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2021年8月25日 (水)

Massigの取説

死と乙女 」で思い出した。フィッシャーディースカウ先生の大著「シューベルトの歌曲をたどって」の135ページのことだ。「死と乙女」D531の演奏に際しての考察の中で、同曲イントロ冒頭の「Massig」(赤文字はウムラウト)の解釈について意見を述べておられる。「はたしてどんなテンポで演奏されるべきか」という課題の提示とも映る。楽譜上のドイツ語による指示は「明白さと正確さの点でイタリア語指示に劣る」と断言しておられる。軽い驚きがある。ドイツ語のネイティヴな話者であり、ドイツリート演奏の第一人者にしてなお、音楽用語においてはイタリア語の方が明瞭だと断言している点だ。演奏前の準備としてこれら用語の解釈を怠らない点、目から鱗でもある。

先生は歌曲における「Massig」実例の分析から、おおむね「Modearto」と位置付けながらもあくまでも慎重な姿勢を崩さない。アラブレーヴェという拍子を考慮すれば妥当なテンポに収まるとひとまず落とす。

さらに慎重に同名の名高い二短調弦楽四重奏曲の第二楽章を参照する。同書が歌曲以外の作品に言及する稀な例の一つだ。歌曲「死と乙女」のイントロのピアノ伴奏部を主題とする変奏曲になっているとシンプルな指摘に続き、テンポ指定が「Moderato」ではなく「Andante con moto」であることをもって、作品演奏の際のテンポの採用には慎重な準備と検討が欠かせないと釘を刺す。

ああ。何ということだ。書籍でもブログでも「ブラームスの辞書」は「Massig」を「Moderato」に比定 している。ブラームス作品の用語使用実態から到達した仮説だ。フィッシャーディースカウ先生がシューベルト演奏の解釈面からそこにたどり着いたことは深くて重い意味がある。「Massig」の解釈のために「死と乙女」にとどまらぬ他の作品での用例を分析したというのがまた象徴的だ。用語使用分布の分析が解釈に役立つというお考えに違いないからだ。「ブラームスの辞書」のコンセプトそのままではないか。

すごく嬉しい。

2021年8月24日 (火)

死と乙女

知名度で申すなら数あるシューベルト歌曲の中でも頂点付近に位置すると思われる。テキストはクラウディウス。文字通り死と少女の対話。魔王と並ぶ怪奇系の双璧。音楽のおかげで極端な怪奇的にならずに劇的という範囲にとどまる。

イントロに現れる「タンタタ」というリズムは「ダクテュルス」と呼ばれている。アクセントがある長い音符に短い音符2つが追随するなどという説明よりもベートーヴェンの第七交響曲の第二楽章冒頭のリズムと申し上げた方が早い。シューベルトはこのリズムを愛好したと見えて、偶然とは思えぬ頻度で出現する。3つの音高が変わるケースまで入れればしょっちゅうという感じでさえある。

さて知名度の押し上げに寄与しているのは弦楽四重奏曲第14番ニ短調だろう。第二楽章に歌曲「死と乙女」の伴奏パートが主題として現れる。もろに「ダクテュルス」だ。テキストに付与された旋律をスルーしてこのイントロ音型を主題として採用し、あろうことか変奏の主題としている。私にとってはシューベルト室内楽の頂点に長く君臨する。初めて買ったCDはアルバンベルクSQの演奏だったが、これが脳みそに刷り込まれてしまい他の演奏を受け付けにくくなっている。

 

2021年7月28日 (水)

就職試験

1857年5月31日。ブラームスはデトモルトの宮廷を訪問して1週間滞在した。同宮廷でピアノを教えていたクララ・シューマンが英国に演奏旅行することになったために、クララ自身がブラームスを後任に推挙したためだ。その1週間、ブラームスはピアノを教えるかたわら、バッハやベートーヴェンの作品を演奏する機会を与えられた。いわば就職試験である。

