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カテゴリー「112 音型」の42件の記事

2015年12月25日 (金)

molto p e sotto voce sempre

繊細で微妙な指定だ。ヴァイオリンソナタ第3番第1楽章84小節目に鎮座する。いわゆる展開部がここから始まる。

130小節目で再現部が始まるまでの46小節間が展開部と称されている。その間最強のダイナミクスは「p」に留まる。注目すべきはピアノの左手だ。46小節間途切れることなく「A」音の四分音符184個が敷き詰められる。同音184回の連打は非常に珍しいが、効果の程も絶大だ。

ヴァイオリンは、開放弦の使用を強制された移弦奏法による第一主題の暗示が主体だが、合いの手に差し挟まれるアルペジオが悩ましい。声を荒げる瞬間は全く訪れず、ニュアンス1個の出し入れで全てが表現される。

こうした展開部のキャラを一瞬で伝えるための指定が「molto p e sotto voce sempre」だと解したい。

ブラームス生涯でたった一度の指定だと思いたいところだが、実は実はもう一箇所、全く同じ指定がある。インテルメッツォ嬰ハ短調op117-3冒頭だ。これほど繊細で微妙な指定が2箇所もあるとは、ただ事ではない。

2015年10月27日 (火)

ナチュラルの代わり

ヴァイオリンソナタ第1番第1楽章。「3つのD」で立ち上がった第1主題はオクターブ下の「D」に向かって梯子を降りる。「ドシソレー」という具合だ。この部分「レドシソレ」は、その後第1楽章全体にちりばめられた梯子。全部で16回観察できる。上下両端がオクターブというのが譲れぬ特色だ。

両端がオクターブであることにこだわらず、最後の音が省略された4音圧縮型にまで、注意を広げるといろいろと興味深いと申し上げて、再現部直前の4小節を例に挙げたところだ。

本日はもう一つの見せ場。

33小節目、ピアノの右手に「シッシシー」がある。「シラソミ」がそれに続く。その後、オクターブ下の「H」にたどり着けば分類B型になるはずだ。「H」に到達するはずの34小節目冒頭には「Eis」が置かれている。最後の「E」から4度降りて「H」に行くはずが、期待を裏切って半音上昇するということだ。

「H」の代わりにおかれている「Eis」は「ミにシャープ」だ。ピアノの鍵盤で申すなら実音「F」である。同時に鳴るのは「A」と「D」なので、「Eis」と合わせて事実上「Dm」の和音になる。なのにこれを「Fナチュラル」とせずに「Eシャープ」と記譜するセンスがブラームスらしいところだ。

36小節から始まる第二主題「con anima」を準備する繊細な手順の一角をなす。ヴァイオリンの重音と、シンコペートされたピアノ右手が織りなす微妙なハーモニーの移ろいが、第二主題の晴れ晴れ感を一層引き立てるしくみである。

2015年10月26日 (月)

圧縮

ヴァイオリンソナタ第1番第1楽章冒頭の第1主題は「レッレレー」で始まる。それに続いてオクターブ下の「D」に梯子を降りる。その降り方にヴァリエーションがあると、記事「オクターブの中身」で話題にした。両端をオクターブで固定した中、その内側の3個の音の組み合わせて、微妙な空気感を醸し出していると述べた。

冒頭のパターンでは、「レッレレードシソレー」だ。今回話題の音列はこのうちの後半「レドシソレ」の5音を指す。

この5音の構成から、何らかの事情でどれか1音を削除して、4つの音に圧縮せなばならないとしたら、いったいどの音を削除するべきだろうか。

答えを先に申せば、それは最後尾の音、上記で言うなら「レ」だ。両端がオクターブというルールがあるから、仮に削除しても「レ」のはずという推定が成り立つからだ。

削除後は「レドシソ」という4音が得られる。音階に沿って2度下降した後、3度下降を添えればいい。

展開部の末尾近く、150小節目くらいから、急き立てるようこの4音圧縮形が畳み掛ける。156小節目でそのまますんなりと再現部となる準備だ。

2015年10月25日 (日)

オクターブの中身

ヴァイオリンソナタ第1番第1楽章の冒頭、第1主題はいわゆる「3つのD」が、「レッレレー」と歌い出されて始まる。第3楽章の冒頭に存在する歌曲「雨の歌」の旋律に由来する。本日はその「レッレレー」に続く「ドシソレー」にまつわる話だ。

