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2023年10月22日 (日)

Quasi Fantasia

ピアノ協奏曲第1番の第3楽章376小節目に唯一存在する。事実上カデンツァの弾き方を規定する意図があることは明白だ。「Fantasia」は幻想曲という意味だから、「quasi 意訳委員会」の裁定に従えば「幻想曲っぽく」という意味となる。

「Quasi~」という言い回しをする以上「~」に相当する単語について、自分自身の中に確固たるイメージが確立していることが大前提だ。さらにはそのイメージが世間一般の認識と大きくかけ離れていない方が望ましい。

しかししかし、これは意外と厄介だ。

ブラームス自身は「Fantasia」つまり「幻想曲」というタイトルの作品を残していない。晩年のピアノ小品の中、op116が「7つの幻想曲」と題されているに過ぎない。4つのインテルメッツォと3つのカプリチオの集合体に「幻想曲」とタイトリングしているが、単独曲が幻想曲とされている例がない。

ピアノ協奏曲の作曲段階で晩年のピアノ小品のことが念頭にあったハズがないから、解釈の参考にはならない。ピアノ協奏曲第1番作曲時点での「Fantasia」のイメージが反映しているに違いないのだが、簡単に尻尾をつかめない。それがまた幻想的なのだと思う。

2023年9月21日 (木)

お騒がせベルリオーズ

「基本はバッハ」という本の18ページに悩ましい記述がある。バッハの3台のチェンバロのための協奏曲」を聴いたベルリオーズの感想が載っている。原文のまま引用する。

「この滑稽で愚にもつかない讃美歌を再生するために、情熱に燃え、若さにみちあふれる3人の賞賛すべき才人が結束する姿をみるのは、まさに胸痛む思いだった」

まずは若干の補足をする。「この滑稽で愚にもつかない讃美歌」とは「3台のチェンバロのための協奏曲」を指しているとみて間違いあるまい。ベルリオーズは明らかにこの作品を評価していない。「大した曲じゃないのに、このメンバーに苦労させるのはもったいない」というスタンスと見受ける。ベルリオーズの感想を深読みすると、「3人の結束」そのものは褒めていると感じる。何が悩ましいかを以下に列挙する。

  1. 3台のチェンバロのための協奏曲はニ短調とハ長調の2曲あるが、そのどちらなのかわからない。
  2. いつの演奏なのか不明。
  3. どこで演奏されたのかも不明。
  4. 指揮者もいたのかいないのかも不明。

素晴らしいこともひとつある。「才人」と言われた3名がわかっている。なんとなんとショパン、リスト、ヒラーという3名だ。あのショパンとあのリストだ。すごいメンツである。あろうことか指揮がメンデルスゾーンだった可能性も排除しきれない。ヒラーの代わりにクララシューマンだったらと妄想が膨らむが、聴衆の側にシューマン夫妻がいたかもしれないと考える。書かれていないがチェンバロではなくピアノで演奏されたことは確実である。

独奏チェンバロが何台なのかは別として、楽器が別の独奏楽器による協奏曲をチェンバロ用に編曲したということは明確で、研究者の手によってほぼ元の独奏楽器が特定されていることが多いのだが、この3台のチェンバロのための協奏曲だけは定説がない。とくにニ短調の方が難解で、演奏するさいのバランスが難しいという。ベルリオーズのダメ出しからニ短調の方でなかったかと想像する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2023年7月26日 (水)

思案のしどころ

ハイドンの音源確保の話。ピアノソナタはワルター・オルベルツ、ピアノ三重奏はボサールトリオで落ち着いたが、弦楽四重奏はまだ決めきれない。大好きなアルバンベルク四重奏団が全集を入れていない。アマデウス四重奏団にも全集が見当たらない。どうしよう。

「皇帝」以外では「五度」「騎士」あたりの表題付きから恐る恐る分け入っている。

2023年5月29日 (月)