結果はもちろん合格。そりゃあまあクララの推挙だから限りなく当確なのだろうが、一応試用期間があったと見るべきだろう。

なんということか、その期間中、ブラームスはシューベルトのピアノ五重奏曲イ長調「ます」をピアニストとして演奏した。同曲第4楽章は歌曲「ます 」D550の旋律がそのまま引用された変奏曲である。ピアノパートがどれほどの腕前を要求されるものかわからぬが、15歳で「ワルトシュタイン」を弾いたブラームスだから問題は生じなかったと思われる。聴いてみたい。

「Fischer」でネタで忙しくて言い忘れた。

 

2021年7月25日 (日)

ます

オリジナルでは「Die Forelle」と綴る。魚の「ます」である。ドイチュ番号「550」を背負うシューベルト歌曲の代表格で知名度で申すなら頂上付近だ。ピアノ五重奏にも主題が転用されて名高い。シューバルトという名前の紛らわしい詩人のテキスト。バランスのとれた有節歌曲だ。

小川を元気に泳ぐますの描写に始まるが、狡猾な漁師の策にはまって釣られてしまう。水を濁らせるところの引き締まった転調がシャープだ。オリジナルには、だから身を慎みなさいと言う教訓を含むのだが、その部分は省略されている。

そう。タイトルにこそ現れないがこれもFischerが出現する。

2021年6月27日 (日)

歌曲から室内楽へ

ヴァイオリンソナタ第一番ト長調op78は「雨の歌」と呼ばれている。第三楽章の主要主題が歌曲「雨の歌」op59-3の旋律をそっくりそのまま採用しているせいだ。歌曲オリジナルは嬰へ短調だが、ヴァイオリンソナタへの移植にあたってト短調に移調されているものの、雨脚の描写かとも思われる伴奏の16分音符までそっくりである。

歌曲旋律の室内楽への転用はシューベルトにまばゆい前例がある。「ます」と「死と乙女」である。どちらも変奏曲の主題となっている。

シューベルト大好きのブラームスが真似したのかもしれない。

やっと、シューベルトにたどり着いた。

 

 

 

2021年5月11日 (火)

調号と鳴りのズレ

楽譜各段左端のシャープやフラットによって規定される調がある。シャープもフラットも無ければハ長調かイ短調だし、シャープ1個ならト長調かホ短調という具合だ。これら調性は個体識別のためにしばしば作品名に付与される。「ハ短調交響曲」というだけでブラ1とわかる。

作品冒頭では調号によって規定された調が鳴るのが基本なのだが、例外もある。歌曲「エーオルスのハープに寄せて」op19-5は、フラット4個を背負う変イ長調の装いながら、冒頭いきなり第三音にフラットが寄り添うことで変イ短調が鳴る。冒頭いきなり通称として付与された調が鳴らないという現象だ。

他にも思い当たる。

  1. 弦楽六重奏曲第2番第4楽章 調号シャープ1個ながらイ短調っぽい。
  2. 交響曲第4番第4楽章 同上
  3. 弦楽五重奏曲第1番第2楽章 調号シャープ4個ながら嬰ハ長調っぽい。

さすがにバッハの「平均律クラヴィーア曲集」ではこうしたことは起きていない。調性の網羅が狙いなのでややこしいことは避けているのだろう。

ブラームスにおいてはむしろ醍醐味。

 

 

2021年4月23日 (金)

ホリガーさんの妙技

ハインツホリガーさんは、私がクラシック音楽に目覚めたころ、すでにオーボエの巨匠だった。しょっちゅう飛ぶ鳥が落ちていた。最近のお気に入りは断然バッハ。とくにオルガンのためのトリオソナタ全6曲を、室内楽版で録音してくれている。

  • BWV525 オーボエ、チェンバロ、チェロ
  • BWV526 オーボエ、ヴィオラ、通奏低音
  • BWV527 オーボエ、チェンバロ、チェロ
  • BWV528 オーボエダモーレ、ヴィオラ、通奏低音
  • BWV529 オーボエ、通奏低音
  • BWV530 オーボエ、ヴィオラ、通奏低音

