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カテゴリー「201 ピアノ曲」の195件の記事

2026年4月13日 (月)

迂闊な断言

一昨日の記事「微調整」で交響曲第4番について管弦楽版とピアノ連弾版における楽章冒頭の発想記号の差異について述べた。

 

本日もまたその系統の話題である。

 

「ハイドンの主題による変奏曲」には管弦楽版に加え2台のピアノ版がある。これにもまた興味深い楽語使いの差異が存在する。

 

    • 第1変奏 Poco piu animato→Andante con moto 

 

    • 第2変奏 Piu vivace→Vivace

 

    • 第4変奏  Andante con moto→Andante

 

    • 第5変奏  Vivace→Poco presto

 

  • 第8変奏  Presto non troppo→Poco presto

 

いやはや難攻不落だ。「管弦楽をピアノ版に移植すると得てして不必要に早くなりがち」というブラームスの見解が反映しているとはとても断言できない。

 

さらに書籍「ブラームスの辞書」では「Poco presto」についてショパンのエチュードop25-2を編曲した作品の冒頭に存在するだけだなどどいう迂闊な断言をしてしまっている。お恥ずかしい話である。ショパンの編曲は1862年だから「ハイドンの主題による変奏曲」よりもおよそ10年古い。何か関係があるのだろうか。

2026年3月10日 (火)

消去法

数種類の選択肢から1つを選ぶ際にしばしば用いれる方法。あかんモンを落として行って最後に残ったものに決めること。長所を決め手とせずに選ぶため消極的なイメージだが、現実にはかなり頻繁に用いられている。

中期以降に出現するピアノ小品群は、数曲の作品が一つの作品番号にまとめて出版されるのが常だった。インテルメッツォとカプリチオを仲良く4曲ずつ盛り込んで作品76として出版する際、その集合体に適当な名前がないものかとジムロックに相談を持ちかけている。ブラームス本人はそれらを「Klavierstucke」(uはウムラウト)と呼んでいた。

結局ジムロックも気の利いた名前を思いつくことが出来ずに、「Klavierstucke」の名前で出版された。いわば消去法である。このタイトルはop76にとどまらずop118とop119でも再び用いられる。

盛り込まれている曲は、ブラームスのピアノ作品の精髄のような作品だが、それらの集合体に割り当てられるタイトルには無頓着だったと考えられる。

聴き手の感じ方に必要以上に介入しない姿勢の裏返しとも感じれられる無味無臭のタイトルは、作品の内容で勝負するブラームスの思いが込められている。

 

 

 

 

2026年2月13日 (金)

もう一つのアレグロ・マエストーソ

「ブラームスの辞書」は、収録の対象を原則として作品番号のある作品に絞っている。しかし今となっては、これがとんでもないアキレス腱になってしまっている。作品番号の有無に関わらず、「我が家に楽譜のある作品全て」というコンセプトにすべきだった。

ピアノソナタ第3番第1楽章冒頭の「Allegro maestoso」を「ブラームス唯一の」などと勢いよく断言してしまっている。「作品番号のある作品としては」と差し込まねばならなかった。

1852年ハンブルクのクランツ社から刊行された「ロシアの思い出」というピアノ連弾作品集が、現代ではほぼブラームスの真作とされている。もちろん作品番号などついていない。それどころかGWマルクスというペンネームが用いられている。

全6曲からなるこの曲集の1番ロシア讃歌の冒頭に「Allegro Maestoso」が鎮座する。作曲年代としてこちらが1年先行するから、ピアノソナタ第3番の用語選択の際、一瞬は頭をかすめたものと思われる。ピアノソナタ第3番はヘ短調であるのに対して、ロシア讃歌はニ短調だ。作品冒頭の「Maestoso」はニ短調に特異的に集中するという後に顕在化するブラームスの癖を作取りしている点、ただただ驚くばかりである。

 

2026年1月10日 (土)

お抱えピアニスト

スコットランド生まれのピアニスト、オイゲン・ダルベール(1864-1932)をブラームスは「お抱えピアニスト」といってかわいがっていた。リストの弟子だ。

1896年1月10日。今から130年前の今日、ベルリンで素晴らしい演奏会が開かれた。オイゲン・ダルベールがブラームスのピアノ協奏曲を一晩で2曲演奏したのだ。オケはベルリンフィル、指揮はブラームス本人だ。これがブラームス生前最後の指揮となった。このときブラームス62歳、ダルベール31歳だ。

何と言う組み合わせたろう。チケットはいくらだったのか心配になる。

2026年1月 9日 (金)

ブラームスピアノコンクール

大それたタイトルだ。実際に存在するかは判らない。

ブラームスの伝記に現れるピアニストで一番の腕前は誰かというお話だ。ブラームスが直接会ったことがあるピアニストが対象だ。ショパン、チェルニー、モーツアルト、ドビュッシー、ラフマニノフあたりは応募資格を持っていない。予選通過は下記の面々である。

