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カテゴリー「205 交響曲」の232件の記事

2023年11月13日 (月)

叩き台

会社という組織に属していると大小を問わずプロジェクトに参画することも多い。社内外の複数の組織から何人かずつ集まって一つの目標を達成しようという趣旨であることがほとんどだ。

何故かそのプロジェクトの会合の初回は「キックオフ」と呼ばれることが多い。議事は大抵お決まりである。プロジェクトの趣旨、目標達成の時期が決められる。作業に当っての役割分担とともに計画達成に向けたスケジュールも必須事項だ。

きれい事ばかりでもない。集まったメンバーのほとんどは「総論賛成」なのだが、「変に仕事を持ち帰りたくはない」「座長は引き受けたくない」みたいな思惑もある。時間ばかりが過ぎて行き最後は、次回までに事務局が「叩き台」を作るという落としどころが待っている。「半先送り」状態だ。

その「叩き台」をいくつか作ったことがある。次回会合に間に合うよう根を詰めるのだが、当日は大抵集中砲火を浴びる。断言してもいいが、「叩き台」を作る方が数段大変である。出来上がった叩き台を見てあれこれコメントするほうが数段簡単である。知識はなくても通り一遍のコメントは出来るが、叩き台を作るほうは、手間も知識もいるのだ。

ブラームスの第一交響曲が出現する前夜、ドイツ・オーストリアの交響曲業界の状況に似ている。ベートーヴェンの9曲が不可侵の規範となり、それと比較するという手法で次々と新作交響曲が叩かれていった。規範を神格化するあまり作品批評の舌鋒は過激さを増す一方だった。批判に代えて自作を提案する批評家は皆無であった。自らはけして交響曲を作らない者たちが批判を繰り返していたことになる。

ブラームスの第一交響曲はそうした業界の実情の中で世に出たのだ。「また新たな叩き台が出てきたぞ」とばかりに無数の批評が浴びせられたことは想像に難くない。

ブラームスの第一交響曲がそれらの批判に耐えたということ、周知の通りである。

2023年11月11日 (土)

直列と並列

電池のつなぎ方だ。小学校の割と早い段階で習った記憶がある。

 

主題AとBがあるとする。まずは主題Aが提示されてから主題Bの登場となる。これが直列だ。両主題が合わさって第一主題と位置付けられている。慣れないうちは主題Bを第二主題かと錯覚することもある。交響曲でお決まりの再現部では、これら2つの主題が同時に鳴らされる。どちらが主旋律とも決めかねる位置づけ。これが並列だ。提示部とは楽器の組み合わせも変わっている。

 

<提示部>

 

    • 主題A ホルン 2小節目

 

  • 主題B 第一ヴァイオリン 44小節目

 

<再現部>

 

    • 主題A オーボエ 302小節目

 

  • 主題B ヴィオラ 302小節目

 

18歳の若造だった私は、再現部で主題Bを弾いた。ここいら一帯はヴィオラの見せ場だ。オーボエとの美しいからみを聴きながら「オーケストラっていいな」と思った。現在まで続くことになるブラームスラブの最初の兆候だった。

 

もちろん第二交響曲第1楽章の話である。

 

 

2023年11月 4日 (土)

ケンブリッジ大学

英国ケンブリッジにある総合大学だが、複数のカレッジの集合体に対する総称と見ることも出来る独特な形態で知られる。こうした形態の精神的よりどころは、大学教会の存在だ。大学がオフィシャルに教会を持っているようなものだが、ミッションスクールとも違う。その教会は聖メアリー教会である。大学の授業期間中、学生はこの教会から2マイル以内に居住することが義務付けられているらしい。

1877年にブラームスの第一交響曲の英国初演を画策して実現にこぎつけたのは、ケンブリッジ大学音楽協会である。

その第一交響曲のクライマックス第4楽章の序奏で、「歓喜の歌」の第一主題を導くアルペンホルンのコラールが流れて、ケンブリッジ大学の関係者一同は、度肝を抜かれる。大学教会・聖メアリーの時を告げる鐘と寸分違わぬ同じ旋律だったからだ。同初演の大成功はこの瞬間に約束されたようなものだ。

 

 

2023年10月30日 (月)

