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2016年10月27日 (木)

M.B.

1809年にメンデルスゾーンが生まれたのはハンブルクだ。申すまでもなくブラームスの故郷でもある。だからという訳ではないがブラームスはもちろんメンデルスゾーンを知っていた。直接会ったことは無いと思われるが、作品を通じて親しんでいたと見るべきだ。

さらに1853年にデュッセルドルフを訪問してシューマン夫妻に会い、しばらく滞在した間、メンデルスゾーンの友人でもあったシューマンから情報を仕入れたに決まっている。おそらくブラームスはメンデルスゾーンに好意的な印象を持ったと思う。

明くる年1854年の春。ロベルト・シューマンの入院との前後関係は不明だが、ヨアヒムに全2集からなるピアノ小品集を贈った。タイトルは「ある音楽家の日記から」といい、ヨハネス・クライスラー作曲とされている。第2集には現在op9になっている「シューマンの主題による変奏曲」から10番目と11番目の変奏が抜けたものが入っていたらしい。興味深いのはこの第1集の最後4曲目に「M.B.の想い出」というロ短調の小品が置かれていたことだ。この「M.B.」は「Mendelssohn Barthordy」の頭文字である。ブラームスなりのメンデルスゾーンの印象が作品に反映されていたことは確実だ。

この曲集をヨアヒムに贈ったことはとても興味深い。ヨアヒムの才能を発見したのは他ならぬメンデルスゾーンだ。ヨアヒム10代の頃ロンドンに同行したこともあるという。自分にシューマンを紹介してくれた恩人ヨアヒムはメンデルスゾーンとも深い親交があったということだ。「私はあなたの恩師メンデルスゾーン先生を、シューマン先生と同様に尊敬しています」というメッセージが込められていたと感じる。

1848年に38歳の若さでこの世を去ったメンデルスゾーンだが、もし少々長生きしていたら、ヨアヒムはきっとブラームスを恩師メンデルスゾーンに紹介していたと思う。

残念なことにこの曲集は現存していない。

2016年5月 3日 (火)

ラコッツィ行進曲

一般にハンガリー民謡とされる行進曲。さまざまな作曲家により引用されているが、ひとまずベルリオーズが名高い。

実は、ブラームスによるピアノ編曲がある。マッコークルの作品目録では、「AnhangⅢNr10」という番号だ。1850年代の作品だ。クララへの手紙で言及されているらしく、これを主題とする変奏曲の作曲を試みたと取沙汰されるが、真偽の程は不明。ちゃんとCDも出ていて我が家には2種類ある。

スペシャルコンサートまであと12日。

2016年2月18日 (木)

オリジナル当て

ハンガリア舞曲の大ヒットが、裁判沙汰を引き起こしたことはよく知られている。。1869年刊行の第1集だ。ブラームス作曲とせずに編曲としていたことが幸いしてブラームス勝訴となった。

1880年第2集11曲の刊行にあたり、ブラームスはさらに用心深くなった。ハンガリージプシーの旋律の編曲というコンセプトは不動だが、いくつかオリジナルを混ぜたというのだ。つまり編曲を編曲と言うだけにとどまらず、自作にまで編曲のレッテルを貼ったということだ。海賊版の出現に備えてのことらしい。

ブラームスの語法にもハンガリーの語法にも精通していたヨアヒムは、この裁判沙汰自体を子供じみていると感じていたらしいが、ブラームスが忍び込ませたオリジナルについて興味深い指摘をしている。

ヨアヒムによれば第2集の中の第11番、第14番、第16番がブラームスのオリジナルだとしている。これら以外の曲については原曲を知っていたからかもしれない。

2016年2月17日 (水)

もっとハンガリア舞曲

有名な5番を含む第一集は1869年の出版。これが爆発的に売れ、ブラームスの名はイギリスにまで広まった。1870年代の初頭において、イギリスでもブラームスのハンガリア舞曲は多くの家庭にまで浸透していたことがいくつかの証言から確実視されている。ドイツレクイエムは1868年の発表だから、その翌年現在、ブラームスは「ハンガリア舞曲とレクイエム」の作曲家だったと言ってもよさそうだ。交響曲はまだ一つも世に出ていない。

