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2022年8月 9日 (火)

レストロアルモニコ

「L'estro armonico」とつづられるイタリア語で、しばしば「調和の霊感」と訳される。「op3」を背負うヴィヴァルディの出世作。1711年アムステルダムのロジェ社からの出版で様々な独奏楽器による12の協奏曲だ。バッハはこのうちの下記を編曲している。

  • 3番ト長調→チェンバロ独奏BWV978
  • 8番イ短調→オルガン独奏BWV593
  • 9番ニ長調→チェンバロ独奏BWV972
  • 10番ロ短調→4台のチェンバロのための協奏曲BWV1065
  • 11番ニ短調→オルガン独奏BWV596
  • 12番ホ長調→チェンバロ独奏BWV976

かなりな入れ込みようだ。それもそのはずで、この曲集でヴィヴァディの名声は欧州中に広まっていた。当時最先端のイタリア音楽のそのまた最高峰という位置づけは大げさではなかった。現代日本における「四季」の人気もかすむというものだ。

CDで比較するにも楽譜があると便利なのでひとまず入手した。毎度毎度のドーヴァーで4020円はまずます。楽譜を見ながら聴くと、プレイヤーごとのアドリブもわかって参考になる。

2022年7月31日 (日)

3大ラルゴ

ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲のお話。それも作品番号付きの範囲で。ヴィヴァルディのコンチェルトは「急緩急」の3楽章制が基本だと繰り返し説明されている。中間2楽章が緩徐楽章となることが漢字3文字で言い表されている。

ブラームスに慣れた耳には新しいのだが、その緩徐楽章には「Largo」が頻繁に現れる。ブラームスはアンダンテやアダージョが優勢なのでいやでも目に付く。

本日は、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲の「3大ラルゴ」を私的に選定する。

  1. 第1位 「調和の霊感」op3-12ホ長調 
  2. 第2位 「四季」op8-4ヘ短調「冬」
  3. 第3位 「ラチェトラ」op9-4ホ長調

結果だけをお示しすると素っ気ない。1位はかなり鉄板だった。今までに何度も言及してきた。第2位は、いわゆる「冬」の二楽章だ。大好きな「調和の霊感」op3-9ニ長調の第二楽章は「Larghetto」なので門前払いになった結果、3位は激戦だった。同じくop9「ラチェトラ」の7番変ロ長調の第二楽章と迷った。皇帝カール6世に献呈されているだけのことはある「ラチェトラ」だ。

2022年7月30日 (土)

これもありか

調和の霊感の12番、ホ長調ヴァイオリン協奏曲のラルゴのこと。

バッハがハ長調に移してBWV976としてクラヴィーア版を編曲している。

これを編曲の対象に選んだバッハに感謝したいとずっと申し上げてきている。我が家所有のCDではピアノで演奏しているのはカツァリスただ一人だ。

いやいやどうして、バロックに慣れた耳には斬新。

 

 

2022年7月24日 (日)

移調の理由

バッハは、自作であれ他の作曲家の作品であれ、編曲に際してオリジナルではない調に移調することがある。基準は不明だ。チェンバロ奏法に精通したバッハが演奏上の配慮をしたものと受け止められている。

ヴィヴァルディの「調和の霊感」の中、ホ長調協奏曲op3-12を無伴奏チェンバロ協奏曲に編曲する際にも移調を試みている。オリジナルのホ長調がハ長調に移されてBWV976となった。私のようなヘボな弦楽器奏者にとってはありがたい移調だ。ホ長調と言えばシャープ4個が奉られた長調であるのに対し、移調先のハ長調は調号なしだから、演奏が容易になる。

編曲の依頼主であるワイマール公の腕前に配慮した可能性はあるのだろう。高度な芸術的判断とも思えない。

まさかと思うことがある。

同コンチェルトBWV976の次、BWV977ハ長調は原曲不明の作品だが以下のように立ち上がる。

 

20170413_084951
レ抜き音階がひとつ前のBWV976と共通する。

 

