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カテゴリー「210 民謡」の165件の記事

2018年2月22日 (木)

世紀の替え歌

民謡と賛美歌の相互乗り入れの話をする。

ハインリッヒ・イザーク(1450?-1517)という作曲家がいる。没年が宗教改革の年だから、バロック音楽以前、盛期ルネサンスに属する。インスブルックの宮廷でも活躍した。

代表作は「インスブルックよさようなら」だ。かつてブログ「ブラームスの辞書」で民謡特集を開催した際にはよく聴いていた。大好きな民謡の一つだ。原題は「Insbruck,ich muss dich lassen」という。

ブラームス最後の作品「オルガンのための11のコラール前奏曲」op122の3番と11番に出現する「O Welt,ich muss dich lassen」とそっくりだ。それもそのはず、原曲「インスブルックよさようなら」を基にプロテスタント派のコラールに転用されたものだ。「インスブルック」を「この世」に差し替えた壮麗な替え歌だ。

2018年2月18日 (日)

民謡と賛美歌

ブラームス本人が「民謡」を愛してたこともあってブログ「ブラームスの辞書」では、かつて民謡特集を展開したことがある。そして賛美歌に親しんでいる今、民謡と賛美歌は、庶民生活を両面から映す鏡だと実感し始めている。

賛美歌では取り上げられることのない個人の事情「恋」「失恋」「結婚」「別れ」「子供」「旅」「狩」「労働」「わらべ歌」などなどをいきいきと反映する民謡は、賛美歌とともに生活の両輪を形成していると感じる。いわば「聖と俗の両輪」だ。そこに学生歌を補助輪として加えてもいいだろう。これに加えるとすれば行進曲を含む「軍歌」くらい。

民謡同様、賛美歌もテキスト旋律とも作者がしばしば忘れられる。教会が関与し、印刷物として出回る分だけ民謡に比べれば記録に残る確率は高いが、作者不詳は珍しいことではない。

民謡と賛美歌の間では、しばしば旋律の相互乗り入れが起きる。「別テキスト同旋律」は賛美歌間では珍しくないが、民謡賛美歌間でも起きている。賛美歌を元にして別テキストをあてる替え歌は日常茶飯だったに決まっている。また市井に美しい旋律があれば、ふさわしいテキストを付与するのは賛美歌の常とう手段だ。

民謡ラブのブラームスが、そこに気づかぬはずはない。

2017年7月19日 (水)

シュヴァーベン訛り

記事「訛り懐かし」でシュヴァーベン地方の方言では、一人称「ich」の代わりに「i」が使われると書いた。類似の現象がブラームスの歌曲のテキストにもあった。

「Die Schwalble ziehet fort」(ツバメは飛び去ってゆく)op7-3と「Die Trauernde」(悲しむ娘)op7-4だ。

前者では、「ich」に該当する箇所が「i」になっている他に「ist」が「isch」にすりかわっている。

後者「悲しむ娘」はさらに興味深い。

  • mein→mei 
  • kein→kei
  • mich→mi
  • Mutter→Mueter
  • nicht→net

これら全部シュヴァーベン訛りである可能性が高い。

2017年7月18日 (火)

訛り懐かし

お国訛りが郷愁を誘うことは古今東西を問わぬのだと思う。少なくとも日本ではそうだ。ドイツでもそうなのだと思う。ブラームスは民謡詩の中の方言が厄介だと嘆く。あまり郷愁を感じている素振りは見せていない。

民謡のテキストを調べていて面白いことに気付いた。「Da unten im Tale」のテキストだ。訳語が「私は」になっているところのドイツ語が「Ich」になっていない。「i」になっているのだ。

「別れ」という邦題で名高い「Muss i denn」にも見られる。これらの民謡の解説を見て驚いた。どれもみなシュヴァーベン地方の民謡だ。どうやら彼の地では「Ich」が「I」(イ)と訛るようだ。