オリジナルはピアノ連弾用だが、人気を物語ってか様々な形態に編曲されている。

  1. ピアノ連弾用。オリジナル。初演はブラームスとクララの演奏だった。
  2. ピアノ独奏用。10番まではブラームス本人の編曲が残っている。キーシンの演奏なんかとても2本の腕で弾かれているとは思えない。「神の手」の助けを借りてやしないか心配である。そういえば何だかマラドーナに似ている。
  3. 2台のピアノ用。情けない話だが、連弾用と区別がつかない。
  4. 管弦楽用。1、3、10がブラームス本人により編曲されている。結局全21曲が誰かしらの手で編曲されている。17~21番にはドヴォルザークの編曲もある。
  5. 弦楽合奏用。レオン・ベルニエという人の編曲だが、なかなか良い。
  6. ヴァイオリン&ピアノ用。ご存知ヨアヒムの編曲だ。オリジナルでは嬰ヘ短調の5番がト短調に編曲されている。
  7. チェロ&ピアノ用。アルフレッド・ピアッティというイタリアのチェリストの編曲。1822年生まれだというからブラームスより年長だ。1846年以降ロンドンに住んでヨアヒムと親交があったという。エンドピン無しのチェロを愛用していたそうだ。ヨアヒム四重奏団のチェリスト・ハウスマンの師匠にもあたる人で、ブラームス作品の優れた解釈者だったらしい。有名な5番がヘ短調に移調されているのを筆頭に、ほとんどが移調されている。
  8. ジプシーアンサンブル ヴァイオリン、ピアノ、コントラバス、ツィンバロン。惜しいかな全曲ではない。
  9. ハープとピアノ
  10. ギター独奏

我が家にCDがあるのは上記の通り。ブラスバンド用もきっとあるだろう。木管五重奏用やホルンアンサンブル用、金管アンサンブル用だって探せばありそうだ。

ある意味でブラームスを代表する作品であることは間違いない。

2016年1月27日 (水)

そりゃ聴きたい

まずは黙って以下のリストをご覧いただきたい。

  1. インテルメッツォホ長調op116-4
  2. インテルメッツォ変ホ長調op117-1
  3. インテルメッツォイ長調op118-2

どうもこれらにはヴァイオリンとピアノ用への編曲版がある。残念ながらもちろんブラームス本人の手による編曲ではない。最初の2つはパウル・クレンゲルという人物の手による編曲で、チェロとピアノ、ヴィオラとピアノに加え管弦楽版まである。

そして何よりもop118-2だ。イ長調アンダンテ・テネラメンテは、ブラームスピアノ小品の白眉と申してよい逸品だ。ヴァイオリンとピアノ二重奏バージョンが存在するというだけで脳味噌が酸っぱくなる。もちろんこれも本人の編曲ではない。リヒャルト・バルトという人物だ。

楽譜の出版は3曲ともブラームスの生前である。クライスラーあたりが、アンコールに弾いてくれようものなら、すんなり入って来かねない。どこかにCDはないものか。

2015年11月26日 (木)

パガニーニヴァリエーション

正式には「パガニーニの主題による変奏曲」だ。クララ・シューマンをして魔女の変奏曲といわしめた難曲中の難曲。上下2巻から成立するブラームス変奏曲の極致で、これを最後にピアノ用の変奏曲は書かれなくなる。

初演は1865年11月25日だから昨日が初演150周年。チューリヒにてブラームス本人の演奏だった。つまりブラームスはこれが弾けたということだ。

昨日は私の25回目の結婚記念日と重なっていたので、一日遅れで言及する。

2015年11月23日 (月)

知らぬが仏

マッコークルに目を通すことが増えたお陰で、困った情報も目にするようになった。

ブラームスが他の作曲家の作品を編曲した作品のうち、現在まで伝えられていないものが列挙されている。ブラームスと知人の手紙等で言及されているので存在が推定されていながら、楽譜が失われているケースだ。

