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カテゴリー「202 歌曲」の381件の記事

2023年12月22日 (金)

3大テナーのクリスマス

某ショップで中古品をお手頃価格で入手した。

申すまでもなく、ルチアーノ・パヴァロッティ、プラシド・ドミンゴそしてホセ・カレーラスの3人にコンサートだ。

ながらで聴いていて驚いた。芳醇なフルオーケストラによるイントロで何が始まるかと思ったら「ブラームスの子守歌」だった。そもそもブラームスの歌曲はテノール適性が低く、三大テナーのCDは一枚も持っていない。

ドミンゴが静かに歌いだし、カレーラスパヴァロッティの順に引き継がれてゆく。とても貴重な3人の合作だ。

難点は、これでは赤ん坊が寝られそうもないことくらい。

2023年1月23日 (月)

西暦抜きと年齢抜き

おバカなタイトルだ。作品番号を使ったちょっとしたお遊びの話である。

まずは西暦抜きから説明する。西暦の下二桁と作品番号を見比べる。ブラームスの場合op1の出版は1853年だ。生前最後の出版作品「4つの厳粛な歌」op121は1896年である。つまり53から97までのどこかで作品番号が西暦を追い抜いている計算になる。1878年のヴァイオリンソナタ第一番ト長調op78が「西暦抜き」の一品となる。

年齢抜きは同様のことを年齢で考える。どんなに早熟の天才でも1歳でop1にはなるまい。生後1年で「1」を付与されてから、没するまで毎年1のペースで増えていく年齢に対し、作品番号は立ち上がりこそ遅れるものの、年齢よりは急ピッチで増えてゆくことでどこかで年齢を追い抜く。ブラームスの場合1865年32歳で出版された「8つの歌曲」op32がこれにあたる。

バロック以前の多作時代ではあまり盛り上がらない。また没後後世の研究家によって付与された番号体系もふさわしくないからこの遊びが出来る作曲家は意外に限られる。

困った。明日63歳になるというのに、まだ作品1が出せていない。

2022年10月18日 (火)

2つの歌op91バリトン版

先般聴いたタメスティさんの演奏会場で、CDが即売されていた。開演前、何気なくのぞくと軽い衝撃。当日の演奏曲を収録したCDに交じってブラームスのヴィオラソナタのジャケットがすぐに目についた。即買いしたものの時間もなく、リュックに収めて着席した。

素晴らしい演奏に我を忘れて帰宅。そう言えばとリュックを開けて買い求めたCDを手に取って驚いた。2曲のヴィオラソナタに歌曲「ナイチンゲール」op97-1と「子守歌」op49-4をヴィオラとピアノ版が入っている。最後にはヴィオラとピアノが伴奏につく歌曲op91。タメスティさんのヴィオラで聴けて幸せだと満足していたら、独唱はマティアス・ゲルネ(Br)とある。バリトン版は未聴もいいところだった。

「それもありか」な演奏ではなく、いやもう凄い説得力の演奏だ。

実朝特集に5日間も通過待ちをさせて最後に走り去る演奏というにはあまりにチャーミング。

2022年5月16日 (月)

ディースカウ没後10年

昨年の大みそかまでおよそ半年続いた第二次歌曲特集は、事実上シューベルト特集だった。なんだかもうかなり昔のことのような気がしているけれど、ディートリヒ・フィッシャーーディースカウ先生のご著書がガイドブックだった。本日は先生の没後10年のメモリアルデーである。

令和の大整理の記事を昨日で一区切りにしたのは、ひとえにフィッシャーディースカウ先生のためである。

 

2022年1月 9日 (日)

歌の経験

大学入学後に習い始めたヴィオラ演奏の経験が、ブログ「ブラームスの辞書」の基礎になっていることは、疑い得ない。拙いながらもヴィオラでブラームス作品の演奏に参加した記憶は、至る所に痕跡となって横たわっている。

ここでハタと考える。

もし歌の経験があったらどうなるだろう。

ヴィオラでブラームスに親しんだ記憶だけでもこれだけ楽しいのだから、ブラームスを歌った記憶があればもっと楽しいだろう。オフィシャルには「日曜日」op47-3を高校の授業で歌っただけだ。

最近ブラームスやシューベルトの声楽作品に触れて心からそう感じる。ドイツレクイエムの演奏にヴィオラではなくコーラスで参加していたら、ブログの記事が1ダースは書けるだろう。混声合唱版の民謡を歌えたら、唖然とするような発見が出来るに違いない。

声楽愛好家にとってのブラームスが、並ではない喜びを与える存在だろうと想像している。ただただ羨ましい。

2021年12月31日 (金)

啓示

本日この記事をもって「第二歌曲特集」をお開きとする。この7か月本当にお世話になったフィッシャーディースカウ先生の著書「シューベルトの歌曲をたどって」を今一度引用する。

先生はブラームスがシューベルトを終生変わらず、しかも理解に満ちて崇拝していたと評する。そして極めつけの瞬間が458ページにやってくる。「シューベルトの歌曲において、何かを学び取れない作品は一つもない」と言ったブラームスの言葉を引きながら、「こう言ったこと自体がブラームス本人の名誉になっている」と断言しておられる。

このブラームスの言葉は弟子のグスタフ・イエンナーがブラームスから作曲を学んだ時の記憶として証言しているもの同じ系統にある。当時のウイーンでのシューベルトの扱われ方まで微妙に反映しているとにらんでいる。つまりブラームスの周りにシューベルトを評価しないか悪く言う人がいたり、そうしたネガティブは評価がブラームスの耳にも弟子の耳に届いていたことの反映だろう。「シューベルト舐めてんじゃないですよ」のニュアンスを含むと思っている。こうした背景をよく噛みしめて今一度フィッシャーディースカウ先生の言葉を見直すといい。

