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カテゴリー「740 昔話」の46件の記事

2022年1月26日 (水)

アルカディア

ギリシャ語だ。「理想郷」を意味するらしい。田園的な環境が具備されているとき特にアルカディアと呼ぶようだ。

私にとって「アルカディア」にはこの他に忘れ得ぬ想い出がある。ウイーンを訪れた新婚旅行の時の話である。初日半日間を市内主要観光にあてる他は自由行動だった。意外と大変なのがお土産買いだった。効率よく買い求めるために一計を案じた。5日間観光しまくる間はお土産は一切買わないで、ひたすら好適品をメモったのだ。場所と価格をセットである。6日目にそのメモをたよりに買い物をした。観光そっちのけだ。

アルカディアはウイーン国立歌劇場のスーベニアショップの名前だった。音楽仲間への土産は気の利いた小物がいいと決めていたので、ほとんどここで買った。かれこれ4万円くらいになったと思う。この他の場所でも土産を買ったが全部をクレジットカードで支払った。8万かそこらになったと記憶している。今我が家にあるのは、ブラームスのブロンズ仕立ての像だ。実物はマイアルバムの中でも見ることが出来る。

何と言うことかとうとうこのときにウイーンで買った土産の代金は口座から引き落とされていないと亡き妻が言っていた。アルカディアだけでなく全部だ。そのカードはもちろんれっきとしたインターナショナルのカードで、その後日本で使うとしっかり請求されたのだが、ウイーンでの買い物の分はまだ請求が来ないんだと思う。

まさに理想郷である。もっと買っておけばよかった。

2021年5月21日 (金)

キーコントロールの謎

移調して歌うことが歌曲にのみ許されたかという話からおバカな思い出話にそれる。

カラオケ伴奏のキーを自分のキーに合わせて調整出来る機能がある。今や当たり前で珍しくも何ともない。この機能が世の中に出始めた頃の話だ。昨今のマシンでは、リモコンで操作した結果が画面に表示されるのだが、昔はそうではなかった。

私もキーを変えたくなった。やってみたがイメージと違うのだ。1音くらい低く出来ればいいのに低過ぎてしまうのだ。その場は笑ってごまかしたが長くトラウマになって残った。謎が解けるのに5年以上かかった記憶がある。

キーコントロールをするリモコンにはボタンがついてる。高めるにしても低めるにしてもそのボタンを押すのだが、このボタンがいけない。高めるほうには「♯」低めるほうには「♭」が描かれている。1音低くしたいと思った私は「♭」を2回押してしまっていたのだ。実際の移調と同じノリをキーコントロールのボタン操作で再現したのだ。実際の楽譜では「♭」を2個付けることで1音低い調に移行するのだ。ハ長調が変ロ長調になるのと同じ理屈だ。半音下げたい時に「♯」を5回押していたのだ。訳が分からなくなるのは当たり前である。

ここでいう「♯」や「♭」は単に「高める」「低める」の意味だ。胸のわだかまりはなくなったが、カラオケが上手くなった訳ではない。

2019年3月12日 (火)

ヴィオラ六重奏のためのカノン

1980年の夏。大学3年のオーケストラの夏合宿。合宿恒例の室内楽演奏会があった。その直前の6月にヴィオラのパートリーダーに就任した私の思いで、ヴィオラだけでパッヘルベルのカノンを演奏した。もとは3声のヴァイオリンと通奏通奏低音という編成なのだが、私がヴィオラ6声部用に編曲した。編曲に加えてパート譜も写譜してそろえた。

原曲は3部に分かれたヴァイオリンがまったく同じ旋律を2小節ずつ遅れて追いかけるというシンプルな構成で、1~3までのヴァイオリンパートに難易度の差はない。編曲とは言っても個々の旋律を分解してヴィオラ6声部に構成しなおしただけで、せいぜいオクターブの上下動くらいだ。1番から6番までの各パートには、当時のヴィオラパートのメンバー構成に合わせて難易度に差をつけた。

  • 1番 難しいパート。
  • 2番 中くらいのパート。
  • 3番 難しいパート。
  • 4番 4月に入部した初心者用のパート。
  • 5番 中くらいのパート。
  • 6番 難しいパート。

実際にはコントラバスとチェロを各1名加えた。

8月29日の夜、室内楽演奏会で披露した時の会場のざわめきを忘れない。当時オケのしきたりに反するパートアンサンブルだったこと、それまで弱小だったヴィオラパートに12人そろったという驚きもあったはずだ。

2017年12月16日 (土)

