「四季」から「春」の第2楽章の演奏家による違いをテンポの観点から論じてみる。同楽章39小節、最後の小節はフェルマータだから除外するとして38小節。4分の3拍子だから114個の4分音符の堆積と見る。CDの演奏時間を実測して、60秒あたりの4音符の数つまり「MM値」を割り出す。試しに我が家のCDについて実測した結果を録音年順に列挙する。
CDの解説書記載のトラックの演奏時間とは別だ。次のトラックが始まるまでの無音の時間も入ってしまっているので、実測して補正したデータを使用する。
各々のCDでヴィオラ奏者の名前が不明なことが多いので、コンマスの名前をキーにする。各ログは以下の通りの構成とする。録音年、演奏時間、MM値、コンマス名。
- 1955 02分26秒27 46.8 Felix Ayo
- 1959 02分49秒33 40.5 Felix Ayo
- 1969 02分51秒14 40.0 Roberto Michelucci
- 1977 01分47秒18 63.9 Alice Harnoncourt
- 1982 02分39秒51 42.8 Pina Carmirelli
- 1982 02分10秒12 52.6 Piero Toso
- 1986 02分26秒43 46.8 Giovanni Gugliermo
- 1988 02分45秒62 41.2 Federico Agostini
- 1991 02分40秒12 42.8 Fabio Biondi
- 1992 02分09秒02 53.0 Giuliano Carmignola
- 1992 02分50秒58 40.0 Enrico Onofri
- 1995 02分55秒69 38.9 Mariana Sirbu
- 2001 02分05秒03 54.7 Fabio Biondi
- 2002 03分20秒49 34.2 Stefania Azzara
- 2004 02分15秒17 50.7 Janine Jansen
- 2014 02分30秒55 45.6 Federico Gugliermo
16種の平均は2分32秒MM=44.4となる。1番のアーヨはイムジチの初録音。史上初の「四季」の録音だと取沙汰されているモノラル盤。驚いたことに平均値に最も近い演奏だ。先頭がいきなり平均的演奏となっている。長く四季のスタンダードだったことと関係がありわせぬかと思っている。1959年のアーヨ盤はステレオ録音だ。ぐっと遅いテンポだ。
長く尊敬されてきた録音なのだが、話題の「犬」に関して申すと違和感もある。楽譜上に「他のパートから際立って」とあるにもかかわらず、周囲のパートに溶けている。犬が遠くにいる感じで、しかももやがかかっているかのようだ。
3番目のミケルッチもイムジチだが、そのあたりへの配慮が進んで聞こえ方は改善している。
4番目のアーノンクールは、古楽の先駆けなのだろうと思うのだが、異様に速い。速いだけならまだしも音がパサついている。イムジチとの落差は大きい。「古楽ってこうなんです」と言われれば仕方ないと納得させられていたかも。
5番目カルミレッリもまたイムジチ。イムジチ初のデジタル録音だったような。
9番ビオンディの「四季」がセンセーションを巻き起こしたことがここにも反映する。際立って個性的な犬の描写だ。
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