「3つのD」で始まった旋律は、オクターブ下の「D」に向かって8分音符の梯子を「ドシソレー」と降りる。「1音→半音→長三度→完全4度」という降り幅である。上下両端をオクターブと固定して、その内側がそういう構造になっている。こうしたオクターブの梯子が第1楽章中にどれだけあるのか調べてみた。

  1. 002 Vn D→C→H→G→D A型 第一主題提示の後段。これをA型と認定する。
  2. 021 Pf D→C→H→G→D A型 第一主題の確保
  3. 022 Pf D→C→H→G→D A型
  4. 030 Pf E→D→C→A→E B型 2度目の降り幅が1音に変化。これをB型とする。
  5. 055 Pf Fis→E→D→H→Fis B型
  6. 057 Vn E→D→C→A→E B型
  7. 083 Pf D→C→H→G→D A型 展開部冒頭。
  8. 100 Vn Es→Des→C→As→Es A型
  9. 141 Vn D→C→B→G→D B型
  10. 149 Vn D→C→B→G→D B型
  11. 151 Vn D→C→B→G→D B型
  12. 152 Vn G→Fis→E→Cis→G C型 いきなり半音降下。最後は増4降下。
  13. 156 Vn D→C→H→G→D A型 再現部。冒頭の「レッレ」を欠く。
  14. 193 Vn H→A→G→E→H B型
  15. 195 Vn A→G→F→D→A B型
  16. 224 Vn D→C→H→G→D A型
  17. 228 Vn F→E→D→H→F C型

以上全部で17か所。ピアノの左手には現れない。ダイナミクスは上記16番目が「pp」になっている以外は全てほぼ「p」だ。141小節以降は、再現部をほのめかす同主短調の「じらし」だ。たった2回あるC型は効果的な場所「再現部の準備」「コーダの末尾」にある。

「D」で開始されるA型、つまり冒頭の形は赤文字にしておいた。冒頭の一群の後、展開部再現部の冒頭に存在し、あとはコーダの末尾に1回という整合性のある配置がブラームスらしい。

オクターブの中身3つの音は、両端の音と合わせて、微妙な調性感を醸し出す。冒頭主題をほのめかしながら、周囲の空気を自在に操るブラームスである。

2015年10月16日 (金)

和音型「レッレレー」

ヴァイオリンソナタ第1番を構成する音型に「真正型」(レッレレー)、「到達音遷移型」(レッレファー)と名付けて、その分布を調査、考察してきた。その中で、どちらも第二楽章には、全く出現しないことを指摘しておいた。

ただし、そこには条件がある。「真正型」「到達音遷移型」の抽出条件は、1個1個が単音であることが含まれている。第二楽章にどちらも出現しないのは、その条件に根こそぎ引っかかってしまうからだ。

「レッレレー」というリズムだけを共有しながら、その全てまたは一部が和音になっているケースにまで定義を緩めると、第二楽章にも用例が現れる。これを「和音型」と名付けて調査した結果を以下に列挙する。小節番号の後に、和音のもっとも高い音を添えておいた。

  1. 024 Es 
  2. 025 Es 
  3. 026 Es 
  4. 027 F 
  5. 030 H
  6. 036 H
  7. 037 H
  8. 038 D→Cis
  9. 039 G→E
  10. 048 D
  11. 049 D
  12. 091 Es
  13. 092 Es
  14. 093 Des
  15. 094 C
  16. 095 B

上記の通り全部で16回。その全てが第二楽章で、両端楽章には全く出現しない。また第二楽章の16用例すべてがピアノの右手に集中している。この手の整合性はブラームスならではだ。聴くにも弾くにもさしたる影響はないと、見過ごすのはたやすいが、私はこの手の執着を心から愛する。

上記のうちの8番目と9番目の用例は、到達点の最後で最も高い構成音が変わってしまうケースだ。「レッレファー」の和音型である。和音型は最高音こそ変わらないまでも、それ以外の音では到達点遷移が起きているケースばかりなので、特に区別しなかった。

上記分布を見ると、和音型「レッレレー」の出現は中間部とコーダに限られる。この音型を忍ばせて、そこはかとなく両端楽章との関連をほのめかすといういつもの手口である。

2015年10月15日 (木)