首席ヴァイオリン協奏曲

中学生でクラシック音楽に目覚めた。作曲家をキーに申せばさっそくはまり込んだのがベートーヴェンだ。ジャンル切り口というとベートーヴェンの主戦場である、交響曲、弦楽四重奏曲、ピアノソナタは自然だが、実はヴァイオリン協奏曲にも興味を持った。バッハやヴィヴァルディあたりの協奏曲までも余裕で視界に入ったものだ。当時は第一楽章にリトルネロが来るバロック協奏曲と古典派以降の協奏曲の違いなんぞ意識していなかった。

ベートーヴェンにはたった1曲しかないので、他の作曲家に範囲を広げてはみたものの、やはり脳内ヴァイオリン協奏曲ランキングの首位は長くベートーヴェンだった。大学オケ同期が下宿コミュニケーションの中でしきりにブラームスを薦めてくれたが、当初聞く耳をもたなかった。

大学2年の春にブラームスへの宗旨替えが起きて初めて、ブラームスのヴァイオリン協奏曲に入れ替わった。あれから44年経過した今も、ブラームスが首位の座に君臨している。

 

2023年3月12日 (日)

クララのレパートリー

クララ・シューマンはブラームスの伝記上では、本人ブラームスに次ぐ重要人物だ。ロベルト・シューマンの妻にして当代最高のピアニスト。クララがレパートリーにしていたピアノ協奏曲を調べてみた。

  1. ベートーヴェン 3番ハ短調
  2. ベートーヴェン 4番ト長調
  3. ベートーヴェン 5番変ホ長調
  4. ブラームス 1番ニ短調
  5. ショパン 2番ヘ短調
  6. メンデルスゾーン 1番 ト短調
  7. メンデルスゾーン 2番 ニ短調
  8. モーツアルト 20番 ニ短調
  9. モーツアルト 24番 ハ短調
  10. シューマン イ短調

おお。ベートーヴェンは3曲入っている。短調が優勢なのは偶然かなどと脱線したくなる。香しいレパートリーでほれぼれする。カデンツァは自作だろうか気になるところである。

2023年3月11日 (土)

ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲

1848年3月11日だから今から175年前の今日だ。ヨアヒムがブラームスの故郷ハンブルクで演奏会を開いた。ハンブルクフィルハーモニー主催のコンサートに出演したのだ。そこでヨアヒムが弾いたのが本日のお題「ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲」だ。

ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、初演後あまり弾かれなくなった。現在の位置づけとは雲泥の差だ。押しも押されもせぬ現在の位置づけに引き上げた功労者がヨアヒムその人だった。バッハの「マタイ受難曲」の復活にメンデルスゾーンが果たした役割に似ている。ヨアヒムを見いだしたのはメンデルスゾーンだというのは奇遇である。

この時ヨアヒム弱冠17歳だ。

ブラームスは、この演奏を聴いていた。聴衆の中に15歳のブラームスがいたということだ。このときブラームスは、はじめてヨアヒムの存在を知った。無論ヨアヒムはまだブラームスを知らない。ブラームスとヨアヒムの間に生涯の友情が芽生えるまでまだあと5年が必要だった。

東日本大震災の日と重なるため、ずっとこの記事の公開を控えてきたが、ベートーヴェン特集の流れの中で自然に公開に漕ぎつけた。

ご加護を。

 

 

 

2023年3月10日 (金)

協奏曲の群れ

標題へのアプローチとは別に、鑑賞の目安になったのが協奏曲だ。独奏楽器の華麗な技や流麗な旋律が半ば病みつきになった。なんといってもメンデルスゾーンとチャイコフスキーのヴァイオリンだ。あるいはドヴォルザークのチェロ協奏曲もはいる。いわゆる「メンコン」「チャイコン」「ドヴォコン」という通称は最早標題同然に機能した。勢いあまってパガニーニやサンサーンス、シベリウスまでかじった。

