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カテゴリー「516 こだわり」の52件の記事

2016年5月31日 (火)

伝記たるもの2

昨日「伝記たるもの」でロベルト・シューマンの伝記を巡ってのクララとのやりとりから、ブラームスの伝記観に光をあてた。

本日はスイスの詩人ヴィトマンとのやりとりから再びブラームスの伝記観を覗いてみたい。

晩年にさしかかったブラームスに厄介な出来事があった。若い頃父親に宛てた手紙が、よからぬ人物に渡り、競売屋のカタログを飾ってしまったのだ。友人が即刻落札しブラームスに返却したことで事なきを得たらしい。この事件をキッカケにヴィトマンがブラームスの伝記観を聞いたというのだ。

芸術家の伝記の良し悪しは、記述を通じてその芸術家の尊敬に繋がるかどうかにかかっているという。この尺度で見てブラームスが当時の伝記を格付けしている。音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第3巻98ページだ。

<よい>

  • シラー
  • ゲーテ

<ふつう>

  • モーツアルト

<わるい>

  • ベートーヴェン 一部の手紙によってベートーヴェンの人間性の悪さが伝わりかねない。「知らなきゃよかった」と感じる歓迎されない情報が混入している。

「事実を書けばよいというものではない」とも読める。

私のブログは、どうだろう。ブラームスへの尊敬に繋がるのだろうか。

2016年5月10日 (火)

アーケオプテリクス

鳥の先祖と目される始祖鳥の学名がアーケオプテリクスだ。学名なのでラテン語だ。「暁の羽毛」くらいの意味。正式には「アーケオプテリクスリトグラフィカ」という。

始祖鳥はドイツ特産である。現在10体の標本が確認されているらしいがみなドイツ産だ。1855年に最初の標本が発見された。しばらく翼竜だと思われていたらしい。この標本残念ながら既に散逸されたという。1861年にまた発見されている。大きさは大きめのハト程度。羽毛の痕跡が鮮やかながら、骨格は小型肉食恐竜に似ている。この標本故意か偶然か口元が欠落している。鎖骨があってくちばしに歯が無いのが鳥の特徴だが、おかげで歯の有無が確認出来ず関係者をやきもきさせたという。安値で英国が買い取ったから今、ロンドンにある。

1877年になってとうとう完全な化石が発見される。ゾルンホーヘンの隣アイヒシュテットからの出土だ。ミュンヘンからニュルンベルグに向かう途中にある小さな街は、良質な化石産地として有名だ。これには超高値がついた。プロイセン王立博物館が落札するのだが20000マルクという破格値。ブラームスの交響曲1曲の原稿料15000マルクより高かった。落札は企業家ジーメンスの資金援助で実現した結果、今はベルリンのフンボルト博物館にあるから人々はこれを「ベルリン標本」という。学名は「アーケオプテリクス・ジメンシイ」という。出資者ジーメンスに由来するネーミングだ。

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世界でもっとも美しい化石の賞賛をほしいままにする超有名標本だから、世界中の博物館や理科室にレプリカがある。この写真も某高等学校の理科室の前の廊下にあるもの。

以上の3体がブラームス生前の発見である。1855年といえばシューマン宅をはじめて訪問した2年後だ。入院中のシューマンに代って留守中の面倒を見ていた頃だ。この時は翼竜だと思われていたとすれば新聞に「始祖鳥」の名が踊ったことはないかもしれない。次の1861年はウイーンに定住する2年前だ。ハンブルグでコーラスの指揮活動のかたわら新聞を読んでいれば目にすることもあったと思われる。1877年になるとウイーン定住後だ。いくらかゾルンホーヘンにも近くなった。論争に決着を付ける嘴付きの完全骨格だから新聞の扱いも小さくなかったと思うが、はたしてブラームスに古生物なんぞにうつつを抜かすヒマがあったかどうか。ヴァイオリン協奏曲の仕上げでヨアヒムとの文通に忙しかった頃だ。

今日から愛鳥週間。

スペシャルコンサートまであと5日。

2016年4月18日 (月)

