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カテゴリー「201 ピアノ曲」の186件の記事

2024年8月16日 (金)

バッハの子守歌

昨日の記事で、ブラームス先生とファーバー先生が子守歌を歌う趣向を組み込んだ。こまったのがバッハだ。「バッハの子守歌」なるものはないからだ。

主旨は違うが無理やりBWV82の第3曲を持ち出した。「眠れ疲れた眼よ」といきなり「Schlummert」とあるが子供を寝かしつける意図はない。でもまあ「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳」にも入っているし、うまくいけば子供も寝るだろうという希望的観測だ。

いやむしろ、誰かを眠らせるという意味ならゴールドベルク変奏曲の方が効き目はあるかもしれんと、歌の出番がないことは承知で組み入れた。

歌の無い子守歌という趣向でいいならバッハには候補曲が少なくない。チェンバロ協奏曲BWV1056の第二楽章や、ブランデンブルク協奏曲第6番の第二楽章など、すぐにいくつか思いつく。コンチェルトの緩徐楽章など、遅い楽章が長調の場合、どれでも子供が寝そうだ。

2023年10月22日 (日)

Quasi Fantasia

ピアノ協奏曲第1番の第3楽章376小節目に唯一存在する。事実上カデンツァの弾き方を規定する意図があることは明白だ。「Fantasia」は幻想曲という意味だから、「quasi 意訳委員会」の裁定に従えば「幻想曲っぽく」という意味となる。

「Quasi~」という言い回しをする以上「~」に相当する単語について、自分自身の中に確固たるイメージが確立していることが大前提だ。さらにはそのイメージが世間一般の認識と大きくかけ離れていない方が望ましい。

しかししかし、これは意外と厄介だ。

ブラームス自身は「Fantasia」つまり「幻想曲」というタイトルの作品を残していない。晩年のピアノ小品の中、op116が「7つの幻想曲」と題されているに過ぎない。4つのインテルメッツォと3つのカプリチオの集合体に「幻想曲」とタイトリングしているが、単独曲が幻想曲とされている例がない。

ピアノ協奏曲の作曲段階で晩年のピアノ小品のことが念頭にあったハズがないから、解釈の参考にはならない。ピアノ協奏曲第1番作曲時点での「Fantasia」のイメージが反映しているに違いないのだが、簡単に尻尾をつかめない。それがまた幻想的なのだと思う。

2023年10月15日 (日)

Presto energico

「速く力強く」と解される。辞書的な解釈としては、あるいは試験での模範解答としてはこれでいいのだと思うが、何だか味わいが無さ過ぎる。

 

「energico」のキャラは特徴がある。ブラームスはトップ系において生涯で8回使用している。ダイナミクスは「f」または「ff」に限られている。8例中7例が短調だ。弦楽五重奏曲第1番の第3楽章にのみ長調の用例がある。また「energico」単独での用例は存在せず、必ず何か別の用語との併用になっている。パガニーニの主題による変奏曲第2巻157小節目第10変奏が「Feroce,energico」になっている以外は「allegro」または「presto」との併用に限られている。「速め系の短調が強く走り出す」ことに特化していると考えていい。「appassionato」よりは響きが厚い印象だ。

 

「Presto energico」はそういう流れの中で捉えられるべきだと思う。作品116-1のニ短調の「カプリチオ」に一回だけ出現する。「短調、f」の枠組みはキチンと守られている。ブラームスにおいては「presto」は制御の対象であり、しばしば意味を弱める抑制系を伴うが、本例はどちらかというとテンポを煽る意味合いが込められている。

 

このカプリチオはブラームスの一連のピアノ小品の中では、難曲の部類だ。演奏者のリズム感が絶え間なく試される。アクセントの位置が小節の頭と一致しない。いっそ小節線が8分音符一個分前にズレていたらいいと思う。拍節のズレが延々と続くストレスと、たまに訪れるズレの回復の快感が本質なのではとさえ思わせるものがある。

 

そうした緊張は、テンポが速くてこそ味わえるということが、この「Presto energico」にはこめられている。

 

 

2023年8月 4日 (金)

タイトル無し

ハイドンの多楽章器楽ソナタに限定する。交響曲、弦楽四重奏曲、ピアノ三重奏曲、ピアノソナタで全部で280曲ある。

この中で標題付きの作品がいくつかある。交響曲で30曲、弦楽四重奏曲で14曲あるけれど、ピアノ三重奏曲とピアノソナタには見当たらない。

交響曲にしろ弦楽四重奏にしろハイドン自身の命名はない。愛好家が生前または後世になって付与したということだ。数が多いための判別が主な目的で、言い得て妙はあっても。必ずしも曲の本質を表してはいない。そこがロマン派の標題音楽とは違うところだ。ベートーヴェンでさえ現在流布する標題には本人の関与しないものが多く混じる。

作品の優劣とは関係ないが、後世の聴衆への流布という点で差がつく。私だってとっかかりには「標題付き」を選んだ。作曲あるいは初演時のエピソードが標題に反映していることもある。挙句の果てにCDには「標題付き作品全集」なるものも出る始末だ。

判官びいきとでもいうのか、こうなると標題の付与されないジャンルを大切にしたくなる。

2023年7月24日 (月)

オルベルツ一択

音源を押さえるには全集が効果的と申したばかりだ。それっとばかりにピアノソナタをあたる。全32曲のベートーヴェンのピアノソナタには、数え切れないくらいの選択肢があるけれど、ハイドンはスカスカだ。曲数が52もあるせいだけとも思えない。

手に入れたのはワルター・オルベルツだ。カール・ズスケと組んだベートーヴェンのヴァイオリンソナタで感心させられたばかりだった。単に上手なだけではなくピアノ自体がいい感じ。