2017年6月 1日 (木)

民謡と方言

ブログ「ブラームスの辞書」では既に「民謡」を特集した。その特集を展開する中で若干方言にも言及した。今、少しは方言の知識が備わった脳味噌でもう一度民謡関連の資料を読み返している。

CDの演奏ではテキストがしばしば標準語に直されてもいるが、解説文では民謡の採取地が書かれていることが多い。主要な民謡については脳内で地域名との紐付けが出来てきている。方言系の書物で地域名が出てくると、嬉しいことに民謡の旋律が思い浮かぶという条件反射も起きてくる。

何よりも大切なことは、「標準語で伝承された民話民謡などありはしない」ということだ。民話、民謡、方言は密接不可分だと身に沁みている。

2017年1月18日 (水)

ばあやのマリー

1月5日の記事「グリム童話」で、兄弟が民間に伝わる民話を収集したと書いた。エルクの民謡収集と同じく聞き取りという手法だけが用いられた。既存の文献からの筆写されたお話は巧妙に回避されている。民謡の収集の実態の代表的な事例は記事「ゲルネ爺さん」で述べた。本日はグリム兄弟の民話収集に貢献した老女の話だ。

兄弟は「グリム童話」第1版の編集をしていたころカッセルに住んでいた。その近所に薬局があって親しくつきあっていた。弟ウイルヘルムは5番目の娘ドロテアと結婚したほどだ。この家の家政婦が本日の主役「ばあやのマリー」だ。夫をアメリカ独立戦争で亡くした後、薬局に雇われたという。記事「Juche nach America」の記述と矛盾しない。

彼女の功績は抜群だ。初版86編の約4分の1を兄弟に伝えた。「いばら姫」「赤ずきん」「ヘンゼルとグレーテル」という有名な話も含まれている。

刊行のタイミング1812年を見るにつけ、ブラームスも幼い頃グリム童話を聞いていた可能性もあると感じる。

2017年1月12日 (木)

210円の至福

ユリウス・オットー・グリムの素性を知りたくて、古書店をうろついていた。吸い寄せられるように手に取ったのが「グリム兄弟」というタイトル。新潮選書・高橋健二著で昭和43年刊行。お値段は210円。定価は450円になっている。

残念ながら目的の人ユリウス・オットー・グリムについての記述は無い。もちろんブラームスについても書いてはいない。しかしドイツ民謡に浸しておいた脳味噌が、機敏に反応した。ドイツ語学、文献学、民俗学の観点からグリム兄弟の業績に触れることが出来そうだとばかりに購入した。

案の定お宝だった。ブラームスを聴くための台座として文献学、歴史学、民俗学を足元に敷き詰めることが出来る。特に民謡の収集活動との類似性はただただ興味深いばかりである。ブラームスの民謡ラブは、何の土台も無い中からポッと出たという訳ではなかった。

2017年1月 7日 (土)

兄弟の分担

グリム童話の編集刊行について兄弟の間の業務分担はどうなっていたのだろう。さまざまな資料からうかがい知ることの出来る彼らの業務分担はおおよそ下記のとおりだ。

  • 長男ヤーコプ 民俗学的見地に立った厳密で広範な収集。
  • 次男ウィルヘルム 過剰な脚色の排除と文学的味わいの両立。
  • 五男ルートヴィッヒ 挿絵。

長男ヤーコプの収集した原稿が今世紀に入ってアルザス地方の修道院で発見された。それと1812年刊行の初版との比較から様々なことが判明した。印刷されたものは、ヤーコプが聞き取った結果そのものとは違っている。ヤーコプの原稿では方言がそのままであったりしたものが、刊行されたものはシンプルな標準ドイツ語になっている。教訓めいた話にならぬよう細心の注意を払いながら、文学的味わいが付与されてもいる。