ドイツの吹奏楽

以前、大学祝典序曲の金管アンサンブル版があると書いた。ブラームスが知ったらさぞかし驚いたことだろう。しかし、意外とブラームスは平然と受け流すような気もしてきた。

ドイツ帝国とその前身のプロイセンは名だたる軍楽王国だった。軍楽隊に弦楽器は入っていないから管楽器のアンサンブルだ。そして曲種は当然行進曲である。ドイツには古来軍隊行進曲の伝統に根ざした作品の蓄積があったと見るべきだ。

グルック、ベートーヴェン、ヨーゼフとミヒャエルのハイドン兄弟、ヨハン・クリスチャン・バッハ、ウェーバー、R・シュトラウス、レハール、ズッペなどなどだ。ここにブラームスが入って来ないのが不思議なくらいである。だからブラームスはジャンルとしての吹奏楽を知っていた。現代日本で隆盛を誇るいわゆるブラバンと、完全に一致する概念ではあり得ないが、やはりこれは吹奏楽と名付けられるものだと感じる。

プロイセン王フリードリヒ・ウイルヘルム3世は、音楽好きだった。ベートーヴェンが第9交響曲を献呈したことでも知られている。さらに凄いのは、1817年国内に流布するマーチを収集整理の上印刷するという国家事業に乗り出した。早い話が軍隊行進曲の番号付けだ。AM番号といわれる発番体系がこれでArmeemarscheの略だ。この付番は1871年のドイツ帝国成立後も続き1933年にHM(Heeresmarsche陸軍行進曲)にとって変わられるまで518番を数えたらしい。これがさらに曲想によって3分類されていたというから驚きだ。小学校で習ったタイケ作の「旧友」はHMⅡ150だ。

いやはや何ともドイツらしい。

クラシック音楽の本丸ドイツには、一方で吹奏楽の深い伝統も並存していたことは間違いない。ブラームスはプロイセン大好きだったから、ビスマルクあたりから頼まれれば行進曲の1曲や2曲喜んで書いたものと思われる。

スペシャルコンサート まであと27日。

2016年4月16日 (土)

ブラームスな環境

昨今何かと脚光を浴びている地球環境問題ではない。

私を取り巻く我が家のブラームス環境について紹介したい。

子育てに手がかからなくなり、2003年に思いついた「ブラームスの辞書」を11年前に出版した。私のささやかなデスクにはもちろんパソコンがある。このパソコンには我が家自慢の「ブラダス」も大切に保存されている。「ブラダス」のほかにも数種類のデータベースが入っている。そのほかにはブラームスの若い頃のポートレートが一つ。

デスクの上の棚には、スコアがある。残り10作品まで辿りついたが、まだ全作品をコンプリートしていない。いつも調べ物で使う書物もその棚にある。独和辞典、伊和辞典、音楽事典、マッコークル、ブラームス回想録集、伴奏の藝術、それから「ブラームスの辞書」op124も置いてある。ここいらの装備はとても重要だ。何かブラームスネタを思いついたとき、速攻で楽譜を当たることが出来る。場合によってはすぐ演奏を聴いて裏づけが出来るというのは、とても大切だ。

デスクの横にはCDラック。200枚収納だ。ブラームスの作品しかここには置いていないからまだ収納には少し余裕がある。他の作曲家は別に電子ピアノの横の棚である。

部屋の隅の電子ピアノは、残念ながらブラームス以外の作品も弾かれることがある。その足元にはブラームスの全室内楽のパート譜面が積まれてある。娘たちのヴァイオリンと私のヴィオラもそのあたりが棲家だ。譜面台の上あたりにもブラームスの肖像。こちらは髭をたくわえた貫禄のあるやつだ。

電子ピアノの横の棚にも他の作曲家のCDが少しある。バッハとドヴォルザークがブラームスに次ぐ扱いを受けている。

日本語で読めるブラームス関連の本は揃っているほうだと思う。あとは行きがかり上、ベートーヴェンやバッハの作品解説やクララ・シューマンやアルマ・マーラーの伝記、他の作曲家の作品のスコアなどなど。私の結婚式の二次会でのブラームス第四交響曲のライブのVHSや、私家版ブラームス交響曲全集のテープもこのあたりに退蔵されている。