とりあえずの音源確保のつもりだったが大満足。ドライブや在宅のおともに最適。彼のテクなのかピアノのせいか聴き分けられずにいるが、とてもなじむ。アレグロがモーツアルトと別の意味ながら流れる。時折ある短調のきらめき。フィナーレの散見されるプレストには気品と切れが両立する。

2023年3月13日 (月)

クララのレパートリー2

昨日クララ・シューマンのレパートリーの中のピアノ協奏曲を調べたところだ。生涯で最低1回はコンサートで弾いた曲という定義だ。ついでに独奏曲もと思ったが、なかなか資料がない。かろうじてベートーヴェンのピアノソナタだけはリストが見つかった。

  1. 3番変ホ長調
  2. 8番ハ短調「悲愴」
  3. 13番変ホ長調
  4. 14番嬰ハ短調「月光」
  5. 15番ニ長調「田園」
  6. 17番ニ短調「テンペスト」
  7. 21番ハ長調「ワルトシュタイン」
  8. 22番ヘ長調
  9. 23番ヘ短調「熱情」
  10. 26番変ホ長調「告別」
  11. 29番変ロ長調「ハンマークラヴィーア」
  12. 30番ホ長調
  13. 31番変イ長調

以上だ。32曲から13曲が抽出されている。過半数に満たないが手堅く要所を押さえてある感じ。強いて申せば16番と18番「狩」も欲しかったところだが、悲愴とテンペストとワルトシュタインがあって満足。公開の席上での演奏記録だけなので、身内の集まりでは他の曲も弾いていたかもしれない。短調優勢だった協奏曲と違ってこちらは長調優勢だ。

そうそう、当時クララはベートーヴェンの演奏と解釈の第一人者だった。

2023年2月27日 (月)

ベートーヴェンで1か月

1月24日63歳の誕生日を機に恐るおそるベートーヴェンに言及を始めた。手始めにピアノソナタを選んだがほぼ1か月ピアノソナタで間が持った。「やればできるやん」という感じ。

あたたまってきた。

2023年2月26日 (日)

地味に大事なこと

昨日に続いてハンスフォンビューローのお話。ブラームスの親友。大指揮者であり大ピアニストであると同時に音楽評論家。バッハの平均律ピアノ曲集をピアノ音楽の「旧約聖書」とし、ベートーヴェンのソナタを「新約聖書」と称したり、現代まで語り継がれるエピソードには事欠かない。

ブラームスの歴史的位置づけを表す彼のことばがある。ブラームスの第一交響曲を「ベートーヴェンの第十」と呼んだことだ。交響曲史上におけるブラームスの位置づけをベートーヴェンをツールに言い表したと考えられる。

そのビューローは、ブラームスの1番のピアノソナタを「ベートーヴェンの33番」とは呼んでいない。弦楽四重奏も同じくブラームスの1番に「ベートーヴェンの17番」という称号を与えていない。ヴァイオリンソナタやチェロソナタ、あるいは協奏曲も同様だ。

ブラームスにもベートーヴェンにもバッハにも精通し、ピアノ演奏も超一流な上に現代指揮法の確立者であったビューローの歴史観の反映だ。交響曲だけが特異な扱いだとわかる。

噛みしめたい。

2023年2月24日 (金)

100番越え

作品番号のお話。後世の研究家が後付けした作品目録番号ではなく、作曲家本人が関与したケースを例にとる。バッハやモーツアルトあるいはドヴォルザークでは機能しない。

ベートーヴェンを例にとると100番を超えると後期作品ということになる。ピアノソナタだと28番以降で、弦楽四重奏だと12番以降。交響曲は第九だけ。ミサソレムニスもだ。その代わり、コンチェルトは存在しない。ヴァイオリンソナタやチェロソナタにも「後期」はない。その後期はというとやけに長くなる。楽章が増えるし、場合によっては楽章の切れ目がなくなる。演奏時間も伸びる。難解さが増す印象。曲の流れがいささか犠牲になる。

中学から高校にかけて、私はその難解さにあこがれた。弦楽四重奏でいえば13~15番が好きだった。ピアノソナタで申せばハンマークラヴィーアと並んで31番の変イ長調が大好きだった。今改まって聴くとハンマークラヴィーアはともかく31番の何にひかれたのか思い出せない。第3楽章のフーガに興味があったかもしれぬ。弦楽四重奏側でいう「大フーガ」と双璧をなす難解なフーガ。作曲上の技法ではなくて、難解なフーガを作ることが目的になった感じ。そういえば晩年のバッハにも「フーガの技法」があった。

変な高校生だ。

2023年2月23日 (木)

ワルトシュタインの見せ場

そりゃ昔は、ワルトシュタインの冒頭が印象的だった。8分音符の和音連打。やがては16分音符に推移。所せましと走り回るという風情。旋律ではなくモチーフの堆積でソナタ楽章を組み立て上げるというベートーヴェンに特有の現象と説明されてすんなり納得していた。

ところが、歳のせいか最近、フィナーレが気になっている。第2楽章がほとんどフィナーレの序奏という扱い。走り回る第一楽章とは対照的だ。テンポ指定も「Allegretto moderato」という収まりっぷりだ。きれいな旋律が16分音符の絶え間ない流れによって修飾される。地味に左右の手が交差させて弾かれるのだが、聴いている限りは平明な印象。このロンド主題が都度都度違う伴奏を引き連れて現れる。華麗なスケールがとりわけ印象深い。なんせグールドがこの曲の録音を残していない。私的ランキングの1位はレーゼル。第一楽章に重心をおいて聞いているとグルダなのだが、フィナーレを中心に聴くとレーゼルだ。音がきれい。

15歳のブラームスがどう弾いたのか。

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