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カテゴリー「205 交響曲」の243件の記事

2026年4月 6日 (月)

ヴィオラはかすがい

第一交響曲冒頭を思い出していただきたい。各楽器に与えられた役割を分類すると以下のようになる。

  1. C音を延ばす
  2. C音を刻む
  3. 半音上行
  4. 下降音型
  5. 休み

第5群はトロンボーンだ。第1群はホルンの3番4番とトランペット。第2群は低い音のする楽器。つまりコントラバス、ティンパニ、コントラファゴットである。この刻み自体が第1交響曲の象徴だ。

第1群と第2群の作り出す空気の中で3群と4群は対照をなす。下降と上行という見かけもさることながら、音の動きが掛け合いになっている。大ざっぱに言えば第3群は弦楽器、第4群は木管楽器だということになるのだが、ここで異質な光を放つのがヴィオラだ。もちろんヴィオラは弦楽器なのだが、第3群に属していない。木管楽器と同じ旋律をトレースしているのだ。つまりヴィオラは第4群に振り当てられているということだ。ここでヴィオラを第3群にしないのはブラームスのひらめきだと思う。あえて「木管vs弦楽器」という対立の構図を避けたと感じている。試しにヴィオラに第3群の役割をさせるか、ヴィオラを弾かせないでこの部分を鳴らしてみるとブラームスの意図が明らかになると思われる。

明確に定義は出来ないが、得られる響きといい、ヴィオラの特異な位置づけといい、まさにブラームス節だと感じる。

 

 

 

 

2026年3月26日 (木)

恐るべき辻褄

「ppp」の話をする。ブラームスが作品に用いた最弱のダイナミクスである。71箇所の用例が存在するが、交響曲には7箇所だ。そのうち4箇所が第4交響曲の中に現れる。律儀なことに各楽章に1つずつ割り当てられている。

「ブラームスの辞書」の中では「ppp」に「響きの底」を手際よく指し示す機能を想定している。全楽章ソナタ形式の第4交響曲にあって、そうした機能を遺憾なく発揮している。

  • 第1楽章243小節目(展開部)弦楽器
  • 第2楽章106小節目(コーダ)ファゴット、ホルン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス
  • 第3楽章163小節目(展開部)弦楽器
  • 第4楽章120小節目(展開部?)ファゴット、ホルン、トロンボーン

いずれ劣らぬ見せ場になっている。第2楽章以外の出番すべてが展開部になっている。第2楽章が展開部の省略されたソナタ形式であることを考えるとまさにソナタ形式における「響きの底」になっている。

さらにこのうち真正のソナタ形式を採用する第1楽章と第3楽章に注目したい。上記リストではどちらも弦楽器になっているが、実はこの他にも不気味な共通点がある。

  1. 旋律という切り口におけるアンサンブルのリーダーシップがチェロにある。
  2. 一連のフレーズの到達点に弦楽器のピチカートがある。
  3. そのピチカートが合図になって再現部が始まる。

この種の恐るべき辻褄がまさにブラームス節の根幹を形成していると考えられる。

2026年3月20日 (金)

食い違い

第一交響曲の初演は1876年11月4日(土)カールスルーエで鉄板だ。マッコークルに明記されている。会場はバーデン大公の宮廷劇場で、原文は「Hofteater」となっている。

 

ところが、先ごろ入手したお宝CDのブックレットに収載されている初演ポスターの写真を見ると会場が微妙に違っている。ポスターでは「Grossen Saale des Museum」と読める。「博物館大ホール」くらいのニュアンスだ。

 

マッコークルの記事の精度は定評があるのだが、初演ポスターの実写と食い違うとなると穏やかではない。もしこの食い違い論争が、マッコークルの負けあるいは、引き分けつまり「宮廷劇場」が「博物館大ホール」と同一だった場合、重大な地平が開ける。

 

1887年7月24日森鴎外の「独逸日記」に重要な記述がある。このときカールスルーエで開催された万国赤十字第4回総会に出席した鴎外が、会議のはねた午後7時から演奏会に出かけている。場所は「聚珍会館」とある。原文は「Museumeschaft」なっている。博物館ホールだとするなら、ブラームス第一交響曲初演と同じホールだった可能性が浮上する。

 

ブラ1初演の11年後鴎外が同じホールで音楽を聴いたということだ。

2026年3月19日 (木)

AAsG

第一交響曲のフィナーレの話だ。28小節目というより、「Piu Andante」の2小節前と申し上げるべきである。ホルンがアルプスのメロディで大見得を切る2小節前にあたる。第4楽章の序奏がストリンジェンドやクレッシェンドでめまぐるしく煽り立てられた頂点で、ばっさり切って落とされる小節。我らヴィオラはC線の開放弦とそのオクターブ上のCで重音を引き伸ばす。じっと引き伸ばしながら急速なディミヌエンドをかます。忙しくないから少し周りの音を聴くといい。

 

チェロとバスそれからコントラファゴットだ。ヴィオラと同時に「A音」を伸ばし始めていたのだが、ダイナミクスが十分弱まった中29小節目の3拍目に半音下のAs音に降りる。これがホルンの大見得の2拍前だ。さらにその2拍後つまりPiu andante到達と同時にはまた半音降りてG音に至る。このG音はホルンの大見得を下支えする大地になる。

