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カテゴリー「113 リズム」の22件の記事

2026年3月 7日 (土)

3を2で割る

8分の6という拍子がある。1小節の中に8分音符が6個だが、3個が二組と考えることが必須である。指揮をするときは1小節を2拍と取り扱う。いわゆる「2つ振り」だ。

 

以上のことを前提にブラームスの第一交響曲の第1楽章の主部「Allegro」のことを考える。人にもよるがこの部分2つ振りされる。1つの拍には8分音符を3個を感じねばならない。4分の2拍子にしておいて三連符を延々と羅列しても事情は似てくると思うが、断固区別せねばならない。おかげでこの第1楽章は交響曲伝統の「Allegro」を背負っていながら、スカーッと流れる楽想にはなっていない。「pesante」やシンコペーションの多用もそれに拍車をかける。

 

ところがブラームスは要所において、満を持して拍を2つに割るという挙に出る。340小節目のチェロ・バス・ヴィオラと、492小節のチェロだ。8分音符が3つ並ぶ1拍を2で割るということだ。小学生でも解る通り、「割り切れない」のだ。

 

1回目は294小節から始まった再現部への歩みがまさに頂点に到達する瞬間、他のパートに逆らって低弦が拍を2で割る。再現部はもう4小節後に迫っている。咳き込んで再現部になだれ込むのを今一度押しとどめる効果がある。この次の小節では「ドッペルドミナント」という瞬間まで用意されて再現部の到来に万全を期す方策の一つになっている。

 

2回目は474小節で頂点に達した音楽が冷めてゆく過程の中で起きる。その間ギャロップのリズムを刻んできたチェロが、静かに足を止める手順を形成している。事実上の「オートマチックリタルダンド」だと解し得る。3小節後に迫った「Meno Allegro」を自然に導くための準備である。

 

3を2で割るリズム的な半端感を用いて段落の切れ目を巧みにマーキングしているように感じる。しかも2回ともチェロが主役である。

 

お相撲の話を聞いたことがある。髷をきつく結い、まわしをきつく締める。体の両端2箇所をきつく締めることで体がキリリと引き締まり、信じられない力が出るのだという。

 

3を2で割るクリップが再現部の直前と「Meno Allegro」の直前計2箇所に置かれることで、第一楽章がキリリと締まっているような気がする。いわば髷とまわしだ。 お相撲のルールでは、髷はともかく、まわしがはずれたら負けである。

2025年8月28日 (木)

微細な改訂

あれれ。

バッハ、ヴァイオリンソナタハ短調のヴィオラ版。インターナショナル社の楽譜の第一楽章シシリアーノについて少々。

繰り返し記号を出てすぐ17小節目。

20250823_072421

8分の6で5拍目をご記憶いただきたい。同じ場所の伴奏ピアノ譜面は以下。

20250823_072513

オクターブ違いは、不問に付すとして、17小節目の5拍目が、違っている。同様のリズムが現れる19小節目と、22小節目も同じようなリズムの違いがある。スタカートの有無やスラーのかかり具合などは、かなりのカ所で違いもあるが、このような旋律線の違いは目立つ。

それってんでヘンレのヴァイオリンソナタのオリジナルを見る。ヘンレのオリジナル版がちゃんと家にあるのが地味に自慢だ。それほど大好きな作品だとご理解いただきたい。

案の定だ、ピアノ伴奏版と一致する。ヴァイオリンの楽譜にはこのような揺れはない。

これ、ヴィオラ版を作るにあたって編曲者が付点を施した。

バロック系の演奏ではしばしば、楽譜に書いていないアドリブがある。本件も名高い演奏者のアドリブが編曲の出版にあたり記譜された可能性がある。

2025年6月28日 (土)

舞踏譜

昨日話題にした本「バッハを弾くためのバロックダンス入門」の件。

最大の驚きは舞踏譜の存在だ。踊りを踊るための図形。ステップや身体の回転などが図形上に記載されていて、図形としても美しい。

宮廷舞踏の本場フランスには200以上も保存されているという。

これを見て踊れたのかというシンプルな驚き。楽譜とセットで保存されている曲もあるらしい。楽譜から音楽への転写には苦労が絶えない素人ではあるが、舞踏譜に比べれば慣れてもいる。

バッハはそれら舞曲のリズムや音型だけをしっかり維持しながら、取り入れているとの指摘と合わせて恐れ入るばかり。

組曲やパルティータなどでおなじみのバッハの舞曲に別角度から情報が肉付けされる。

2025年6月27日 (金)

舞曲は踊る

5月最後のレッスンの日だった。「それではまた」とレッスン室を出る時に、目の前の書棚にあった本。

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先生これって?とおたずねすると「面白いわよ」と激賞。いろいろすごいと。さっそく注文して手元に届いた。

