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カテゴリー「208 合唱」の82件の記事

2019年3月11日 (月)

蘇演記念日

1829年3月11日ベルリン、若冠20歳のメンデルスゾーンの指揮により、バッハの「マタイ受難曲」が蘇演された。この日取りが東日本大震災の日ということのほかにも、もう1つ大きな意味がある。ライプチヒにおけるバッハ自身の指揮による初演からちょうど100年後の記念日に相当するからだ。

メンデルスゾーンは、総勢158名の合唱を含む大所帯を率いて準備したばかりではなくジンクアカデミーの演奏会場の借用費50ターラーを自腹を切って負担した。歌手たちの中には出演料の受け取りを辞退したものもいた。チケットは数週間前に売り切れ、1000人が入場を断られたという。
一方、完全な上演に4時間を要する大作だけに、当時の聴衆への受けを心配したメンデルスゾーンは、大胆なカットを決断した。後世の愛好家専門家の間では物議をかもすことになるが、当時は誰からも批判されていないことは考慮に値するだろう。
公演は圧倒的な成功を収めた。すぐに再演が企画されちょうど10日後と決まった。つまり再演の日はバッハの誕生日3月21日だということだ。

2018年5月 1日 (火)

支持基盤

1863年5月1日、故郷で休暇を過ごすブラームスの元に、ウィーンから便りが届いた。ウィーンジンクアカデミーの音楽監督就任のオファーだ。前年秋にウィーン進出を果たしたとは言え、定住までは考えていないという微妙な時期だったが、熟考の末これを受諾した。

ジンクアカデミー側にも微妙な空気が充満していた。ブラームスの招聘は39対38で際どく可決された案件だった。ブラームスの支持基盤は万全ではなかったということだ。

11月15日の初コンサートはバッハのカンタータ21番を取り上げ歴史的名演としたほか、クラリスマスオラトリオのウィーン初演も成し遂げたが、バッハ偏重のプログラミングには、水面下でブーイングもあったという。

翌1864年4月までのシーズンを終え、契約の延長の段になると、前年の1票差とは打って変わって、満場一致でブラームスの再任が可決されたが、今度はブラームスの側が契約の延長に同意しなかった。音楽以外のもろもろに嫌気が差したと解されている。

支持基盤の弱い指導者の座は、居心地が悪いということだ。丸3年は続いたハンブルク女声合唱団とは対照的だ。

2018年4月17日 (火)

F音連打

記事「C音連打」の続き。第二交響曲にささやかなC音の連打があると書いたが、本日は「F音」だ。

ドイツレクイエムの冒頭から10小節目まで「F音」が4分音符で連打される。4分の4拍子だから合計40個の4分音符が4個ずつスラーで一まとまりにされている。レクイエム第一曲はヘ長調だから、その主音がチェロとコントラバスで連打される。ダイナミクスは「p」だから粛々と進行するので必ずしも連打というイメージではない。

ダイナミクスが「p」であることを除けば第一交響曲の冒頭と似ている。第一交響曲は主音「C」が8分音符で52個、ドイツレクイエムは4分音符40個。

  • 2018年4月16日 (月)

    レクイエムの一人歩き

    レクイエムは「Requiem」と綴られる。「鎮魂曲」の訳語があてられるほか、「死者のためのミサ曲」という言い回しも見られる。テキストはカトリックの典礼文。ラテン語によるそのテキストが「Requiem」と立ち上がる。作品の歌い出しのテキストをタイトルに流用するというよくあるパターンだ。この歌い出しの流用が定着した結果、「死者のためのミサ曲」そのものを「レクイエム」と称するに至ったらしい。

    そのようにして定着したレクイエムの語感を逆手にとり、ラテン語の典礼文ではない歌詞を持つ曲が、気分だけをよりどころに「レクイエム」と命名されるようになる。ブラームスの「ドイツレクイエム」op45がその代表例には違いないのだが、そうしたアイデアの起原はもう少々遡る。ロベルト・シューマンのスケッチ帳の中に「Deutsche Requiem」という文言があったとされ、これがブラームスにインスピレーションを与えたとしばしば指摘される。それ以外にも、シューマンの作品一覧からいくつか抜き出してみる。