  • フランツ・リスト 初見でスケルツォop4を、完璧に弾いてブラームスを驚かせた。
  • クララ・シューマン ブラームスの人生への影響度なら別格の第1位だ。
  • カール・タウジヒ リストが絶賛した才能だが、30歳で没した。「パガニーニの主題による変奏曲」はこの人用だ。
  • カミーユ・サンサーンス モーツアルト以来の神童と称された。
  • フルッチョ・ブゾーニ 19世紀のヴィルトゥオーゾの最高峰という位置付けだ。
  • オイゲン・ダルベール リストがタウジヒの生まれ変わりと称した。ブラームスは彼を称して「お抱えピアニスト」と言っている。
  • ハンス・フォン・ビューロー クララの父の弟子。

誰が一番上手いのだろう。サンサーンスとブゾーニはブラームス作品を弾いたかどうか怪しいので、やや不利か。ブラームスの作品を主たるレパートリーにしていたかとなるとリストも疑問符が付く。

ブラームス本人も相当な腕前らしいが、このメンツの中に入ると旗色が悪そうだ。、けれどもブラームスはそういうことを嘆くキャラではない。

 

 

 

 

 

 

2025年7月21日 (月)

ピアノ書法

思うだに難解。

ピアノ作品におけるピアノの取り扱いを言うと感じている。浮かんだ楽想と、楽器の機能・性質・音色のマッチングのさせ方かもしれない。作曲家の個性がパラレルに反映するから「ショパンのピアノ書法」「モーツアルトのピアノ書法」という言い回しも頻繁に見かける。

例によって音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第2巻120ページをご覧頂きたい。ホイベルガーとの会話の中に興味深い話がある。

親しい知人の特権だろうか、ホイベルガーはブラームスのピアノ作品について鋭い突っ込みを入れる。ブラームスのピアノ作品が世間様ではしばしば「ピアニスティックではない」と言われていると水を向ける。

ブラームスは怒るでもなく「知っているよ」と答える。「でもピアノでちゃんと演奏出来るように気を配っているんだ」と続ける。

禅問答とはこのことだ。ピアノで演奏不能なところが無いよう気を配っていても「ピアニスティックではない」と言われてしまうことを当然と受け止めていると見た。

そしてブラームスはこのあと面白いことを口にする。「シューマンの作品はピアノでは演奏不能に見えるところもある」「その方が幻想的で素敵だけれど」と続けるのだ。ピアノで演奏不能な箇所があることを半ば肯定している感じである。そのほうがかえってピアニスティックであるかのようなニュアンスだ。

具体的に作品名を挙げていない上に私自身にシューマンのピアノ作品の知見が無いこととで、これ以上議論を深められないのが残念だ。けれどもピアノ書法に関するブラームスとシューマンの個性をうまく言い表しているのかもしれないと感じる。

 

 

 

 

2025年7月10日 (木)

Andante non troppo

ブラームスは速過ぎを恐れる傾向があると記事「速過ぎを恐れる」で書いた。特にアレグロが速過ぎることを恐れていたと思われる。物事が過剰であることを戒める「non troppo」は主に「allegro」を修飾する。

本日のお題「Andante non troppo」は、その意味では異例である。「Andante」を構成する何らかの要素が極端にならぬようにという警告の意図があるとひとまず考えておく。「Andante」を「歩くような速さで」と解する立場から解釈するとたちまち行き詰まる。「Andante」には古来より、「速いのか遅いのか判らぬ」という側面が付いて回る。用いた作曲家によって意味合いが代わるのだ。ブラームスにおいては「遅い側」の用語なので、「non troppo」で修飾されれば「過剰に遅くなるな」の意味と推測出来る。

生涯で唯一度の「Andante non troppo」はインテルメッツォop117-2に出現する。作品117は3つのインテルメッツォからなる珠玉の小品集だ。3曲の冒頭における発想記号は以下の通りだ。

  • 1番変ホ長調 Andante moderato
  • 2番変ロ短調 Andante non troppo e con molto espressione
  • 3番嬰ハ短調 Andante con moto

見ての通り、3曲全て「Andante」ベースになっている。速いのか遅いのかちっとも判らぬというのはブラームス節の一つである。ブラームスにあっては「遅め系」の用語である「Andante」を敷き詰めておきながら、それらを修飾する用語の使い方を見ると「遅め一辺倒」にはなっていないのだ。

中でも本日話題の2番は「Andante」系の用語としては異例なのである。「Andante」が「過剰であること」を恐れるというのは、直観としては理解しにくい。

フラットてんこ盛の調で歌われる旋律は、16分音符羅列の繊細さとともに、チャーミングな旋律の存在も浮かび上がらせねばならない。旋律自体は「Andante」でよいのだが、それにまとわりつく16分音符の流れを感じさせねばならないことを考えると、停滞はご法度だ。その微妙さが「Andante non troppo」の意味だと考えている。

「Andante non troppo」を異例だと感じるところから全てが始まると思う。

2025年7月 5日 (土)

