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カテゴリー「210 民謡」の178件の記事

2024年3月27日 (水)

大天使ガブリエル

昨日の記事の中で、ブラームスが編曲した民謡「白い小鳩」が、「受胎告知」の内容を仄めかしているのではないかと書いた。その周辺について調べているうちに興味深いことに気付いた。

マリアに受胎を告げるのは大天使ガブリエルとされている。そのガブリエルが「天使の狩人」WoO34-14に出てくる。そのテキストは以下のように歌われる。

すぐれた狩人が天の高みから狩に出る。荒野で出会ったのが美しい乙女マリア。彼はガブリエルという天使と共に狩をしている。

天使ガブリエルがマリアに出会ったことは明らかだ。

WoO34を背負った「14のドイツ民謡集」は、どうも宗教的な色彩のテキストが多い。WoO34-7には「ラファエル」も現われる。どこかにミカエルがいれば三大天使の揃い踏みになる。

 

 

2024年3月26日 (火)

受胎告知

キリスト教圏においては大切な祝日。聖母マリアが主役を張るというのはどちらかというとカトリック系の香りがする。ブラームスはプロテスタントだったから、無関係などと思ってはいけない。1864年に刊行された「14のドイツ民謡集」WoO34の中の5番目に「白い小鳩」という作品がある。オリジナルは「Taubchen weiss」(aはウムラウト)だ。

冒頭のテキストが大変興味深い。

「白い小鳩が、天使の衣をつけて美しい乙女の許に舞い降りた」これに「彼女の魂は清められ、肉体は祝福された」と続く。

どうもこれが「受胎告知」を表現しているような気がする。マリアに受胎告知をしたのは「大天使ガブリエル」ということになっている点、鳩が天使の衣を着けて舞い降りたことと奇妙に符合する。手許の訳の中には「受胎告知」の文言は出現しないがどうも怪しい。

 

 

2022年7月21日 (木)

導音に至る6度下降

民謡学者エルクは、ライフワークとなった民謡収集活動を通じてドイツ民謡の始源の姿を突き止めようとした。近代に作曲された民謡風歌曲と本来の民謡の峻別を試みた。現代の研究成果から申せば、それらの区別にはほぼ意味がないと結論付けられてはいるのだが、当時は大まじめだった。

エルクは、旋律の形質をキーに、いくつかの基準を示した。そのうちの一つが本日のお題「導音に至る6度の下降」だ。こうした旋律が現れたらそれは古来の民謡ではなく、近代以降に作曲された「民謡風歌曲」だということだ。

言われてみればブラームスの歌曲にも「導音に至る6度下降」は、いくつか例が見つかる。

先日来話題にしているヴィヴァルディの「調和の霊感」からホ長調協奏曲op3-12の第2楽章7小節目の「cantabile」に触発されて楽譜を眺めていたら、なんとなんと「導音に至る6度下降」があるではないか。

 

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同コンチェルトの魂ともいうべき「レ抜き音階」の到達点「ロ音」から「嬰ニ音」へ6度の下降だ。「嬰ニ音」は半音せりあがって「ホ音」に進む。「嬰ニ音」は、到達点の「ホ音」に対する導音だから、全体として「6度下降→半音上昇」ということになる。つまり「6度下降して導音に至っている」ということだ。

ドイツ民謡学の泰斗が、旋律の「近代性」と判断する目安とした「導音に至る6度下降」の実例がヴィヴァルディに現れていた。

2022年1月11日 (火)

ウィーンの民謡

正式な定義はおろか近似する概念さえ思い浮かべにくい。ニューイヤーコンサート等で「ワルツ」や「ポルカ」は頻繁に耳にするが、ウィーンの民謡となると情報が少ない。

記事「子守歌のルーツ 」で述べた通り、ブラームスの子守歌の元になったワルツを求めてあれこれ調べ物をしていて、興味深いCDに出会った。例によって中古CDショップでの掘り出し物だ。

「ウィーンの辻馬車の歌」というタイトルのアルバム。演奏はエーリッヒ・クンツというバリトン。1967年の録音で発売は1991年。有り難いことに国産CDなので解説書が読める。お宝だ。私が求める「子守歌のルーツ」は収録されていないけれど、まさにウィーン民謡と呼ぶにふさわしい内容だ。歌詞は全部ドイツ語だから、ドイツ民謡のノリで聴いて楽しめる。

2022年1月 9日 (日)