 

A→As→Gという打ち続く半音下降は極上である。あくまでもホルンの大見得の準備に過ぎないのだが、全オーケストラのオーラを一身に背負うかのような瞬間だ。この手続きあればこそのホルンでさえある。

 

 

2026年3月17日 (火)

仄めかし

第3交響曲の話だ。第2楽章冒頭はクラリネット2本とファゴット2本に委ねられた牧歌。朴訥な旋律が粛々と進む。交響曲の楽章がこんな地味な編成で立ち上がっていいのだろうかと思うくらいだ。

不思議な現象が一つある。これら4本の楽器のうち1番クラリネットが最高音域の位置にあって旋律を受け持ち、他の3本はこれを包み込むという構造になっている。1番クラリネット担当の旋律は1小節単位のフレージングになっている。つまり小節の切れ目がスラーの切れ目だ。これを包み込む側の3本は、小節の切れ目がスラーの切れ目になっていない。四分音符3つでスラーが途切れ、4拍目から次の小節の3拍目までスラーがかけられている。

目立つという程でもないが不思議な光景だ。第2楽章が進むにつれて次第にタネが明らかになる。伴奏側に現れた「4123」というフレージングが実は曲中の主役なのだ。スラーの切れ目が4拍目直前に置かれるフレージングが主流になるし、C主和音が4拍目に置かれることもしばしばだ。拍節が1拍前にズレることを楽しむ意図さえ感じられるのだ。

楽章冒頭の不思議な光景は、この楽章がそうした拍節のズレを味わう音楽であることの仄めかしであると感じている。拍節のズレを楽しむ作品だからこそ、楽譜通り淡々と変な小細工無く演奏させたいとブラームスは考えていたと思う。

冒頭に敢えて「Semplice」(単純に、淡々と)と記した理由をそのあたりに求めたい。

2026年3月 7日 (土)

3を2で割る

8分の6という拍子がある。1小節の中に8分音符が6個だが、3個が二組と考えることが必須である。指揮をするときは1小節を2拍と取り扱う。いわゆる「2つ振り」だ。

 

以上のことを前提にブラームスの第一交響曲の第1楽章の主部「Allegro」のことを考える。人にもよるがこの部分2つ振りされる。1つの拍には8分音符を3個を感じねばならない。4分の2拍子にしておいて三連符を延々と羅列しても事情は似てくると思うが、断固区別せねばならない。おかげでこの第1楽章は交響曲伝統の「Allegro」を背負っていながら、スカーッと流れる楽想にはなっていない。「pesante」やシンコペーションの多用もそれに拍車をかける。

 

ところがブラームスは要所において、満を持して拍を2つに割るという挙に出る。340小節目のチェロ・バス・ヴィオラと、492小節のチェロだ。8分音符が3つ並ぶ1拍を2で割るということだ。小学生でも解る通り、「割り切れない」のだ。

 

1回目は294小節から始まった再現部への歩みがまさに頂点に到達する瞬間、他のパートに逆らって低弦が拍を2で割る。再現部はもう4小節後に迫っている。咳き込んで再現部になだれ込むのを今一度押しとどめる効果がある。この次の小節では「ドッペルドミナント」という瞬間まで用意されて再現部の到来に万全を期す方策の一つになっている。

 

2回目は474小節で頂点に達した音楽が冷めてゆく過程の中で起きる。その間ギャロップのリズムを刻んできたチェロが、静かに足を止める手順を形成している。事実上の「オートマチックリタルダンド」だと解し得る。3小節後に迫った「Meno Allegro」を自然に導くための準備である。

 

3を2で割るリズム的な半端感を用いて段落の切れ目を巧みにマーキングしているように感じる。しかも2回ともチェロが主役である。

 

お相撲の話を聞いたことがある。髷をきつく結い、まわしをきつく締める。体の両端2箇所をきつく締めることで体がキリリと引き締まり、信じられない力が出るのだという。

 

3を2で割るクリップが再現部の直前と「Meno Allegro」の直前計2箇所に置かれることで、第一楽章がキリリと締まっているような気がする。いわば髷とまわしだ。 お相撲のルールでは、髷はともかく、まわしがはずれたら負けである。

2026年3月 2日 (月)

お宝ブックレット

CDの作品解説が載っているブックレットには、しばしば貴重な情報が書かれている。昨日の記事「初期型2楽章」で買い求めたCDもお宝ブックレットだった。日本語は無し、独仏英の三ヶ国語なのだが、そこにブラ1初演のポスターの写真が掲載されていた。プログラムが全てわかる。第一交響曲の前に某歌手によって「五月の夜」op43-2が歌われていた。現代ではありえぬ取り合わせだ。

 

もっとサプライズがあった。各楽章が以下の通り表現されている。

 

    1. Sostenuto-Allegro

 

    1. Poco Adagio

 

    1. Allegretto Grazioso

 

  1. Adagio-Allegro con brio

 

唖然とはこのことだ。これを現行の楽章と比較する。

 