おっと忘れてはいけない。ベートーヴェンだ。大学に入るまで脳内ヴァイオリン協奏曲ランキングの首位がベートーヴェンだった。

やはりまた、ブラームスは出遅れた。協奏曲の分野でもブラームスの台頭は大学3年の冬を待たねばならない。

2023年3月 9日 (木)

カデンツァを捧げる

ブラームスはベートーヴェンのピアノ協奏曲のカデンツァを自作している。3番と4番の第一楽章および4番の第3楽章だ。古典派の時代、演奏者による即興を作曲家が認めていたから、コンチェルトに挑もうかというピアニストはカデンツァを自作することもあった。つまりブラームスはこの2曲を公衆の面前で弾いたことがあるということだ。本当は5番だって演奏しているけれど、ベートーヴェンがカデンツァを置いていないから、さすがのブラームスもカデンツァを書けなかった。

おまけに4番の1楽章ではこんなこと もしていた。

 

2023年3月 8日 (水)

皇帝の栄枯盛衰

標題音楽優先の基準に従って、ピアノソナタ、交響曲の次にかじったジャンルはピアノ協奏曲。英雄交響曲と同じ変ホ長調を戴く堂々たる第5番「皇帝」のご利益だ。第一楽章冒頭の管弦楽だけの提示部に先立って華麗なピアノの出番がある。「皇帝」はベートーヴェン本人の預かり知らぬ命名ながら、さすがの説得力だ。がしかし最初に買ったレコードの記憶がない。

やがて脳内リーディング協奏曲の座をヴァイオリン協奏曲に明け渡す。高校時代の終わるころには、第4番ト長調にも抜かれた感じ。それでもまだ第二楽章だけは今でも大好きだ。第一楽章の変ホ長調に対してシャープ5個のロ長調だ。当時は「何たる遠隔調」などとは思わなかった。生まれて初めて見た「調号シャープ5個」だ。訳がわからんまま「なんだかロマンティックだな」と思った。「変ホーロ」という関係は、よくよく見ると「長3度」だと気づいたのはブラームスに目覚めた後のことだ。

長3度下の長調は、第一楽章がハ短調なら、運命交響曲も悲愴ソナタも同じなのだが、これを第一楽章が長調でやらかすととなると、なるほどロマンティックなわけだ。

2023年2月22日 (水)

ピアノ曲の演奏年齢

ブラームスのヴァイオリン協奏曲の解説を読んでいると、キラ星のごとき名手たちのエピソードで彩られていることが実感できる。初演者ヨアヒムはもとより、第2楽章を皮肉ったサラサーテ、飛行機事故で世を去ったヌヴー、レーガーのカデンツァであっと驚かせたクレーメルなどなどだ。

手が大きくないと難しいというヨアヒムの危惧をよそに、10代半ばで弾いたという話も少なくない。ブラームスに直接賞賛されたフーベルマンを筆頭にシェリング、メニューインと続く。この人たちは「アンダー15」でブラームスのヴァイオリン協奏曲を公開の席で演奏したのだ。ということは練習だけは10歳になる前からしていた可能性もある。

早熟の天才のエピソードに事欠かないヴァイオリン協奏曲に対してピアノ協奏曲の方は、なぜかその手の話が少ないように感じている。話をピアノ協奏曲に限定せず、ピアノ曲と考えると、「アンダー15」の出る幕もあろうが、協奏曲ではとんと聞かない。

当たり前のことだが、ピアノには分数ピアノはない。小さな子供も大人と同じサイズの楽器を弾くことになる。たとえばブラームスに頻発するオクターブが弾けるようになるのは、ある程度手が大きくならねばならない。それに対してヴァイオリンは体格に合わせて楽器のサイズを変えて行くから、そうした心配はない。ヴァイオリンに比べて「アンダー15」の活躍話が乏しいのは、そのあたりの事情が関係しているのではないだろうか。

ワルトシュタインを15歳で弾いたブラームスの位置づけやいかに。

 

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