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カテゴリー「202 歌曲」の192件の記事

2017年9月20日 (水)

かまどの煙

万葉集巻1舒明天皇の御製。

大和には群山あれどとりよろふ

天の香具山登り立ち国見をすれば

国原は煙立ち立つ海原は鴎立ち立つ

うましくにそ秋津島大和の国は

国見の歌だ。為政者が高いところから領地を検分する行事。言霊信仰にも関連があるとされている。聖なる王者が誉めることにより豊穣祈願の予祝行為とも思われる。「国原から立ち上る煙」がとりわけ重要だ。主に炊煙であることがポイント。どんなに譲っても稲わらを焼く煙までだ。中には煙の立ち上りが少ないことを見て減税をした王もいるという。煙は人々の営みの反映。立ち上る煙の本数はもしかすると世帯数だ。

ブラームスの歌曲にもこの意味の煙が出現する。至宝「永遠の愛について」op43-1に「Rauch」として現れる。

Dunkei, wie dunkel in Wald und in Feld!

Abend schon ist es,nun schweiget die Welt.

Nirgend noch Licht und nirgend noch Rauch,

Ja, und die Lerche,sie schweiget nun auch

3行目の末尾に鎮座する。「暗い暗い森も野も」「はや夜が更けてものみな静まる」「いずこにも灯りは見えず、煙も途絶え」「ひばりも今は押し黙る」と歌われる。「暗い森と野」は恋人を家に送る道中の描写であると同時に、2人の置かれた状況の暗喩にもなっている。その暗さを補強するのが3行目「灯りも煙も無く」というフレーズ。この煙はタバコや火災ではあり得ない。十中八九かまどの煙だ。人々の営みが途絶えている様子の描写と見て間違いない。舒明天皇の国見歌と同じである。

2017年7月19日 (水)

シュヴァーベン訛り

記事「訛り懐かし」でシュヴァーベン地方の方言では、一人称「ich」の代わりに「i」が使われると書いた。類似の現象がブラームスの歌曲のテキストにもあった。

「Die Schwalble ziehet fort」(ツバメは飛び去ってゆく)op7-3と「Die Trauernde」(悲しむ娘)op7-4だ。

前者では、「ich」に該当する箇所が「i」になっている他に「ist」が「isch」にすりかわっている。

後者「悲しむ娘」はさらに興味深い。

  • mein→mei 
  • kein→kei
  • mich→mi
  • Mutter→Mueter
  • nicht→net

これら全部シュヴァーベン訛りである可能性が高い。

2017年6月 8日 (木)

クラウス・グロート

詩人。1819年生まれの1899年没。

1856年クララ・シューマンによってブラームスと面識を持った。ブラームスと同時代の詩人で、ブラームスの友人とも位置づけ得る。

ヴァイオリンソナタ第1番の第3楽章にそっくり転用されたことで名高い「雨の歌」op59-3は、このグロートによるテキストだ。クララと「雨の歌」の関係をいろいろと調べていて興味深い偶然を発見した。

彼の出身地は北ドイツのハイデという街。実はブラームスの父ヨハン・ヤーコプと同じである。2人の生家はごく近所にあったらしい。確認中だが2、3件隣という情報もある。

グロート本人の回想によれば、グロートが生まれて初めて手にした楽器はピッコロだったという。8歳の時だ。このピッコロはブラームスの父の兄の子、つまりブラームスの従兄弟から譲り受けたものだという。

ブラームスの父は1806年の生まれだ。1825年に19歳でハンブルクに出ているから、1819年生まれのグロートとは、面識があった可能性さえある。少なくとも親同士は知り合いかもしれない。

2016年7月 4日 (月)

全集と選集

「全集」と言えば特定の個人の作品全てを漏らさず集めた刊行物くらい意味だろう。この程度の定義だとぬる過ぎて漏れも見つかる。本当は完全に「全て」ではないのにマーケティング上の都合で「全集」を名乗っているというケースも混入しているから奥が深い。