第九初体験

私の第九初体験は1973年12月16日だった。中学1年13歳だった。父に連れられて年末恒例の演奏会に出かけた。鳥肌モンの感動だった。

ブラームスの第九初体験はどうも私より遅いらしい。1854年11月30日付けのクララへの手紙に、第九交響曲を聴いたことに言及されているそうだ。歓喜の歌の旋律を引用しているらしい。そのニュアンスから、これがどうも初めての第九鑑賞だったのではないかと推測されていると言うわけだ。グルント指揮のハンブルクフィルハーモニーの演奏だ。

この交響曲を踏み越えて行かねばならないとの宣言が発せられていればカッコいいのだが、そうではなかったようだ。はるか遠くにボンヤリとともる灯かり程度だろう。

このときヨハネス・ブラームス21歳。私に遅れること8年だ。

2017年11月16日 (木)

小学校の卒論

「卒業論文」の短縮形。学校の卒業に際して提出が義務づけられていることがある。断り無く用いた場合、大学以降の高等教育機関が課すというのが一般的だ。

私の学部は、卒論の提出が義務になっていなかった。だから最後までオーケストラ活動に浸かりきった学生生活だった。しからば私は一度も卒論を書いていないかとなるとそうではない。1971年小学校6年で迎えた冬休みのことだ。我がクラスの担任は「卒論」を書けと命じた。正確に申せば、そう命じたのは秋頃だ。テーマは「自分の生い立ち」である。

今思うとユニークで素晴らしいと思うが当時は必死だった。文字数の決まりは無かったが、親の助けを借りてがんばった結果、400字詰めの原稿用紙30枚近くまで行った。アルバムや母子手帳やら資料を当たりまくっての執筆だった。内容はともかく分量だけはクラスで一番だった。書いてみて子供心に親の有り難みが判った。学校に提出したところまでは覚えているが、返して貰った記憶がない。

お察しの通り、今こうしてブログを書きまくっている妙な遺伝子は既に当時も活動していたということだ。

このブログは唯一にして絶対のテーマ「ブラームス」を、いじくり回すというコンセプトだ。提出期限の無い「卒論」で、既に事実上「人生の卒論」の様相を呈し始めている。

2017年6月 4日 (日)

最後の授業

たしか中学1年の国語の教科書の一番最後の掲載されていた。フランス・アルザス地方のお話だ。大人の事情で、フランス語の授業が出来なくなるという背景の中、「今日でフランス語の授業は終わりですよ」という日を描いた作品だった。普仏戦争の結果、アルザス地方がドイツに割譲されたという史実を背景にしていると知ったのはずっと後のことだ。

いつもは怖い先生が妙に優しかったとか、先生が最後に黒板に「VIVA FRANCE」と書くシーンが印象に残っている。

このアルザス地方はライン川を挟んでドイツと向かい合う国境地帯だ。古来独仏の領有争いの舞台だった。この地で話されるアルザス語は、上部ドイツ方言の一派に分類されている。当地では現在でもアルザス語が日常語として通用する。

小節「最後の授業」に描かれる情景は、「母国語フランス語にお別れ」というニュアンスだが、受け手の生徒たちの日常語はアルザス語であったという可能性が高い。生徒たちから見れば、「語学の授業が一つ減る」という感覚かもしれない。

なるほど現代のアルザス地方の地図を広げると、ドイツ語の知識で解釈可能な地名が多い。「burg→bourg」「weiler→wil」に見られる微妙な変化も読み取れて面白い。

2017年2月 2日 (木)

モルダウ経験史

中学3年の秋に、クラス対抗合唱大会で歌ったのがモルダウ体験の始まりだった。ほどなくクラシック愛好家の常識として交響詩「モウダウ」に触れ、連作交響詩「我が祖国」の成り立ちを知識として吸収した。興味の中心はベートーヴェンであったにも関わらず、お気に入り側に属する曲だった。

大学入学後、ヴィオラを始めて、やがてブラームスに傾斜していったが、4年の現役の間に何度か定期演奏会の候補曲になったこともあり、ヴィオラのパートを中心に細部を研究した。
ヴィオラおいしくて難しいというのが当時の感想だ。フルートが走り出してヴァイオリンがピチカートを添える冒頭から数えて24小節目でG線第一ポジションの「H音」を放つ瞬間が大好きだった。せせらぎだったモルダウ源流が、深さと幅を増す描写とみて間違いあるまい。ほどなく16分音符単位での「C音」との交代による波立ちも始まる。
やがて練習番号A36小節目に至って、トライアングルのチャーミングな登場を合図に、冒頭のフルート主題を引き継いで、名高いヴァイオリンその他の旋律を準備する。このあたりヴィオラ冥利に尽きる展開だ。真打の旋律の下でずっと水面下の流れであり続ける快感は相当なものだが、難しくもある。
しかし、この程度が私のモルダウ体験の全てだった。

2016年5月25日 (水)