長男は後日、童話集の刊行について弟の文才によるところが多いと誉める一方。弟は兄さんでなかったらこれほどの質量をもった話を集められなかったと言っている。

文献学的民俗学的な見地から、周到で厳密な手法を用いて数多くの民話を集めたのが兄で、それらに文学的な味わいを付与したのが弟だと捉えてよさそうだ。

こうした兄弟の役割分担をよく見ると、民謡に対するブラームスとエルクの立場の違いを思い出す。文献学的厳密さで民謡を収集したのがエルクだったのに対して、ブラームスはこれに異を唱え、民謡に芸術的価値を付与強調した。グリム兄弟で申せば、兄がエルクでブラームスは弟にあたる。

グリム童話が今尚世界的に愛されている原因をこのあたりのバランスに求めたい。2人が争えば論争になりかねない状況でありながら、学問としての厳密さと文学としての味わいが絶妙なバランスで均衡していると見た。

2017年1月 5日 (木)

グリム童話

グリム兄弟の代表作。原題は「Kinder und Hausmarchen」という。「子供と家庭の童話」とでも申すのだろう。初版の刊行は1812年だ。18世紀末ヘルダーによって始まった民衆の文化再発見の流れに乗っていると考えてよい。彼らに童話集の刊行を奨めたのは「子供の魔法の角笛」の編者として名高アルニムとブレンターノだった。

さて日本ではもっぱら「童話」として流布しているが、原文では「Marchen」(メルヒェン)である。「童話」といわれるとどうしても「お子様向け」といういイメージが付いて回るがとんでもない。彼らの生地ヘッセン地方で語り継がれていた民話を、聞き取りしたものだ。全編が作者の創作であるアンデルセン童話との最大の違いはこの点にある。

グリム兄弟の編集方針は、民衆の間で語り継がれている形をそのまま保存することだった。教訓めいた味付けや、装飾を厳に戒めた。既にお気づきの方も多いだろう。この方針は民謡収集におけるルートヴィッヒ・エルクと酷似している。

ドイツのアイデンティティの確立を目指した同じ運動の両輪と位置付けられるということだ。収集の目的物「民間の伝承」のうち、民謡と民話をエルクとグリム兄弟が分担したと考えてよい。だから片側が民謡なら、もう片側は民話でなければならない。エルクが民謡の収集で用いたのと同じ手法を用いて民話を集めたのがグリム兄弟の業績である。その手法の厳密さという点において両者は甲乙付け難い。

2017年1月 4日 (水)

グリム兄弟

ブラームスの友人にユリウス・オットー・グリム(Julius Otto Grimm1827-1903)がいる。1853年にデュッセルドルフのシューマン邸訪問から程なくして面識を得た音楽家で生涯の友となった。一部の書物には童話で名高いグリム兄弟の一族であると書いてある。彼のことを調べたくてグリム兄弟の情報を集めていた。

世界的に名高い童話の作者というイメージのせいか、童話好きのおじさんという先入観があったが、どうやらそれだけではないらしい。

  • 兄Jakob Grimm 1785-1863
  • 弟Wilhelm Grimm 1786-1863

2人ともフランクフルトに程近いマイン河畔の街ハーナウで生まれた。ヘッセン公国の官吏になったが、程なく文献学に専念し民俗学の観点から民話の収集をした。有名なグリム童話集は、2人の生前に7版を重ねるほどの高い評価を受けた。ドイツ語圏の家庭への浸透という面において、聖書のみが彼らの童話集を凌駕するという評価である。

近代比較言語学の祖と位置付けられる言語学の泰斗でもある。音韻分析上の金科玉条「グリムの法則」を提唱しインドヨーロッパ語の分岐について現代でも色褪せぬ業績を上げた。

彼らのライフワークは超有名な童話集にあるのではない。「ドイツ語辞典」こそが特筆大書されるべき業績だ。紛れもなく彼らの構想がキッカケになったにも関わらず、その完成は2人の死後約100年を経過した1963年だった。

長兄ヤーコプは1785年1月4日生まれ。

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