微調整

細かな調整という意味だが、物事の最終段階での仕上げというニュアンスを含む場合もある。各方面に気を配りながら、全体のバランスに配慮するのは日本的な感覚と感じる。

ブラームスの交響曲4曲、全16楽章のうち、管弦楽のオリジナル版と本人編曲の連弾版の発想記号を比較すると、1箇所だけ相違が見つかる。第4交響曲の第1楽章だ。

  • オリジナル Allgero non troppo
  • 連弾 Allegro non assai

困った。どちらが速いのか判らない。オリジナルの方「Allegro non troppo」は「アレグロの過剰をそぎ落とせ」というブラームスのソナタ楽章独特の表現だ。難解なのは連弾版の「assai」である。「assai」の全用例は下記の通りだ。

  1. 弦楽四重奏曲第2番第4楽章冒頭 Allegro non assai
  2. 交響曲第2番第3楽章33小節目 Presto ma non assai
  3. 交響曲第2番第3楽章126小節目 Presto ma non assai
  4. ピアノ三重奏曲第3番第2楽章冒頭 Presto non assai
  5. クラリネット五重奏曲第3楽章34小節目 Presto non assai ,ma con sentimento
  6. インテルメッツォop118-1 Allegro non assai ma molto appassionato

すぐに気付くのは「Allegro」または「Presto」という速めの用語に付着していることと、必ず「non」が先行した「non assai」と言いまわされていることだ。「assai」単独ならば「非常に」とか「十分に」という意味で、主たる単語の意味を煽る機能があるのだが、「non」が先行することで、雲行きが怪しくなる。

ブラームスは管弦楽や合唱など大規模作品の適正なテンポをピアノ編曲で演奏して測定しようとすると、楽器の特性から、大抵は不必要に速くなると警告を発している。

つまり管弦楽のピアノ編曲は、オリジナルより演奏が速くなるとブラームスが言っているのだ。第4交響曲ピアノ版第1楽章の「Allegro non assai」は、「Allegro non troppo」以上にテンポの上がり過ぎを戒めていると解したい。

2023年10月18日 (水)

深層ヘミオラ

ブラームスが自作に4分の6拍子を採用するとき、そこには2分の3拍子との緊張を利用したいという意図が隠れていることが多い。

第3交響曲の第一楽章4分の6拍子には、記譜面で不思議な現象が起きている。どのパートであれ、1小節の間隙間無く同じ音を充填する場合、4分音符6つをもっとも手っ取り早くあらわす「付点全音符」が用いられそうなものだが、ブラームスはその使用を頑なに避けている。第一交響曲の主部8分の6拍子では、まるまる1小節に同じ音を敷き詰める場合に、付点2分音符が用いられていることと対照的だ。

ためしに第3交響曲第一楽章の冒頭2小節を見るといい。どちらの小節においても全てのパートが「タイで連結した付点2分音符」になっている。「6個の4分音符」を「3つずつが2組」だと思いなさいということに決まっている。

ところが、第3小節目から放たれる第一ヴァイオリンの第一主題は、2分の3拍子の枠組みに聞こえる。「四分音符2個が3組」ということだ。冒頭2小節における音符の割付と違う枠組みの旋律がいきなり始まる。我がヴィオラはそれらどちらとも受け取れるシンコペーションを強いられる。

再現部120小節目になると、モットー2小節の後半に弦楽器が出ることで、「3個*2組」の枠組みがキチンと明示される。ことここに及んで、さては冒頭も「3個*2組」だったのかと思わせるという仕組みだ。

名づけて「深層ヘミオラ」。

 

 

2023年10月17日 (火)

隠しジュピター

ブラームスの交響曲の調性を1番から順に並べると「CDFE」になる。これはモーツアルトのジュピター交響曲の終楽章のテーマに一致する話は割と知られている。シューマンで同じことをやると変ロ音起点のジュピター音階になることも合わせて既に言及しておいた。

チャイコフスキーの交響曲の調性を何気なく眺めていて気づいた。

  • 1番ト短調「冬の日の幻想」 1866年
  • 2番ハ短調「小ロシア」 1872年
  • 3番ニ長調「ポーランド」 1875年
  • 4番へ短調 1877年
  • 5番ホ短調 1888年
  • 6番ロ短調「悲愴」 1893年

両端の2曲を除く4曲つまり2番から5番までの調性に注目して欲しい。キッチリ「CDFE」になっている。4番がヘ長調だったらブラームスと一致してしまうところだった。これらの4つの交響曲のうち最初の3つまでは、その成立時期が、ブラームスの同調性の交響曲より先行している。5番だけがブラームスの4番に遅れて完成した。「ドレファ」まではブラームスより先に完成し、最後の仕上げの「ミ」でブラームスに出し抜かれた形である。