到達音遷移型

ヴァイオリンソナタ第1番を特徴付ける「レッレレー」の音型が、第一楽章終末も近い227小節目で、崩されていると述べた。ここがストーリー展開上のポイントだと書いた。「レッレファー」だ。これも重要な要素と位置付けて「到達音遷移型」と命名して、全曲中の分布を調査した。

<第一楽章>

  1. 098小節 ピアノ左手 Es→As
  2. 227小節 ヴァイオリン D→F

<第二楽章>

なし。

<第三楽章>

  1. 004小節 ヴァイオリン D→F
  2. 005小節 ヴァイオリン D→H
  3. 005小節 ヴァイオリン D→F
  4. 006小節 ヴァイオリン D→H
  5. 006小節 ヴァイオリン D→F
  6. 017小節 ヴァイオリン C→Es
  7. 018小節 ヴァイオリン C→A
  8. 018小節 ヴァイオリン C→Es
  9. 019小節 ヴァイオリン C→A
  10. 019小節 ヴァイオリン B→D
  11. 064小節 ヴァイオリン D→F
  12. 065小節 ヴァイオリン D→H
  13. 065小節 ヴァイオリン D→F
  14. 066小節 ヴァイオリン D→H
  15. 066小節 ヴァイオリン D→F
  16. 077小節 ヴァイオリン C→Es
  17. 078小節 ヴァイオリン C→A
  18. 078小節 ヴァイオリン C→Es
  19. 079小節 ヴァイオリン C→A
  20. 080小節 ヴァイオリン B→D
  21. 114小節 ヴァイオリン Es→E
  22. 115小節 ヴァイオリン E→Eis
  23. 118小節 ヴァイオリン Des→D
  24. 119小節 ヴァイオリン D→Es

以上26箇所。

第一楽章227小節目の重要性は既に述べた。98小節目も大変興味深い。主題が変イ長調で回想されるのを準備する4度上行だ。ピアノでの出番はたった1箇所だ。残り25箇所はヴァイオリンに集中し、うち24箇所は第三楽章になる。だから第一楽章で唯一の227小節目が目立つ。ここで示された「レッレファー」は、実は実は第3楽章4小節目で現れて以降、中心となる楽想だ。90小節目までの出番は全て第一主題第二句を構成する要素になっている。最後の4回114小節目以降の半音進行もまた味わい深い。

 

2015年10月11日 (日)

「レッレレー」の考察

昔、人気漫画の登場人物に「レレレのおじさん」がいた。私は「レッレレーのおじさん」だ。

昨日の記事で公開した「レッレレー」の分布を見て、すぐ目につくのは、第2楽章には出現しないことだ。

<第一楽章>

  • ヴァイオリン 8回
  • ピアノ右手  2回
  • ピアノ左手  2回

<第三楽章>

  • ヴァイオリン 3回
  • ピアノ右手  5回
  • ピアノ左手  13回

第一楽章と第三楽章とでは、「レッレレー」の担い手が変わる。ヴィオリンでは、主旋律の構成要素として現れるのに対し、ピアノ左手では、周囲の和音を支えるベースが、「レッレレー」の音型を借りているに過ぎない。また、第一楽章では第1主題部分以外ではパッタリと姿を消す。

ソナタ形式の肝というべき、再現部冒頭では、肝心なヴァイオリンに「レッレレー」が出現しない。下降の音型が繰り返される中、最初の「レッレ」が省略されている。「レッレレー」を曲中でさんざん強調しながら、再現部の冒頭では逆に肩透かしを食らわせるかのようだ。ブラームス独特の「再現部隠蔽」である。

2015年10月10日 (土)

「レッレレー」の分布

ヴァイオリンソナタ第1番に音型「レッレレー」がどの程度分布しているのか調査した。その結果を公表する。3ケタの数字は音型「レッレレー」の開始部の小節番号。略号はVn:ヴァイオリン、PR:ピアノ右手、PL:ピアノ左手。

<第1楽章>「4分音符+8分休符+8分音符+付点4分音符」3音すべてDの単音。

  1. 001 Vn 冒頭主題の歌い出し部分
  2. 020 Vn 
  3. 031 PR
  4. 032 PL
  5. 058 Vn
  6. 082 PR
  7. 091 PL
  8. 140 Vn
  9. 148 Vn
  10. 150 Vn
  11. 197 Vn
  12. 223 Vn