何よりもまず文学にとどまるものではない。楽譜でもOKだ。録音物を集めたCDにだって「○○全集」とタイトリングされる。「ブラームス全集」と言えば、ブラームスの全作品の意味かと思うと、そうでもない。厳密には「ブラームスが作曲した音楽作品のうち、廃棄を免れた物全て」の意味であることがほとんどである。作曲はしたが、自ら廃棄した作品は含まれないのが普通だ。

平仮名で書くと濁音1箇所の違いでしかない「選集」は、「抜粋」の意味が加わる。事実上抜粋であっても、消費者に与えるイメージを嫌って「全集」とタイトリングされることもあるから注意が必要だ。

ブラームスの「歌曲全集」は、それはそれで貴重だ。同じ歌手が同じピアニストと全曲録音するのは偉業と申し上げていいと思う。買い物1回で全歌曲が揃う安心感は、捨てがたい。

ところが、「全集」には存在しない深い味わいが「選集」に存在することがある。膨大な数のブラームス歌曲から、いくつかを選んでCDにする場合、曲の選択には歌手の好みやセンスが反映するからだ。あるいは選んだ曲の配列にさえ、個性が宿る。歌手の考えが読み取れる場合があるから楽しみだ。リサイタルでも同じ事だ。ブラームス歌曲を全部何夜かに分けてというような場合以外は、大抵チョイスというアクションが必要だ。料金にはチョイスのセンスを味わう権利も含まれているに決まっている。

2016年6月10日 (金)

選曲のセンス

画家マックス・クリンガー(1857~1920)は、ブラームスの60歳の誕生祝いに版画集「ブラームス幻想」を贈った。ブラームス作品を自ら選び、それにふさわしい版画を楽譜とともに連ねたものだ。

  1. 古き恋 op72-1 ト短調
  2. あこがれ op14-8 ホ短調 
  3. 日曜日の朝 op49-1 ホ短調
  4. 野のさびしさ op86-2 ヘ長調
  5. 家もなく故郷もなく op94-5 ニ短調
  6. 運命の歌 op54 

選ばれたのは上記の通りだ。作品番番号の若い順でもないし、調性の選択にも規則性がない。この選曲はクリンガーのセンスそのものだ。尊敬するブラームスへの贈り物だ。行き当たりばったりの選曲であろうハズがない。6番目の「運命の歌」がメインになっているらしい。

贈られた側のブラームスは「これは目に見える音楽だ」と始まる長い礼状をしたため、改めてライプチヒにクリンガーを訪問した。

それでもブラームスはまだ足りぬとばかりに、クリンガーの父の死に際して、「4つの厳粛な歌」op121を献ずることになる。

2016年6月 9日 (木)

マックス・クリンガー

1857年にライプチヒで生まれたドイツの画家、版画家だ。没したのは1920年である。

「アモールとプシケ」という連作版画集をブラームスに献呈している。

早い話ブラームスのお友達だ。出版社のジムロックとも親交があったという。ジムロックはブラームスの歌曲作品96と97の出版にあたって、クリンガーの絵を表紙に据えようとした。始めは賛同していたブラームスだが、後に翻意した。ところがブラームスの翻意を知ってか知らずかジムロックは絵を表紙にして出版してしまった。ブラームスはこれにヘソを曲げたらしい。

クリンガーは、ブラームス60歳の誕生日に新たに作品を献じる。「ブラームス幻想」というタイトルだ。

今度はブラームスもいたく感激した。「私のいいたいことがそのまま絵になっている」と手放しの賞賛である。

そしてブラームスからは、夢のような返礼がある。最後の歌曲「4つの厳粛な歌」op121は、クリンガーに献呈されている。

2016年1月29日 (金)

ザビーネ・マイヤー

クラリネット奏者。カラヤンに認められてベルリンフィルに入団したが、このことで楽団とカラヤンの確執が表面化した。おそらくベルリンフィル初の女性団員だったと思う。そのために話題が先行したが、現在では世界最高のクラリネット奏者の一人だ。