ブラームスのマグカップはリヴィングの棚の中だった。ブラームスムゼウムのトートバッグはデスクのすぐ横に。それからウイーンで買ったブラームスの像はブラームス関連書物のの前から私を見下ろす。ベッケラートの肖像があしらわれたハンブルクのブラームスムゼウムのポスターは部屋の壁の中央に鎮座している。

そうそう、「ブラームスの辞書」の在庫は我が家には20冊置かれているだけであとは営業倉庫だ。

こうして書くと、いっぱいあるものである。狭い我が家が一層狭くなる。

スペシャルコンサート まであと29日。

2015年12月31日 (木)

108

私の脳味噌はブラームス補正でがんじがらめになっているから、「108」と言えば「除夜の鐘」なんかではなく、必然としてヴァイオリンソナタ第3番ニ短調を思い浮かべる。ほぼパブロフの犬と同じレベルだ。

本ブログで何度か話題になったデトレフ・クラウス先生は興味深い指摘をしておられる。

ブラームスはピアノ三重奏曲第3番ハ短調op101を完成した後、同第1番ロ長調op8の改訂に着手した。第2楽章のスケルツォ以外は、大きく装いを変える結果になったが、作品番号はop8のまま据え置かれた。クラウス先生の指摘とはまさにこの部分だ。ブラームスは改訂なったロ長調ピアノ三重奏曲にop108を与える構想をもっていたというのだ。結果としてこの構想は見送られたが、もし実現していたら、ピアノ三重奏曲第1番はop8とop108両方が存在することになった。そして現行op108を背負うヴァイオリンソナタ第3番は109番以降の番号を与えられていたハズだ。

おそらくそうなってもニ短調ヴァイオリンソナタの評価は微動だにするまい。影響があるとすればロ長調ピアノ三重奏曲の初版だ。現在の人気は圧倒的に改訂版が上だ。黙ってop8と言えば普通改訂版を指す程だ。もし改訂版にop108が与えられていたら、初版が正真正銘のop8として、もっとマシな扱いを受けていたと思う。

2015年8月10日 (月)

リズム感覚試験

「ポリリズム」と言うらしい。同時に複数の系統のリズムが鳴る現象のことである。

複数のパート間のリズムの衝突を味わう部分である。無論ブラームスはこれが大好きであるばかりかブラームス節の根幹でさえある。スラーが頻繁に小節線を跨ぐお陰で、肝心要の小節の頭を感じにくい構造が不安感に拍車をかける。この状態を和声的な衝突と共存させることで音楽に異様な推進力がこもる。全てはブラームスにとって計算ずくの話だ。やがて来る和声的解決と、リズム的な衝突の解消をより深く印象付けるための工夫と言って良い。

そうは言うものの、演奏者にとっては厄介である。弦楽四重奏第2番第1楽章にそうしたケースの典型が存在する。結末も程近い315小節目からの6小節間だ。ヴィオラと第2ヴァイオリンだけは同じリズムだが、第1ヴァイオリンとチェロは全く違うリズムが奏されている。しばしばスラーが拍頭を跨ぐので確固たるリズム感を全員が持ち合わせた上で、そのリズム感が一致していなければならぬという難所である。

別の人格が演奏するアンサンブルの方が、性質がいいのか悪いのか。独奏ピアノの右手と左手だとどうなるのかの格好のサンプルもある。パガニーニの主題による変奏曲には、はっきりと記譜上にポリリズムが出現する。第2巻109小節目第7変奏は、右手と左手で記譜上の拍子が違っているのだ。それも「4分の2」と「8分の6」程度ならかわい気もあるのだが、そうは問屋が卸さない。あろうことか右手が「4分の2」であるのに対して左手には「8分の3」が要求されている。「1小節を1拍で感じて」と言うのは容易だが、これを「vivace」のテンポに乗って「p leggiero e ben marcato」で駆け抜けねばならないのだ。

「難儀だ難儀だ」というニュアンスで書いたが、実はこれはブラームス節を強く定義付ける現象だ。ブラームス好きたるもの、このあたりを疎んじてはなるまい。

2015年3月 9日 (月)

