味深いと申し上げて、再現部直前の4小節を例に挙げたところだ。

本日はもう一つの見せ場。

33小節目、ピアノの右手に「シッシシー」がある。「シラソミ」がそれに続く。その後、オクターブ下の「H」にたどり着けば分類B型になるはずだ。「H」に到達するはずの34小節目冒頭には「Eis」が置かれている。最後の「E」から4度降りて「H」に行くはずが、期待を裏切って半音上昇するということだ。

「H」の代わりにおかれている「Eis」は「ミにシャープ」だ。ピアノの鍵盤で申すなら実音「F」である。同時に鳴るのは「A」と「D」なので、「Eis」と合わせて事実上「Dm」の和音になる。なのにこれを「Fナチュラル」とせずに「Eシャープ」と記譜するセンスがブラームスらしいところだ。

36小節から始まる第二主題「con anima」を準備する繊細な手順の一角をなす。ヴァイオリンの重音と、シンコペートされたピアノ右手が織りなす微妙なハーモニーの移ろいが、第二主題の晴れ晴れ感を一層引き立てるしくみである。

2015年10月26日 (月)

圧縮

ヴァイオリンソナタ第1番第1楽章冒頭の第1主題は「レッレレー」で始まる。それに続いてオクターブ下の「D」に梯子を降りる。その降り方にヴァリエーションがあると、記事「オクターブの中身」で話題にした。両端をオクターブで固定した中、その内側の3個の音の組み合わせて、微妙な空気感を醸し出していると述べた。

冒頭のパターンでは、「レッレレードシソレー」だ。今回話題の音列はこのうちの後半「レドシソレ」の5音を指す。

この5音の構成から、何らかの事情でどれか1音を削除して、4つの音に圧縮せなばならないとしたら、いったいどの音を削除するべきだろうか。

答えを先に申せば、それは最後尾の音、上記で言うなら「レ」だ。両端がオクターブというルールがあるから、仮に削除しても「レ」のはずという推定が成り立つからだ。

削除後は「レドシソ」という4音が得られる。音階に沿って2度下降した後、3度下降を添えればいい。

展開部の末尾近く、150小節目くらいから、急き立てるようこの4音圧縮形が畳み掛ける。156小節目でそのまますんなりと再現部となる準備だ。

2015年10月25日 (日)

オクターブの中身

ヴァイオリンソナタ第1番第1楽章の冒頭、第1主題はいわゆる「3つのD」が、「レッレレー」と歌い出されて始まる。第3楽章の冒頭に存在する歌曲「雨の歌」の旋律に由来する。本日はその「レッレレー」に続く「ドシソレー」にまつわる話だ。

「3つのD」で始まった旋律は、オクターブ下の「D」に向かって8分音符の梯子を「ドシソレー」と降りる。「1音→半音→長三度→完全4度」という降り幅である。上下両端をオクターブと固定して、その内側がそういう構造になっている。こうしたオクターブの梯子が第1楽章中にどれだけあるのか調べてみた。

  1. 002 Vn D→C→H→G→D A型 第一主題提示の後段。これをA型と認定する。
  2. 021 Pf D→C→H→G→D A型 第一主題の確保
  3. 022 Pf D→C→H→G→D A型
  4. 030 Pf E→D→C→A→E B型 2度目の降り幅が1音に変化。これをB型とする。
  5. 055 Pf Fis→E→D→H→Fis B型
  6. 057 Vn E→D→C→A→E B型
  7. 083 Pf D→C→H→G→D A型 展開部冒頭。
  8. 100 Vn Es→Des→C→As→Es A型
  9. 141 Vn D→C→B→G→D B型
  10. 149 Vn D→C→B→G→D B型
  11. 151 Vn D→C→B→G→D B型
  12. 152 Vn G→Fis→E→Cis→G C型 いきなり半音降下。最後は増4降下。
  13. 156 Vn D→C→H→G→D A型 再現部。冒頭の「レッレ」を欠く。
  14. 193 Vn H→A→G→E→H B型
  15. 195 Vn A→G→F→D→A B型
  16. 224 Vn D→C→H→G→D A型
  17. 228 Vn F→E→D→H→F C型

以上全部で17か所。ピアノの左手には現れない。ダイナミクスは上記16番目が「pp」になっている以外は全てほぼ「p」だ。141小節以降は、再現部をほのめかす同主短調の「じらし」だ。たった2回あるC型は効果的な場所「再現部の準備」「コーダの末尾」にある。

「D」で開始されるA型、つまり冒頭の形は赤文字にしておいた。冒頭の一群の後、展開部再現部の冒頭に存在し、あとはコーダの末尾に1回という整合性のある配置がブラームスらしい。

オクターブの中身3つの音は、両端の音と合わせて、微妙な調性感を醸し出す。冒頭主題をほのめかしながら、周囲の空気を自在に操るブラームスである。

2015年10月16日 (金)

和音型「レッレレー」

ヴァイオリンソナタ第1番を構成する音型に「真正型」(レッレレー)、「到達音遷移型」(レッレファー)と名付けて、その分布を調査、考察してきた。その中で、どちらも第二楽章には、全く出現しないことを指摘しておいた。

