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2021年3月 2日 (火)

ラカトシュ

ロビー・ラカトシュさんは1965年生まれのハンガリーのヴァイオリニスト。というよりロマ音楽の大家だ。

そのラカトシュさんをソリストに据えた「四季」のCD発見。周囲が普通の合奏団だから、ノリノリにはならぬのを承知で購入。恐る恐る聞いてみた。ツィンバロンとの二重奏あるいはせめてピアノとの二重奏にでも編曲されているなら別だろうけど、通常の合奏団を従えてできること多くあるまいとタカをくくっていたのだが、ソロの場面では十分に楽しめる。春の出だしは普通でがっかりしたが、ソロの音質でハッとさせられた。

夏1楽章の緩急交代の妙がハンガリー風で一息つける。ハンガリーの夏は暑いのか、2楽章のけだるさは独特。ツィンバロンのトレモロが聞こえる。フィナーレでは本調子に。

普通に始まる秋の1楽章のソロはアドリブがすごい。ピチカート総動員。89小節から105小節目までのねむりの場面で楽譜にない旋律をppで弾く。第二楽章の最大の特色として通奏低音のツィンバロンがひそやかなアルペジオを敷きつめる。まあこれも続く第3楽章の控えめな予言でしかないとあとから気づく。冬の第一楽章では当然歯の根が合わない。

「楽譜にないことを弾く」という意味では冬の第2楽章が頂点だ。ハンガリーロマたるものこうでなくては。フィナーレ120小節目「東風吹かば」の急速なパッセージから逆算された「滑ってころんで」がきれっきれで心地よい。

全体の印象として、チェンバロの不参加が大きく印象を変えていると思う。代わりがツィンバロンであることを味わうとより印象が深くなる。

 

 

2021年2月25日 (木)

雨の描写

ブラームス作品における雨の描写といえば下記であると、申したことがある。

  1. ヴァイオリンソナタ第1番ト長調op78「雨の歌」
  2. 歌曲「夕立」op70-4
  3. ドイツレクイエム第4曲中間部いわゆる「干天の慈雨」だ。

ブラームス愛好家のチョイスとしては自然だと思うが、世の中のクラシック愛好家のチョイスとなるとヴィヴァルディの「四季」から冬の第二楽章が高い確率で選ばれそうだ。

私とて大好きな曲である。思うに「ヴィヴァルディって天才」だ。雨の描写自体はピチカートなのだと思う。独奏ヴァイオリンは、暖炉の前のくつろぎの描写だろう。冬の雨なのに雪にならないのはイタリアならではである。梅雨時の雨ではないところに欧州らしさも感じる。

 

 

2021年2月11日 (木)

復元ごっこ

ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲をバッハがチェンバロ独奏用に編曲していた話は既にしておいた。それらを「無伴奏チェンバロ協奏曲」と位置付けた。

その延長線上にあるのが「イタリア協奏曲」BWV971である。バッハのオリジナルなのだが、「協奏曲」なのにチェンバロ独奏曲である。つまり編曲ではないオリジナルの「無伴奏チェンバロ協奏曲」ということだ。

これを逆手にとった人がいる。ビオンディの相棒として知られたチェンバリスト兼指揮者のアレッサンドリーニだ。バッハの「イタリア協奏曲」をヴァイオリン協奏曲に編曲してしまったのだ。バッハがヴィヴァルディを題材に盛んに試みた「ヴァイオリン協奏曲→無伴奏チェンバロ協奏曲」という編曲の逆を行ったことに他ならない。

このほどCDを入手した。ヴィヴァルディの「四季」の売り場にあった。それもそのはずで2枚組のこのCDは、ディスク1が「四季」全曲が収まっている一方、ディスク2は編曲ものを多数含む様々な作品の寄せ集めになっていた。

芸が細かい。

実際に聴いてみると、もうスルリと入って来すぎる感じ。第一楽章だけしか収録されていないのが恨めしい。

 

 

2021年2月10日 (水)

ストラヴァガンツァ

ヴィヴァルディの協奏曲をバッハが「無伴奏チェンバロ協奏曲」に編曲した中に、op4からの編曲がある。BWV975ト短調、BWV980ト長調だ。12の協奏曲にによって構成されるそのop4にはタイトルがついている。

「La Stravaganza」と綴られるイタリア語で「奇妙なもの」という意味。当時の協奏曲としては斬新な作風だったことが命名理由とされている。「調和の霊感」op3と違って全て独奏ヴァイオリンのための協奏曲だ。

