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カテゴリー「201 ピアノ曲」の152件の記事

2020年9月25日 (金)

グールド

ブラームスのピアノ協奏曲第1番をめぐるバーンスタインとのやりとり。そのブラームスのピアノ小品の演奏、新旧のゴールドベルク変奏曲をはじめとするバッハ作品のキラメキ。

今までだってずっとグールドには一定の敬意を払ってきた。超生意気に言えばどちらかと言えば好きな部類の演奏家だ。

しかし心をもっとも揺さぶられたのは、チェロのレナードローズと録音したバッハのガンバソナタだ。2人の演奏家のアンサンブルでありながら、ピアノの両手とガンバによる事実上のトリオソナタという曲本来の来歴をカラリとあっけなく音にしてくれるとでも申せばいいのだろうか。ピアノの左右の声部がくっきりと聴こえる。加えて本人のハミングを交えた四重奏だというジョークも一笑に付せない説得力がある。

鍵盤楽器のためのバッハ作品では、チェンバロ演奏が好きなのだが、グールドだけは例外だ。ガンバソナタだけではない。ラレードとのヴァイオリンソナタも同じ意味で同列。

彼は1932年9月25日のお生まれ。今日は誕生日だ。

 

 

2020年9月 6日 (日)

半音階的幻想曲とフーガ

バッハのクラヴィーア作品の一つでニ短調BWV903を背負っている。「半音階的」というのがロマン派諸氏の琴線に触れたのか、バッハが忘れられていた時代にも、例外的に人気があったという。ブラームスの伝記の中でもブラームスのお気に入り作品の一つして言及されていることが多い。

「半音階的」というネーミングの元になったのが、後半のフーガの主題だ。「A-B-H-C」という具合に半音上昇が3回連続して立ち上がる。何と言ってもこれは「BACH」のスペルを並べ替えた代物だ。このあたりの曰くありげなところが、ロマン派好みだと思われる。3小節目には「E-F-Fis-G」も現れて半音の上行を強調するしかけになっている。

実はこの一連の半音進行を聴くと思い出す作品がある。「H-His-Cis-Cisis-Dis」と立ち上がるインテルメッツォop116-6には、この手の半音進行が入れ替わり立ち替わり現れる。拍子も同じ4分の3だ。2つ目のHisが、同時に鳴らされる「H」と7度でチャーミングに衝突するのを楽しむ音楽だ。もちろんこちらはフーガにはなっていないが、ブラームスのバッハラブの反映かもしれない。

2020年9月 5日 (土)

バッハのフーガ

10代からブラームスはバッハに親しんでいた。それは一生背負うブラームスのキャラクターの一部になった。

だから、10代でのコンサートで弾いた中にも「バッハのフーガ」が出てくる。「バッハのフーガ」はピアニストとしてのブラームスの重要なレパートリーでもある。楽友協会の音楽監督在任中の選曲にも「バッハのフーガ」が現われるし、クララのとの最後の対面でも「バッハのフーガ」が弾かれたとされている。

ところが、愛好家として残念なのは、数ある「バッハのフーガ」のうちのどれなのか、さっぱり明らかでないことが多いのだ。ブラームスの伝記は本人が日記を残していないこともあって、多くの親しい知人たちの証言の堆積と言ってもいい。「バッハのフーガ」が弾かれたことを証言する知人の多くが、具体的にどの作品かに言及していないと思われる。BWV番号という便利なものが無かったことが大きい。最近不備も指摘されるBWV番号だが、膨大なバッハ作品の固体識別への寄与は計り知れない。弾かれた作品が「バッハのフーガだな」とまでは判っても「どれ」と断ずるのは相当難しいのだと思う。

さらにクラヴィーア用のフーガばかりでなくオルガン用のフーガもピアノで弾かれた可能性もあるのだから固体特定は輪をかけて難しくなる。

「半音階的幻想曲とフーガ」はむしろ貴重な例外と解するべきかもしれない。

2020年8月23日 (日)

CAFEインテルメッツォ

まったくもってカフェとして実在しそう。

実は記事「インテルメッツォ組曲BACH」の続きである。ブラームスのインテルメッツォから調性が「BACH」になる4曲を私的に選定した。これを「CAFE」でやってみるという趣向。ただし、「BACH」で選定した4曲からは選ばないという条件付きとする。

  • C インテルメッツォCdurop76-8
  • A インテルメッツォAmollop76-7 
  • F インテルメッツォFmollop118-4
  • E インテルメッツォEdurop116-4

やれやれBACHとは一転してしっぶーい選定となった。ブラックもいいとこで、焙煎も深めに違いない。

2020年8月21日 (金)

インテルメッツォ組曲BACH

今度はピアノ独奏曲だ。それもインテルメッツォ縛りという制約付きである。ブラームスのピアノ小品インテルメッツォから主音が「BACH」なっているもの4つを選ぶというお遊び。

  • B インテルメッツォ変ロ短調op117-2
  • A インテルメッツォイ長調op118-2
  • C インテルメッツオハ長調op119-3
  • H インテルメッツォロ短調op119-1