ただし、そこには条件がある。「真正型」「到達音遷移型」の抽出条件は、1個1個が単音であることが含まれている。第二楽章にどちらも出現しないのは、その条件に根こそぎ引っかかってしまうからだ。

「レッレレー」というリズムだけを共有しながら、その全てまたは一部が和音になっているケースにまで定義を緩めると、第二楽章にも用例が現れる。これを「和音型」と名付けて調査した結果を以下に列挙する。小節番号の後に、和音のもっとも高い音を添えておいた。

  1. 024 Es 
  2. 025 Es 
  3. 026 Es 
  4. 027 F 
  5. 030 H
  6. 036 H
  7. 037 H
  8. 038 D→Cis
  9. 039 G→E
  10. 048 D
  11. 049 D
  12. 091 Es
  13. 092 Es
  14. 093 Des
  15. 094 C
  16. 095 B

上記の通り全部で16回。その全てが第二楽章で、両端楽章には全く出現しない。また第二楽章の16用例すべてがピアノの右手に集中している。この手の整合性はブラームスならではだ。聴くにも弾くにもさしたる影響はないと、見過ごすのはたやすいが、私はこの手の執着を心から愛する。

上記のうちの8番目と9番目の用例は、到達点の最後で最も高い構成音が変わってしまうケースだ。「レッレファー」の和音型である。和音型は最高音こそ変わらないまでも、それ以外の音では到達点遷移が起きているケースばかりなので、特に区別しなかった。

上記分布を見ると、和音型「レッレレー」の出現は中間部とコーダに限られる。この音型を忍ばせて、そこはかとなく両端楽章との関連をほのめかすといういつもの手口である。

2015年10月15日 (木)

到達音遷移型

ヴァイオリンソナタ第1番を特徴付ける「レッレレー」の音型が、第一楽章終末も近い227小節目で、崩されていると述べた。ここがストーリー展開上のポイントだと書いた。「レッレファー」だ。これも重要な要素と位置付けて「到達音遷移型」と命名して、全曲中の分布を調査した。

<第一楽章>

  1. 098小節 ピアノ左手 Es→As
  2. 227小節 ヴァイオリン D→F

<第二楽章>

なし。

<第三楽章>

  1. 004小節 ヴァイオリン D→F
  2. 005小節 ヴァイオリン D→H
  3. 005小節 ヴァイオリン D→F
  4. 006小節 ヴァイオリン D→H
  5. 006小節 ヴァイオリン D→F
  6. 017小節 ヴァイオリン C→Es
  7. 018小節 ヴァイオリン C→A
  8. 018小節 ヴァイオリン C→Es
  9. 019小節 ヴァイオリン C→A
  10. 019小節 ヴァイオリン B→D
  11. 064小節 ヴァイオリン D→F
  12. 065小節 ヴァイオリン D→H
  13. 065小節 ヴァイオリン D→F
  14. 066小節 ヴァイオリン D→H
  15. 066小節 ヴァイオリン D→F
  16. 077小節 ヴァイオリン C→Es
  17. 078小節 ヴァイオリン C→A
  18. 078小節 ヴァイオリン C→Es
  19. 079小節 ヴァイオリン C→A
  20. 080小節 ヴァイオリン B→D
  21. 114小節 ヴァイオリン Es→E
  22. 115小節 ヴァイオリン E→Eis
  23. 118小節 ヴァイオリン Des→D
  24. 119小節 ヴァイオリン D→Es

以上26箇所。

第一楽章227小節目の重要性は既に述べた。98小節目も大変興味深い。主題が変イ長調で回想されるのを準備する4度上行だ。ピアノでの出番はたった1箇所だ。残り25箇所はヴァイオリンに集中し、うち24箇所は第三楽章になる。だから第一楽章で唯一の227小節目が目立つ。ここで示された「レッレファー」は、実は実は第3楽章4小節目で現れて以降、中心となる楽想だ。90小節目までの出番は全て第一主題第二句を構成する要素になっている。最後の4回114小節目以降の半音進行もまた味わい深い。

 

2015年10月11日 (日)

「レッレレー」の考察

昔、人気漫画の登場人物に「レレレのおじさん」がいた。私は「レッレレーのおじさん」だ。

昨日の記事で公開した「レッレレー」の分布を見て、すぐ目につくのは、第2楽章には出現しないことだ。

<第一楽章>

  • ヴァイオリン 8回
  • ピアノ右手  2回
  • ピアノ左手  2回

<第三楽章>

  • ヴァイオリン 3回
  • ピアノ右手  5回
  • ピアノ左手  13回

第一楽章と第三楽章とでは、「レッレレー」の担い手が変わる。ヴィオリンでは、主旋律の構成要素として現れるのに対し、ピアノ左手では、周囲の和音を支えるベースが、「レッレレー」の音型を借りているに過ぎない。また、第一楽章では第1主題部分以外ではパッタリと姿を消す。

ソナタ形式の肝というべき、再現部冒頭では、肝心なヴァイオリンに「レッレレー」が出現しない。下降の音型が繰り返される中、最初の「レッレ」が省略されている。「レッレレー」を曲中でさんざん強調しながら、再現部の冒頭では逆に肩透かしを食らわせるかのようだ。ブラームス独特の「再現部隠蔽」である。

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