知名度だけで申すなら四季を含むop8には遠く及ばないのだが、渋い。バッハの編曲版と合わせて聴くとより楽しめる。

 

 

 

 

 

 

2021年2月 9日 (火)

奇跡のニ長調

ヴィヴァルディの「調和の霊感」の中、ヴァイオリン協奏曲ニ長調op3-9に対する深い興味が大学1年のときの夏合宿に起因することについては既に述べている。理由は説明できない。ただただいとおしい。全3楽章聞いても10分もかからない小曲ながら、本当に癒される。

その作品をバッハが無伴奏チェンバロ協奏曲に編曲していた事実がただうれしい。BWV972がそれだ。番号で申すなら名高いイタリア協奏曲のすぐあとに置かれているということだ。その選択が領主の意向の反映だったとしてもだ。その領主がこの作品の編曲をバッハに依頼した奇跡を喜びたい。バッハのアラサー時代の小粋な手仕事だ。

イタリア協奏曲に比べると世に出ているCDは少ない。我が家には4種CDがある。

  1. 1986 Guy Penson
  2. 1994 Cyprien Katsaris
  3. 2006 Vital Julian Frey
  4. 2008 Elisbeth Farr

このうち2番カツァリスだけがピアノで、あとはチェンバロ。なんといっても4番目のナクソスは、BWV972からBWV987がコンプリートだ。ヴィヴァルディのオリジナルと聞き比べるのも一興だ。

 

 

 

 

 

 

2021年2月 8日 (月)

選抜の顔ぶれ

「無伴奏チェンバロ協奏曲」は、ワイマール公の委嘱に応えた代物だから、どの曲を編曲するかは、領主の意向が色濃く反映すると書いた。ヴィヴァルディは下記の6曲が編曲の対象とされている。

  1. op3-3
  2. op3-9
  3. op3-12
  4. op4-1
  5. op4-6
  6. op7-8

3曲選出のop3は「調和の霊感」、その「調和の霊感」ヒットの柳の下狙いとも目される「ラ・ストラヴァガンツァ」op4から2曲入選。そして「四季」を含むop8「創意とインヴェンションの試み」を華麗にスルーしてop7という渋いチョイス。

op3は1711年,op4は1713年、op7は1716年という具合に出版年が少しずつずれているが、出版社は全てアムステルダムのロジェ社だ。オランダ留学中の接触はとても自然だ。当時流行の最先端だったイタリアンコンチェルトの第一人者ヴィヴァルディが新機軸特盛で次々と出版した時期は、バッハのワイマール時代と驚くほど符合している。ワイマール時代の終焉を1719年に迎えたとき、ヴィヴァルディの作品は四季を含むop8まで終わっていた。

2021年2月 7日 (日)

領主の好み

ワイマール公の委嘱に応えて編曲した無伴奏チェンバロ協奏曲はBWV972からBWV987までの15曲ある。元の作曲家は下記の通りだ。

  1. ヴィヴァルディ 6曲
  2. マルチェッロ 2曲
  3. エルンスト公 3曲
  4. テレマン 1曲
  5. トレッリ 1曲
  6. 不明 3曲

我が家にはヴィヴァルディ、マルチェッロ、トレッリの3名については全てCDがある。イタリア人にまじってひっそりとテレマンというのが目立つ。不明が意外とバッハ本人というオチはないものか気になる。

一つ確実なことは、この顔触れは依頼人エルンスト公本人の意向の反映だということだ。自作がしれっと交じっていて微笑ましいのだが、エルンスト公はヴィヴァルディが好きなのだと思っていい。

 

 

 

 

2021年2月 6日 (土)

たいそうなコストダウン

本場イタリアでは、当初コンチェルトの演奏にかける人員は最少だった。独奏ヴァイオリン1本の場合、トゥッティ側はヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1、コントラバス1、チェンバロ1合計6.ソロを入れても7名だ。ヴィヴァルディは、トゥッティ側に増強の必要がある場合そう記しているから、逆に申せば何も書いていなければ最小のメンツで演奏されることを認めていたことになる。

それでも音楽好きの領主が、自前の楽団で演奏させようと欲すれば、7名の楽士が必要となる。お金に換算すれば7人分の人件費となる。

バッハの時代、現在のドイツの領域は、均分相続の伝統のせいもあり、国が兄弟の数だけ細分化されていくから小国ばかりになる。土地が狭いだけならともかく、たいていの場合お金もないのだ。日本で申す都道府県ほどの広さもない小国が、自前の宮廷楽団なんぞはなから無理な相談である。