我ながら完璧だ。長短2曲ずつ。Bが変ロ長調でなくて短調なところに意外性がある。Aは文句なしのテネラメンテだ。Cは「ソラソミ」のたき火。そしてHは「灰色の真珠」である。私的ベスト3がみな入っている。

 

2019年12月 8日 (日)

Molto passionato の続き

それは全くもっていつも通りの習慣だった。出来上がった作品を出版前にクララに見せるのだ。今回は特にピアノ独奏曲だからクララの意見が楽しみでさえあった。

やがて、望み通りの展開になった。クララがその曲を演奏してくれるというのだ。何となく嬉しい気持ちは、クララの演奏を聴いて吹き飛んだ。冒頭の発想記号として「Molto passionato」と書いたその楽譜を見ながら、クララは、ブラームスのイメージよりずっと遅いテンポで弾き始めたのだ。

「こりゃ、いかん」と思ったが、その気持ちをぐっと飲み込んで聴いているうちに、「こういうのもありかな」と思えるようになってきた。

出版にあたって「Molto passionato」の指示だけでは、速過ぎるテンポを採用されかねない。かといって「Allegro ma non troppo e molto passionato」にする訳にも行かない事情があった。だから「Molto passionato」の後ろにカンマを挟んで「ma non troppo allegro」と追加した。

種明かしをする。この曲とはラプソディート短調op79-2だ。クララの解釈するテンポに一定の説得力を感じたブラームスは結局「Molto passionato,ma non troppo allegro」を最終稿とした。「2つのラプソディ」は1番ロ短調が「Agitato」だ。2番も「Molto passionato」として、直接的な速度用語を掲げないことにこだわったのではないかと想像する。それが「Allegro ma non troppo e molto passionato」と出来ない事情だ。「molto passionato」の後に連ねる場合「allegro ma non troppo」では語呂が悪い。やむなく語順を入れ替えて倒置形の「ma non troppo allegro」を採用して後に続けたのだ。

ノントロッパーのブラームスは「allegro」を「non troppo」で修飾することが多い。生涯に33箇所ある。しかし語順の転倒が起きているのはこのラプソディーただ一つだ。「presto」と「non troppo」の共存は11回あって、うち過半数の6回が「non troppo」を先行させていることと鮮やかな対照をなす。それほど「Allgero」に対して「non troppo」が先行することは異例なのだ。

ヨハネス・ブラームスの苦肉の策である。

2019年11月20日 (水)

ショパン風

たとえば「ショパン風」のように、既存既知の作曲家の実名を用いて「誰それ風」という言い回しがしばしば見られる。「ショパンの作風に似ていますね」という意味である。単に「ショパンに似ている」言わないところが、ミソだったりするようだ。先にショパンの作風が確定していれば何の問題も生じないが、作風確定がおろそかなケースも散見する。「ブラームスの辞書」ではブログでも書籍でも、そうした言い回しを出来るだけ避け、「似ている」と断言することにしている。

ブラームスは自作に出版の価値がありや無しやという質問を、しばしばクララに投げかけている。op76-8ハ長調のインテルメッツォがその対象になった。クララからの返信は「と~んでもない」というものだった。具体的な譜例を上げて、こうすればもっと良くなるという提案を2つ3つしている。もしどうしても1曲省かねばならないなら6番イ長調だとクララは主張する。

クララは理由を付け加えることを忘れない。「なぜなら6番はショパン風過ぎる」というのがその理由だった。私ごときがブログで使うことは出来ないがクララの言葉となるとカッコいい。「あんたはヨハネス・ブラームスでしょ。しゃんとしなさい」に近い。あらゆるピアノ書法に通じたクララの言葉だけに重みが違う。

何より幸いなことはブラームスが6番を破棄しなかったことだ。

2019年11月 8日 (金)

魔女の変奏曲異聞

2007年5月1日の記事「魔女の変奏曲」で、「パガニーニの主題による変奏曲」op35がクララから「魔女の変奏曲」と呼ばれていると書いた。このほどその同じ箇所が「魔法の変奏曲」と呼ばれているケースを見つけた。元のドイツ語は不変でも翻訳の過程で、ニュアンスが割れてしまうことはよくあるが、本件は微妙である。

ブラームス宛の手紙の中でクララが用いた言葉だ。その同じ手紙でクララは、「パガニーニの主題による変奏曲」を隅から隅まで目を通したと述べている。各々の変奏曲が良くできていると誉める一方で、いくつかの変奏を削って1巻にまとめたらという提案をしている。

1巻から、第8変奏を省き、2巻からは4、7a、11、12、16変奏を削除して、全1巻にまとめるべきと言っている。同じテーマを元にした変奏曲を2巻も買ってはもらえまいと断じている。第2巻の冒頭が超絶技巧過ぎるとも付け加える。

これらの指摘の妥当性を論じる知識はないが、クララが相当細かく目を通して、思い切り踏み込んだ提案をしていることがよくわかる。もちろんこの助言はブラームスからの要請に基づくものだから、ブラームスがこれでヘソを曲げることはない。けれども、ブラームスがクララからの提案を採用していないことも忘れてはならない。