室内楽への編曲はあまた存在するが、オリジナルの調性が保存されているのは珍しい。BWV529は、チェンバロの両手とオーボエでトリオを形成する意欲作だ。偶数番ではヴィオラが登場するのが本当にうれしい。とくにBWV526ハ短調の第二楽章には心洗われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年4月21日 (水)

トリオソナタコレクション

オルガンのためのトリオソナタが気に入っている。BWV525からBWV530までの下記6曲。

  1. BWV525 変ホ長調
  2. BWV526 ハ短調
  3. BWV527 ニ短調
  4. BWV528 ホ短調
  5. BWV529 ハ長調
  6. BWV530 ト長調

本来オルガンの独奏曲だが、古来さまざまな形態に編曲されてきた。気になる編成があるとついほしくなるせいで、いくつかたまっている。

  1. MarieClairAlain org 2度目の録音
  2. MarieClairAlain org 3度目の録音
  3. Heinz Horiger
  4. Helmut Walcha org 1度目の録音
  5. Helmut Walcha  org 2度目の録音
  6. Purcel quartetto ヴァイオリン2、ガンバ、チェンバロのかぐわしい四重奏。
  7. Tempesta di mare chember players
  8. Werner Jakob org

 

 

 

2021年4月19日 (月)

トリオの人数

ブラームスの時代、「トリオ」と言えば「三重奏」だ。ピアノ、ヴァイオリン、チェロのピアノトリオが代表格である。しかしバロック時代となるとそうはいかない。バロック時代に好まれたのはトリオソナタなのだが、編成には必ずしも決定版がない。それどころか演奏者の数も「3」とは決まっていない。「トリオ」は「3つの楽器」「3人の奏者」を意味しておらず「3つの声部」の意味だ。

「旋律楽器2つと通奏低音」の意味である。「通奏低音」に複数の奏者が据えられることもあるおかげで、「3人」にならないケースが多い。一般の傾向としてトリオでいながら4人以上が志向される。

バッハのオルガン作品にもトリオソナタがある。BWV525からBWV530までの6作は、オルガニスト一人による「トリオ」だ。右手と左手と足で「3つの声部」をまかなう。あるいはBWV1014を筆頭とするヴァイオリンソナタはチェンバロの両手とヴァイオリンの3声になるなど奏者は2人となる。

なるほど空気を読んだグールドさんはピアノの両手とハミングのトリオを志向した。

2020年11月13日 (金)

かけもちの人たち

バッハの室内楽、ヴァイオリンソナタとガンバソナタのCDコレクションを列挙した。それらを見比べるとわかるが、どちらのリストにも名前の挙がっている人がいる。下記の通りだ。

  1. Zuzana Ruzickova 往年の大チェンバリスト。
  2. Gustav Leonhardt 古楽器界の大御所。
  3. Glenn Gould 風雲児グールド。この中では唯一のピアニスト。
  4. Trevor Pinock 
  5. Kieth Jaretto 地味にチェンバロを弾いている。カシュカシアンとのガンバソナタ花丸。

当たり前と言えばあたり前だが、鍵盤楽器奏者たちは、ガンバソナタではガンバ、チェロ、ヴィオラのお供だ。

さてさて弦楽器側でただ一人、かけもちがいる。ヨゼフ・スークという人。ガンバソナタではヴィオラをに持ち替えている。ヴァイオリンソナタではエラートとスプラホン2種ある。ガンバソナタとあわせて3回の登場すべてがルチコヴァのチェンバロ。全体に落ち着いたテンポでしっとりとした演奏で、お気に入り度高めだ。無伴奏ヴァイオリン作品の録音と合わせて、バッハへの深い敬意に満ちている。ドヴォルザークの曾孫である。

 

 

 

 

 

 

 

 

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