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カテゴリー「141 変奏曲」の31件の記事

2026年1月20日 (火)

目的と手段

ブラームスは変奏曲の大家だ。変奏曲が創作の柱の一つになっている。「~の主題による変奏曲」というタイトルを持つ作品は作品56「ハイドンの主題による変奏曲」を最後に姿を消す。しかし創作人生の最後まで変奏の手法自体が放棄されることはない。多楽章形式の作品の単一楽章がまるまる1曲変奏曲になっている例は、土壇場のクラリネット入り室内楽にまで盛り込まれる。

 

変奏曲自体が創作の目的になっていたのは「ハイドンの主題による変奏曲」までだ。それ以降「変奏曲」は、ブラームスの楽想を効率的に聴き手に伝えるための手段の域を出なくなる。ブラームス自身当代屈指の変奏曲の大家ながら、習得した作曲技法を振りかざすことを目的にした曲を書かないということだ。楽想が変奏曲の形態を求めた場合のみ必要最小限が用いられるのだ。

 

フーガも事情が似ている。フーガの文字がタイトリングされるのは作品24「ヘンデルの主題による変奏曲」のフィナーレが最後だ。その後の作品中に明らかにフーガの手法が用いられることはあっても「フーガ」そのものが作曲の目的であることがなくなるのだ。晩年に「大フーガ」を書いたベートーヴェン、「フーガの技法」を書いたバッハの姿勢とは一線を画している。ブラームスにとって「フーガ」は実験の対象ではない。

 

そういう意味では楽器演奏のテクニックも同様だ。作品が求める時に必要量だけを取り出して見せるのがテクニックだという立場である。「変奏」も「フーガ」も「テクニック」も目的ではなく手段である。

2025年11月16日 (日)

Andante con Variazioni

いやいや、ときどき音楽を聴いていてあれっと思うことがある。今回もその類いだ。

普段、ブラームスやバッハばかり聞いているのだが、何気なく聞いていてあれっと思った。良い意味だ。

何だろうと思って曲を確かめる。

ベートーヴェン、ピアノソナタ第12番第一楽章だった。ピアノソナタにしては、めずらしく第一楽章に変奏曲が来る。で、第3楽章に有名な「葬送行進曲」が来るせいで、「葬送」などと呼ばれていた。

ああ。いい曲だ。

最近少しこればかり聞いている。

 

2025年7月 6日 (日)

ハンガリーの歌

ブラームスがはばたくきっかけとなったのはヴァイオリニスト、レーメニとの演奏旅行だ。ハンガリー出身で、ヨアヒムとも面識があった。ブラームスは伴奏者として同行している途中で、ヨアヒムと知り合うことになる。

相当な腕前の持ち主で来日の経験もある。

ブラームスはハンガリーの旋律を彼から教わった。後にハンガリア舞曲として実を結んだが、当のレーメニーから著作権侵害のクレームをつけられ、裁判沙汰にもなった話は昨日しておいた。ハンガリア舞曲ばかりが有名だが、レーメニーから教わった旋律は他にもある。

1853年に書き留めておいた「ハンガリーの歌」がある。これを元にピアノ独奏用の変奏曲を書いた。これが「ハンガリーの歌による変奏曲」op21-2である。ハンガリー特有の4分の7拍子の旋律が特長だ。1862年の出版なのでハンガリー舞曲のブレークよりは早い。著作権云々の話を持ち出すならこちらのが先かとも思うが、変奏曲特有の「だれそれの主題による」というタイトリングのせいか表立った騒ぎにはなっていない。

楽譜が売れたからというシンプルな落ちということがあるかもしれない。

後日発売されたハンガリー舞曲集の第2集には、ブラームス自作の旋律も密かに混ぜてあると言われていて、ヨアヒムあたりはちゃんと区別していたらしい。

 

2023年10月 5日 (木)

MVV

私の造語。「モースト・ヴァリアブル・ヴァリエーション」だ。つまり「最優秀変奏曲」。私の脳内認識の話。

ブラームスは変奏曲大好きだ。ソナタ器楽曲の単一楽章が変奏曲になっている例は多い。単独管弦楽には名高い「ハイドンヴァリエーション」がある。ピアノ曲にだって「誰それの主題による変奏曲」が目白押しだ。だから「MVV」はそれらが候補になるのだが、グールドのDVDのせいでどうも風向きがおかしい。

もしかしてバッハのゴールドベルク変奏曲が「MVV」なのではないかと思えてきた。人類史上最高の変奏曲はゴールドベルク変奏曲なのではないかと。

悩んでいたら、さっきブラームスから「異議なし」とラインが入った。

 

2023年10月 4日 (水)

32という切り口

グールドによって再認識が進むバッハ、ゴールドベルク変奏曲BWV988の話だ。なんせ長大な変奏曲。

主題のアリアは32小節ある。主題を冒頭と末尾で提示するのだが、変奏が30あるために、全体は32の部分から成り立つ。32が好きなのかと疑う。

主題に30の変奏がほどこされ、それにコーダが続くことで全体が32の部分からなるといえば、ブラームスの第4交響曲のフィナーレ第4楽章と同じである。そう、ブラームスはこのゴールドベルク変奏曲の弾き手でもあった。公開の場での演奏の証言は見当たらないが、貴重な友人の証言がある。

