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カテゴリー「141 変奏曲」の22件の記事

2021年8月24日 (火)

死と乙女

知名度で申すなら数あるシューベルト歌曲の中でも頂点付近に位置すると思われる。テキストはクラウディウス。文字通り死と少女の対話。魔王と並ぶ怪奇系の双璧。音楽のおかげで極端な怪奇的にならずに劇的という範囲にとどまる。

イントロに現れる「タンタタ」というリズムは「ダクテュルス」と呼ばれている。アクセントがある長い音符に短い音符2つが追随するなどという説明よりもベートーヴェンの第七交響曲の第二楽章冒頭のリズムと申し上げた方が早い。シューベルトはこのリズムを愛好したと見えて、偶然とは思えぬ頻度で出現する。3つの音高が変わるケースまで入れればしょっちゅうという感じでさえある。

さて知名度の押し上げに寄与しているのは弦楽四重奏曲第14番ニ短調だろう。第二楽章に歌曲「死と乙女」の伴奏パートが主題として現れる。もろに「ダクテュルス」だ。テキストに付与された旋律をスルーしてこのイントロ音型を主題として採用し、あろうことか変奏の主題としている。私にとってはシューベルト室内楽の頂点に長く君臨する。初めて買ったCDはアルバンベルクSQの演奏だったが、これが脳みそに刷り込まれてしまい他の演奏を受け付けにくくなっている。

 

2021年7月28日 (水)

就職試験

1857年5月31日。ブラームスはデトモルトの宮廷を訪問して1週間滞在した。同宮廷でピアノを教えていたクララ・シューマンが英国に演奏旅行することになったために、クララ自身がブラームスを後任に推挙したためだ。その1週間、ブラームスはピアノを教えるかたわら、バッハやベートーヴェンの作品を演奏する機会を与えられた。いわば就職試験である。

結果はもちろん合格。そりゃあまあクララの推挙だから限りなく当確なのだろうが、一応試用期間があったと見るべきだろう。

なんということか、その期間中、ブラームスはシューベルトのピアノ五重奏曲イ長調「ます」をピアニストとして演奏した。同曲第4楽章は歌曲「ます 」D550の旋律がそのまま引用された変奏曲である。ピアノパートがどれほどの腕前を要求されるものかわからぬが、15歳で「ワルトシュタイン」を弾いたブラームスだから問題は生じなかったと思われる。聴いてみたい。

「Fischer」でネタで忙しくて言い忘れた。

 

2021年2月14日 (日)

第一変奏

    最初の変奏と解して疑いはない。「主題と変奏」というというジャンルには古来数多くの作品が残されてきた。どれも例外なく真っ先に主題が提示される。これがないと始まらん。そこから先が作曲家の腕の見せ所だ。主題の提示が終わって、「さあ行くぞ」と走り出すのが「第一変奏」だ。作曲家の意気込みがとりわけ色濃く反映する。

ブラームスの「ヘンデルの主題による変奏曲」op24は、以下の通りだ。

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Piu vivo に意気込みが感じられる。がしかし、若きブラームスは半ば意図的にバッハを模倣しているかもしれない。

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 「ゴールドベルク変奏曲」の第一変奏だ。16分音符2個に8分音符という3つの音符が、移動ドで「ドシドー」と走り出す。

2019年11月 8日 (金)

魔女の変奏曲異聞

2007年5月1日の記事「魔女の変奏曲」で、「パガニーニの主題による変奏曲」op35がクララから「魔女の変奏曲」と呼ばれていると書いた。このほどその同じ箇所が「魔法の変奏曲」と呼ばれているケースを見つけた。元のドイツ語は不変でも翻訳の過程で、ニュアンスが割れてしまうことはよくあるが、本件は微妙である。

ブラームス宛の手紙の中でクララが用いた言葉だ。その同じ手紙でクララは、「パガニーニの主題による変奏曲」を隅から隅まで目を通したと述べている。各々の変奏曲が良くできていると誉める一方で、いくつかの変奏を削って1巻にまとめたらという提案をしている。

1巻から、第8変奏を省き、2巻からは4、7a、11、12、16変奏を削除して、全1巻にまとめるべきと言っている。同じテーマを元にした変奏曲を2巻も買ってはもらえまいと断じている。第2巻の冒頭が超絶技巧過ぎるとも付け加える。