歌の経験

大学入学後に習い始めたヴィオラ演奏の経験が、ブログ「ブラームスの辞書」の基礎になっていることは、疑い得ない。拙いながらもヴィオラでブラームス作品の演奏に参加した記憶は、至る所に痕跡となって横たわっている。

ここでハタと考える。

もし歌の経験があったらどうなるだろう。

ヴィオラでブラームスに親しんだ記憶だけでもこれだけ楽しいのだから、ブラームスを歌った記憶があればもっと楽しいだろう。オフィシャルには「日曜日」op47-3を高校の授業で歌っただけだ。

最近ブラームスやシューベルトの声楽作品に触れて心からそう感じる。ドイツレクイエムの演奏にヴィオラではなくコーラスで参加していたら、ブログの記事が1ダースは書けるだろう。混声合唱版の民謡を歌えたら、唖然とするような発見が出来るに違いない。

声楽愛好家にとってのブラームスが、並ではない喜びを与える存在だろうと想像している。ただただ羨ましい。

2021年12月23日 (木)

判定やいかに

記事「王と王子の12番歌合せ 」の判者つまりレフリーは私だ。本日は私の判定結果を公表する。

<第1組> ブラームスの勝ち

「糸を紡ぐグレートヒェン」と「永遠の愛について」という盤石の短調対決。前者が私的ベスト24から漏れていることからも明らか。

<第2組> ブラームスの勝ち

「月に寄す」「五月の夜」という「ヘルティ作詞の月夜歌合わせ」前者は比較的マイナーながら肉薄。意外な僅差。

<第3組> シューベルトの勝ち

「連祷」「サッフォーの頌歌」 遅い4拍子どうしだが、意外な大差でシューベルト。

<第4組> 引き分け

「幸福」「セレナーデ」 順当な引き分け。

<第5組> ブラームスの勝ち

「子守歌」対決。事実上の世界一決定戦かとぞ見る。

<第6組> シューベルトの勝ち

「ます」「雨の歌」、前者はピアノ五重奏、後者はヴァイオリンソナタの引用元。引用後の作品ならブラームスの圧勝だが、引用元だとシューベルト。

<第7組> シューベルトの勝ち

「水の上で歌う」「あの娘のもとへ」最愛の短調対決。泣く泣く判定。引き分けにしないのが愛。

<第8組> 引き分け

「夕映えの中で」「エーオルスのハープに」

<第9組> 引き分け

「夜と夢」「野に一人いて」 ブラームス最愛の歌曲とがっぷり四つに組んで引き分けるとは!

<第10組> シューベルトの勝ち

「ノルマンの歌」「領主フォンファルケンシュタイン」 思わぬ大差でシューベルト。

<第11組> シューベルトの勝ち

「シルヴィアに」「調べのように」 この勝負を心から楽しめる自分に乾杯。

<第12組> ブラームスの勝ち

「菩提樹」「日曜日」大接戦の末、ブラームスが差し切る。

ご覧の通り、シューベルト5勝、ブラームス4勝、3引き分け。前半終了時点でブラームスが3勝2敗1分けで折り返したが。案の定王者の貫禄で逆転。

 

 

 

2021年10月 5日 (火)

整理の都合上

作品一覧表であれば致し方ない面もある。「49のドイツ民謡集」WoO33は、独唱歌曲とは区別されている。歌手一人とピアニスト一人のアンサンブルでありながら位置づけも扱いも厳然と区別されている。

ブラームスは民謡を採譜し、伴奏と和声を付与したという位置づけだから作品番号が奉られていない。にもかかわらず、この歌集にはジムロック社から15000マルクが支払われている。それでもブラームス創作の歌曲の単価よりは低く抑えられている。

歌曲とともに民謡にも親しんできた経験から申し上げると、およそ歌手一人ピアニスト一人のアンサンブルとして味わう場合、民謡と歌曲の区別に意味はないように思える。旋律がブラームス本人の創作でない点に目をつむれば、可憐な和声や小粋な伴奏を付与したブラームスの功績は小さくない。これを民謡だからと言って身構えて考えるのは、鑑賞の邪魔でしかない。

一部の歌手たちもその点心得ていると見えて、自らのCDでは独唱歌曲群の中にさりげなく民謡を取り入れている。何の先入観も無く聴いたらどれが民謡かをあてるのは難しいと思われる。歌曲で全集を録音し、民謡でもまた全集を出してしまう御大ディースカウは別格として、歌曲民謡を問わず気に入った作品を、興の向くままに取りそろえたCDというのも味わい深いものがある。