母を亡くしたブラームスを見舞ったゲンスバッヒャーによれば、ブラームスはゴールドべルク変奏曲を弾いていたというのだ。どこの部分なのかは不明ながら、この時ブラームスのほほが涙に濡れていたと証言する。

弾いていたのがアリアの主題であってもぴたりとはまってくるエピソードではないか。

 

2023年9月17日 (日)

変奏曲の伝統

新しいCDプレイヤーがきっかけで、オルガン作品に親しんでいる。オルガン作品のうちキリスト教と関係がないものがオルガン自由曲と呼ばれる一方で、プロテスタントの讃美歌が題材に取られるケースにもおびただしい実例がある。

庶民の信仰を助けるために音楽の力、とりわけ歌を重用したルター。彼に起因するかなりな数のコラール。カトリックにおいては専門家による歌唱が常識だった賛美歌を庶民に開放する過程でおきた「簡素化」「一般化」がコラールの起源であること周知の通りだ。一旦「簡素化」「一般化」が行われたコラールを素材に。オルガンによる音取り装飾を目的としたコラール前奏曲という段階。賛美歌をコラールにする手続きを第一段階とするなら、こちらは第二段階だ。さらにはそのコラールを元に華麗な変奏を紡ぎ出すというコラール変奏曲まで続く。

それらどれもが変奏と感じる。古典派、ロマン派と時代が下るにしたがって、変奏作品は全欧州に拡大するが、元はコラールのいじくりまわしに端を発しているのではないかと感じる。

ブラームスを変奏の大家と評価することはすなわち、プロテスタント伝統のコラール変奏の継承者という位置づけの再確認に等しい・・・のではないか。

 

 

2023年6月26日 (月)

優勝旗授与のための変奏曲

ベートーヴェンがチェロとピアノのために遺した変奏曲の題材はモーツアルトだけではなかった。

何気なく聴いていてピクッと耳が反応する。どこかで聴いた旋律。運動会の優勝旗授与のときのBGMだ。ヘンデル「マカベウスのユダ」から「勝利をたたえる歌」の主題による変奏曲。作品番号はついていない。

耳になじみの旋律を手際よく変奏処理した作品にはかなりな需要があったと思われる。チェロに超絶技巧が要求されているように聞こえないのはチェリストが達者なせいかもしれぬ。

2023年2月11日 (土)

最優秀変奏曲

三大ソナタにあこがれた中学生のころ、23番「熱情」の第二楽章が好きだった。短調の楽章に挟まれて、何やら近づき難い変ニ長調だというのに、聞いた感じは平明で透き通った感じ。変奏が進むにつれて音価が細かくなっていく。休みなくフィナーレに続くのも好きだった。

今、熱情ソナタは私的ベスト3から脱落したけれど、この第二楽章だけは最優秀変奏曲の座を争っている。

争うには相手がいる。

それは第12番の第一楽章だ。フィナーレに葬送行進曲を置くため「葬送」ともいわれるこのソナタ、実は中学時代にはまったく視野に入っていなかった。初めて聞いたのは社会人になってからだ。ソナタ形式を欠くソナタとしてモーツアルトの「トルコ行進曲付き」があるけれど、これも第一楽章が変奏曲になっている。モーツアルトに劣らず美しい。

ソナタの一部でなければブラームスのシューマンヴァリエーション、あるいはヘンデルヴァリエーションもある。いかんいかんバッハさんのゴールドベルク変奏曲も入れてあげねば。

 

2022年8月 8日 (月)

コレルリヴァリエーション

ラフマニノフが1931年に作曲した「コレルリの主題による変奏曲」op42だ。主題はコレルリの「ヴァイオリンソナタ」op5-12というより「ラフォリア」ニ短調だ。古来有名な旋律で、コレルリの作ではないが、最も有名な「ラフォリア」に敬意を表したということなのだろう。

ピアノの名人芸を堪能する作品になっている。

 

 

 

 

2021年8月24日 (火)

死と乙女

知名度で申すなら数あるシューベルト歌曲の中でも頂点付近に位置すると思われる。テキストはクラウディウス。文字通り死と少女の対話。魔王と並ぶ怪奇系の双璧。音楽のおかげで極端な怪奇的にならずに劇的という範囲にとどまる。

イントロに現れる「タンタタ」というリズムは「ダクテュルス」と呼ばれている。アクセントがある長い音符に短い音符2つが追随するなどという説明よりもベートーヴェンの第七交響曲の第二楽章冒頭のリズムと申し上げた方が早い。シューベルトはこのリズムを愛好したと見えて、偶然とは思えぬ頻度で出現する。3つの音高が変わるケースまで入れればしょっちゅうという感じでさえある。

さて知名度の押し上げに寄与しているのは弦楽四重奏曲第14番ニ短調だろう。第二楽章に歌曲「死と乙女」の伴奏パートが主題として現れる。もろに「ダクテュルス」だ。テキストに付与された旋律をスルーしてこのイントロ音型を主題として採用し、あろうことか変奏の主題としている。私にとってはシューベルト室内楽の頂点に長く君臨する。初めて買ったCDはアルバンベルクSQの演奏だったが、これが脳みそに刷り込まれてしまい他の演奏を受け付けにくくなっている。

 

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