20170413_130503
どちらもハ長調だから「ドミファソ」という「レ抜き」っぷりが鮮明に浮き上がる。「移動ド」などという操作をしなくてもいいからだ。

この両作品に共通する「レ抜き」の配置をより鮮明にするためにオリジナルのホ長調をハ長調にしたなどということはあるまいな。

 

 

2022年7月23日 (土)

レ抜きの連鎖

ヴィヴァルディ作曲「調和の霊感」の中12番ホ長調の第1楽章と第2楽章冒頭で「レ抜き」音階が現れると指摘した。とりわけ第2楽章7小節目「cantabile」にもまた「レ抜き音階」が現れると結んだ。

バッハはこれを無伴奏チェンバロ協奏曲に編曲した。BWV976があてがわれている。ワイマールの雇い主の求めに応じて編曲した15曲の一角を構成する。

BWV番号でいうその次BWV977もまたバッハによる編曲なのだが、オリジナルはヴィヴァルディではなく今では知られていない誰かのヴァイオリン協奏曲だ。第一楽章冒頭部分を以下に示す。

 

20170413_084958
赤枠で囲んだ部分を見てほしい。ここにも「ドミファソ」つまり「レ抜き音階」がある。BWV番号は後世の研究者によって付与されたものだが、この並びそのものはバッハのオリジナルだ。「レ抜き音階」をもった作品が連続させたのはバッハの判断だと思われる。

この手のネタを偶然として放置しないのがブログ「ブラームスの辞書」のお約束である。

 

 

2022年7月22日 (金)

カンタービレ削除

ヴィヴァルディのコンチェルトホ長調op3-12の第二楽章。トゥッティがソロに転じる7小節目に「cantabile」と書かれている。ここで鳴る音楽の素晴らしさと合わせて深々と言及しておいた。

さて、同コンチェルトはバッハによって無伴奏チェンバロ協奏曲に編曲さている。その編曲にあたってバッハは、7小節目の「cantabile」をどう取り扱ったのかというのが本日の話題。

 

20170413_110733

譜例は、バッハによって編曲された同楽章の7小節目。つまり「cantabile」はあえなくカットされている。「調和の霊感」全12曲に現れる「cantabile」は6箇所だが、バッハの編曲の対象になったのはこの12番ホ長調だけだから、類例を確認できないのが残念だ。「Largo」などの発想記号や「f」「p」に代表されるダイナミクス用語、あるいは、「Tutti」「solo」などはオリジナルの通り保存されているから「cantabile」の脱落には何らかの意味があると思われる。

「cantabile」があえなくカットになった理由は不明だ。バッハが参照していた楽譜に元々なかった可能性もある。一方で上記譜例の赤矢印をつけておいた「プラルトリラー」はヴィヴァルディのオリジナルには存在しない。バッハが編曲にあたって付加したものと推定できるが、これとてバッハが参照した楽譜には記載されていた可能性も否定できまい。いろいろと悩ましい。

 

 

2022年7月21日 (木)

導音に至る6度下降

民謡学者エルクは、ライフワークとなった民謡収集活動を通じてドイツ民謡の始源の姿を突き止めようとした。近代に作曲された民謡風歌曲と本来の民謡の峻別を試みた。現代の研究成果から申せば、それらの区別にはほぼ意味がないと結論付けられてはいるのだが、当時は大まじめだった。

エルクは、旋律の形質をキーに、いくつかの基準を示した。そのうちの一つが本日のお題「導音に至る6度の下降」だ。こうした旋律が現れたらそれは古来の民謡ではなく、近代以降に作曲された「民謡風歌曲」だということだ。

言われてみればブラームスの歌曲にも「導音に至る6度下降」は、いくつか例が見つかる。

先日来話題にしているヴィヴァルディの「調和の霊感」からホ長調協奏曲op3-12の第2楽章7小節目の「cantabile」に触発されて楽譜を眺めていたら、なんとなんと「導音に至る6度下降」があるではないか。

 

20170410_182838_2

 

同コンチェルトの魂ともいうべき「レ抜き音階」の到達点「ロ音」から「嬰ニ音」へ6度の下降だ。「嬰ニ音」は半音せりあがって「ホ音」に進む。「嬰ニ音」は、到達点の「ホ音」に対する導音だから、全体として「6度下降→半音上昇」ということになる。つまり「6度下降して導音に至っている」ということだ。