モーツアルトのクラリネット五重奏曲のレコードを持っていた。

彼女の演奏するブラームスのクラリネットソナタの余白に、歌曲「甲斐なきセレナーデ」op84-4のクラリネットバージョンが収録されている。

ブラームスの歌曲の編曲ではチェロのミッシャ・マイスキーが有名だが、たった1曲とは言えこちらも貴重。男女のコミカルな押し問答を題材にした曲だから、キビキビとしたクラリネットの演奏にピッタリだ。

2015年12月 9日 (水)

似ているうちか

歌曲「メロディのように」op105-1を論ずる文章は、その冒頭の旋律について高い確率で、ヴァイオリンソナタ第2番第一楽章第二主題との類似について言及する。

冒頭の音8個、移動ドで「ミソドファミレドシ」の部分だ。確かにヴァイオリンソナタ第2番第一楽章第二主題は、「(ソファ)ミソドファミレドシ」になっている。アウフタクト「ソファ」を除外した音8つは、歌曲「メロディーのように」と一致する。

そりゃまあ、そう聞こえる人もいるには違いないが、解説書まで含めて猫も杓子もということになると、騒ぎ過ぎだと感じる。

  1. 調が違う。歌曲はイ長調だ。ソナタのほうは調号こそイ長調だが、第二主題はホ長調だ。
  2. 音価も違う。歌曲は四分音符主体だが、ソナタは付点四分音符と八分音符の混合。
  3. アウフタクト。歌曲側には無いアウフタクトがソナタに存在する。

似ている話を無理やり強調しなくても、どちらも十分美しい。

2015年11月 7日 (土)

歌曲の初演

押しも押されもせぬシューベルトの後継者ブラームスの歌曲なのだが、それぞれの作品の初演はとなると、いささか心もとない。ピアニスト一人、歌手一人で演奏が成立してしまう歌曲は、初演の定義が難しい。

「完成後初めて通して演奏した」が初演の定義で、聴衆の有無は問わないとすると、ゲネプロはどうなるのか。管弦楽や室内楽はともかく小規模の作品は、公開の初演以前に全曲の通し演奏はあるに決まっている。あるいは、友人宅に集っての試演などは、初演にはカウントされない。だから仕方なく「初演」は「公開の初演」としないと座りが悪い。
ところが、その定義だと歌曲などはぎょっとする事態も起きてくる。
ヴァイオリンソナタ第1番の第3楽章に旋律がそっくり引用された歌曲「雨の歌」(Regenlied)は、1873年には完成している。ヴァイオリンソナタ第一番の6年前だ。さっさと公開の席で初演されたソナタに対して、歌曲「雨の歌」op59-3の公開の初演は1896年3月20日ウィーンを待たねばならない。作曲から実に23年だ。歌曲「雨の歌」はクララお気に入りだ。作曲から23年間一度も演奏されなかったはずがない。が、公式記録とは味気ないものだ。

2014年12月 4日 (木)

Dunkel

ブラームス歌曲の絶唱「永遠の愛について」op43-1は、冒頭いきなり「Dunkel」「Wie dunkel」と畳み掛けて始まる。恋人たちの歩む道の暗さの形容であると同時に、2人の置かれた境遇の暗示でもあるという絶妙な言葉。「暗い」という意味である。

コーヒーはミルクとの配合割合によって色合いが変わる。それを7段階の単語で表現することがある。コーヒーの多い順に列挙する。

  1. Schwarz 「ブラック」
  2. Dunkel 「暗い」
  3. Brauner 「褐色の」
  4. Melange 「ミルク」と「コーヒー」が同量。
  5. Gold 「黄金色の」
  6. Licht 「淡い」
  7. Weiss 「白い」
  8. Hell 「明るい」

これらに加えてさらに「Mehr dunkel」や「Mehr hell」を付与されて微調整が施される。「永遠の愛について」に現れた「Dunkel」はブラックに近い位置。

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