    1. Un poco sostenuto-Allegro

 

    1. Andante sostenuto

 

    1. Unpoco allegretto e Grazioso

 

  1. Adagio-Piu andante-Allegro non troppo ma con brio

 

全楽章が現行とは違っていた。何だかとても繊細。ブラームスがこういう言葉尻にこだわっていたことが良くわかる。

 

 

2026年1月18日 (日)

ヨアヒム独奏

音楽之友社刊行の作曲家◎人と芸術シリーズのブラームスに興味深い記述がある。136ページだ。1878年1月18日だから今日からちょうど132年前になる。

ハンブルクフィルハーモニーの演奏会で完成間もない第1交響曲が取り上げられたのだ。この演奏会にはブラームスの故郷への凱旋というイメージがついて回る。恩師のマルクセンやハンブルク女声合唱団のメンバーを始めとするゆかりの人々が客席につめかけた他、オーケストラのメンバーにも旧知の仲間がいた。デトモルトのコンサートマスターのバルゲーアもいたが、彼はコンサートマスターを務めることは出来なかった。なぜなら、ヨーゼフ・ヨアヒムにその席を譲ったのだ。

ということはつまり、第1交響曲の第2楽章に存在するコンサートマスターのソロを、ヨアヒムが弾いたということに他ならない。ヨアヒムに捧げられたヴァイオリン協奏曲はこのときまだ世に出ていない。だから第1交響曲はオーケストラの中でヴァイオリンの独奏を聴くことが出来る唯一の機会だった。

そしてブラームス本人は指揮台からヨアヒムのソロを聴いたのだ。

この時から1年もたたぬ1879年1月1日。ヴァイオリン協奏曲はそのヨアヒムを独奏に迎えて初演された。実質わずか1年で完成されたのだ。第1交響曲のソロパートをヨアヒムが弾くのを聴いて、ヴァイオリン協奏曲の構想が具体化したと考えるのは無謀だろうか。

ブラームス指揮、コンサートマスターヨアヒムの第1交響曲、しかも演奏はハンブルク・フィルハーモニーだ。滅多にないインスピレーションが湧いても不思議ではない。

2025年11月 1日 (土)

新たなニーズ

ああ。新車購入と同時に、CDが聴けないという事態が、私以外の人にも問題があるとわかった。

お気に入りをUSBに取り込んで欲しいと依頼があった。その依頼は「ブラームス」だ。管弦楽と室内楽とピアノ作品のうち、ドライブ中に聴きたくなる曲を選ぶ。声楽は抜きだが、ドイツレクイエムだけは例外。聞き比べは不要なので1曲1演奏としたいと。

いろいろ困っているのだろう。ブラームスという依頼が素晴らしくてお受けした。何より各曲1というのが選ぶ楽しみになる。

 

2025年7月20日 (日)

ちょっとしたこと

ブラームスは協奏曲を交響曲に近付けたいと念じていた形跡があると言われている。最初の協奏曲であるピアノ協奏曲第1番が「ピアノのオブリガード付きの交響曲」と呼ばれていたり、最後の協奏曲、ヴァイオリンとチェロのための協奏曲は、第五交響曲との関係まで詮索されている。至宝ヴァイオリン協奏曲は、当初四楽章制を目論んでいた。

ピアノ協奏曲第2番では、とうとう現実に四楽章制となった。解説書ではしばしばそれに言及される。「協奏曲と交響曲の融合である」云々だ。この主張の根拠は概ね以下のように集約できると思う。

  1. 4つの楽章を持つこと
  2. その4つのうちソナタ形式の楽章が2つあること
  3. 独奏楽器の名人芸の披露が主目的ではないこと

特に上記の2番目は重要だ。ピアノ協奏曲第2番の終楽章がロンド形式でなくてソナタ形式になっている点、強固な意志の存在を感じる。

しかししかし天邪鬼な私は、安易にうなずいたりしない。しからば問う。ピアノ協奏曲第2番の特徴のうち以下に掲げる諸点をどう説明するのだろう。

  1. 緩徐楽章が第3楽章に位置している。ブラームスの4つの交響曲では緩徐楽章はすべて2楽章だからだ。
  2. 事実上スケルツォを配置している。ブラームスの交響曲の第3楽章にはスケルツォが置かれていない。
  3. フィナーレが「allegretto」だ。交響曲のフィナーレを「allegretto」にした例はない。

とりわけ3番目に注目願いたい。フィナーレがロンドでなくソナタになっているのは、交響曲側の慣習に沿っているが、その楽章が「allegretto」なのは異例だ。ソナタ形式の楽章が「Allegretto」を採用する唯一の例である。この場合縮小語尾の目指すターゲットはテンポではなくて規模である可能性がある。いわば「小ソナタ」のノリだ。

ピアノ協奏曲第2番を「協奏曲と交響曲の融合」とする文章が、上記の事実に言及するのを見たことがない。

ブラームスは、本当に「協奏曲と交響曲」の融合を目指したのだろうか。4楽章制を指向したことは事実だと思うが、それをただちに交響曲に結び付けてよいのだろうか。未解決の疑問が残っていると感じている。

 

 

 

 

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