昨日の記事で紹介した小山由美先生のコンサート でも全16曲の冒頭4曲が民謡だったが、まったく違和感なくなじんでいた。冒頭「その谷の下で」が始まった瞬間の鳥肌の説明が難しい。

民謡と歌曲の区別は単なる整理の都合に過ぎないと、最近心から思う。

2021年1月12日 (火)

ジャポニズム

19世紀後半の欧州で起こった文化的潮流くらいしか思い浮かばない。主に美術の分野だったとされているが、音楽も無縁ではなかったらしく「蝶々夫人」のような作品も現れている。19世紀後半といえばブラームスの生きた時代と重なる。

ウイーン楽友協会にまるまる引き継がれたブラームスの楽譜コレクションの中にもその痕跡を見ることが出来る。「Japanische Volksmusik」というピアノ曲集があった。6曲の小品集だが、その一部にブラームス自身の書き込みが残されているという。音楽之友社刊行、日本ブラームス協会編「ブラームスの実像」という本に、そのことが書かれている。ブラームスと日本音楽の関わりの一断面を明らかにする迫真のレポートだ。

条約改正をテコに列強の仲間入りを画策する日本のオーストリア公使夫人が山田流箏曲の名手で、彼女の演奏をブラームスが聴いたという仮説が展開される。薄皮を剥がすような周到なロジックの堆積が、感動的である。

民謡大好きのブラームスだから、初めて聴く箏であっても偏見無く親しんだとして、何の違和感もない。

 

 

2020年12月 9日 (水)

2度あることは

3度あるのだ。まったくその通りだ。お気に入りのヴォーカルアンサンブル「Singer pur」のCDのことだ。すでに「SOS」「Letztes Gluck」の2つを絶賛する記事を書いたが今日はその第3弾。「Drei Schiffe sah ich segeln nach Bethlehem」というCD。

ドイツのクリスマスキャロルを集めたアルバムだが。事実上「クリスマス関連民謡集」という体裁になっている。最も古い曲で16世紀のものまである。編曲が巧妙なのは今までと一緒。男性5名にソプラノ1という一見アンバランスな編成から、息を呑むアンサンブルがこれでもかこれでもかと繰り出される。日本でおなじみのクリスマスソングもあれば初耳もある。ブラームスの「49のドイツ民謡集」WoO33と一致するものもある。

クリスマスキャロルであることを忘れて単に彼らの絶妙なアンサンブルを浴びるという目的で聴くのも悪くない。

 

 

 

 

2020年3月 7日 (土)

旋律はどうした

ドイツ民謡の研究が当初文学者の手によって進められたことは既に述べてきた。ロマン派の文学運動の一環として起こったからだ。現在でこそ民謡において旋律とテキストは密接不可分と考えられているが、当初はもっぱらテキストの収集研究だった。

日本にも古来和歌の伝統がある。8世紀中庸奈良時代に成立したと考えられる万葉集が、現存する最古の和歌集だと位置づけられている一方、万葉集の詞書きなどから万葉集に先行する歌集が存在したこともほぼ確実だ。

五七五七七に区切られた31音で成り立つ和歌は、実際どのようにうたわれてたのだろう。競技カルタつまり百人一首では、100首の歌が同じ旋律で歌われている感じである。和歌を文学として見る限りそれでも良いのだと思うが、「口に出して読まれて何ぼ」だとすれば旋律めいた節回しで読まれていたとも考えられる。和歌が芸術となる以前、民衆の声の発露だとするならなおのこと個々の歌毎に別旋律だったとしても不思議はないとにらんでいる。同じ人間だ。ドイツで起きたことが日本で起きぬハズはない。それがいつの間にか旋律という要素が脱落した結果和歌が文学になったのではないだろうか。CDや楽譜が無いということを前提とするなら、旋律の伝承はテキストに比べて難易度が高いと見た。

古今和歌集以降、和歌集が天皇の命令で作られ、貴族たちのたしなみになってしまう前、庶民のザレ歌がいつしか五七五七七の形態に落ち着いたということはないだろうか。しかもそれらは当初独自の旋律を持っていたなどという想像は荒唐無稽だろうか。

さらにだ。和歌の流れや意味内容によって朗誦する際のダイナミクスに影響があったのかなど興味はつきない。歌合せなどでお歌を詠みあげる人が専門化して読み方が紙に残れば、そのキャラは楽譜に通ずるものがあるはずだ。

 

 

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