 

 

2023年10月 8日 (日)

サポーターソング

スポーツの中に音楽がある。高校野球では勝利チームの校歌が歌われるし、オリンピックでは優勝者の国歌が演奏されるのが恒例だ。フィギアスケートにも音楽は欠かせない。サッカーの代表戦を前にした両国の国家演奏も定着してきている。ドイツ代表の屈強な選手たちが手を胸に当てて「皇帝賛歌」にじっと聴き入る様子は否応なく感動させられる。

けれども国家や校歌はもちろん、フィギアスケートの音楽もスポーツのためにある訳ではない。スポーツの場面に転用しているに過ぎない。

それではとばかりにスポーツのための音楽を別途探すと、メジャーリーグベースボールで7回に演奏される「Take me out to the ballpark」がすぐに思い浮かぶ。しかしこれはどこのチームも同じ曲だ。日本の球場でも聴かれるくらいである。

特定のチームのために存在するとなると、やはり「六甲颪」だろう。甲子園球場で歌われると有り難みは倍増する。これはイングランドサッカーのサポーターが歌う「You never walk alone」に匹敵していると感じる。

まくらが長くなった。ブラームス作品の中からサッカーのサポーターソングを選ぶとどうなるかが本日の話題である。

サッカーのクラブ育成のシュミレーションゲームがある。お気に入りの旋律を入力してやると、自チームの試合の場面でサポーターがその旋律を演奏してくれるという優れものだ。ブラームスの作品からこれはという旋律を入力して「はまり度」を確認することが出来るのだ。大勢のサポーターが声を合わせるのだから、あまり入り組んだ旋律はだめだ。親しみ易くてシンプルで、格調高くて気品があって、選手を奮い立たせるような旋律はありはしないかといくつか試したが良い作品が見つかった。

交響曲第1番第4楽章の主題だ。ベートーヴェンの第九交響曲の「歓喜の歌」との関係ばかりが強調されるあの旋律だ。これ以外にはない。

試合に勝った後で歌う心地よさはもちろんだが、絶対に勝たねばならぬ試合が、後半も残り15分となって依然0対0で膠着しているようなケースでこれが歌われると元気が出る。

我が育てるチームなら、この歌をサポーターソングにしたい。

もしハンブルグあたりのチームがホームグランドでこの旋律を歌われた場合の説得力たるや半端ではなかろう。

2023年9月20日 (水)

どこがやねん

学生時代最後の演奏会で、マーラーの第五交響曲を演奏した。演目決定の時から波乱ぶくみだったが、やってみてからも大変だった。フィナーレでチェロが一人走り出す主題のところが、マーラーのバッハ研究の云々という話が付いて回る。当時はふむふむという感じだったが今では「どこがやねん」という感覚だ。

19世紀末に音楽的教育を受けたドイツ語圏の作曲家として、一定の影響はあるに決まっているが、特定の作品の一部を表面的に取り上げて作風の反映と短絡させるべきではなかろう。

良しあし抜きの作品への反映という意味ならブラームスの足元にも及ぶまい。

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セバスチャン閣下もお怒りだ。

 

2023年7月31日 (月)

ドラティ恐るべし

ジャケットがかわいくて選んだマリナー版が全集でないのがネックとばかりに、たどりついたのがアンタルドラティ版。全33枚組で全曲揃う。

アンタル・ドラティといえばハンガリーの指揮者。シェリングに寄り添ったブラームスのヴァイオリン協奏曲での貢献は記憶されていい。このハイドンもマリナーに劣らぬ気品。オケはフィルハーモニア・フンガリカという。おそらくハンガリーのオケ。当面マリナーとドラティがあれば不自由することはあるまいと深く確信。

ドラティいや、ハンガリー恐るべし。

2023年7月30日 (日)

ジャケット長者

音源確保の一環で、交響曲をどないするかは課題だった。ショップをうろついていて目についたのはネヴィルマリナー版だ。

ジャケットがかわいいの一点。全集でないのを覚悟で全15枚組を購入したがこれが当たり。表題付きが網羅されているうえに、15枚のジャケットそれぞれが標題にふさわしいイラストになっている。

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左側は外箱。ヴァイオリンを弾いているのはハイドン先生だ。右側は「時計」と「告別」だ。かわいいというよりおしゃれ。演奏もすっきりと心地よい。

 

 

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