バッハの器楽作品の重要な柱、組曲やパルティータを構成する舞曲たちの氏素性が舞曲側から明らかになる本。踊りのステップが図形風に記載されている「舞踏譜」から解き明かす舞曲。

歴史的には「フランス」である。フランスが欧州と同義だったかのトーン。

バッハ作品の演奏に役立つかどうかはともかく、話として面白い。

2023年11月 5日 (日)

ブラームスギャロップ

ギャロップとは馬の早駆けだ。全速力のことである。パッカパッカというイメージよりはずっと速いのだが、私自身は「ブラームスギャロップ」を「パッカパッカ」というニュアンスで用いている。

「ブラームスギャロップ」とは「ブラームスのパッカパッカ」である。これだけでは何のことやらさっぱり判らぬと思うのでもう少し真面目に定義する。ブラームス作品の根幹を為すソナタ形式の楽曲において、副次主題に「8分音符+16分休符+16分音符」というリズムがしばしば現れる。副次主題とは大雑把に第一主題以外という程度の意味だ。ソナタ形式の楽章において、第一主題の提示を終える頃に、このリズムをもった主題が現れて気分を劇的に変えることがある。この現象に個人的にネーミングしたのが「ブラームスギャロップ」である。ブルックナーの交響曲にはいくつかこの手のネーミングを持った現象が現れる。「ブルックナー開始」「ブルックナー三連符」の類である。ブラームスにもこの手の命名が1つ2つあってもいいと思う。

  1. ピアノ五重奏曲第1楽章
  2. 交響曲第2番第1楽章
  3. ヴァイオリン協奏曲第1楽章
  4. 悲劇的序曲
  5. ピアノ協奏曲第2番第1楽章
  6. 弦楽五重奏曲第1番第1楽章
  7. ヴァイオリンソナタ第2番第1楽章
  8. ピアノ三重奏曲第3番第1楽章
  9. クラリネットソナタ第1番第1楽章

ピアノ四重奏曲第3番第1楽章や、クラリネット五重奏曲第1楽章も精神的にはこれに加えたい気分である。ヴァイオリンソナタ第1番と、ピアノ三重奏曲第2番は第1主題にこのリズムが現れてしまうのでひとまず棚上げとする。あるいは、ピアノ五重奏曲第3楽章のように第1楽章以外に出現するケースについてもやはり扱いを保留する。

これらの「ブラームスギャロップ」は、大抵なめらかな第1主題と対比する形で出現していることが特徴だ。ブラームスの真作かどうかに議論があるイ長調ピアノ三重奏曲の第1楽章には、実はこのリズムの第2主題が現れる。

 

 

2023年10月18日 (水)

深層ヘミオラ

ブラームスが自作に4分の6拍子を採用するとき、そこには2分の3拍子との緊張を利用したいという意図が隠れていることが多い。

第3交響曲の第一楽章4分の6拍子には、記譜面で不思議な現象が起きている。どのパートであれ、1小節の間隙間無く同じ音を充填する場合、4分音符6つをもっとも手っ取り早くあらわす「付点全音符」が用いられそうなものだが、ブラームスはその使用を頑なに避けている。第一交響曲の主部8分の6拍子では、まるまる1小節に同じ音を敷き詰める場合に、付点2分音符が用いられていることと対照的だ。

ためしに第3交響曲第一楽章の冒頭2小節を見るといい。どちらの小節においても全てのパートが「タイで連結した付点2分音符」になっている。「6個の4分音符」を「3つずつが2組」だと思いなさいということに決まっている。

ところが、第3小節目から放たれる第一ヴァイオリンの第一主題は、2分の3拍子の枠組みに聞こえる。「四分音符2個が3組」ということだ。冒頭2小節における音符の割付と違う枠組みの旋律がいきなり始まる。我がヴィオラはそれらどちらとも受け取れるシンコペーションを強いられる。

再現部120小節目になると、モットー2小節の後半に弦楽器が出ることで、「3個*2組」の枠組みがキチンと明示される。ことここに及んで、さては冒頭も「3個*2組」だったのかと思わせるという仕組みだ。

名づけて「深層ヘミオラ」。

 

 

2021年11月19日 (金)

An Sylvia

テンペスト 」といえばシェークスピアだ。昨日は私の妄想だったが本日は正真正銘のシェークスピア。

「An Sylvia」D891はシェークスピア初期の喜劇「ヴェローナの二紳士」の一節を独訳したものがテキストになっている。原作は1590年代に成立したと目される。イタリアを舞台に「恋と友情」をはかりにかけて最後はめでたしめでたしで終わる。ニ紳士のうちの1人ヴァレンタインの恋人がシルヴィアである。シューベルトは本作から「シルヴィア礼賛」の部分をテキストに完璧な仕事をする。シルヴィアの容姿やキャラまで思い浮かぶようだ。