    • op90-7 Requiem
    • op98b  ミニヨンのレクイエム
    • op142  Requiem

    上記のうちラテン語の典礼文がテキストになっているのはop142で、その他2つはラテン語ではないドイツ語のテキストだ。

    2018年4月13日 (金)

    大文字と小文字

    アルファベットには大文字と小文字がある。その使用方法については欧州諸言語において細かなルールが設定されている。文頭は大文字になるというのがその代表例。ドイツ語においては名詞の語頭は文中でも大文字。

    世界最高のブラームス本マッコークルの「ブラームス作品目録」は、ドイツレクイエムを「Ein Deutsches Requiem」と記している。我が家のスコアはオイレンブルク社製で「Ein deutsches Requiem」となっている。大文字か小文字かの違い。通常であれば有無をいわせずマッコークルの見解を採用するのだが、こればかりは少々勝手が違う。

    1. マッコークル 大文字
    2. オイレンブルクスコア 小文字
    3. ブライトコップフ 小文字
    4. ウィーン初演のポスター 小文字
    5. シューマンのスケッチ帳 大文字らしい

    その他CDのジャケットは大文字小文字入り乱れているというか全部大文字もあったりしている。ジャケットデザインの都合なども絡んでいそうだから参考程度なのだと思うが、アクセンタスなど小文字も存在するというのが心強い。こうなるとブラームスの自筆譜を確認したくなるのだが、現物を拝めていない。「小文字だ」という情報があるのだが、この目で見ないことには落ち着かない。

    ドイツレクイエムの初演とマイスタージンガーの初演が同じ年だったことをもって、ドイツ帝国成立前夜のドイツ民族意識の高まり云々と解する向きは多い。ドイツレクイエムはドイツ民族の誇りを高らかに的な解釈もされているが、小文字「d」先頭の「deutsches」は、そこまで大げさではなくて、単に「ドイツ語の」という意味にとどまるのではないかと感じる。仮にシューマンのスケッチ帳が大文字だったとしても、ブラームスはあえて小文字を選んだのではあるまいか。単に「レクイエムなのにドイツ語なんです」という意味。高まりつつあるドイツ民族主義とはあくまでも一線を画す立場。

    このことは実は凄い意味がある。「ドイツ民族意識」や「キリスト教」さえ飛び越えた普遍性の表明である可能性を考えている。初演を任された指揮者ラインターラーとのやりとりの中、「ドイツという言葉をはずして人間のという言葉に差し替えてもいいのです」というブラームスの言葉とつながっているような気がする。「ドイツであることに大した意味なんかありゃせんよ」というメッセージを込めた小文字。

    2018年4月12日 (木)

    ミニョンのレクイエム

    ブラームスの恩師シューマンにもラテン語の典礼文とは全く関係のないレクイエムがある。それが本日のお題「ミニョンためのレクイエム」だ。

    ゲーテの「ウイルヘルムマイスターの修行時代」より第8巻第8章がテキストになっている。ラテン語ではなくドイツ語だ。全6曲で演奏時間は約15分弱だ。ミニョンとはゲーテの作品に登場する少女の名前だそうだ。

    1863年11月15日、ウィーンジンクアカデミーの音楽監督に就任したブラームスは、最初の演奏会でバッハのカンタータ第21番「我が心は憂い多かりき」を演奏するが、その日のプログラムにこの「ミニヨンのためのレクイエム」もあった。曲の規模から申してメインプログラムとは言えないが、ここにシューマンの合唱曲を持ってくることには積極的な意味があると思う。バッハのカンタータとともに選んだシューマンは、自らの音楽的出自を顕すと解したい。名刺代わりの選曲だったと感じる。

    何よりもこれは「ミニョンのためのレクイエム」ウィーン初演であった。

    2018年4月11日 (水)

    レクイエムのテキスト

    「レクイエム」とは「死者のためのミサ曲」だ。地域時代により例外もあるが、テキストは不変だ。ラテン語であることを除けば、ある程度の信仰の持ち主であればおなじみの内容だ。レクイエムを作曲するということは、お決まりのテキストに曲をつけるコンクールに参加するようなものだ。モーツアルト、ヴェルディ、ベルリオーズ、ドヴォルザークなどが応募した。