 

 

2019年11月 6日 (水)

クララの洞察

音楽之友社刊行の作曲家◎人と作品シリーズの「ブラームス」の中、192ページに興味深い記述がある。ブラームスの後期ピアノ小品についてのクララの見解だ。以下に丸ごと引用する。

後期のこれらのピアノ小品集に関して、クララは日記の中でこのように語っている。「これらの作品は達者な指の技術という点では難しくないが、知的な技術の点でははっきりとした理解力を必要とする。ブラームスが思っていたとおりのことを表現するには、彼のことをよく知っていなければなりません。」この小品の音の内側に込められた。ブラームスの内面性の重みをクララはよく知っていたのである。含蓄が深い。

あくまでもクララのレベルから眺めての話である点割引も必要だが、単に指が回るだけではダメだと言っているのだ。

「彼-ブラームス-を良く知らなければならない」とはいったい何だろう。ブラームスの伝記的事項や作品の生まれた時代背景、あるいは当時のブラームスの事情にまで知識を広げておいてもけして無駄にはなるまい。クララの記述にこうした点も含まれているとは思うが、一番言いたいことは、作品への理解だと思う。

良い言葉がある。

譜読みだ。クララはここでは、「譜読みそのもの」と、「譜読みの結果を音に転写する技術」を分けて考えていると思う。「譜読みの結果を音に転写する技術」が「達者な指の技術」に相当する。それはそこそこでいいから、譜読みを通じてブラームスの内面を思いやれと言っていると感じる。

「譜読み完璧、指回らず」の演奏を闇雲に擁護するつもりは毛頭無いが、覚えておきたいエピソードである。

 

 

 

 

2019年11月 5日 (火)

2つのピアノ協奏曲

ブラームスはピアノ協奏曲を2つ残した。

  • 第1番   ニ短調op15 (D-F-A) 1858年
  • 第2番 変ロ長調op83 (B-D-F) 1881年

見ての通りDmollとBdurである。ブラームスの残した作品を俯瞰すると、この2つの調関係にはある種ただならぬ雰囲気があることに気付く。すでに以下の記事で述べて来た通りである。

「Dein Brahms状態」

http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2005/11/dein_brahms_97a7.html

「AとB」

http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2006/05/post_8db4.html

上記作品後ろのカッコにはそれぞれの調の主和音の構成を記している。すぐに気付くのはこの両者の違いはAとBの違いでしかないということだ。このうちのAはクララの象徴であり、Bはブラームスの象徴ではないかという想定や、この2つの音を中心としたニ短調と変ロ長調のせめぎあいが、ブラームスのクララへの思いの象徴であるとの仮説が先の2つの記事で述べられている。

2つしかないピアノ協奏曲がこれらの調を仲良く分け合っているのは何やら象徴的である。

第1番。大抵の聴き手はこの作品がニ短調であることを認識してから鑑賞を始める。するとどうだ。冒頭ブラームスとしては異例の「ff」で曲が立ち上がる。はらわたを突き上げるような低いDを奏するのはコントラバスとティンパニ、そしてホルンの1、2番だ。次が肝心だ。ホルンの3、4番は同じく「ff」で「F」を吹く。ここで大抵の聴き手は「よしよしニ短調だな」と確信を深める。ところが、第2小節目で第一ヴァイオリンとチェロが持ち込む主題はいきなり「B-F-D」と下降して始まる。「AのかわりにB」が差し込まれているのだ。ニ短調という聴き手の思い込みをあざ笑うかのような「変ロ長調」である。

この手のせめぎ合いは第2番変ロ長調協奏曲にも現われる。ニ短調のスケルツォ・第2楽章だ。冒頭独奏ピアノが「ff」で主題を駆け上る。3小節にニ短調の和音に決然とたどり着くと同時にヴィオラ以下の低い弦楽器に対旋律が出現する。いわく「D-C-B」である。この最後の音5小節目冒頭のBは3小節目からピアノが放っている「A」と4分音符2個の間激しく衝突するのだ。「AとB」が強打される状態である。他の音はDとFしかないから、まさにニ短調と変ロ長調が同時に鳴っていることになる。

さらにこれらの協奏曲の各の楽章の調性を調べる。1番はニ長調の緩徐楽章がニ短調の1楽章と3楽章に挟まれている。2番は第2楽章にニ短調が採用されている他みな、変ロ長調なのだ。つまり、2つのピアノ協奏曲が擁する全7つの楽章の主音は、変ロ音かニ音しか現れないということになる。この2つの協奏曲にはまだ不思議な共通点がある。緩徐楽章が4分の6拍子になるのはこの2曲しかないのだ。不思議といえば不思議である。

DとFに加えて「A」が必要なニ短調がクララ、そして「B」を欲する変ロ長調がブラームスをそれぞれ表しているような気がする。だから第1番から23年を隔てて生み出された第2番は「変ロ長調」でしかありえなかった。

 

 

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