ドイツ民謡学の泰斗が、旋律の「近代性」と判断する目安とした「導音に至る6度下降」の実例がヴィヴァルディに現れていた。

2022年7月20日 (水)

やっぱりレ抜き

記事「奇跡のカンタービレ」の続きだ。

20170410_182838
ヴィヴァルディの「調和の霊感」からホ長調のコンチェルトの第2楽章7小節目に鎮座する「cantabile」の話題だった。よくよく音の並びを見てほしい。移動ドで読むなら「ドミファソ」だ。同コンチェルトは第1楽章も第2楽章も「ドミファソ」つまり「レ抜き音階」で立ち上がっていると指摘しておいたが、ここにもあった。

全楽器によるアンサンブルからソロへの転換点。低い音のする楽器は合いの手に回る関係もあって響きの趣が変わる。「p」と「pp」のはざまを行きつ戻りつしながらニュアンス1個の出し入れを味わうべきと聴く。

後期バロックの頂点だというのに、やけにロマン的な感じがする。

 

 

2022年7月19日 (火)

奇跡のカンタービレ

記事「カンタービレの位置」で、ヴィヴァルディの「調和の霊感」に現れる「cantabile」を列挙した。その6番目にホ長調op3-12の第2楽章7小節目があった。

20170410_182838

赤丸で囲んだ部分。このカンタービレの美しさは筆舌に尽くしがたい。記事「BWV976」でも述べたとおり、この緩徐楽章自体冒頭から大好きなのだが、このカンタービレは心に沁みる。合奏で始まった楽章が、ここから独奏の見せ場になるというところに「cantabile」が鎮座している。低音楽器は控えめに合いの手を指し挟むだけ。澄み切った空。さめざめとした空気。長調なのになんだかとても悲しい気持ちになる。我が家にあるCDでお気に入りを挙げるなら下記の通りだ。

  1. イムジチ ミケルッチ版 響きの奥行きを感じさせる演奏。何かと安心な老舗感が心地よい。
  2. イタリア合奏団 ジョヴァンニ・ググリエルモ 「pp」の表情が息を呑むほど。泣きたくなる度では随一だろう。
  3. ヨーロッパガランテ ビオンディ版 「四季」で聴かせる小洒落た感じは影をひそめ、どこまでもどこまでも敬虔な感じ。本日話題の「cantabile」の情感では随一。さらに6小節後に現れるアドリブっぷりが見事。

2022年7月18日 (月)

カンタービレの位置

書籍「ブラームスの辞書」の収集対象たるブラームスは、楽譜上に記する音楽用語について、とても雄弁である。だからこそ辞書にしようと思い立つのだ。

ひるがえってバッハやヴィヴァルディなどバロック音楽では事情が大きく違う。楽譜上に記される音楽用語面では寡黙である。「Allegro」など楽曲冒頭のテンポ指示や発想用語でさえ、しばしば省略されるほどだ。

テンポやダイナミクスはそれでもまだ目につく方だ。「dolce」「espressivo」「marcato」などの表情付与の用語は大変に珍しい。ヴィヴァルディの出世作「調和の霊感」においてわずかな例外を形成するのが「cantabile」である。「歌うように」と解されて疑われることはない。「調和の霊感」を構成する12曲の協奏曲の中、「cantabile」と書かれている場所を以下に列挙する。

  1. 5番第2楽章冒頭 独奏ヴァイオリン
  2. 6番第2楽章冒頭 独奏ヴァイオリン
  3. 8番第2楽章5小節目 独奏ヴァイオリン①
  4. 8番第2楽章9小節目 独奏ヴァイオリン②
  5. 8番第3楽章87小節目 独奏ヴァイオリン①
  6. 12番第2楽章7小節目 独奏ヴァイオリン

以上だ。調和の霊感全12曲を通じてたったの6箇所だ。「cantabile」と書く書かないの基準がさっぱりわからない。書くからにはとっておきの場所なのだと思う。ブラームスを含むロマン派の作曲家ほど楽譜上の用語の頻度や種類が多くないから、書かれると相当気になる。

 

 

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