BWV140の魔力
カール・リヒター先生についての書物で、共通して論じられているのが、リヒター先生とバッハの出会いのエピソードだ。
少年時代にはじめて接して感動した作品が名指しされている。BWV140「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」だ。とりわけ第4曲のテノールのアリアだ。独唱に先立つヴァイオリンとヴィオラのユニゾンの部分に心酔したことがバッハの傾倒のきっかけだったと回想されている。
同曲のリヒター先生の演奏は群を抜く。ピリオド楽器含め様々な音源があふれた現代、それらを手元において自在に聴き比べもできるのだが、リヒター先生のその場所の聞かせ方は最高だ。同じフレーズが2小節後に確保される場所の、ピアニシモに打ちひしがれるかの美音は、どんな解釈も吹き飛ぶ。ピリオド楽器がどれほど「バッハ時代の忠実な再現」と力説しても私の心が動かない原因の一つとまで断言できる。
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