これらの指摘の妥当性を論じる知識はないが、クララが相当細かく目を通して、思い切り踏み込んだ提案をしていることがよくわかる。もちろんこの助言はブラームスからの要請に基づくものだから、ブラームスがこれでヘソを曲げることはない。けれども、ブラームスがクララからの提案を採用していないことも忘れてはならない。

 

 

2019年7月 7日 (日)

ブラームスバロック

ブログ「ブラームスの辞書」でバロック特集開催中の今、ぴったりのCDがある。

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ピアニスト、デトレフ・クラウス教授のCDでタイトルがそのものずばりの「ブラームスバロック」だ。

  1. バッハ・ブラームス編曲 左手のためのシャコンヌ
  2. グルック・ブラームス編曲 ガヴォットイ長調
  3. ブラームス 弦楽六重奏曲第1番 第二楽章ピアノ版
  4. ブラームス ヘンデルの主題による変奏曲

作品の選択に隠しテーマ「クララ」があることは大変印象的で、演奏も申し分ない。1番のシャコンヌは同曲の演奏としてもっとも気に入っている。2番のガヴォトは超癒しだ。グルックは1714年生まれ。バッハの次男カールフィリップエマニュエルと学年違いの同い年で、没年も1年違いの彼をはたして「バロック」扱いしていいのか疑問もあるが、「こまけーこたあいいんだよ」と言われそうだ。

他にもいろいろ興味深い。CDのトラックが1曲1トラックになっている。変奏曲の個別の変奏に1トラックあてるCDが多い中異例だ。

3番目、ブラームス自身が自作をピアノ独奏用に編曲してクララ・シューマンに献じた作品だが、これの何がバロックなのだろう。

 

 

2019年4月16日 (火)

テレマンヴァリエーション

「テレマンの主題による変奏曲」op134はマックスレーガーの1914年のピアノ独奏作品。主題はターフェルムジーク第3集変ロ長調序曲のフィナーレ第7曲のメヌエットだ。2本のオーボエと弦楽合奏という編成だ。

ブラームスの「ヘンデルの主題による変奏曲」op24の延長線上に置かれている感じがする。変ロ長調という調が共通する他、エンディングにフーガを据える点が一致する。

 

 

 

 

2016年2月 8日 (月)

室内楽の中の変奏曲

変奏の大家ブラームスだから、室内楽作品の中にもその痕跡が色濃く宿る。作品中で変奏の技法を駆使するケースは、もはやカウント不能だ。室内楽の単一楽章が変奏曲になっているケースを以下に列挙する。

  1. 弦楽六重奏曲第1番op18第二楽章ニ短調
  2. 弦楽六重奏曲第2番op36第三楽章ホ短調
  3. 弦楽四重奏曲第3番op67第四楽章変ロ長調
  4. ピアノ三重奏曲第2番op87第二楽章イ短調
  5. 弦楽五重奏曲第2番op111第二楽章ニ短調
  6. クラリネット五重奏曲op115第四楽章ロ短調
  7. クラリネットソナタ第2番op120-2第三楽章変ホ長調

見ての通り全部で7曲だ。第一楽章には存在しない。第二楽章に3回、第三楽章に2回、第四楽章に2回となる。ただし、クラリネットソナタ第2番は第三楽章でありながらフィナーレである。だからフィナーレは3回。

二重奏から六重奏まで、もれなく分布する。

第4楽章に変奏曲をおくケース2件、どちらもその最終変奏で第一楽章冒頭主題が回帰するという共通点がある。クラリネット五重奏のフィナーレに変奏曲を置くのは、モーツアルトのクラリネット五重奏曲を踏まえているかもと妄想が膨らむ。

第二第三楽章に来る5例は緩徐楽章だ。このうちクラリネットソナタは、緩徐楽章として立ち上がりながらも、変奏の終末でアレグロに転じ、これが終楽章を兼ねているという、凝りまくった構造になっている。