    この実態は通常のミサ曲でもスターバトマーテルでも同様だ。作品の受け手にとっておなじみのテキストをどう料理するかが腕の見せ所である。

    ブラームスの出世作「ドイツレクイエム」はこの点で例外だ。タイトルに「レクイエム」の文言こそ踊っているものの、テキストは既定の文言とは大きくかけ離れている。聖書の中のあちこちから気に入った文言を自ら選んでいる。それでいて出来上がったドイツレクイエムは、ブレのない大きな主張が感じられる。ドイツプロテスタントの信仰篤い人々から熱狂をもって迎えられた。

    まさに文学の素養が無ければ出来ない芸当だ。加えてキリスト教に対する洞察力も求められよう。自分で作詞するより難しいと思う。自分の考えを聖書の言葉に語らせていることに他なるまい。

    2018年4月 6日 (金)

    モテット

    ミサ曲以外の宗教的声楽曲の総称。起源はルネサンス期に遡るという。バッハも数多くのモテットを書いたし、モーツアルトには名高い「アヴェ・ヴェヌム・コルプス」がある。

    バロック時代には欧州各地で地域ごとに独自の発展を遂げる。ロマン派の興隆により、宗教曲の相対的な地位が下がるともに下火に転じたとされている。

    ロマン派も土壇場に近いブラームスも合計7曲のモテットを書いている。

    1. 2つのモテットop29
    2. 2つのモテットop74
    3. 3つのモテットop110

    律儀なことに初期中期後期に一度ずつ置かれている。宗教曲らしく全てが無伴奏つまりアカペラと明示されている。バッハやシュッツのようなドイツの大先輩たちの向こうを張った作風だ。このうちのop74は、当代最高のバッハ研究家、フィリップ・シュピッタに献呈されている。

    こういう曲を書くから保守的だのなんなのと外野席から野次が飛ぶのだと思う。

    2018年3月30日 (金)

    マタイ受難曲

    バッハ宗教作品の金字塔。1727年4月11日、復活祭の2日前つまり聖金曜日にライプチヒにて初演された。キリストの受難を描く作品だけに、復活祭近辺での上演が多くなる。ブラームスの「ドイツレクイエム」の初演も聖金曜日だった。

    お叱りも覚悟でごくごく大雑把に申せば、キリスト受難の進行は下記の通りだ。

    1. 聖木曜日 最後の晩餐
    2. 聖金曜日 処刑
    3. 復活祭  復活

    毎年変動することに目をつむれば、聖金曜日は命日ということだ。土曜日は死没と復活の間なのでイエス様は黄泉の国におられるということになる。人々は特に静かに過ごす。

    興味深いのは復活祭の日取りの計算方法だ。

    「春分の日の後、最初の満月の日の次の日曜日」

    おお。「春分」という概念は太陽の進行に由来するが、後段の「満月」は月の進行に由来する。太陽暦と陰暦両方が関与するということだ。

    本日は聖金曜日である。イースターはあさって。

    2018年3月11日 (日)

    3大宗教作品

    ブラームスは1872年秋から1875年春までウイーン楽友協会音楽監督の地位にあったが、その最後のシーズンの選曲を調べていて興味深い事実を発見した。

    • 1874年12月06日 ベートーヴェン:ミサソレムニス
    • 1875年02月28日 ブラームス:ドイツレクイエム
    • 1875年03月23日 バッハ:マタイ受難曲

    ご覧の通りだ。この周辺の事情は以前にも述べておいた。

    この年、復活祭は3月28日だった。バッハのマタイ受難曲を聖金曜日の3日前に演奏したということだ。自作の「ドイツレクイエム」はイースターのちょうど1か月前。ついでに申すならミサソレムニスは作曲者ベートーヴェンの誕生日の10日前である。

    楽友協会音楽監督の辞任を決めていたブラームスがラストシーズンで放つプログラム。これをドイツ3大宗教作品と断じてもブログ炎上には至るまい。

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