1708年からバッハが奉職していたワイマール公国もそうした小国の一つだ。ここの王子様はオランダに留学していた。元々王子はイタリア音楽にぞっこんで、コンチェルトまで作曲するほどだ。加えてアムステルダムには当時有名な出版社があり、流行の最先端にあったイタリアの協奏曲集を手掛けていた。とくにヴィヴァルディの「調和の霊感」はベストセラー状態であった。

留学中の王子は、最先端のイタリアンコンチェルトにほれ込んだ。帰国してもその熱意は収まらず、何とか聞きたいと考えた。CDもDVDもない時代だ。楽譜だけでは飽き足らないとして不自然ではない。ましてや自作のコンチェルトも聞いてみたいのだ。ところが小国ワイマールには楽士を雇おうにも先立つものがない。思案の結果が、コンチェルトもろとも独奏チェンバロに転写することだ。

そこに若きバッハがいた幸運を後世の愛好家は噛み締めるべきだ。編曲ばかりか演奏までこなしてしまうバッハを雇用しているのだから、楽士7名の人件費は単純計算で7分の1で収まる。これを大コストダウンと言わずになんというか。

かくして王子はバッハにイタリアンコンチェルトの編曲を委嘱する。文字通り次から次だ。ヴィヴァルディ、トレッリ、マルチェルロらのヴァイオリン協奏曲が次々と「無伴奏チェンバロ協奏曲」に転写されたばかりか王子本人の作品まで含まれていた。誰からの転写でもないバッハオリジナルの「イタリア協奏曲」BWV971に続くBWV972から987までの一連の編曲作品はこうして生まれた。

バッハの旺盛な研究意欲の賜物などと位置付けると本質を見誤る。バッハはイタリアンコンチェルトのエッセンスをちゃっかり習得したのはむしろコストダウンプロジェクトの副産物に違いない。

2021年2月 5日 (金)

無伴奏チェンバロ協奏曲

断りなく「協奏曲」と言えば、華麗なソロとそれを取り囲む楽器群を思い出すよう刷り込まれている。ところがBWV971を背負う通称「イタリア協奏曲」は、芳醇な例外を形成する。これはチェンバロ独奏曲だからだ。CDショップでもコンチェルトの売り場ではない。

生涯プロテスタント地域を出ることがなかったバッハだが、周辺各国の音楽情報の収集にはやたら熱心だった。本人の好奇心だけでは説明がつきにくい。雇い主の好みに柔軟に対応するためという側面もあるに違いない。

各国の趣味様式に敬意を払い、まずは模倣しやがては自作に取り入れる。イタリア風フランス風など自在だ。パルティータを構成する各舞曲の起源ともなればさらにエリアが広がる。

イタリア協奏曲はフランス風序曲と双璧をなす。つまり「協奏曲のイタリア」「序曲のフランス」ということだ。

イタリア音楽の柱はオペラ、宗教曲それにコンチェルトだと断言しても大火事にはなるまい。バッハは自作協奏曲の準備としてイタリアの先人たちに学んだ。その結晶がイタリア協奏曲だと仮に位置付けておく。

イタリア協奏曲で示して見せたジャンルとしての「無伴奏チェンバロ協奏曲」は、イタリア特産のコンチェルトを、ソロばかりか周辺の楽器群もろともチェンバロ独奏に転写するというコンセプトだ。コンチェルトの独奏楽器だけをピアノでという、よくある発想とは隔絶されている。コンチェルトの本家本元のイタリアにはついぞ生まれなかった。

また、のちにバッハは自作のコンチェルトをチェンバロ協奏曲に編曲しているのだが、無伴奏チェンバロ協奏曲という形態を選ばず、ソロとそれを囲む楽器群用になっている。

ピアノの台頭とパラレルに衰退していく。発想そのものがチェンバロの2段鍵盤に依存しているからだと言われている。

2020年11月18日 (水)

イ短調オーボエ協奏曲

中古CDショップのバッハコーナーは何かと退屈しない。本日も発掘系の話題だ。一連のチェンバロ協奏曲、BWVでいうなら1052以降の作品群は、オリジナルの独奏楽器をさまざまに想定されれているが、イ短調とホ長調のコンチェルトだけは独奏楽器がヴァイオリンであることが確実視されているために、他の楽器でのトライという意味ではCDの層が薄い。

イ短調ヴァイオリン協奏曲BWV1041をオーボエ独奏に切り替えたCDを発見した。いやはや素晴らしい。辛抱たまらんという感じ。8分の9拍子のフィナーレは切ない。

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