イ長調4分の4拍子。「Massig」は言うなれば「モデラート」だから「惚れ込み4原則 」よりはかなり早いうえに、曲想がレガートではない。ピアノ左手の独特の音形が手を変え品を変えて貫かれる。きっと彼女は明るくて聡明だ。

この手の軽妙な、いわばモーツァルト的なリート作品はブラームスには見当たらない気がする。

 

 

2021年8月24日 (火)

死と乙女

知名度で申すなら数あるシューベルト歌曲の中でも頂点付近に位置すると思われる。テキストはクラウディウス。文字通り死と少女の対話。魔王と並ぶ怪奇系の双璧。音楽のおかげで極端な怪奇的にならずに劇的という範囲にとどまる。

イントロに現れる「タンタタ」というリズムは「ダクテュルス」と呼ばれている。アクセントがある長い音符に短い音符2つが追随するなどという説明よりもベートーヴェンの第七交響曲の第二楽章冒頭のリズムと申し上げた方が早い。シューベルトはこのリズムを愛好したと見えて、偶然とは思えぬ頻度で出現する。3つの音高が変わるケースまで入れればしょっちゅうという感じでさえある。

さて知名度の押し上げに寄与しているのは弦楽四重奏曲第14番ニ短調だろう。第二楽章に歌曲「死と乙女」の伴奏パートが主題として現れる。もろに「ダクテュルス」だ。テキストに付与された旋律をスルーしてこのイントロ音型を主題として採用し、あろうことか変奏の主題としている。私にとってはシューベルト室内楽の頂点に長く君臨する。初めて買ったCDはアルバンベルクSQの演奏だったが、これが脳みそに刷り込まれてしまい他の演奏を受け付けにくくなっている。

 

2017年8月14日 (月)

叩き分ける

交響曲第2番の第4楽章アレグロ2分の2拍子も大詰め、405小節から弦楽器が8分音符で音階行きつ戻りつを始める場所で、ティンパニもまた8音符でD音を叩く。一段落の413小節目では、これが「tr」に変わって3小節半続く。そしてクライマックスの417小節目からは、6連符になって2分音符を6つに割る。

アレグロで疾走するホンのわずかの間に、8分音符、トレモロ、6連符という具合に刻み方が変わる。音程はラとレだけ、単に刻みの密度だけが表現の手段だ。CDによっては、この変化がクッキリと、聞こえてこない時があって興ざめすることがある。

遠い昔、大学オケで初心者のヴィオラ弾きだった私は、ブラ2のクライマックスのこの場所のティンパニを聞きながら、必死だった。ティンパニの刻み分けをヴィオラの位置から聴くのは、楽しみの一つだった。

2016年1月19日 (火)

ソロシンコペーション

勝手気ままな私の造語。複数パート作品で、他のパートが全て通常ビートを刻む中、1つのパートだけが単独でシンコペーションを奏しているケースを指す。シンコペーション大好きなブラームスだが、シンコペーションとしてリズム的な衝突を意図しながら、その衝突をたった一つのパートにゆだねているケースだ。理屈の上では、ヴァイオリンソナタにおいて、ピアノが通常ビートを刻む中、ヴァイオリンがシンコペーションを打った場合、この定義を満足してしまうにはしまうのだが、通常ビートを打つパートが多ければ多いほど、それらしい。

第4交響曲第3楽章275小節目には、我がヴィオラにソロシンコペーションが現れる。オーラスのフォルテシモに到達する直前だから、大見せ場なのだが、なかなか聞こえない場所でもある。

さて、ソロシンコペーションの最大の名所がクラリネット五重奏曲第一楽章に存在する。24小節目と148小節目。提示部と再現部に割れた同じ景色と思っていい。

クラリネットはお休み。セカンドヴァイオリンとチェロが付点四分音符2個で、8分の6拍子1小節を2分するのに対し、ファーストヴァイオリンは4分音符3個を並べる。真ん中の四分音符には装飾音符が付与されて強調され、4分の3拍子が形成されている。ヴィオラは微妙。スラーのかかりかたは、小節を2分する8分の6なのだが、音の割付が4分の3拍子のシンコペーションに聞こえる。このときファーストヴァイオリンがシンコペーションにも聞こえるのだが、ヘミオラと解することも可能だ。ヴィオラの音の割付こそがシンコペーションと判定するべきだろう。

この場所、ファーストヴァイオリンとの呼吸合わせにこそ、アンサンブルの醍醐味が凝縮されている。1小節後のフォルテの総奏の準備としても秀逸である。

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