御意見番

「知識経験ともに豊富で、誰にでも臆せず意見できる人」くらいの意味か。語感から申せばあまり若造では無理っぽい気がする。まれに「天下の」がつく。

例によって音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第2巻79ページで友人のヴィトマンが1880年代後半の時点でブラームスを「新聞に隈なく目を通す政治事件の御意見番」だと評している。続けて「その視点は常に、ドイツとドイツ国民にとっての利益」が判断基準だったと断言する。どういう単語が「ご意見番」と翻訳されているか興味深い。

当時、ドイツ帝国成立後ビスマルク体制の末期に相当する。今まで述べてきたビスマルク関連の話題のほとんど全てに精通していたと考えて間違いは無い。

2011年8月12日 (金)

まわりみち

8月8日の記事で「Fix oder Nix」の意味をあれこれ詮索した。音楽之友社刊行の「作曲家◎人と作品」シリーズのブラームスの63ページには「全てか無か」とされているが、同社の刊行する「ブラームス回想録集」第1巻アルバート・ディートリヒの記事の中に、それとおぼしき記述があった。

43ページに「さっさとやるか何もやらぬか」とある。こちらには原文のドイツ語の標記が記されていない。もちろんハンブルク女声合唱団に関する描写の中だ。日本語としてフィット感としてはこちらが上だと感じる。うら若き乙女たちに奉るウィット溢れる規約であることを考えると「全てか無か」では大げさ過ぎると感じていたが、これでピッタリ来る。

2011年4月 1日 (金)

自転車

ブラームスは作品の保守的な傾向にも関わらず、世の中に現れる「新しい物」を取り入れるのが好きだった。どしどし試すのが好きだったとも言える。部屋には当時は珍しかった電灯が引かれていたし、自分のピアノ演奏を録音もしている。鉄道もドシドシ利用していたが、このころ既に鉄道はポピュラーになっていて「新しい物好き」の対象にはなっていなかったかもしれない。

ところが自転車は、どうもブラームスの覚えめでたいという訳には行かないらしい。ブラームスの時代の自転車と現代の自転車は違うのだと思うが、ペダルをこぐ姿が不格好というのが理由だ。傍若無人な自転車に後ろからけしかけられたこともあるのだろう。あるいは単に自分が乗れないという理由もあり得る。

1885年ドイツで発明されたガソリンエンジン車は、まだまだ珍しくブラームスの伝記には見当たらない。一般への普及は20世紀を待たねばならない。自転車を嫌っていたブラームスにとって陸上移動の手段は鉄道と馬車、そして徒歩だった。

2011年2月 6日 (日)

自筆譜の権威

大作曲家の自筆譜ともなれば、音楽的価値に加えて骨董的価値も計り知れない。ブラームスの自筆譜の所在は、マッコークルにほとんど掲載されていて、博物館や図書館をはじめとする、確かな場所に収蔵されている。それなりの丁寧な扱いを受けているということだ。

ところが、ブラームスは友人で出版人のジムロックへの手紙の中で、自筆譜の価値について興味深い見解を述べている。

「権威があるのは、手書きの原稿ではなくて、私自身が校正したスコアです」

ブラームス本人の言葉であることでいっそう重みが増している。当代一級の音楽学者たちとの交流があったブラームスだから、作曲家の自筆譜が研究面での超一級の資料であることは、百も承知でなおこの発言である。

むしろブラームスは自筆譜の持つ弱点にも知悉していたと思われる。骨董的な価値は棚上げにして、広く世間に公開する手段としての出版に重きを置き、その出版においては、何が重要かを語った言葉だと感じる。手書きの原稿には間違いもあるし、作曲家が必ずしも達筆ではないことに起因する誤解も生じる。それらを全てお見通しの作曲家本人の手により校正済みのスコアこそが、出版譜の底本になるべきだという見解だ。

最近こういう話を聞いてカッコいいと思うようになってきた。歳だろうか。

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    はじめての自費出版作品「ブラームスの辞書」の姿を公開します。 カバーも表紙もブラウン基調にしました。 A5判、上製本、400ページの厚みをご覧ください。
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