<第2楽章>

  なし。

<第3楽章>

  1. 000 Vn アウフタクトから立ち上がる冒頭主題の立ち上がり。
  2. 001 PL
  3. 002 PR
  4. 003 PL
  5. 013 PL
  6. 014 PL
  7. 015 PR
  8. 016 PL
  9. 060 Vn
  10. 061 PL
  11. 062 PL
  12. 063 PL
  13. 073 PL
  14. 074 PL
  15. 075 PR
  16. 076 PL
  17. 124 PL
  18. 125 PR
  19. 132 PL
  20. 133 PR
  21. 160 Vn

以上。合計33回。

 

2015年10月 9日 (金)

分布調査

昨日の記事「Drei D」で、ヴァイオリンソナタ第1番全体にちりばめられた「レッレレー」の音型について一般論を述べた。話自体は目新しいものではない。ブログ「ブラームスの辞書」としては、その「レッレレー」を数えてみようと思う。「多い多い」と言ってるばかりでは議論にならないからだ。

調査の前に定義を明らかにする。

  1. 4分音符+8分休符+8分音符+付点4分音符
  2. 8分音符+16分休符+16分音符+付点4分音符
  3. 休符を除く3つの音の高さが変わらない。「D」に限らずカウントする。
  4. 最後の音符が、直前の音符より長い。「レッレレー」は○だが、「レッレレ」は×。
  5. 冒頭が付点になり、次の休符が脱落したケースはカウントしない。

拡大調査として以下も別途カウントする。

  1. 3つ目の音で、高さが変化するケース。「レッレファー」のようなパターン。
  2. レッレレー」を構成する3つの音のうち、一部または全部が和音になっているケース。

明日以降順次結果を発表する。

2015年9月21日 (月)

順次下降

低い方に向かって音階通りに下がって行く進行のこと。

大好きなヴァイオリンソナタ第1番の第一楽章36小節目から始まる第2主題、「con anima」の場面、ピアノに耳を傾けてて欲しい。36小節目からの第二主題は端正な4小節フレーズ。4分の6拍子の1小節が、4分音符3個ずつにグルーピングされる。ヴァイオリン側のスラーのかかり方から見ても1小節が2つに割られると判る。指揮なら2つ振りされる1小節の拍頭ピアノ右手にご注意いただく。
36小節から3小節の間「D→Cis→H→A→G→Fis」と続く。ニ長調の順次下降だ。次女の名付けに腐心していたころ、楽譜を見ながらこの旋律を何度も何度も聴いた中で、この順次進行の美しさに心を奪われた。同じ場所、ピアノの左手側は同じく拍頭で低い「D音」が執拗に鳴らされる。ノリとしては保続低音「オルゲルプンクト」だ。
ブラームスらしいささやかなサプライズは39小節目に用意されている。小節を2つに割っていたはずのピアノの右手が、突如小節を3つに割る。「E→D→Cis」という具合だ。ヴァイオリンの旋律は変わらずに小節を2分するようなスラーがかかっているから、真ん中の「D音」のところで、リズム的な軽い衝突が起きる。「4分の6」と「2分の3」が同時に鳴るということだ。ここでピアノが順次進行を守りながら、「E→D→Cis」を無理やり1小節に押し込むことで、小節の末尾に「A7」を作り出す。これがオクターブ上げられたニ長調第二主題確保のさりげない準備になっているという論理性がまぶしい。
そうして始まる40小節目は、「con anima」の主題の裏では先の順次下降がピアノの左手に移されている。もちろん43小節目では「E→D→Cis」の押し込みも保存されている。
さてさて話は一気に174小節目に飛ぶ。「con anima.」の第二主題が再現される場面だ。慣例に習って再現は原調のト長調。ピアノの右手の拍頭に目をやれば「G→Fis→E→D→Cis→H」という順次下降に続いて「A→G→Fis」という圧縮もキッチリと現れる一方で左手には「G音」がキッチリ保続される。
ピアノが奏でる順次下降と保続低音は、ヴァイオリンの超美しい第二主題をいつくしむように取り囲む空気と大地のようだ。
あるいは、あるいはもしかすると「父と母」かと感じたことが、次女への名付けの決定打になった。

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フォト

ブラームスの辞書写真集

  • Img_0012
    はじめての自費出版作品「ブラームスの辞書」の姿を公開します。 カバーも表紙もブラウン基調にしました。 A5判、上製本、400ページの厚みをご覧ください。
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