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カテゴリー「114 和声」の53件の記事

2023年10月 9日 (月)

弱進行

強進行の反対概念。古典的な和声学においては、根音進行がパターンによりランク分けされている。このうちもっとも必然性が高い進行を強進行と呼びならわしている。実例は以下の通りである。

  • 完全4度上昇(5度下降)
  • 2度上昇長短可
  • 3度下降長短可(6度上昇)

「上がるンなら4度か2度、下がるンなら3度」ということだ。

それで、これら強進行以外を「弱進行」と総称していると言うわけだ。強い必然性を聴き手に想起させる進行以外の進行だ。

実はこの弱進行はブラームスの得意技と位置づけられていることがある。ロマン派屈指の曖昧コレクターブラームスとしては、必然性を想起させない進行が有力なツールになっているのだ。強い必然性とは「確固たる調性感」ということだ。強い必然性をはずした弱進行は、確固たる調性感を忌避するということだ。

それでいて調性崩壊の推進者でもないところにブラームスの真価があると思う。

 

 

2023年9月 8日 (金)

5度犠牲

16世紀初頭に考案されたオルガンの調律法にミーントーンがある。この調律法の特色を一言で申すなら「5度犠牲」とでもしておきたい。Gis音とEs音で生じる耐えがたい不協和音が「ヴォルフ」と呼ばれて恐れられていること周知の通りである。「ヴォルフ」を筆頭に、さまざまな制約もありながらも、シャープ、フラットとも2個以内なら長短どちらも美しいというメリットもあり重宝されてきたという。
ミーントーン調律法が5度の響きを犠牲にしてまで守ろうとしたものは何か。
それは「3度」である。

2023年9月 7日 (木)

全三音跳躍

「全三音」とは、増4度または減5度のこと。かなりインパクトのある不協和で、古来「悪魔の音程」と言われてきた。バーンスタインのウエストサイドストーリーにちょくちょく出てきた。ジャズっぽい感じを手軽に付与できる面もある。
BWV564のトッカータ、アダージョとフーガはお気に入りだ。名高い「トッカータとフーガのニ短調」BWV565の一つ前にひっそりと言うには、あまりに華麗だ。「トッカータ」「アダージョ」「フーガ」といういわば3楽章構成。その冒頭に全三音の跳躍がある。20190321_161151
赤枠で囲んだ部分。HからFへのジャンプだ。同型が反復される2回目は、GからEの6度になっているからとりわけ目立つ。はっとさせられる。そーとーおしゃれに聞こえる。

2023年9月 2日 (土)

両足踏みっぱ

記事「踏みっぱ大王」で、BWV540の特異なペダル使用について嬉々として言及した。その周辺を調べていたらお宝に遭遇した。プレリュードト長調BWV568だ。

 

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赤枠で囲んだ3小節間、ペダルのパートがオクターブの「C」音の伸ばしだ。赤枠の始まるのが23小節目である。これまさか片足ではあるまいな。つま先とかかとを用いてとか、特殊なシューズでとか。見ると24小節目からト音記号のところを両手で弾くように見える。音域が離れていて、左手がオクターブ伸ばしの上と旋律の下を弾くにも無理がありそう。

おおっとうなっているとさらに36小節目からは以下の通りの「H音」のオクターブ。

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足鍵盤と左手だ。よくよく見ると左手はト音記号部分の下の旋律を弾いているに違いない。今度は音域が近くて何とかなる。

バッハはこの両者を書き分けている。CDを聴くと両足オクターブの部分の響きが深い。

さしてメジャーではない作品だがとても丁寧で可憐だ。

 

 

 

 

 

 

2022年7月29日 (金)

かすかなつながり

記事「研究対象 」で、バッハによるヴィヴァルディ作品の編曲ぶりを列挙した。本日はそこからかすかな細い糸がブラームスにつながる話をする。

リストにあったBWV593の話だ。原曲はヴィヴァルディの「調和の霊感」op3-8で2つのヴァイオリンのための協奏曲イ短調。これをバッハがオルガン独奏用に編曲したもの。この第三楽章142小節目に、作曲上の禁則「平行8度」あるいは「平行5度」があると、ブラームスが指摘している。

ブラームスは同時期や過去の著名な作曲家たちの作品中に現れるこの手の作曲上の禁則違反をことこまかにリストアップしていた。作曲家32名による禁則違反128か所が延々10ページにわたって列挙される中、ヴィヴァルディ作品はここ一か所。ただし、ヴィヴァルディの原曲はリストに入っていないから、バッハが編曲にあたっておかした違反と考えられる。ヴィヴァルディの原曲にこの違反が存在したら、ヴィヴァルディとしてカウントされていたことだろう。

リスト作成中のブラームスは、原曲をあたって裏付けをとったに決まっている。

2022年7月17日 (日)

レ抜き音階

長調の音階から「レ」と「ラ」を抜いてみるといい。「ドミファソシド」「ドシソファミド」と歌ってみればこれが沖縄音階だとわかる。記事「BWV976」で言及したヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲ホ長調op3-12の第二楽章は、移動ドで「ドーミーファソー」と立ち上がる。冒頭こそ「レ」が抜けた音階なのだが、すぐに「レ」(実音:嬰ヘ)が現れるから、聴き手が沖縄テイストを実感することはない。