深謀遠慮

物事への考えが深いこと。おそらくこれに加えていくつか条件がある。先が見通せるという意味を濃厚に含む。その結果に基づきタイムリーに適切な手が打てていることが予見される。考えることに時間がかかり過ぎないことも必須だろう。多分に良い意味だ。

シューマンの知己を得て世の中に広く認められる前、ブラームスはレーメニーというヴァイオリニストと組んで欧州を演奏旅行していた。ブラームスの伝記であればほぼ漏らされていることのないメジャーな話だ。レーメニーはハンガリー系のヴァイオリニストで、情熱的な芸風だったという。ハンガリー民謡をレパートリーにしていた。伴奏者として同行していたブラームスは、このときにハンガリーの語法を吸収したと思われる。

1869年ブラームスは、ピアノ連弾用の「ハンガリア舞曲」を発表する。これが楽譜の売れ行きという面で大ブレークとなった。言わば「欧州の紙価を高めた」という状況が生まれた。前年1868年に初演されたドイツレクイエムの成功とともに、作曲家ブラームスの地位を飛躍的に向上させた出来事といってよい。

こうなってしまうとレーメニーはブラームス無名時代のパートナーということになるのだが、大ヒット作ハンガリア舞曲には自分の教えてやった旋律が含まれることを理由に著作権侵害というクレームを付けた。ついには訴訟沙汰にまで発展するが、結果としてはレーメニーの訴えは退けられることになる。理由は以下の通りだ。

  1. ハンガリア舞曲の元になった旋律の作曲者が特定不可能だから著作権を設定出来ない。
  2. ハンガリア舞曲の出版にあたってブラームス作曲とされずにブラームス編曲となっている。
  3. ハンガリア舞曲にはブラームスの作品番号が付与されていない。

大抵の伝記では「レーメニーのねたみ」を原因に挙げている。関係者間のレーメニー評も添えられていることとも多い。ブラームスの伝記の中だから争いの当事者レーメニーの評価が芳しくないことについては、100%信用は出来まい。

そんなことより、ハンガリア舞曲の出版にあたって、作品番号も付けずに編曲扱いとしたブラームスの姿勢を喜びたい。裁判沙汰の発生を予見したとまでは言えなかろうが、民謡に対する姿勢に一貫性が見て取れる。自作と採譜を厳密に区別するストイックさを味わいたい。どんなに魅力的な旋律でも「おいらの作曲じゃあないよ」と宣言する潔さは、彼の作品に充満するストイックさと呼応してはいまいか。

2025年7月 4日 (金)

左手の親指

ブラームスのピアノ演奏を知る人々の証言、あるいは「51のピアノ練習曲」の傾向から、ブラームスのピアノ演奏法の独特な癖を類推することが出来る。

まず言われているのが、左手の重要性だ。多くの人にとって利き腕ではない左手を自在に繰ることが、練習の目的になっていることが多い。申すまでもなく、左手は低い音域を担う。自作のベースラインを曖昧に演奏しようものなら烈火の如く怒ったというエピソードや、「僕はこれしか見ていない」といってピアノの右手のパートを隠した話など、ブラームスの低音域偏愛の証拠は多い。

次に認められるのは、親指の役割期待の特殊性だ。親指への黒鍵使用や親指が小指をまたぐような指使いなどなど、通常のカリキュラムでは考えられないアイデアが「51のピアノ練習曲」には数多く盛り込まれている。

本日のお題「左手の親指」は、上記の2系統の話の交点である。ブラームスは自らの左手の親指を「テノール旋律用の指」だと自慢していたエピソードもある。

右手にしろ左手にしろ、腕を交差させない限り親指は、中音域を担当領域にする指である。つまり親指の活躍する音域はヴィオラの音域とかぶっているということだ。ピアノのフィンガリングには全く疎いが、この話はブラームス自身のヴィオラ好きの嗜好とも関係があると勝手に思っている。ピアノ演奏における左手の親指の音域的な位置付けは、弦楽四重奏におけるヴィオラのそれに対応していると思う立場。

2024年8月16日 (金)

バッハの子守歌

昨日の記事で、ブラームス先生とファーバー先生が子守歌を歌う趣向を組み込んだ。こまったのがバッハだ。「バッハの子守歌」なるものはないからだ。

主旨は違うが無理やりBWV82の第3曲を持ち出した。「眠れ疲れた眼よ」といきなり「Schlummert」とあるが子供を寝かしつける意図はない。でもまあ「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳」にも入っているし、うまくいけば子供も寝るだろうという希望的観測だ。

いやむしろ、誰かを眠らせるという意味ならゴールドベルク変奏曲の方が効き目はあるかもしれんと、歌の出番がないことは承知で組み入れた。

歌の無い子守歌という趣向でいいならバッハには候補曲が少なくない。チェンバロ協奏曲BWV1056の第二楽章や、ブランデンブルク協奏曲第6番の第二楽章など、すぐにいくつか思いつく。コンチェルトの緩徐楽章など、遅い楽章が長調の場合、どれでも子供が寝そうだ。

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