「シューベルトの歌曲において、何かを学び取れない作品は一つもない」と、評したことそれ自体がブラームス自身の名誉である。

含蓄がある。深い。泣きたい。

弟子にも自分にも世間にもシューベルトを擁護を言い聞かせるブラームスだが、そのこと自体が発言者ブラームスの見識の深さと懐の深さの証拠になっているとは。それをバッサリと断言するフィッシャーディースカウ先生の言葉を紹介してお開きの挨拶といたします。

 

2021年12月29日 (水)

忠実な召使い

歌曲の歴史に王として君臨するシューベルト。王でも皇帝でも天皇でも事情は同じだが、後継者争いは一大事である。戦争の発端となる例は枚挙にいとまがない。

それでは「歌曲の王」の後継者は誰なのか。なんだかシューマンは違うという漠然とした思いがことの発端だ。私を歌曲というジャンルに導いてくれたのはブラームスだ。中学時代に音楽の授業で「魔王」を習ってはいるのだが、断じてシューベルトに導かれたとは言えない。

このほどの第二歌曲特集は、大好きなブラームスの歌曲を歌曲の歴史の上に置いて、しみじみと眺めなおしたいという一念から決意した。そしてそのツールにシューベルトを選んだという構図。「王の底力」を体験した上で、それでもなおブラームスラブが揺るがないのかどうかだ。ブラームスがシューベルトを敬愛したことは、伝記を読み進めていけばすぐに気づく。作品という証拠をあたってそのことを実感したいと思った。

結果、ブラームスラヴは微動だにしなかったが、巨大な副産物にありついた。シューベルトの歌曲のすばらしさに気づいたということ。敬愛してやまなかったブラームスの気持ちに少し近づけた。

歌曲王シューベルト、王子ブラームス。そして私はその忠実な召使い。

2021年12月28日 (火)

王子の座

大好きなブラームスの歌曲を、歌曲の歴史の中においてみたいと思い立ち、手っ取り早くシューベルトをツールに探求を続けてきた。片や歌曲の王で創作数575曲。ブラームスは民謡を入れても300に届かない。

でどうだったのか述べたい。自分の好みの上位50曲どうしならなんらそん色はない。がしかし、総数で半分以下では、品ぞろえがどうしても負ける。シューベルトが百貨店なら、ブラームスは専門店だ。シューベルトの品ぞろえの一部を取り出してそこに集中したのがブラームス。そのジャンルは有節歌曲だ。ドラマ性が勝ってしまうバラードや叙事詩には距離を置き、民謡と見まがうような有節歌曲を拡充した。品ぞろえで王に勝てぬのは承知の上で専門性で勝負した。テキストの重複を避けるべく、三大詩人は意図的に回避して差別化を図ったようにも見える。

アッと驚く新機軸は最後にとっておいたのだろう。「4つの厳粛な歌」では聖書から自由にフレーズを抜き出すという荒療治に打って出た。シューベルトにはない発想。交響曲の4つの楽章をなぞってはいまかという妄想も膨らむ。

 

 

2021年12月27日 (月)

さて困った

実は早くに決まっていた。だから困った振りだ。「シューベルト最愛の歌曲」の選定の話だ。ブラームス最愛の歌曲は「野に一人いて」op86-2だ。12年前から今日まで不動である。

シューベルト歌曲の最愛の一作は「夜と夢」D827である。テキストはコリン。シューベルトは前年に没したテキスト供給者への追悼として同詩に曲をつけた。フィッシャーディースカウ先生はご著書の中でこの曲を絶賛しておられる。「アダージョ歌曲の最高峰」「純粋なるものへの郷愁と没我」「極端に長い息に遅いテンポが重なって4拍子の枠に収まらない」「節度あるリズムによってのみ救われる」「ダイナミクスは断固ppが維持されるがテキストの起伏をその枠内で表現せねばならい」「ロ長調にはさまれたト長調の研ぎ澄まされた感性」など、そりゃあもういつになく雄弁。もしかすると先生もこの曲が好きなのではと勘繰りたくもなる。

だからというわけではないが、まさにシューベルト漬けだったこの一年半の取り組みの過程で、もう半年前には決めていた。

そう、「王と王子の12番歌合せ 」の9組目はこの「夜と夢」にブラームスの「野に一人いて」をあてがって「最愛の歌曲歌合せ」を仕込んでおいた。私の判定は愛をこめて引き分けだ。

泣きたい。

2021年12月26日 (日)

GOTOシューベルト

本年5月8日に始まった第二歌曲特集は、6月には事実上のシューベルト特集となって今に至る。いよいよ大晦日をもってお開きとなる。かれこれ8か月だ。かつて私はブログ「ブラームスの辞書」上でドヴォルザークを特集した。これは会期1年で262本の記事を積み上げた。ドヴォルザークは管弦楽、室内楽、歌曲、合唱曲、ピアノ曲、宗教作品まですべて話題にした一方、今回のシューベルトは、ほぼ歌曲だけで半年持たせた。歌曲の王シューベルトへの私なりの敬意の表明だ。

未曽有のパンデミックの中、心は本当に満たされていた。

やりがいと手ごたえ。シューベルトの歌曲に音をたててのめりこんだ。決意も完成も還暦過ぎとなった初めての大型企画だ。自分自身の脳味噌の機能の総点検をした気分。結果、若干の経過観察はあるものの精密検査沙汰にはならずにすんだくらいの感触。記事の枯渇への挑戦として始まったが、シューベルト、フィッシャーディースカウ両先生のお力を借りてなんとかエンディングを迎えることができそうだ。この規模の特集をあと5~6本ひねりだせれば記事確保にめどがつく。

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