 

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しかし、「レ」抜きのこの音形は、同協奏曲の中核にも見える。なぜなら第1楽章冒頭にもヴァイオリンに「ドミファソッソッソッソ」が配備されているからだ。

 

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バッハのホ長調ヴァイオリン協奏曲の冒頭を思い出すまでもなく、主和音の上行「ドミソ」なら珍しくもないが、ここに一瞬でも「ファ」が噛むことで微妙な味わいになる。

この手の「異なる楽章間に共通する音列」は、ブラームスにとってはよくある話だ。

2021年10月 9日 (土)

子守歌のアイス

ブラームスの子守歌には譲るもののシューベルトさんの子守歌も素晴らしい。D867にも子守歌があるけれど断わりなく「シューベルトの子守歌」と言ったらD498の方だ。フィッシャーディースカウ先生はグラムフォンの全集収録においてこの曲を控除しておられる。おそらく女性によって歌われるべきというお考えだろう。その一方で「ブラームスの子守歌」は録音されているので何か違いを実感されていたのかとも思う。

そりゃあもう端正な造り。2小節単位でAーA-B-Aという王道の枠組み。こんなもん19歳で作曲するとは藤井聡太三冠もびっくりだ。思いつく奴にはかなわない感じ。

とりわけ、上記の枠組みで言うとBの部分の末尾でA音に付与される臨時記号のシャープは魔法だ。フィッシャーディースカウ先生のご著書にあやかって譜例を出来るだけ使わぬようにしてきたが、本日ばかりはこらえきらない。

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赤枠を施した音だ。A音からD音に沈みこむメロディーラインと入れ替わるようにスルリと浮上するかのようだ。次小節のA部分冒頭に存在する「H音」を強くツヨーク求める音。仮にこの変異がなくて「D-Fis-A」のままだったとしても属和音だから、次小節冒頭のト長調に回帰するには十分なのだが、変化されてみると必然度が断然上がる。和声学的に何という効果なのか知らんが、そんな後付けの理屈はかえって邪魔かもしれない。

2021年5月 6日 (木)

踏みっぱ

「踏みっ放し」の短縮形。よく娘たちが使っていた言い回しだ。「置きっ放し」を意味する「置きっぱ」や、「出しっ放し」を意味する「出しっぱ」がその代表だ。

ドイツレクイエム第3曲の解説文が末尾のフーガに言及する際に「保続低音」が引き合いに出される。最低部でずっと維持される「D」音の引き延ばしのことだ。ドイツ語では「Orgelpunkt」と呼ばれると付記される。「オルガンポイント」だ。

ドイツレクイエムに親しんで長いからこのことはよく知っていたがオルガンとの関係を軽く考えていた。オルガンの3段楽譜による記譜に慣れてきて初めて実感が伴った感じがする。

オルガン楽譜の最下段、足鍵盤を踏みっ放しの意味だった。左右の手がさまざまな音を弾き続けている中、最低部で同じ音が委細構わずに持続することだ。上2声が協和しない音に触れる瞬間があろうとお構いなしだ。

ブラームスの音楽界での位置付けを決定づけた出世作ドイツレクイエムの核心に、ずっしりと鎮座する確信に満ちたオルゲルプンクトだ。同作品がオルガンの参加を任意にしているのはむしろ控えめだ。ここにオルガンの「踏みっぱ」がなくてどうするというのだ。

2021年4月18日 (日)

ピカルディという習慣

ピカルディ終止の採用不採用がランダムで、その基準がさっぱり推測できないのをいいことに毎度毎度の妄想がある。

ピカルディ終止は短調作品のエンディングにおける常識だったのではあるまいか。「短調=ピカルディ終止」ではなかったか。作曲家と演奏家の分離が進む前、作品の出版が前提となる以前、短調作品は終止和音の第3音を半音上げるという記譜がなくても、習慣として同主長調への読み替えが行われていたのではないか。

作曲と演奏の分業が進み、作品を紙へダウンロードする習慣が広く普及するのと並行して、「楽譜通り」が何かと珍重されるようになった結果、習慣であったピカルディを記譜するようになったなどどということはあるまいか。

通奏低音が単音と数字だけを見て、他の音を即興で補うことが当たり前だったのを、19世紀以降、あらかじめ校訂者が楽譜に落としておくようになったリアライゼーションと同根とは考えられまいか。

記譜上明記されたピカルディ終止を無視して短調のまま終えることは、慎まねばならぬ一方で、記譜上ピカルディになっていない短調作品を演奏家独断でピカルディ終止に導くことには酌量の余地を認めたい。

 

 

 

 

2021年4月17日 (土)

パッヘルベルのピカルディ

ブクステフーデのオルガン自由曲、短調の作品全てがピカルディ終止を採用していると驚いた。しからばパッヘルベルはと話を広げる。

我が家のドーヴァー版のパッヘルベルオルガン作品全集収載のオルガン自由曲45作品のうち、短調の作品は18曲ある。

このうち17曲がピカルディ終止だった。わずかにニ短調のフーガだけが短調のまま終止する。悩ましい結果だ。このニ短調の解釈をどないするか。

さりとてブクステフーデ、パッヘルベルというバッハの先輩が、ピカルディ終止ほぼ100%の採用だということだ。

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