ブラームスが弦楽五重奏で作曲の筆を折ろうとしていた話は、まことしやかに取りざたされる。もし、クラリネット奏者ミュールフェルトとの出会いがなかったら云々である。もしそうなっていたら、弦楽五重奏2番の変奏曲は、最初の変奏曲との共通点をもっと注目されていただろう。両者は表裏の存在だ。

史上最高の室内楽作曲家にして、史上最高の変奏の大家。その有力な証拠がこの7曲だ。

2015年11月26日 (木)

パガニーニヴァリエーション

正式には「パガニーニの主題による変奏曲」だ。クララ・シューマンをして魔女の変奏曲といわしめた難曲中の難曲。上下2巻から成立するブラームス変奏曲の極致で、これを最後にピアノ用の変奏曲は書かれなくなる。

初演は1865年11月25日だから昨日が初演150周年。チューリヒにてブラームス本人の演奏だった。つまりブラームスはこれが弾けたということだ。

昨日は私の25回目の結婚記念日と重なっていたので、一日遅れで言及する。

2015年7月 9日 (木)

主題無き変奏曲

変奏曲といえば素材となる主題が冒頭ではっきりと提示されるのが普通である。主題が作曲者本人の創作によるものではないとき「誰それの主題による」という文言が付与される。

弦楽六重奏曲第2番の第3楽章は、批評家ハンスリックから「主題無き変奏」と評された。ある意味で変奏曲の王道をはずしているということを示唆する比喩だと思われる。問題の第3楽章冒頭で主題を奏しているのは第一ヴァイオリンだ。それはそれでよいのだが、糢糊とした伴奏パートが存在するために、変奏曲冒頭の主題の提示としては、異例なくらい主旋律が聞き取りにくいのだ。ハンスリックの比喩はこのあたりを指していると思われる。

特に第一ヴィオラだ。4分音符を3つに割った3連符が主題に絡みつく形になるのだが、何やら立ちこめた霧が引かない感じなのだ。しかししかし、こうした朦朧とした感じは実はブラームスの狙い通りかもしれぬ。第一ヴァイオリンの4連4分音符を、ヴィオラが3連符で割った形は、第一楽章冒頭の暗示になっている。第3楽章の音価を3倍に伸ばせばキッチリと第一楽章と同じになってしまうのだ。からみつくヴィオラこそがキーになっている。

やがて訪れる第3楽章78小節目。楽章冒頭以上に音符が錯綜する構造ながら、ものの見事に晴れ渡った楽想が披露される。楽章冒頭と同じ「p molto espressivo」が第一ヴァイオリンと第一チェロに置かれながら、立ち込めていた霧が鮮やかに引いている。混沌から清澄に向かうベクトルを味わうべきだと、ハンスリックが教えてくれている。

第三楽章の冒頭にスカッとした主題提示が無いという意味で「主題無き変奏曲」と呼ぶ主旨を理解出来ない訳ではない。しかしながら無い無いと嘆いているばかりでは能が無い。第一楽章冒頭の第一主題こそが、第三楽章の主題提示を兼ねているという具合に考えを進めたいものである。

2015年2月13日 (金)

シャコンヌの極意

3拍子、4小節または8小節の主題が低音部におかれて延々と繰り返される上で、変奏を展開するのがシャコンヌだ。口で言うのはたやすいが、これほどきつい制約もない。サディスティクな香りのする技法だ。ブラ-ムスは第4交響曲でこの技法を駆使した素晴らしいフィナ-レを書く。

知らずに聴かされたらシャコンヌであることなど解らない。制約を全く感じさせないほど多彩に曲が展開されるからだ。延々と低音主題に固執しながら、全く退屈することはない。

ブログ「ブラ-ムスの辞書」の管理人としては、全くもって羨ましい。ブログ「ブラ-ムスの辞書」はブラ-ムスという低音主題に貫かれたシャコンヌみたいなものだ。時々親バカネタが幅を利かすこともあるが、ブラ-ムスを見失うことがないよう注意している。難しいのはさじ加減だ。ブラ-ムス関連の話題に特化させましたといって、同じような内容の記事が続いてしまっては元も子もない。「ブラ-ムスに固執しているな」と感じさせながら、同時に「話題が豊富」とも感じさせねばならない。

もはや記事のネタと私の命のどちらが先に尽きるかの競争という様相を呈してきた。負けるわけには参らぬ。

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