ウルトラマン

1966年7月17日から放送された、「特撮変身巨大ヒーロー物」の嚆矢。当時小学校1年だった私ももちろん夢中になった。お化け視聴率をたたき出した伝説には事欠かない。これをキッカケに「巨大ヒーロー」が続々と登場した。人類のために宇宙人や巨大生物と戦うのだから、どこかでマグマ大使とバッタリ鉢合わせしないかと真剣に悩んでいた。大人の事情を全く考えずに、手に負えない敵が現れたら協力すればいいのにとマジで思っていた。だからウルトラセブンとウルトラマンの共演が実現したときは、心から嬉しかった。

これらのヒーロー物は完全に一つのワールドを形作っている。ウルトラマンの世界はそれだけで完結していて、マグマ大使は入り込む余地がないのだ。仮面ライダーやサンダーバードだって同じだ。

大作曲家も事情が似ている。特定の個人にとことんのめり込んでいると、あたかも独立の世界が存在しているような錯覚に陥る。ブラームスに傾倒するあまり、他の作曲家が見えなかったり聴けなかったりする。身に覚えありまくりだ。確かに大作曲家と目される面々は、強烈な個性が宿っているのだが、生存当時は社会から超越したり隔絶されていた訳ではないのだ。特定作曲家の作品全集がCDや楽譜で手軽に入手出来るという環境は、よく考えると不思議だ。

ブラームスの生涯を詳しく観察すると、大作曲家のエピソードが必ず存在する。ブラームスの時代には既に亡くなっていた人もいれば、同世代を生きたライヴァルたちの痕跡が記されている。ウルトラマンとウルトラセブンの共演みたいなものだ。

2016年1月18日 (月)

卒業演奏

1982年2月、大学4年の私は団内の室内楽演奏会においてブラームスのクラリネット五重奏のメンバーとして演奏を披露した。同期のクラリネット吹き、チェロ弾きと企んで、前年にはモーツアルトのクラリネット五重奏曲を演奏していたから、最後にブラームスで仕上げたいと臨んだ第一楽章だった。

メンバーは全部男性で以下の通り。

  • クラリネット 私の同期。4年生だが工学部の大学院に進学予定。悲愴交響曲での華麗なリードミスで一生語られる実直な男。
  • 第一ヴァイオリン 私が初心者としてオケに入り、1からヴィオラを教わった2コ上の先輩。元コンマス。工学部の大学院生。
  • 第二ヴァイオリン 3年で私がヴィオラトップだったときの1コ上の先輩。元コンマス。医学部5年生。
  • ヴィオラ 私。
  • チェロ 私の同期。4年生だが工学部の大学院に進学予定。

早生まれの私は、この中では一番年下だった。なのに他のメンバーは医学部やら大学院やらでみな、大学に残る中、最年少の私だけが卒業だった。だからこの演奏はただただ私だけの卒業演奏になった。

男5人のマジな練習を繰り返して大好きなブラームスに臨んだ。私が大学オケで記した最後の演奏が、ブラームスのクラリネット五重奏だった。実はオケで最初の演奏は、1年冬のブラームス第二交響曲だった。オープニングの「マイスタージンガー」やサブのラヴェル「マ・メール・ロア」にはステージに乗らなかったから、ブラ2が正真正銘のデビュー。つまり私の大学オケ生活は、第二交響曲で明けて、クラリネット五重奏曲で締めたということだ。

果報者というべきだろう。

2015年6月 5日 (金)

下心六重奏団

1981年8月大学4年で最後のオケ夏合宿に臨んだ私は、恒例の室内楽演奏会でブラームスの弦楽六重奏曲第1番第一楽章をメンバーの1員として披露した。周知のとおり、この六重奏曲はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが2本ずつで、6名の弦楽器奏者を必要とする。当日のメンバーは男子3名、女子3名というものだ。各々の楽器のセカンドが全部女子だった。

  • 2ndヴァイオリン H嬢 教育学部2年 
  • 2ndヴィオラ D嬢 薬学部3年 ホントは1stの私より相当うまい。
  • 2ndチェロ A嬢 園芸学部1年

という具合。男子は以下の通り。

  • 1stVn Nord氏 医学部4年
  • 1stVa 私 人文学部4年
  • 1stVc Koza氏 人文学部3年 ドヴォコンのソロいけるくらい。

男子は、私を除いて名人。チェロのトップとコンマスだ。とはいえ私だって6月の定期演奏会でトップを降りたばかりだからまだまだ行けた。だからひとまず様にはなった。

まあしかし、目的は演奏の披露よりも練習と、その後のお茶みたいなアンサンブルだった。誰がつけたか「下心六重奏団」とは秀逸なネーミングだ。亡き妻はこの中にはおらず、聴衆として演奏を聴いていた。そればかりかこの中からカップルは発生していない。イメージよりはずっとピュアだった。

青春の六重奏曲。

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