この中にベートーヴェンの弦楽四重奏曲第9番ハ長調「ラズモフスキー第3番」の第4楽章のピアノ編曲がある。中学高校とベートーヴェン大好き少年で、大学に入ってヴィオラを始めた初心者にとって、この楽章は夢の楽章だ。ベートーヴェンらしい長大なフーガがヴィオラによって開始されると、昨日言及した通りだ。

室内楽のフィナーレで、長大なフーガをヴィオラが先導するといえば、弦楽五重奏曲第1番がある。こちらはヘ長調だが、イメージだけは似ている。

ブラームスによるピアノ編曲があったとは驚きだ。けれども現実には伝えられていなくて出来映えを確認出来ないのは拷問に近い。こんなことなら知らない方がましだ。

もっとある。

シューマンのピアノ五重奏曲のピアノ連弾用編曲だ。同じシューマンでもピアノ四重奏の方はキッチリと伝えられていて、CDも出ている。五重奏も聞きたかった。

いっそ何も知らなければ平和だったのだが。

2015年2月 4日 (水)

ゴールドベルク変奏曲

1865年2月母クリスティアーネの訃報に接したブラームスを見舞った友人がいた。ゲンスバッヒャーというチェリストだ。親密度はなかなかのものだ。何しろチェロソナタ第1番を献呈されているほどだ。

悲報に接したブラームスは、一心にピアノに向かっていた。弾いていた曲が本日のお題、バッハの「ゴールドベルク変奏曲」だ。長い間ずっとピアノを弾いていたらしいが、全曲を弾いたのか一部だったのかは解らない。冒頭のアリアか、はたまたクオドリベートか。何という光景だ。ブラームスが演奏する「ゴールドベルク変奏曲」を目の前で聞いたとは恐るべき果報者だ。

ゲンスバッヒャーは、ブラームスの頬に涙がつたっていたと証言する。

2012年7月21日 (土)

シューマン最後の日々

フランツ・リストのピアノソナタロ短調がロベルト・シューマンに献呈されたことは、昨日話題にした。クララは嫌悪感を日記にぶちまけているとも書いた。当時シューマン一家のために献身していたブラームスが、さっそくリストのソナタをクララに弾いて聴かせた。

後になってブラームスは献呈された本人つまりロベルトの反応を証言している。音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第2巻118ページのホイベルガーの証言だ。1894年12月1日の会話の中で、エンデニヒに入院中のロベルト・シューマンの様子が語られている。献呈されてたロ短調ソナタをじっくり見て喜んでいたというブラームスの証言が語られている。クララが、入院中のエピソードの公開を拒んだとも付け加えている。

クララが作品に示した反応を、シューマンは知らされていたのだろうか。それが出来るのはブラームスしかいないが、ブラームスの証言は残っていない。

2012年7月20日 (金)

リストのソナタ

一昨日の記事「私事都合」で、ビューローネタに触れた。そこでピアニストとしてのビューローがフランツ・リストの弟子であると書いた。だから今日はそのリストネタ。

何の断りもなくただ「リストのソナタ」と言えば1853年に書かれたピアノソナタロ短調を指すと思って間違いない。

実はロベルト・シューマンに献呈されている。1854年5月25日にシューマン邸に届いたらしい。この日のクララの日記で言及されている。ロベルト・シューマンへの献呈と申しても、ライン川への投身後ただちにエンデニヒの病院に収容されたから、献呈相手のシューマンは既に不在であった。

このときのクララの日記は、作品への嫌悪を隠さずにぶちまけている。あまりにストレートなので内容は省略する。作品についての愚痴は別として「ブラームスがさっそく弾いて聴かせてくれた」と書かれている。ブログ「ブラームスの辞書」としては、ブラームスが演奏したリストのソナタの方が気になる。クララは作品のまずさの指摘に余念がない感じで、ブラームスの演奏の出来映えには言及がない。

さらに、「それでも礼ぐらいは言わねばならないと思うと大儀で仕方がない」とこぼしている。

当時、シューマン一家の一大事と聞いてはせ参じたブラームスは、シューマン邸に頻繁に出入りし、家計簿の記入さえ任されていたくらいだから、礼状の代筆くらいは朝飯前だったと思われる。

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